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49.流れ星と月と、芽生える気持ち(後編)

アルテミスの言葉に、流星は何を思う?

どうする!?

 ()()()()()()()()()()()()

 確かにいま、アルテミスはそう口にした。んんっ?なんでそうなるの!?


「ちょっ、ちょっと待って!恋人って誰と誰のこと?」

「わたしとお兄ちゃんだよ?」

「どうして、いきなりそう思ったの?」

「え?だって、お兄ちゃん、わたしのこと好きって言ってくれたでしょ?よく考えたら、わたしもお兄ちゃんのこと好きだし、優しいし顔もカッコいいしお料理も上手だし。『神恋』によく()()()()って出てくるけど、お兄ちゃんみたいな人のことだと思うな~」


 優良物件か……あんまり褒め言葉には使えないと思うけど、アルテミスは単に褒めてくれてるんだろうな。


「ありがとう。あのね、さっき僕が言った好きって意味なんだけど――」

「それに、わたしも結構、優良物件だと思うよ?」

「え?」

「みんな、可愛いって言ってくれるもん!わたしは綺麗の方が似合うかなって思うけど、これからだんだん大人になったらきっと、すごく綺麗になると思うんだ~!だから、いまは可愛いでもいいかな」


 すごい自信だな!?まぁ、いまだって十分に可愛いし綺麗だから、成長したらどれだけ綺麗になるんだろう?とは思うけどさ。


「そ、そうだね。将来、とっても綺麗になると思うよ?きっと、告白もたくさんされちゃうんじゃないかな?」

「やだ~!お兄ちゃんったら、もぅ!……やっぱり?わたし、そういうところあるから~!」


 無垢な笑顔でドヤ顔って可愛いんだね。初めて知ったよ。


「可愛くて綺麗で隕石だって呼べるし、こんなわたしが恋人さんになって嬉しい?」


 嬉しくないわけがない!といった自信満々の表情で見つめてくる彼女。確かに、そんな三拍子揃った女の子って滅多にいないよね。特に三番目のところ。友達、呼んじゃう?みたいな感じで隕石を呼んで欲しくはないけども。


「それに答える前に、ちょっとだけ話を聞いてくれる?」

「うん、いいよ~」


 キラキラな瞳とワクワクした笑顔が少し話しづらいけど、きちんと説明しなきゃ。


「あのね、もちろんアルテミスのことは好きだよ?」

「じゃあ――」

「待って。でもね、それは親愛の情と同じなんだ」

「しんあいのじょ~?」

「う~んと、要するに、仲間や家族として好きってことかな。アルテミスだって、デメテルやフォルのことは好きでしょ?それと同じ気持ちを僕はアルテミスに持ってるってことだよ」

「それじゃ、わたしたちは恋人さんじゃないってこと……?」


 やばい。泣きそうな顔になっちゃった……困ったな。どうしよう??


「恋人じゃないっていうか、ほら、僕たちって年齢差がありすぎるじゃない?」

「お姉様とだってかなりあるのに?」


 1000万歳と2300万歳に対して僕か。まぁ、どっちにしても年の差はかなりあるのか。


「え~と……弱ったな」

「お兄ちゃん、ほんとはわたしのこと好きじゃないんだ~!……うぅ……ぐすっ」


 瞳から涙が零れ落ちる。まだ幼いと思っていたその表情は、間違いなく淑女(レディー)のものだった。


「アルテミス……」


 なんか視線を感じると思ったら、周りの神さまたちから遠巻きに見られている。ここ、通りの真ん中だもんな。どう説明して納得してもらおうか思案していたその時、聞き覚えのある声が僕たちに掛けられた。


