42.過ちと後悔
レーアの真意が分かってホッとする流星たち。
アルテミスはそんな彼らをよそにリラックス状態です。
レーアさま豹変の理由はなんと、僕たちを試してたんだって!?驚いたけど、それならそれで良かったよ。罰を受けるのはもちろん、覚悟の上だったけどね。でも、千秋やデメテルたちと一緒にいられなくなっちゃうのは、やっぱり悲しいもんな。
それにしても、アルテミスが破ったレーアさまとの約束って一体、何なんだろう……?『本当に必要な事情がある人のために使う』っていう条件に、千秋は該当してるみたいだったけど。
そのアルテミスはいつの間にか、ジュースを貰ってリラックスしてるし。今回って、その彼女が話の中心だと思うんだけどな。いくら自分の母親だからって、あの凄まじい神力を発してるレーアさまとの話を切り上げるそのタフな精神力!ほんと凄いな!?僕ならこの後、どうなっちゃうんだろう?ってビクビクしちゃうのに。
「お兄ちゃんたち~!お母様も早くこっち来て~!食べ物いっぱい、飲み物もいっぱいだよ~!」
ご機嫌な様子で僕たちを呼ぶアルテミスの声がする。
「アルテミス……あなたねぇ……」
「さすが、レーア様のご息女、いや、デメテルの妹だな。神経が図太いのは流石だよ」
「ちょっとフォル!それ、どういう意味よ!」
「あれー?ご自分ではお分かりになりませんかー?」
「な、なんですってぇ!?」
デメテルとフォルの喧嘩もなんだか久しぶりだな。さっきまでの恐怖と緊張とで張りつめてた空気が嘘みたいだ。
「ほらほら、二人とも!そんなことしてないで行こうよ。せっかくディオニュソスさまやアリアさんが用意して下さったんだしさ。千秋は先に行っちゃったよ?」
「流星さん、二人はとても仲が良いのよ~。ほっといても構わないから、先に行きましょうか。エスコートして下さる~?」
言うなり、スッと僕の腕に自分の腕を絡ませて組んでくるレーアさま。腕に当たるその豊満な果実の柔らかさといったら!な、なにこれ!?服の上からでも分かる極上のマスクメロンがすぐそこに!!
「あら~粗末なものを当ててしまってごめんなさいね~。デメちゃんに怒られちゃうわね~」
「い、いえ!粗末だなんてとんでもありません!最高級です!」
「あらあら~こんなおばさんにありがとね~。照れちゃうわ~」
そう言ってニコッと優しい笑みを浮かべるレーアさま。大人の余裕も相まってか、その上品な微笑みの美しいことこの上なし!ずっと見ていたいくらいだよ。
優雅さと艶やかさ、両方の魅力が全開の笑顔で僕をニコニコと見つめる彼女。どう見ても二十代にしか見えないその美貌と艶かしい表情に、僕はすっかり心を――
「ちょっと、待ったぁーーーっ!!」
「お母様っ!それだけはいくらなんでも譲れません!!」
唐突に聞こえる叫び声。驚いて振り向くと、フォルとデメテルが後ろから超々神速度で迫ってきていた。
「ふふっ、残念。バレちゃったわね~」
とっても可笑しそうに声を出して笑うレーアさま。
「お母様!酷いじゃありませんか!私の流星を盗らないでくださいっ!!」
「誰が、デメテルのだ!?アタシんでもあるんだからな!?レーア様、お戯れが過ぎます!もう!」
「あら~ごめんなさいね~。流星さんがあんまり可愛いものだから、悪戯しちゃったわ~。でも、安心して。あなたたちと千秋さんの流星さんだもんね~」
レーア様が悪戯な笑みを浮かべて僕たちを見回す。ほんと、この方には敵わないな。さすが、デメテルとアルテミスのお母さんだよ。
「流星ー!フォル、デメテルー!!レーア様もいらして下さーいっ!始まりますよー!!」
声のする方を見ると、千秋が手を大きく振りながらにこやかに叫んでいた。
「すぐ行くよ!」
そう返事をすると、僕はサッとレーア様の手を取り、行きましょう!と声を掛ける。
「えっ!あらあら、まぁ!ふふっ、そうね~」
「りゅ、流星!?」
「ちょっ!?えっ!マジで!?」
レーアさまは一瞬、驚きながらも手をしっかりと握り返してくれ、一緒に歩みを進めてくれた。あれ?悪戯のお返しをしたかったのに、あんまり効果がなかったかな??そう思っていると――
「もぅ、流星さんってば、驚いちゃったわ~。パパには内緒にしておくわね~」
小声でこそっとささやくレーアさま。彼女の思いがけない言葉に、思わず振り向くとお互い目が合う。その途端、なんだか急に可笑しくなっちゃって、二人して笑ってしまった。
デメテルとフォルはどうしたかなと後ろを見ると、先程の僕の行動が衝撃過ぎたのか固まってしまっていた。あちゃー。悪いことしちゃったかな?
