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「巴里は寒いわね。手が悴んで筆が思うように動かない。」
Pamelaパメラは両手のひらを擦り合わせながら不機嫌な表情を作った。角度によってグレーにも青にも見える黒のベルベッドのドレスには、胸元に赤い花があしらわれ、彼女を若い踊り子のように見せる。肩に巻き付いている大きな花柄のストールを無頓着に直す。
「見かけない顔だね。」
リッカルドに会いにクラロッシに来たガブリエーレは、少し日に焼けた肌に、目鼻立ちのはっきりした美しい顔のバイラオーラに声を掛けた。
「だって今日からだもの。Perpignanペルピニャンから来たの。パメラ。よろしく。」
屈託なくパメラは型を押したような笑顔をわざと作って見せた。
「あぁ、よろしく。ガブリエーレだ。クラロッシにはもうたまにしか来ないんだけど、会えてよかったよ。」
「私が美人だから?」
きつくまとめた黒髪に、濃い眉毛と切れ長の大きな黒い瞳は、おどけた可愛らしい表情を見せた。
「・・・ははは。」
自信と野心に満ちた形相の大胆なパメラの造作は可愛らしく、その隔たりにガブリエーレは嫌みを感じなかった。
「冗談よ。知っている人がいないから私も嬉しいわ。」
パメラの天真爛漫さはスペインの太陽が作り出したのか、しかしガブリエーレは激しいゆえに折れやすい彼女の繊細で複雑に織られた心の襞の一端を垣間見たような気がした。
「ははは・・そうだ、クラロッシで勉強した仲間でいつもつるんでいるカフェがあるんだ。これから行くから君もよかったらおいでよ。」
「ありがとう、是非伺うわ。」




