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53.若き大地の鼓動・山

中隊長の家でレーアのお弁当タイム!?


 大聖堂での出来事から、失意のどん底に追いやられた私。行く当てもなく、ふらふらと街を彷徨い歩く。そして、どのくらい経った頃だろうか、思いもよらぬ人物――中隊長さんにぶつかってしまう。私のいつもと違う様子に彼は戸惑いつつも、何も聞かずにご自宅へと招待してくれたのだった。



―― 昼の一時半過ぎ


「いかがですか?お味は」


 両手で行儀よく手に持つサンドイッチ。そして、頬張るようにして食べる中隊長さんの様子は、まるでお腹を空かせた子熊のようでもあり、なんだか微笑ましかった(小熊にしては体が大きすぎるけど)。


「いやはや!なんともこれは美味いもんですなぁ!家内の料理も中々のものですが、これも美味すぎですな!」


 喉に詰まりそうになったお弁当を紅茶で流し、満足そうに笑顔でそう答える彼。そんな様子を見ていると、クロ君のために作ったものであっても、中隊長さんに食べてもらえて良かったと心から思う。


「褒めすぎですよ?でも、ありがとうございます」


 私も一口、二口と、サンドイッチとおかずを口に運ぶ。そして、飲み頃になった紅茶をゆっくりと味わった。なんだか心が落ち着くな。

 考えてみれば、中隊長さんのお家でこうして二人でお昼ご飯を食べてるなんて不思議よね。そんな状況に思わず、笑みがこぼれた。


「先程よりも元気が出てきたようですな?食べ物を口にすると、どんな辛い時でも体がホッとするものです。体が落ち着くと、今度は心も落ち着いてきます。それは、日常でも戦場でも同じことですな」


 そう言って、笑顔を見せる中隊長さん。


「本当にそうですね。いまなら何があったか、きちんとお話できると思います。聞いて頂けますか?」


 私の言葉に彼は大きく頷いて、伺いましょうと一言。そして、亜空間からお湯を取り出し、紅茶を新しく淹れてくれる。それが済むのを待って、私は全ての事の始まりから話し始めた。


 先の大戦の後、英雄として祭り上げられ、神聖視されるようになったことがいつの頃からか重荷になっていたこと。いつも気を張り詰めていたこと。そんな精神的にも辛かった時期に、戦勝祝いの一連行事のひとつ、仮面舞踏会で初めてクロ君と知り合ったこと。彼の前では戦場の英雄ではなく、素の自分をさらけだせたこと。それがとても嬉しく、彼もまた素の私を大切にしてくれたこと。彼に心を寄せていたこと。しかし、英雄として見られているという周囲の目を気にして、いつしか彼といても自然体ではなくなっていたこと。

 そして――先日、彼に対して心にもない暴言を吐いてしまったこと。しかも、それが本人に向かってではなく、テテュス(幼馴染)との会話の中での暴言であったこと。それを聞かれてしまい、怖くなって彼の後を追えずに自分の部屋に閉じこもってしまったこと。それから、今日の大聖堂の出来事から今に至ることを包み隠さずに話した。


 中隊長さんは話を聞きながら、時折、目をつむったり考え込む様な仕草を見せる。けれど、口を挟まず最後まで聞いてくれたのだった。


「――これが全てです」


 話終わると緊張のせいか喉がカラカラだったことに気が付き、紅茶を口に含む。豊かな茶葉の香りと体に染み込むような優しい味わい。二つが合わさり、心までもが癒されるようだった。辛かったことを誰かに聞いてもらえて嬉しかった。今の気持ちが心地良かった。

 腕を組みしばらく考え込んでいた彼は、(おもむろ)に口を開き――


「申し訳ない」


 突然の一言。そして、頭を下げてくる。


「え?」

「実は、レーア様が苦悩していたことには私を始めとして隊長クラスの幾人かは気付いておったのです。部下たちの前では気丈に振舞い、他の大隊長とも対等以上に渡り合うお姿を見ていて、ひょっとしたらご無理をされているのでは?と感じておりました」


 その言葉に私は衝撃を受ける。中隊長さんたちに気付かれていたなんて!


