44.小さな女神さまと母の想い
デメテルたちと日替わりデート決定!?
デメテル、フォル、そして、そこで酔っぱらって寝てしまった千秋。フォルの提案で、今度の連休にそれぞれとデートすることになった。約二名、誘っていない方々の返事が聞こえたけど、聞こえない振りをした方がいいのかな?
そう言えば、僕ってデートの経験が全くないんだよね。千秋となら何度も遊びに行ったり、ご飯食べたりしたことあるけどさ。あれもデートだったのかな……?起きたら千秋に聞いてみよっと。
そんなことをデメテルとフォルにちょっと話したら、デートに決まってるでしょう!?絶対、聞いちゃダメだぞ!?と、猛反論を食らってしまった。あれ、やっぱりデートだったのか。
「流星ったらお料理のことは天才的なのに、恋愛のことには鈍いのね!」
「アタシが思うに、千秋はずっと前から流星のこと好きだったと思うぞ?ただ、それを伝えられなかったってだけでさ。絶対、デートだと思ってるはずだから、さっきのこと聞いたらアタシが許さないからな!」
「わ、わかったよ。恋愛って難しいなぁ……」
二人の女神さまに気圧される形で頷く僕。
「神も人も恋する気持ちは同じなのね~。そうだわ!私とデートして女心を掴む練習を――」
「それはダメ~~っ!!」
「絶対!駄目ですっ!」
「あら~?やっぱり?だめなの?デメちゃんもフォルちゃんも厳しいのね~」
よよよ、と泣く真似をするレーアさま。
「お母様!!」
「はいはい、分かりました~」
「じゃあ、わたしならいい――」
「アルテミスも駄目だからな?」
諦めたレーアさまと入れ替わるようにして、すかさず名乗りを上げるアルテミス。だけど、すぐさまフォルに断られていた。
「え~~~っ!?わたしだって、お兄ちゃんとデートしたいのにぃ~!」
「これはアタシたちの将来を決める大事なデートなんだからな!大体、アルテミスにはまだデートなんて早いっての!アタシだってまだ、男と二人っきりで出掛けた事ないんだからな……」
「それにね、あなたは今夜、未来に帰らなきゃならないでしょう?だから、今回は諦めて頂戴」
確かにアルテミスは、今夜にはもう帰らなきゃいけないんだよな。デートっていうか僕と遊びたいってことなんだろうけど、こればっかりはなぁ。なんとかしてあげたいけどさ。
「あ……そう言えばそうだった。わたし、帰るんだっけ?すっかり忘れてた」
忘れてたんかい!
「ねぇ?アルテミスって具体的に何時頃、三年後に戻らなきゃいけないの?」
「う~んとね……何時だろ?こっち来た時の時間見なかったから分かんない」
「えぇ……そ、それじゃ、どうやって戻るの?」
「あのね、来た時間から二十四時間経つと自動的に能力が発動されるの。それで、また光の柱が出てくるからそこに入るんだよ~。もちろん、それより前に自分で発動して戻ることもできるけどね。今回はしないけど」
無邪気な笑顔でそう教えてくれるアルテミス。帰る時は自動でも手動(?)でもOKなのか。便利だな。
「流星、どうしたの?何か考えてるんじゃない?」
デメテルが少しだけ心配そうな顔つきで聞いてくる。
「あ、いや、別に変な事じゃないよ。ただ、いまってまだ二時過ぎでしょ?だから――」
壁にかかってる大きな時計を見ながら時間を確認する。もしも、デメテルやレーアさまが許してくれるなら――
「何時か分からないけど、もし、夜帰る時まで時間があるんだったら、僕はその……アルテミスと遊んでもいいかなって思ったんだ。せっかく三年後に来てくれたんだしさ。それに、千秋を連れてきてくれたお礼も兼ねて、と思って……」
「お兄ちゃん……!」
「待って、アルテミス。流星、気持ちは分かるわ。でも、今日はこのあと……ね?」
「そうだぜ、デメテルの家行くんだろ?まぁ、流星のそういう気持ちも大切だとは思うけどさ」
デメテルもフォルも一定の理解はしてくれたものの、渋った表情だ。そうだよな。それに、なんたってこのあとは夕方からレーアさまたちと話す予定だもん。やっぱり無理なのかな。
ごめんよ、アルテミス。お礼もしたいのに僕には何もできないのか。そんなことを考えて気持ちが沈んでいく。すると――
「九時二十七分よ~」
静かな、でも、ひと際優しい声が聞こえてきた。レーアさまだ。
「えっ?」
「神力の余波が届いたってことは話したわよね~。それが昨日の夕方なの。それから、余波を追跡・解析した結果、九時二十七分に時空間移動の予兆があることが分かったのよ。場所までは特定できなかったのだけれど。なので、アルテミスが戻る時間は、九時二十七分よ~。だから――」