「あら?流星さん!それに、アルテミスちゃんも。どうかされたんですか?まぁ、泣いてるの……?」

「ラミエルさん!」


 さっきまで話してた店長のラミエルさんだった。


「ちょっと、これには訳がありまして……ラミエルさんこそ、他の店に行かれたのでは?」

「えぇ、そうなんです。手が足りなくて応援のつもりで向かったんですが、急遽、大丈夫になったみたいで戻ってきたんです。それより、どうされたのですか?」

「はい、実は――」

「あの、ここではなんですから、ちょっと寄ってらっしゃいませんか?すぐそこなんです」


◇◇◇


「はい、どうぞ。アルテミスちゃん。熱いから冷ましてから飲んでね。流星さんもどうぞ」

「はい、頂きます」

「お姉さん、ありがとう」


 いま僕たちは、ラミエルさんの店が倉庫兼休憩室として借りている部屋に来ていた。通りでは目立つし落ち着いて話も出来ないということで、彼女が誘ってくれたのだ。


「すみません、せっかくの休憩時間にお邪魔してしまって……」

「いいんですよ。この時間は私だけですし、アルテミスちゃんが泣かされてるんです。放ってはおけません」

「ううん!お兄ちゃんは悪くないよ!わたしが勝手に泣いちゃっただけなの……」


 ちょっとだけ僕を責めるような目つきをするも、アルテミスの言葉にすぐ表情を柔らかくする彼女。


「ごめんなさい。流星さんがそんな方じゃないってことは分かってます。泣いてるから、ちょっと責めたくなっちゃったんです。アルテミスちゃんもごめんなさい。お兄さんがそんな方じゃないってことは分かってるから、安心してね?」


 涙の跡がついた頬を拭いつつ、うん!と返事をするアルテミス。もう泣いてはいないけど、その表情はどこか落ち込んでいた。


「それで、一体どうしたんですか?」


 ラミエルさんの問いかけにどこから話せばいいか迷ったけど、嘘は言いたくなかった。結局、最初から話す方が一番、齟齬(そご)がなくていいのかな。

 僕が地球からの迷子の魂で、ある女神さまに助けてもらったこと。いま、その女神さまを含めた三人と仮のお付き合いをしていること。お互いのことをよりよく知るために、期間を設けていること。アルテミスはその女神さまの妹で、事情があって今夜までしかここにはいられないこと。なので、お母さんに許可を貰って特別にデートしていること。そして、僕が言ったアルテミスへの好きを、彼女が恋人のそれとして捉えてしまったこと。


「……そういう訳なんです。どう説明したらいいか迷ってしまって」

「流星さん」

「はい」


 心なしかラミエルさんの声が低くなってるような気がする。


「今日、初めてお会いした方にこんなことを言うのは失礼だと思います。けど、ハッキリと言わせて頂きます。流星さんがもっと、アルテミスちゃんの気持ちを考えてあげないといけなかったんじゃありませんか?」


 温和な彼女が一転、冷たく言い放つ。


「彼女は彼女なりに流星さんのことを慕っていたんだと思います。あなたみたいにカッコ良くて物腰も柔らかくて素敵な方に、好きだなんて言われたらそりゃ、嬉しいに決まってますよ!?」


 ちょっと興奮気味になってきたな。


「こんなにお洒落して素敵な格好して憧れのお兄ちゃんとのデートだなんて、まるで夢みたいじゃないですか!?そうよね?アルテミスちゃん?」

「う、うん。夢みたい」


 怒涛の勢いにアルテミスでさえ、ちょっと引き気味だ。


「でも、そんな女たらしは私ならお断りですけどね」

「「え?」」

「だって、そうでしょう?地球ではどうか知りませんが、確かに天界(この世界)では重婚も可能です。実際にされている方もおります。でも――」


 そこまで言って、彼女の目つきがキッときつくなり、僕を睨む。


「将来を見据えて複数の女性と付き合うですって?それじゃあ、お聞きしますが、あなたに選ばれなかった方はどうなるんですか?選ばれた方は幸せでしょう。この先も一緒にいられるんですから。選ばれなかったら、その後はどうなるんですか。悲しみだけが残るんですよ?」


 ……っ!?確かにそうだ。誰を選んでも誰かが不幸になる。それなら、いまの僕とデメテルたちの関係って意味があるんだろうか。


「一人に決められず先延ばしにして、皆を不幸にするような男性は私はどうかと思います。アルテミスちゃん、今のその気持ちは年上に対する憧れなの。決して、好きと同じじゃないのよ?流星さんのことは忘れた方がいいわ」


 まるで蔑むような瞳で僕を見、アルテミスに優しく語りかける。正直、悔しいけど、言葉が出なかった。僕のしてることは皆を不幸にしてるだけなんだろうか……間違ってるんだろうか。