「ある時、他の隊から(いわ)れのないやっかみを受けたことがありましたな?」


 そういえば、確かにそんなこともあった。2000万歳(若すぎる)ゆえに縁故採用されたのではないか?実力が伴わないお飾りなのではないか?そんな風に揶揄されたこともしばしば……。


「もちろん、第三大(我々)隊は断じてその様な輩を許しませんし、抗議するつもりでした。しかし、あなた様は『言葉ではなく身をもって示すしかない』と言われ、そのまま放置されました。あの時はそれで良いのかと憤慨したものですが、いまになってみればそれこそが正しい行いだったのだと深く感銘を受けております」

「えぇ。あれは私もどうしたものかと思ってはいたんです。上に立つ者が批判にさらされていては、その下の隊員さんたちも困りますから」

「あなた様はいつもそうやって、我々や部下たちを(おもんぱか)って下さいますな」


 にこやかに笑う中隊長さん。


「いいえ、そんなことは……私の方こそ、いつも中隊長さんたちに助けてもらってばかりです。あの時は言葉に言葉を掛け合っても意味がないと考えました。なので――」

「実力は直に見せつけないといけませんよね!」

「実力は直に見せつけないといけませんからな!」


 言葉が重なり、笑いあう私たち。


「あの時はあっぱれでした!確か、春の合同演習の時でしたな。例の碌でもない輩のいる隊に向かって、最強クラスの能力【大地神、渾(クリティカル・)身の一撃(オブ・レーア)】を放つとは思いもよりませんでしたぞ!?」


 興奮した様子でそう口にし、なんとも嬉しそうに高笑いする彼。


「ふふっ、皆、ビックリしてましたもんね。でも、あれは力を千分の一も出してなかったのですよ?」

「いやいや!それでも、奴らの度肝を抜いてやりましたからな!あの時は本当に清々しましたぞ!」

「馬鹿にされっぱなしは性に合いませんので」


 澄まし顔で言うと、再び笑い出しうんうんと頷く。そして、少し真面目な顔をして私の瞳を見つめ、こう切り出した。


「それと同じではありませんかな?」

「えっ?」

「クロノス青年に謝りたい。でも、拒絶されたらと思うと怖い。他の女神と結婚してしまう。でも、怖くて確認できない。愛する彼はそんな数日で他の女神に乗り換えるような男なのですか?それとも、いままでも実は二股をかけていた、そのような軽薄な男なのですか?」

「違う!彼は……クロ君はそんな神じゃない!」

「なら!……おのずと答えは出ているではありませんか。あなた様が成すべきことはここでいじけていることですか?否!行動で示す時ではありませんか?」


 そこまで言って、それまで柔らかだった彼の表情が一変する。


「拒絶されるのが怖い?何を弱気な事を……それでも、大隊長かっ!?あの鬼神と恐れられたレーアか!?貴様の信条はなんだった!いつも言っていたではないか!『怖いのは相手ではない。臆病になってしまった自分自身』だと!いまの貴様の(てい)たらくはなんだ!!まず、謝ってこい!そして、もし、本当に二股をかけられていたのだったら、神撃でも連撃でもなんでも打ち込んでくればよかろう!そのくらいの気概がなくてどうする!?貴様、それでもレーアか!?()()()()()()()()()()()()()!?」


 あまりの迫力に言葉もない。圧倒的すぎる威圧感。さすが……さすがは()()()()()()()()()()()ね。いまの私はそんな偉大な方を部下にもつんだ……こんな情けない私が上司じゃ困っちゃうよね。


()()()()、申し訳ありません。少々、弱気になっていたようです。とにかく、彼と話をしてみます!」

「それがいいですな。幸運を祈ってますぞ!