驚く僕たちをニッコリと微笑みながら見渡し、なおも言葉を続ける彼女。
「その時間まではデートOKってこと。でも、最後にやっぱり顔が見たいから、その前に、そうね~……九時前には一旦、家に戻ってきて下さる~?」
「えっ……え?お母様、それって……」
「デメちゃん、いいじゃない?可愛い妹にたまには花を持たせてあげなさいな。大丈夫よ~。流星さんを盗られはしないわ~」
そう言って、上品に笑うレーアさま。
「よろしいんですか?でも、夕方にはご自宅にお伺いすることになってますが……?」
「あのね、そのことなんだけど、私もパパも昨日、寝てないのよ。今日も午前中、本当は早く帰ろうとしたんだけど、他の業務もあったりして中々、帰れなかったのよね~。だから、いま眠くてたまらないの。申し訳ないんだけど、お話はまたにして下さる~?本当にごめんなさいね~」
口元に手を当てて、タイミングよく欠伸をするレーアさま。きっと、アルテミスのことを思ってなんだろうな。ほんとにお優しい方だなぁ。
「お母様……そうね、それなら仕方ないですよね。お体の方が大事ですもの」
「あぁ、そういうこと……それなら、アタシも異存はありません。レーアさまに倒れられたら、それこそ天界の一大事ですから」
デメテルもフォルもレーアさまの意図を汲み取ってくれたみたいだね。言い終わった後、二人揃って僕にウィンクしてきた。
「分かりました。そういうことでしたら、ゆっくりお休みになって下さい。お話の機会はまた明日でもいつでも僕の方は大丈夫ですので」
「え?お姉様たち、どういうこと?わたし、お兄ちゃんとデートしてもいいの??」
あまり分かってなさそうなアルテミスが若干、困惑した表情でデメテルとフォルを見つめる。
「えぇ、そうよ?連休の日みたいに丸一日ってわけにはいかないけど、今夜帰るまでまだ、時間あるでしょ?あと六時間以上は遊べるわよ?」
妹を優しい眼差しで見つめ、頭をよしよしと撫でるデメテル。フォルも、良かったな、と声を掛けていた。流星を誘惑するんじゃないぞ、と釘も刺していたけど。誘惑って……アルテミスは(地球換算で)まだ10歳なんだから。
「ちゃんと、お母様にお礼を言うのよ?」
「うん!お母様、ありがとう!わ~いわ~い!やった~!!」
嬉しそうに笑うアルテミス。良かった。こんなに喜んでくれるなんて僕も嬉しいよ。レーアさまに感謝しなくちゃね。
「どこ行こっかな~!そ~だ!まず、可愛いお洋服に着替えなくっちゃ!それから、ん~っとね~……最後は決まってるんだけどなぁ。やっぱり、あの噴水広場は外せないもんね!最初はどうしようかな~?」
ははっ、可愛いな。デートプランを考えてくれるのかな?天界のデートって何するんだろう?さっぱり分からないや。アルテミスのプランがどんなものか興味もあるし、お任せしてみようかな。
「えっ!?ちょっと!あそこはまだあなたには早いわよ?考え直した方がいいんじゃない?ねぇ?フォル!?」
「そ、そうだな!あれは大人になってからするもんだぞ?」
「あれって?」
デメテルたち、どうしたんだろ?やけに慌ててるな。レーアさまは可笑しそうに僕たちを見つめてるけど、なんだろう?
「あのね、ほら、ここに来る時に通った噴水のあるところ覚えてる?」
「あぁ、あの彫刻が立派なところ……あれがなに?なんかマズいの?」
「流星、覚えてないのか!?デメテルと千秋が話してただろ?あそこのベンチは二人掛けって言っても――」
「スト~ップ~。フォルちゃん、ヒントはそこまでよ~。アルテミスもそういうことに興味がでてきたのかしらね。感慨深いわ~。ほら、デメちゃんもそんな顔しないの」
見ると、二人とも絶望とでも言うべき表情をしている。え?なんで??噴水と彫刻とベンチがあるだけなのに!?レーアさまはそんな二人を諭すように言葉を続けた。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ~。興味のあるお年頃なんだから。それに、流星さんはあなたたちが認めた方なんでしょう?だったら、もっと信じてあげなくちゃ。ね~?」
そんな彼女の言葉に、諦めたような、若干の悔しさも見て取れるような表情のデメテルとフォル。そんなに!?一体、どういうことなんだろう?疑問に思ってレーアさまを見ると、口元に人差し指を当て内緒のポーズをしていた。えぇ……。
困惑する僕や沈んでいるデメテルたちを余所に、喜ぶアルテミス.。そんな末娘を見つめ、顔を綻ばせるレーアさま。するとふいに目が合い、その穏やかな微笑みのまま僕を真っ直ぐに見つめてきた。
その時突然、頭に声が響いてくる。これは……通信?