 言い返せずに心の中で考え込んでいたその時、小さな声が聞こえてきた。


「……んで」

「え?」

「アルテミスちゃん、どうしたの?」

「なんで、そんなひどいこと言うの!?お兄ちゃんは、わたしの大好きなお兄ちゃんはそんなひどい人じゃないもん!!」


 それまで黙って聞いていたアルテミスの感情が爆発したかのようだった。瞳に涙を浮かべ、でも、それは悲しみの涙ではなく明らかに怒りそのものだった。


「お兄ちゃんはお姉様たちや千秋をすっごく大事にしてるもん!お兄ちゃんがいると、みんな、すっごく嬉しそうだしいっつも笑ってる!さっきだって、みんなで楽しくご飯食べてお喋りして、お片付けだって……それに、わたし、お姉様たちがあんなに楽しそうに笑ってるの久しぶりに見たもん……千秋だってお兄ちゃんとやっと会えて、ほんとに嬉しそうだった。そんな――」


 頬を伝う涙を拭うこともせず、一気にまくし立てるアルテミス。


「そんなお兄ちゃんがお姉様たちを不幸にするわけなんかないもん!いくらお姉さんだからって、お兄ちゃんのこと悪く言うなんて許せないっ!」


 急激に煌めくアルテミスの体。ゆらゆらと金色のオーラのようなものが立ち昇り、体全体を包み込んでいく。

 げっ!?こ、これ、千秋に頭ぐりぐりされてた時と一緒だ!……まさか!?まずいまずいっ!!


「恋は突然、生まれるもの。愛は二人で育むもの」


 突然、凛とした声が僕とアルテミスの耳を貫く。ラミエルさんだ。


「えっ……?」

「ど~いう意味?」


 あまりに突然のことで、アルテミスもポカンとした表情で彼女を見つめる。


「その前に、お二人に謝罪します。酷いことを言ってしまい、本当にすみませんでした」


 深々と頭を下げる彼女に、ますます訳が分からなくなる。


「え?えっ?どうして……」

「流星さん、ごめんなさい。アルテミスちゃんもお兄さんのこと悪く言ってごめんなさいね。ああ言えば、アルテミスちゃんが流星さんに実際、どんな気持ちを持ってるのか分かると思ったんです」

「じゃ、じゃあ、お芝居だったってことなの!?な~んだ~!あ~良かった!」


 お芝居だと分かって、急に笑顔になるアルテミス。


「お姉さんに、(メテオ)を落としちゃうところだった~!」


 やはりか!?あっぶね~!!本当に良かったよ。マジで。


「本当に申し訳ありません」


 再度、深々と頭を下げるラミエルさん。


「もういいんですよ。頭を上げて下さい。本心じゃないと分かってホッとしました。でも、ラミエルさんの言うことも、的を得ていたと感じる部分があるんです」

「流星さん……あなた方がお決めになったことですから、部外者の私がとやかく言う権利はありません。きっと、たくさん悩んだ末に皆さんでお決めになられたのでしょう?だったら、良いじゃありませんか。自分はもしかしたら、選ばれないかも知れない。そんな覚悟を持つ程、あなたのことを愛した。それって素敵なことだと思いますよ?」


 さっきまでの鋭い目つきはどこかに消え、朗らかに笑う彼女。


「ありがとうございます。でも、自分なりに少し考えてみようと思います」


 彼女は僕の言葉に軽く頷き、それ以上は何も言わなかった。


「お姉さん、それでさっきのはどういう意味なの?」

「あら、ごめんなさい。知りたいわよね。あのね、恋ってある日突然、気持ちが心に生まれてくるものなの。アルテミスちゃんのいまの気持ちがそうなんだと思うわ」

「そうかも!千秋に話には聞いてたんだけど、お兄ちゃんに初めて会った時、なんだかビビビッって感じたの!」

「きっと、それだわ。それが恋よ。でね、愛っていうのはいきなり生じるものじゃないと思うの。相手とゆっくり時間をかけて育てていくものなんだと思うわ。アルテミスちゃんと流星さんに愛はあるかしら?」

「う~んと……よくわかんないけど、まだかも……」

「そうね、難しいわよね。私だって難しい話だもの」


 そう話しながら、ちらっとこちらを見るラミエルさん。その瞳には、私に任せて下さい、と自信が溢れていた。


「だから、いまはまだ流星さんと恋人同士ではないと思うの。好きにも色々な種類があるの知ってる?」


 ううん、と首を振るアルテミス。


「お母さんやお姉さんに対する好き、友達に対する好き、憧れの人に対する好き、好きな人に対する好き。どれも皆、違うの。さっき、流星さんのために怒ったでしょう?それは間違いなく、好きな人に対する好きだと思うわ。でも、それがすぐに、流星さんと恋人になるってことじゃないの。二人で愛を育んでいかなくちゃ」