「とんでもありません。お陰で目が覚めました。本当にありがとうございます」

「無礼な口を利き申し訳ありません」


 ソファーから立ち上がり、深々とお辞儀をする彼。


「ふふっ、いいんですよ……そうですね、では、こうしませんか?私はいまのあなたの態度を見なかったことにする。あなたも私が泣いていたのを見なかったことにする。これでお互いの面子は保たれると思うのですが?」

「もし、それを暴露したら?」

「その時は【大地神、渾(クリティカル・)身の一撃(オブ・レーア)最大出力(MAXパワー)です」


 ウィンクして見せると、豪快な彼の笑い声が響くのだった。


◇◇◇


 中隊長さんの家を出た私は一目散にクロ君の部屋へと走った。その途中、渦中の人物を見つけ一瞬、ひるむ。でも、行動あるのみ!と自分に言い聞かせ、思い切って声を掛けた。


「セメレー!」

「……レーア先輩!?」


 こちらに気付くと、途端に泣きそうな顔になりながら突進してくる。そして――


「せんぱ~い!!大丈夫なんですか!?もぅ!心配したんですよ!?」


 思いの(ほか)、心配してくれてる様子にむしろ、驚く。こんな良い()が浮気なんてするかな??


「ねぇ、セメレー?正直に教えて欲しいんだけど、あなた……クロ君と、けっ……結婚するの……?」

「えっ?」

「…………」

「…………」


 お互い見つめ合ったまま無言の時。答えを聞くのが怖くて目を逸らしそうになる。でも、ダメだ!逃げるわけにはいかないもの!


「ふっ……」


 セメレー?


「ふふっ。なんですか~!それ!?あ!分かっちゃいました!さっき大聖堂から帰る時、ハルモニアさんから聞きましたもん。先輩もあちらにいらしてたんですよね?もしかして、わたしとクロ先輩が一緒に入るところを見たんじゃないですか?」


 ギクッ!


「それで、わたしの結婚が決まったと聞いてあらぬ妄想をしちゃったとか……?」


 ギクギクッ!!す、鋭い!セメレー……恐ろしい女神()


「う、うん。実は……そうなの。それで、どうなの!?ほんとに結婚するの!?あなた、恋人がいるって言ってたじゃない!!クロ君がそうなの!?」

「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!そりゃあ、クロ先輩はカッコいいですよ?でも、違いますよ~だ!ご安心ください。わたしの婚約者(フィアンセ)はちゃんと別の神ですから、ね?それに、今日、クロ先輩と一緒にいたのはわたしの彼が頼んでくれたからなんです。式の打ち合わせでわたしのフォローをして下さいって。ただそれだけですよ」

「ほんとにぃ~?あ~良かった~!」


 緊張が解けてどっと脱力タイム。


「クロ先輩に酷いこと言っちゃったんですよね?テテュス先輩から聞きましたよ。心配して部屋に行ったのに居留守使われてすっごく悲しかったんですからね!」


 ぷぅっと頬を膨らませてお怒りモードのセメレー。


「ごめんなさい。あの時は誰にも会いたくなくて。ほんとにごめんなさい」


 頭を下げる私を見て、逆に慌てる彼女。


「もぅ!ストップストップ!先輩、頭を上げて下さいってば!大丈夫です。怒ってませんよ?そういえばどうしたんですか?なんだかいつもと話し方が違って柔らかい感じがしますけど……」

「うん……私ね、いままで無理してたんだ。でも、もう止めたの。ありのままの自分でいこうって決めたのよ」


 そう告白すると、セメレーは少し驚いた後、良かったぁ、と呟いた。


「神殿だといっつも怖い顔して話し方も堅苦しかったから、なんでなんだろう?って思ってたんです。テテュス先輩と話してる時はもう少し砕けた感じでしたけど、クロ先輩とだともっと優しい感じですもんね?」

