45.少女からレディーへ
楽しい食事会も終わり、流星とのデートのために
お洒落の準備に取り掛かるアルテミス。
さて、どんな姿で登場するのでしょうか?
レーアさまの機転によって、急遽、アルテミスが三年後に帰るまで遊べる時間を貰えた。あんなに喜んでくれて可愛いな。僕も頑張って精一杯、エスコートしなきゃ!
「ふぅ、大体終わったかな。フォル、もう洗い物はない?」
「そうだな。いま洗ったカップで最後だ。テーブルは拭いたし、床もいま千秋が掃除してくれてる。でも、そんなにゴミはなさそうだな」
「そっか。なら、もう終わりだね。千秋、そっちはどう?」
「んー?少しだけパンくずが落ちてたくらいかな。あと、ゴミを捨てたら終わるよー。椅子を拭くのも済んだしね」
テキパキと働く千秋の元気な声。そう言えば、もう酔いは覚めたのかな?
「はい、OKだよー!」
言いながら洗い場に来て、手を洗う千秋。これで全部、終わったね!
「レーア様、本当にありがとうございました。お陰様で綺麗に片付きました。流星君たちもありがとう」
「気にしなくていいのよ~。それよりも、とっても楽しい食事会だったわ~。飛び入りで参加させてもらっちゃって、こちらこそありがとね~。久し振りにあなたとアリアさんにも会えたし、とっても素敵な日になったわ~」
ニコッと微笑んで本当に嬉しそうに話すレーアさま。皆、様って付けて呼んでるけど、きっと単に役職が上だからじゃないんだろうな。自然とそう呼びたくなる、そんな感じがするもん。すごく慕われてるのが分かるしさ。僕だってもし、こんな人が上司だったら業務じゃなくたって頑張りたくなっちゃうよ!
「ディオニュソスさま、僕や千秋までご馳走になってしまって、本当にありがとうございました。お酒も料理も凄く美味しくてビックリしました」
「そう言ってくれて嬉しいよ。その言葉を聞いたら、きっとアリアも喜ぶさ。フッ」
爽やかに微笑むディオニュソスさま。あ!……いや、大丈夫みたいだ。また花が出るのかと思っちゃった。
「今度は抑えたな?」
フォルが茶々を入れ、恥ずかしそうに頭を掻くディオニュソスさま。
「ボクだって、毎回毎回、花は出さないさ。特訓したし、いまはせいぜい……五回に四回くらいだね。花が出るのは」
多いなっ!?ディオニュソスさま、それすっごく多いです!八割方、咲いちゃうことになってますけどぉっ!?
「レーア様、さっきはありがとうございました。フォルから聞きました。酔いが早く覚めるように、私に神力を使って下さったんですよね?」
「あら、千秋さん。気分はいかが~?そんな大それたことじゃないから、気になさらないでね~。私、【夢見の泉】って言って、未来のことが少しだけ分かる生まれつきの力があるの。それであなたのお顔を知ったんだけど、これって睡眠の質が悪いと予知夢が見られないのよね~。それに気付いてからいつの間にか、睡眠の質を良くすることができるようになったの。それを千秋さんに応用しただけなのよ~」
へ~!レーアさまってそんなことも出来るんだ!?本当に有能な方なんだなぁ!
「すっごく素敵な能力ですね!スパとか開いたら人気が出そうです!」
「あら、な~に?そのスパって。いつだったか、フォルちゃんと一緒に作ったスパゲッティのことかしら~?」
「え?い、いえ、レーア様。あの時、作ったのはスパゲッティではなく、日本の名物できしめんという――」
「やだぁ!もう、レーア様ったら!さっすが、アルテミスのお母様ですね!女神ギャグ、最高です!」
フォルの説明を途中で吹っ飛ばし、あはは!と大笑いする千秋。そして、レーアさまに抱き着き、笑いすぎて涙ぐむ。いいなぁ。なんて、柔らかそうで羨ま……あ、いや、ううん!なんて凄いコミュ力なんだろう?さっきの大通りでもそうだったけど、天使さまの店の常連みたいになってたもんな!?