「いつ恋人さんになれるの……?」

「それは私にも分からないの。ごめんなさい。でもね、アルテミスちゃんはまだ1000万歳でしょう?これから色んな神や天使に会うわ。中にはアルテミスちゃんのことを好きになって、告白してくる男の子もいるかも知れない。それでも、結婚できる年齢まで流星さんのことを想い続けられたら、もしかしたら、恋人になれるかもしれないわよ?」

「お兄ちゃん、ほんと!?」


 えっ!?急に振ってくるなぁ。


「あ、え~っと、でも、大人になった時にはもう僕はおじさんだし、きっと他に素敵な神さまがいると思うよ?」

「ううん!お兄ちゃん以上に素敵な人なんていないもん。わたし、お姉様たちがお兄ちゃんのこと好きになった気持ち、いま分かったような気がする」

「……流星さん、大人になってもいまの気持ちを持ち続けられたら、それはもう本物だと思いますよ」

「そうですね……」


 ふぅ、と息を吐き、アルテミスを見つめる。彼女の心に僕がいていいんだろうか?さっき、ラミエルさんに言われたように、デメテルたちの誰と正式に付き合うかも決められない僕なんかが。そこまで考えて、急に思い出す。そういえば、デメテルに()()()()って二度と思わないでって言われたっけ。

 『気軽に約束をしない人は、もっとも誠実に約束を守る』か……誰の言葉か忘れちゃったけど、大学の講義で聞いて妙に心に残ってるんだよね。この言葉。

 アルテミスの表情は真剣そのものだ。ある種の決意みたいなものさえ見てとれる。ここまで想われて、まだ子供だからと無下にするのはなんか違うよね。僕も約束する以上は覚悟を決めないとな。


「分かったよ。もし、結婚できる年齢までその気持ちを持っていてくれたら、その時は僕も誠心誠意、応えるよ。でも、もし、その時に僕が誰かと結婚してたら、さすがに諦めてくれるよね?」


 そう伝えると、アルテミスは本当に嬉しそうに微笑んだ。そして、大きくハッキリとこう口にした。

 

「ううん!お姉様たちのことも好きだし、一緒にお嫁さんになる!ありがとう、お兄ちゃん!」


 ……あれ!?


◇◇◇


 ラミエルさんによくお礼を言って別れた僕たちは、その後、ショッピングの続きをしたり、ゲンさんに貰った串焼きを食べたりしてデートを楽しんだ。

 そしていま、二人で噴水広場へと来ている。時間はもうすぐ七時半。辺りはすっかり暗くなっていた。


「あと一時間くらいあるから、少し休んでいこうか。ここ、来たかったって言ってたよね?」

「うん!デートの()()は噴水広場だ!っていっつもフォル姉様が言ってたの。いつか、好きな男の子と来てみたいんだって!」


 そうなんだ。ていうか、フォルってあんな美人なのに彼氏いなかったのか。そっちの方が驚きだな。それにしても、この広場がなんだっていうんだろ?特に変わった所はないように思うんだけど……?


「え~と、空いてるベンチはどっかに――」

「あ!見てみて!」


 突然、叫ぶアルテミス。


「どうしたの?」

「あの二人、ちゅ~してる!」


 げっ!?


「あ、アルテミス!見ちゃいけません!」

「あ~!あっちも~!」

「ちょっ!指を差すんじゃありませんっ!」


 アルテミスを連れ、亜光速(超ダッシュ)でその場から逃げる。


「はぁっはぁっ……」

「お兄ちゃん、大丈夫?」


 心配そうな顔で僕を覗き見るアルテミスに、笑顔で大丈夫だよと答える。でも、内心はバクバクだった。

 なんで、神さまも天使さまもあんなに堂々と、()()()()()()で座ってるんだ!?


「あそこ、ちょうど空いてるよ~」


 見ると、目の前に一つベンチがあり、他のベンチからも割と離れていた。ちょうどいいから、少し休ませてもらうおうかな。

 アルテミスの手を取り、一緒に座る……ん?なんか狭いな。


「お兄ちゃん、これなんか幅が狭いね?」

「そうだね。なんでだろ?これじゃ、二人掛けというより……ハッ!」


 こ、これは、まさか!?