「……話し方変えてるのってもしかして、バレてた?」

「えぇ、まぁ。でも、いまの先輩の方がずっといいですよ?可愛らしくて!」


 照れるようなことを朗らかに話す彼女。全く、この子には敵わないなぁ。


「ふふっ。ありがとね~」

「ところで、どこかにお出掛けの途中だったんじゃないですか?」

「いまクロ君の部屋に行くところだったの。その……きちんと謝りたくて」

「それがいいですよ。さっきまで一緒にいましたけど、レーア先輩のことは聞けませんでした。クロ先輩もその話題は何も話しませんでしたし」


 そっか……クロ君、怒ってるのかな。セメレーとの結婚疑惑が晴れたのは嬉しいけど、きちんと謝るまでは何も終わらないもんね。


「そうだ!クロ君なんだけど、いまどこにいるか知ってる?もう帰ってるのかなぁ?」

「わたし、クロ先輩とは大聖堂で別れたんです。何か相談事があるみたいだったので、私だけ先に帰ってきたんですよ」

「そうなの!?じゃ、もしかしたら、まだ大聖堂にいるのかも?」

「通信で呼び掛けてみたらどうですか?」

「……そうね。やってみる」


 拒絶されるのが怖いなんて言ってる場合じゃないよね。精神を集中し、クロ君の顔を思い浮かべる。


「…………」

「…………」


「どうですか?」

「ダメね。反応自体がないみたい」

「わたしもやってみますね」

「…………」

「…………」

「どう?」

「ん~。やっぱり、応答がないです。一度、大聖堂に向かわれてはどうですか?何か分か――あ!」


 そこまで言いかけた時、セメレーが何かを見つける。


「ハルモニアさ~ん!お疲れ様で~す!」

「あら?まぁ、セメレーさん!それに、レーア様も!良かったですわ。お二人とも無事にお会いできたのですね!」

「こんにちは、ハルモニアさん。先程は失礼しました」

「いえ、とんでもありませんわ」


 柔らかな笑みを浮かべるハルモニアさん。よく見ると、目元が中隊長さんにそっくり。やっぱり親子なのね。


「丁度、良いところに来てくれましたね!ナイスタイミングです!」


 嬉しそうにはしゃぐセメレーに対して、訳が分からずポカンとするハルモニアさん。


「なんでしょう?」

「あの、実はクロ君……じゃなかった。午前中にこちらのセメレーと一緒にいた男性はまだ大聖堂にいるんでしょうか?ちょっと用事がありまして。通信で呼び掛けても応答がなかったものですから……」

「あら、あの方……さっき私が出る時に、偶然お会いしたんですの。その時に少しお話したんですが、しばらくの間、どちらかに行かれるようでしたわ。お休みをとって何かを探しに行くようなことを仰ってましたけど……すみません、場所まではお聞きしませんでしたの」

「いえ、そうですか……ありがとうございます」

「え~!?クロ先輩、どこに行っちゃったんですかねぇ?」


 クロ君……どこに行ったの?何を探しに行ったの?まさか、新しい彼女!?……まさかね。


「そういえば、半月後には神殿やその周辺施設にお勤めの皆さんの表彰式ですわね。うちの父も出席させて頂けると聞いていますわ。これも全て、レーア様のお陰ですわね。本当にありがとうございます。あんなに名誉ある式に父も出させて頂けるだなんて」


 本当に嬉しそうな誇らしげな笑顔を見せるハルモニアさん。


「いえ、御父上の功績を鑑みれば当然のことですよ。むしろ、私の方がオマケみたいなものですから」

「まぁ!嫌ですわ、レーア様ったら!」


 鈴を転がすような澄んだ声で笑う彼女。本当に愛らしく笑うなぁ。つられて私も笑ってしまった。なんかいいな、こういう感じ。クロ君とも早く、こういう風に笑いあいたいな。


「レーア先輩、きっとクロ先輩もその時には戻ってきますよ。詳しくは聞けませんでしたけど、表彰式、楽しみにしてる風な感じでしたから」


 心配そうに見つめてくるセメレー。私はそんな彼女に微笑みながら、ことさら優しく、自分にも言い聞かせるように言葉を返した。


「……そうだと、いいな」

ここまでご覧頂きありがとうございます。

果たして、クロノスはどこへ行ってしまったのでしょうか?

そして、探しているものとは??


予定ではレーア編はあと二話です。

ご期待ください!

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