あ!フォルがちょっとだけ寂しそうにしてる。
「フォル?僕は聞いてたよ?きしめん作ったの?凄いね!」
「流星……優しいよな、やっぱさ」
僕を見つめながら小声で何事か呟く彼女。
「え?いまなんて言ったの?」
「なんでもない。それより、きしめん知ってるんだな?さすが、日本の名物だ!」
「まあ、そうだね。日本の中に名古屋っていうところがあるんだけど、僕、小学校三年生までそこに住んでたんだ。それで、きしめんは学校の給食、あっ……え~と、昼ご飯のことなんだけど、それに出るくらい人気だったんだよ!あと、ういろうっていう甘いやつもデザートに頻繁に出てたっけ」
きしめんにういろうか……懐かしいな。
「へぇ!人気なんだなぁ。そのういろうってのも中々、美味そうだな!?デメテルがよく食ってる水ようかんみたいな感じか?」
「あ~ちょっと似てるかも?あれよりはもっと柔らかいんだけどね。甘くて美味しいんだよ。さすがに作り方は分からないけど。それはそうと、フォル、きしめんなんて難しそうなものよく作れたね?それが凄いよ!」
「まぁ、あの時はレーア様と一緒だったしな。アタシが料理を勉強し始めてから、時々、レーア様と作るのご一緒させてもらってるんだ」
へへっと頬を少し染めて笑うフォル。ほんとに勉強熱心なんだなぁ。
「あのさ……もし、その……きしめんが食べたいなら、作ってやろうか……?アタシんちで」
頬を更に朱に染めて真っ赤になるフォル。恥ずかしそうに上目遣いで僕を見る彼女は、とても可愛くギャップ萌えが凄かった。
「萌え……」
「えっ?燃え?」
「う、ううん、なんでもない!ありがとう、すっごく嬉しいよ!いま話してて食べたいなって思ってたところなんだ」
「そうか!なら、決まりだ。今度、日にち決めて食べさせてやるよ!そ、その……二人っきりでさ」
「ありがとう!楽しみだなぁ。それなら、来週のデートの日にフォルの家にも寄らせてもらおうかな?その時にどう?」
僕の言葉を聞いて、とっても嬉しそうに顔を綻ばせる彼女。そして、潤んだ瞳で軽く頷き、幸せそうに微笑んだ。
「流星くん、フォル。ちょっとアリアたちの様子を見てくるよ。多分、彼女が使ってる部屋にいると思うから」
「あ、はい!お願いします」
ディオニュソスさまが部屋を出ていき、ふと、千秋たちはどうしたかな?と思って二人の方を見ると――
「あら、そうなの~?それは凄いわね~!私もぜひ、行ってみたいわぁ~!」
「行ったらきっとハマっちゃいますよ?」
きゃっきゃっと可愛らしい笑い声を上げ、まるで友達同士のように仲良くお喋りする姿を発見。ものすっごく仲良くなってる……!!
それから、千秋はリラクゼーションや美容、健康のことについて熱心に語り、レーアさまもこれまた熱心に、空中に文字を書いて(たぶん)メモを取っていた。あれって確か、フォルも同じことやってたな。神さまだけしかできないのかな?スマホでメモをとるよりずっと便利そうだ。後で聞いてみよっと。
◇◇◇
「あぁ、分かった!じゃあ、そっちに行けばいいんだな?」
ディオニュソスさまがアリアさんたちの様子を見に行き、しばらく経った時、フォルに通信が入った。話によると、アルテミスの準備が出来たから部屋まで来て欲しいとのことだった。
――三階にて
皆で指定された部屋に着くと、その前でディオニュソスさまとアリアさんが待っていてくれた。
「レーア様、ご足労お掛けして申し訳ありません。先程の部屋は午後、仕事で使用するものですから……」
「流星さんたちもごめんなさいね」
申し訳なさそうに頭を下げるディオニュソスさまとアリアさん。
「そんなことちっとも気にしてないわ~。私の方こそ、娘のために部屋を貸して下さってなんだか申し訳ないくらいよ~」
「アリアさん、僕たちは全然、大丈夫ですから。気になさらないで下さい」
「アルテミスがどんな感じになったか楽しみだもん。見られるならどこへだって行きますよ?ね、フォル?」
「全くだ。アルテミスの晴れ姿、見届けてやろうぜ!」
皆、テンションちょっと高くなってるね。まぁ、僕もだけどさ。きっと、可愛くなってるんだろうな。妹みたいに思ってるアルテミスだけど、なんだかドキドキしてきちゃったよ。