「良いこと思い付いちゃった~!こうすればいいんじゃない?さっきの天使さんたちもこうやってたし……んしょっと」


 アルテミスが戸惑うことなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「これなら狭くないね。お兄ちゃん、重くない?」


 体に感じる女の子特有の柔らかさ。そして、すぐそばで漂う甘い香り。必死に心臓を落ち着かせようとする僕に返事をする余裕はなく、ただ無言で首を縦に振るのだった。


「お兄ちゃん、ゆっくり恋人さんになっていこうね~」


 ピッタリとくっつき、頬を染めて甘えてくるアルテミス。


「う、うん……でも、大人になってからだからね?」

「分かってるよ~。それまでにお兄ちゃんを落とせばいいんだよね?お姉さんがこっそり教えてくれたんだ~」


 ラミエルさ~ん!なんてこと教えてくれたんだ!そうこう思ってる間も、すりすりと胸に頬ずりしながらくっついてくる。


「ちょ、ちょっとくっつきすぎじゃない?」

「まだまだだよ~!こうすれば、明日もわたしのこと思い出すでしょ?お姉さんと浮気しないようにわたしの匂い、お兄ちゃんにくっつけとくね?」


 浮気って……。


「あ、そうだ。これ渡すんだった」

「ん~?」

「はい、これ。今日の記念にプレゼントするよ。きっと、似合うと思うよ」

「えっ……開けてもいい?」

「うん、もちろん」


 驚いて信じられないといった表情で、恐る恐る綺麗な包みを剥がす彼女。そして、出てきた箱に印字してあるブランド名を見て、さらに驚く。


「これ、あのお姉さんのお店の……?」

「うん、トイレ行ってた時があったでしょ?その時に選んで買ったんだ。本人がいるところで買ったんじゃ、サプライズにならないからどうしようかと思っちゃった」


 無言で箱を開けるアルテミスが中身を手に取る。


「キレイ。これ、ネックレス……ハートの形してる」

「ハートの欲しいって言ってたし、アルテミスにいいなって思ったんだ。その赤い宝石は『 紅 玉』(スカーレット・レッド)って言って、ルビーの中でもとっても希少なんだって。着けてあげるよ。貸して?」


 俯いたまま手渡す彼女。どうしたんだろう?照れてるのかな?髪を優しくかき上げ、胸元のちょうどいい位置に宝石がくるように着けてやる。オレンジがかったやや明るめの深紅色が月明りに照らされていた。彼女の艶やかな黄金色の髪ともよく合い、まるで絵画を見ているようだった。美しくも幻想的な淑女(レディー)に僕は思わず――


「すごく綺麗だ。本当によく似合ってる」

「……お兄ちゃん、ありがとう。嬉しい……」


 涙声の彼女。そうか。俯いていたのは泣いてたからか。馬鹿だな、僕って。ハンカチでそっと拭おうとすると、感極まったのか大粒の涙を流しながら胸に顔をうずめてきた。

 僕はただ、黙って静かに優しく抱きしめた。


「わたし……早く大人になるね……」

「いいんだよ。ゆっくりで。焦らないでいいんだよ。僕はずっと天界(ここ)にいるからね?」


 泣きながら、こくんと頷く彼女。空を見上げると、満天の星々が見えた。その中にひと際、大きく輝く満月。とても綺麗だった。腕の中で泣いている彼女もいつかこの満月のように、皆から愛される綺麗で大きな存在になるんだろうな。

 成長しないと置いてかれちゃうな。僕は他の皆より、ほんの少しだけ料理ができるだけの魂なんだから。努力しないと、アルテミスだけじゃなくてデメテルやフォルたちにもどんどん離されちゃいそうだ。

 小さな女神さまの泣き声を腕に抱きながら、空の満月に固く誓うのだった。

 


今回もご覧くださってありがとうございます☆

アルテミスとのデート回はいかがだったでしょうか?

途中、アクセサリー屋さんの天使のお姉さんも登場しましたが、

彼女はこの後の話で再び出てきます。


アルテミスの流星への恋心は愛へと変わるのでしょうか?

次回もご期待ください!


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