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「今は彫刻の先生さ。」
おざなりな調子でガブリエーレは付け足し、葡萄酒のボトルを傾けた。
「先生って言ったってお遊びの相手だよ。パメラは何してるの?」
煙草を吸いながらなされるエドアルドの問いは儀礼的で、パメラへの興味は感じられない。
「絵を習いに来たの。私の技術はまだまだだから。」
ピアノの音も客たちの騒々しい話し声も聞こえなくなったパメラは、言葉を選んで一心にエドアルドに答える。ガブリエーレは心のざわめきを不吉に感じた。
「描いたの見せてよ。」
ぶっきらぼうに言うと、エドアルドはパメラに向かって軽く微笑んだ。男は女の目線が自分に刺さる加減で次の一手を決める。
「勿論いいわよ。先生の指導を受けたいわ。」
パメラは舞い上がる心を悟られないように澄ました顔で葡萄酒を飲み干した。男の勝ちである。パメラの顔がエドアルドの視線で輝いているのは明々白々だった。
「よく飲むなぁ、大丈夫か?」
口の中で広がる苦い予感をかみ殺して、ガブリエーレはパメラを気遣った。エドアルドの触手に絡み取られて幸せになった女を見たことがない。巴里に来たばかりの若いパメラが気掛かりだった。
知った曲が流れると上機嫌のパメラは大声で歌った。その手を取ってエドアルドは抱きしめるように踊り出す。巴里を謳歌するパメラの高揚は、カフェの熱気のせいだけではない。エドアルドへの憧憬や惹かれる情調は彼女から隠せるほど小さくはない。
気を揉むガブリエーレを喧騒に残して、酔った二人は肩を組み、同士のようにカフェを出て暗い夜に入って行った。石畳は満月でタイルのような照りを持つ。二人は想いのままに街を流れて行く。大声で歌い、ダンスのステップを踏みながら、笑い転げているうちに、パメラの下宿が見えてきた。
「ここよ。大家がうるさいから、静かにしてよね。」
「わかった、わかった。」
エドアルドがふざけて眉を顰めて作る馬鹿げた顔がおかしくて、パメラは大笑いをする。つられてエドアルドも大きな笑い声をあげる。
「誰だい?!うるさいよ!」
家の中から年増の女の声が響いた。
「大家よ。だから言ったでしょ。静かに。」
パメラの表情にまた二人で大笑いする。パメラは玄関を開けて二階の自室にエドアルドを通し入れた。自ら破滅を通し入れた。