「流星さん、聞こえますか~?あなたにだけ聞こえるように話してるのよ~」
レーアさま!?
「アルテミスはもっと幼い頃、体が他の子よりも小さかったせいで友達もできず、随分と寂しい思いをさせてしまいました。どうしてもっと、並みの体を与えて産んであげられなかったんだろう、と自分を責めたこともあります。その子がこうして元気に笑っている、初恋にも似た感情を抱くまでに成長している。こんな嬉しいことはありません。どうか、よろしくお願いしますね~」
話し終えると、彼女は瞳に涙を湛えていた。デメテルたちにバレないようにそっと涙を拭う。レーアさま……本当に大事に大事に育てられたのですね。アルテミスだけじゃなくて、それはデメテルにも同じことが言えるんだろうな。
今夜までとはいえ、アルテミスを。そして、将来の伴侶になるかもしれないデメテル。僕は二人のお嬢さんを託されたんだ。そう思うと、自然と椅子から立ち上がっていた。そして、姿勢を正し、深々とレーアさまにお辞儀をする。そうせずにはいられなかった。
「流星……?」
「どうした?」
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
そんな僕の行動を不思議に思ったらしい三人の女神さま。それぞれに疑問を口にしたが、僕はあえてそれに答えなかった。
「皆、いいのよ~。いまのは流星さんの決意の表れなんだから。ね?」
「はい!」
そう答え、レーアさまを真っ直ぐに見つめる。彼女も僕を見つめていた。それがなんだか嬉しかった。デメテルの恋人候補として認められたようで、そして、まだまだ子供のアルテミスを短時間とはいえ、任せてもいいと信頼されたようで。とても嬉しかった。
◇◇◇
「レーア様!お待たせしてしまって申し訳ございません。こちらをお渡し下さるようお願いできますか?」
あれからすぐ、ディオニュソスさまとアリアさんが揃って戻ってきた。手には何やら立派な木箱を持っており、それをレーアさまに渡している。
「はい、確かにお預かりしました。ありがとね~」
大事そうに抱え、手にした木箱をひとしきり眺めた後、丁寧に自分の亜空間へとしまう。
「それと、こちらはレーア様方でぜひ、お試し下さいね。先程、飲まれたのと同じブランデーとこちらはサクランボのブランデーですわ」
「まぁまぁ!ありがとね~。とっても嬉しいわ~。早速、パパと一緒に飲ませてもらうわね~」
アリアさんからお酒をもらったレーアさま、とっても嬉しそうだな。
「ディオニュソス、最初に渡してたあれってなんだ?」
「あぁ、大神帝様にお渡しする用のブランデーさ。レーア様から近々、取りに来るからって連絡は頂いてたので準備はしてたんだが、ちょっと手間取ってしまってね。それから――」
そこまで言って、亜空間からこれまた木箱を幾つか取り出しフォルとデメテルに渡すディオニュソスさま。
「こっちは君たち用の葡萄酒とブランデーさ。あんなに美味そうに飲んでくれてありがとう。嬉しかったよ。良かったら、お土産に持って帰ってくれないかい?流星くんと千秋ちゃんの分も入ってるから、分けてあげてくれよ?」
花が出そうな勢いでイケメンスマイルを繰り出すディオニュソスさま。
「おぉーーー!?いいのか!?やったーっ!お前、やっぱりいいヤツだなぁ!サンキュッ!」
「あら、私までいいの?ありがとう、嬉しいわ!」
嬉しくって仕方がないのか、ディオニュソスさまの背中をバンバン叩くフォル。そして、痛がりながらもどこか嬉しそうな彼の表情が印象的だった。
やっぱり、自分が一生懸命造ったもので喜んでもらえると嬉しいよね。僕だって昨日のオムライス、デメテルたちが凄く喜んでくれて嬉しかったもんな。
「あら、フォルちゃん、デメちゃん、良かったわね~。それにしても、全く困ったものだわ~。待ちきれないからって、こうして私に取りに来させるの。全く、あのジジ様ったら。まぁ、この別件であなたたちに会えたのだから良しとするわ~。こちらも頂いちゃったしね~」
ジジ様!?それって今の言い方からして、名前のことじゃないよね?ジジイってこと?大神帝さまにそんなこと言っていいの……!?あと、別件ってお酒を取りに来ることだったのか!