「お願いしますわ」
軽くノックをして部屋の中に声を掛けるアリアさん。すると、間髪入れずに扉がゆっくりと開き始める。そして――
「おぉ、これは素晴らしい!アルテミスちゃん、凄く似合ってるよ。フッ」
「あー!バカッ!花を出すなってのに!……まぁ、でも、いまは花があった方がいいかもな。すげー似合ってるぜ!」
「ほんとほんと!とっっっても、可愛い!猫の姿も可愛かったけど、そのドレス姿は別格じゃない?きっと、その辺の男の子たちが言い寄ってきちゃうかもねー?」
「まぁ!とってもよく似合ってるわ~!それ、ママとデメちゃんとで選んだ服でしょう?やっぱり、あなたにはこのくらい可愛らしい色の方がよく似合うわ~!」
そこには、息をのむほど美しい少女。いや、淑女が佇んでいた。その愛くるしさに僕は一瞬で目を奪われる。皆が口々にアルテミスを褒め称え、彼女も本当に嬉しそうな表情で頬を染めていた。
「流星、どう?うちの自慢の妹のご感想は?」
「流星さん、素直な気持ちでいいんですのよ?さぁ!」
皆が注目する中、一歩前へ出る。アルテミスは少し緊張気味な面持ちに見えたけど、真っ直ぐに僕を見つめていた。
「お兄ちゃん、どうかな……これ」
ドレスの裾を小さな白い手で軽く握り、くるっと一回転。それは例えるなら、神々の花園に咲き乱れる桜の妖精。儚くも優美な色合いの淡いピンク色のドレス。それが彼女をより一層、可憐に仕立て上げていた。ふわっと軽やかに広がり、ひらひらが目を引く重ねられたフリル。袖口や胸元に存在感を示すリボンのアクセント。華やかな首元を演出するチョーカー。
そして……いつもよりずっと大人っぽくセットされた黄金色に光り輝く髪と、愛らしい桃色のカチューシャ。その一見、相対する両者がものの見事にマッチしており、彼女の持つ美しさと可愛さを最大限に引き出している。どれをとっても素敵すぎて眩しすぎて、少しの間、僕は放心してしまった。
「お兄ちゃん……?似合わない、かな……」
何も言わない僕を不安に思ったのか、悲しげな瞳でトーンを落とす彼女。
「そんなことない!全然、そんなことないよ!?すっごく可愛いし、こんな素敵な女の子見たことないよ!ごめんね。可愛すぎて緊張しちゃってさ、言葉が上手く出なかったんだ」
アルテミスの悲しそうな顔を見た途端、感情が爆発したかのように叫んでいた。元から可愛いとは思ってたけど、ここまでとは……!
えへへっと顔を赤くし、はにかむアルテミス。本当に綺麗だ。落ち着け!落ち着くんだ、僕!彼女は神さまで1000万歳とはいえ、地球で換算するとまだ小学生なんだ。あんまり見つめたりしたら、犯罪者に思われちゃうかも!?そう思い、そっと目を逸らす。すると――
「お兄ちゃん、わたしのこと見てくれないの……?」
鋭い彼女がすかさず、無垢なボディブローを叩き込む。いえ、見ます。ずっと見ていたいです。
「いや、いまのは……ちょっと自分自身に問いかけてただけだよ」
「ふ~ん?」
「と、とにかく!とっても良く似合ってるよ。どこかのお姫様じゃないかってくらい可愛い」
本心を素直に伝えると、恥ずかしそうに体をくねらせ始めるアルテミス。そして、少女とは思えないような艶っぽい表情で口を開いた。
「もう、お兄ちゃんったらぁ!わたしのこと好きになったらダメだよ?すぐそこで、千秋とお姉様たちが怖~い顔して睨んでるからね?でも……好きになっちゃったら、こっそり教えてね?」
言い終わると、ふふっ、と誘惑たっぷりの妖しい笑みで見つめてきた。ホントに(地球換算で)十歳!?
「……はい、善処いたします」
「良かったですわね、流星さん。とっても可愛らしい彼女ができそうで何よりですわ」
クスクスと楽しそうに笑うアリアさん。いやいやいや!いま絶対、面白がってますよね!?
「流星君、レーア様のご息女だ。くれぐれも慎重な行動をね?そうじゃないと、隕石が落ちてくると思うよ。ピンポイントで君の上にね。くれぐれも天界には被害を出さないでくれよ?」
とんでもなく恐ろしいことを言って、フッフッフッとまるで中ボスのように笑うディオニュソスさま。あの~それは肝に銘じておきますけど、花がたくさん出ちゃってますよ?