「お母様!またそのような呼び方をされて!失礼ですよ!?」
「レーア様!いくらお年を召した方とはいえ、大神帝様に向かってジジイだなんて!」
「……フォルちゃんも言うわね~?」
しまった!という表情のフォル。その隣で、あ~ぁといった感じで額に手を当てるデメテル。そして、顔が引きつりまくってるディオニュソスさま、クスクスと笑いを堪えてるレーアさま。アリアさんも苦笑いしてるよ。
「ねぇねぇ、お母様。この後、すぐにお兄ちゃんとデートしてきてもいいの?」
「まぁ!待ちきれないのね~?いいわよ~。でも、まずはご馳走になったのだから、皆でここを綺麗に片付けてからにしましょう?」
率先して食べ終わった後の食器を片付け始めるレーアさま。流石だな~!偉い神さまなんだろうけど、こういうところがホントに凄いや!デメテルもアルテミスも躾がきちんとしてるわけだよね。母親のこういう良い面をどんどん見てきたから、素直な良い子に育ったんだろうな。
「レーア様!?いけませんわ!お客様にそのようなことをして頂いては困ります!」
「レーア様、ここは私たちでやりますので!」
アリアさんもディオニュソスさまも大慌てで止めに入るも、涼しい顔のレーアさま。
「いいのよ~。こんなに美味しいものをたくさんご馳走になったんだもの。このくらいさせて下さいな」
「レーアさまはこういう方なんだと思いますよ。さぁ!皆で片付けましょう!あ、レーアさま、それ貰います。ディオニュソスさま、そこの洗い場使っていいですか?」
「デメテル、アタシらもやろう!」
「えぇ、そうね!アリアさん、机を拭く布ありますか?私、順番に拭いていきますね。アルテミス!千秋を起こしたらこっちを手伝って頂戴!」
「は~い、お姉様!」
「まぁ!……皆様、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね」
アリアさんが驚きつつも、深々とお辞儀をする。その顔は申し訳なさそうにしていたけど、同時に嬉しそうな表情だった。
「流星くん、ありがとう。君が皆から好かれる理由が分かったような気がするよ」
「いえ、当然のことをしたまでです。皆で食べたのですから、皆で片付ける。当たり前のことじゃないですか」
何もレストランで食べたわけじゃない。ディオニュソスさまたちのご好意によって頂いた食事だもんな。それに、全員でやった方が早く終わるしね。
「全く、君ってやつは……」
話し掛けながら僕と並んで洗い物をするディオニュソスさま。でも、僕からしたら神さまであるあなたが洗い物をしてる姿の方が、なんだか申し訳なく思っちゃいますけどね。
「アルちゃん?そういえば、あなた、お出掛け用の洋服はしまってあるの~?」
「うん!ちゃんとしまってるよ~?」
「なら、ここはもうママたちでやるからいいわよ~。どこか場所をお借りして、もう着替えてきちゃいなさい。デメちゃん、ちょっと手伝ってあげてくれる~?」
「はい、お母様!そうだわ、どうせなら髪もセットしてあげるわね!」
「デメテルさん、それなら丁度良い部屋がありますわ。そこを使って下さいな。ご案内しますね。アルちゃん、こっちよ。行きましょう?」
レーアさまの提案で、どうやらアルテミスがデート用の服に着替えてくるみたいだ。着替え終わるまでには洗い物を終わらせたいな。よし、頑張るぞ!気合いを入れた丁度その時、ディオニュソスさまと入れ違いで、新たな洗い物の食器を運んできたフォル。
「流星、ちゃんと可愛いって褒めてやるんだぞ?天界一可愛いってさ」
お得意の、にひひと悪戯好きそうな笑みを見せる彼女。
「天界一か……まぁ実際、アルテミスはそれくらい可愛いかも知れないね。でもさ――」
フォルの瞳をじっと見つめる。そして――
「一生懸命、片付けを頑張ってるいまのフォルも天界一可愛いと思うよ?」
「……ば、バカッ!!」
一瞬、何を言われたか分からなかったのか呆けていたが、次の瞬間、顔を真っ赤に染めて大声を出し、俯いてしまった。
本当にそう思っただけなんだけどな。怒らせちゃったかな……?
「……ありがとな、こんなアタシのことを。アタシ、流星を失いたくない。絶対に負けたくない。デメテルにも千秋にも……誰にも!」
フォルが何事かボソボソと呟いている。でも、あいにく、洗い物の音で何を言っているのかは聞き取れなかった。ただ、ちらっと見える彼女の翡翠のような綺麗な瞳が、まるで惚けたように艶かしく僕のことを見つめていた。僕にはそれがとても美しく、天界で一番綺麗だと思った。心からそう思った。
今回もご覧いただきありがとうございます。
お姉ちゃんたちのデート話を聞いて、
自分もとせがむ小さな女神アルテミス。
流星の優しさとレーアの機転で急遽、
アルテミスもデートすることに!?
一体、どこに出掛けるのか?どんなデートになるのか?
ぜひ、ご期待下さい☆
お楽しみに!(^^♪