あ~ぁ……アリアさんの目つきがキツくなっちゃった。ご愁傷様です。
「青春だわ~!私も若い頃、パパと初めてデートした時のこと、思い出しちゃった」
煌びやかなアルテミスの姿を見て感極まったのか、唐突に始まるレーアさまの馴れ初め秘話。
「レーア様もデートとかしたことあるんですか!?」
ものすっごく驚いてるフォル。
「そりゃ、あるわよ~。私たちの時代だって、皆がお見合いして即結婚だったわけじゃないのよ~?」
神さまってお見合いするんだ?初めて知ったな。
「凄いね。神様がお見合いだって。一昔前の日本みたいだね?」
千秋も同じことを思ったのか、驚いて僕にささやく。
「うん、ホントだよね。天界は地球みたいな星を参考にして創られた世界って仰ってたから、もしかしたら、その辺りの文化も似てるのかもしれないな」
僕の言葉に、うんうんと頷く千秋。
「そういえば、お母様とお父様のそういったお話は聞いたことがないわ」
「お姉様もないの?わたしも~!聞きたいけど、デートする時間なくなっちゃう……」
「あの、レーア様?お写真などはないのですか?もし、お見せ頂けるのでしたら、アルちゃんも満足すると思うのですが……」
アリアさんの言葉にキラッと瞳を輝かせ、待ってました!と言わんばかりの表情のレーアさま。
「……良し!……仕方ありませんね~。そこまで仰るのなら、お見せするわ~。アリアさんに頼まれては断れませんものね~」
ごく自然な口調で話してるけど、見せたくて仕方ない感が溢れてますよ!?めっちゃ笑顔ですし!それに、良しってハッキリと聞こえてました。
「こないだ整理しといて良かったわ~。はい、これよ~。初めてのデートで待ち合わせした時に、パパが撮ってくれたの」
出すの早っ!皆が興味津々にその写真を見ると――
「凄い……!なんてお美しい!!」
ディオニュソスさまが真っ先に感嘆の声を漏らし、そして――
「わぁ!お母様、とってもきれい~!髪、短い~!お花持ってる~!照れてる顔、可愛いっ!」
「ホントだわ!この頃っていまよりずっと短くされてたんですね。このお母様も素敵~!」
「へぇ!レーア様、もの凄い美人ですね!男神たちが放っておかないわけですよ」
「えぇ!?これホントですか!?いまと前で全然、変わってませんよ?どうしたら、そんなに綺麗でいられるんですか?いいなぁ。これでスパなんて行ったりしたら、どれだけ綺麗になるんだろ」
女性陣もそのあまりの美麗さに驚愕し、熱い羨望の眼差しで写真のレーアさまを見つめていた。
「レーア様のこの綺麗なお姿はきっと、内面から溢れているものなのでしょうね。お写真から粗野ではない力強さと気品を感じますもの」
「そんなに褒めてくれるなんてとっても嬉しいわ~。ありがとう。パパったら、どうしても私の写真が欲しいからって必死にお願いしてくるのよ~?もうっ、酷い顔の時に撮っちゃうんだから。ふふっ、私のこと大好きなのよ~?全く、しょうのないパパね~」
そう言いつつも、頬を染めて嬉しそうに昔の自分を見つめるレーアさま。きっと、この写真にたくさんの思い出が詰まってるんだろうな。なんだか羨ましいな。
その時、ふいにため息のような声が聞こえてきた。ディオニュソスさまだ。
「はぁ……本当にお美しい……」
そっと呟くように声を漏らす。もしかして、ディオニュソスさまの初恋の神さまだったり?その隣にいるアリアさんも食い入るように写真を見つめている。でも、その後で、ディオニュソスさまにコソッとささやく彼女の声が耳に入ってきた。私の写真もありますから後でお見せしますわね、だって!?
あれ?もしかしてこれって、嫉妬だったりする?アリアさん、やっぱり彼のことが好きなんじゃ……二人が上手くいくといいな。
写真の中のレーアさまは圧倒的に美しく、この頃から聡明なお方なのだろうということが容易に見てとれた。まるで、天界の輝かしい宝石のような存在に見える。いまだって凄くお綺麗だし、皆の憧れを体現したような神さまなんだろうな。
もし、写真の彼女の髪を伸ばしたら、そのままいまのレーアさまになるんじゃないかってくらい、ちっともお姿が変わってない。いや、むしろ、年齢を重ねてより艶やかさが増してるようにさえ見える。
ずっと、疑問に思ってるんだけどさ……どうして皆、一言も触れないの?これって、初デートの時の待ち合わせだよね?花束を抱えてどことなく緊張気味に、でも、嬉しそうにはにかんでる姿はとても微笑ましいよ。でもね……なんで、デートなのに鎧を着てるの?しかも、ごっつい盾付きで。
今回もここまでご覧下さって、本当にありがとうございます!
まるで、お姫様のようなアルテミス。
そんな可愛らしい彼女に、流星は歳の差も忘れて
ドギマギしてしまいました。
そして、なぜか話はレーアの過去話へ。
初デートなのに鎧!?
一体、どういうことなのでしょうか?
次回もぜひ、ご期待ください☆