「流星さん」
ふいに響く僕を呼ぶ声。振り返ると、レーアさまが少し真面目な顔をしていた。
「恋愛のことは口出し出来ないし、気持ちは強制できないわ~。神でも人でもそれは同じなの。母親としてはやっぱり、自分の娘を応援したいのだけれど。でも、娘のことだけじゃなくて、フォルちゃんと千秋さんのこともよく考えてあげてくださいね~」
「えぇ、もちろんです。レーアさまはもうお気付きかと思いますが、実はお嬢さんのデメテル、あと、フォルと千秋。この三人とお付き合いさせて頂いてるんです。後でご自宅にお邪魔した時にお父様にもきちんとお話しますが……僕は三人と遊びなんかで付き合ってはいません。真剣なんです。それに、僕だけが選ぶ立場でもないと思ってます。彼女たちからも選ばれるように努力していく所存です」
「……ありがとう、流星さん」
穏やかな声色でそう口にするレーア様。その微笑みはとても優しく美しかった。それこそ、天界一と思えるくらいに。でも、僕が好きな笑顔はやっぱり――
「レーアさま?失礼を承知で申し上げてよろしいでしょうか?」
レーアさまの手を離し、佇まいを正して彼女に向き直る。すると、彼女も何かを感じ取ったのか、やけに芝居がかった厳かな声で応じてくれた。
「申してみよ」
「はっ。恐れながら、レーアさまの笑顔はとても美しいと思います。天界の誰もが認める美しさでしょう。これ程までに美しい方は、僕……いえ、私の知る限り、見たことがありません」
「ほぅ。それで?」
僕もレーアさまもお互い、必死に耐えながら言葉を続ける。
「あ、失礼しました。訂正します。あなたの笑顔を超える素敵な笑顔を見たことがありました!」
「ほ、ほぅ。そ、それ、は誰、か?」
レーアさまの体がぷるぷるしだす。
「はっ!あなたのご息女、デメテルと運命の神さまであるフォル、そして――」
「そして?」
「あそこでつまみ食いをしてる千秋です」
僕の指差す方向をゆっくり振り向く彼女。
「くっ……んぐ。も、もう……だめ。限、界……」
「そう言えば、もう一人笑顔の素敵な方がいらっしゃいました!」
「そ……それ、は誰?ふっ……ふふ」
必死に何かに耐える様子のレーアさま。僕はそんな彼女に対して――
「千秋の隣でジュースを飲み干したアルテミスです!あ!いま、二杯目のお代わりを要求しています!」
止めの一撃を放った。その途端、巻き起こる笑い声。
「く、くく……あ、アルちゃん、も……なの、ね~……ぶふぅっ!」
体をくの字に曲げて笑うレーアさま。あ、笑いすぎて泣いてる。これで少しは悪戯のお返しできたかな?
「なんだなんだ!?どーしたんだ?レーア様!?」
「お母様がこんなに大笑いされるなんて……!流星ってば一体、何をしたの?」
ようやく固まりから立ち直った二人が追いつき、不思議そうに問いかける。
「ううん、ただ正直にデメテルとフォルの笑顔が可愛いって言っただけだよ?」
「まぁ!流星ってば、恥ずかしいわ……!」
「レーア様にそんなこと言ったのか!?恥ずかしいじゃんか!……嬉しいけど」
恥ずかしそうに顔を赤くする二人。
「でも、それでなんでこんなにレーア様は笑ってるんだ?」
「……なんでかしらね?」
「きっと、二人のことが大切だからじゃないかな?」
僕がそう言うも、頭にハテナマークを浮かばせ、えー?なんでなの?と彼女たちはしきりに口にしていた。
「さ、それよりも、レーアさまが落ち着いたら一緒に行こうよ。皆、お待ちかねだよ!」
「あ~おかしいわ~!笑うのを耐えるのってこんなに苦しいのね~!ふふっ、私より素敵な笑顔か……確かにそうね~」
ひとしきり笑ってスッキリした表情のレーアさま。デメテルとフォルを見つめ、満足そうに頷いていた。
◇◇◇
「お待たせしちゃって、ごめんなさいね~。ちょっと流星さんと楽しいお話をしてたの~」
「ディオニュソスさま、アリアさん、お待たせしてしまい申し訳ありません」
レーアさまに続いて頭を下げると、全然、構いませんわ、とアリアさん。
「先程は軽食がまだ全部、揃ってなかったんです。かえってお待たせせずに済んで良かったですよ」
ディオニュソスさまもイケメンスマイルでそう仰ってくれた。10人掛け程のテーブルの上には様々なお酒やジュース、沢山の料理が所狭しと並べられていた。
「皆様のお口に合うといいんですが。新作の料理もありますので、感想をぜひお聞かせ下さいね」
これ、アリアさん作ってくれたのか!凄いな!!
「は~い!わたし、アリアさんのお料理大好き~!」
「あら?アルテミス、アリアさんにお食事頂いたことあるの?他所で何か頂いた時はちゃんとお姉ちゃんに言わなきゃダメじゃないの!」
「なぁ、千秋。地球の飯ってさ、彩りが綺麗なのが多いんだろ?前に本で見たことあるんだ。アリアさんのもすっごく綺麗だよなー!」
「うん、確かにね!これは日本で食べてたご飯よりも断然、美味しそうかも!……あっ!もちろん、流星の作ってくれたご飯だって、とっても美味しかったからね!?」
「ははっ、ありがと。でも、僕だってこんなに彩り豊かな料理、そうは作れないかなぁ。後でレシピ教えてもらおうかな」
丁度そこへ、取り皿を配りにやってきたアリアさん。
「あら、流星さん。もちろん、よろしいですわよ?気に入って下さった料理があれば、お教えいたしますわ」
「ありがとうございます。どれも凄く美味しそうですね」
そう言うと、とても嬉しそうに微笑んで、ありがとうございます、と一礼する彼女。そして、また取り皿を配りにテーブルの反対側へと向かっていった。ん?いまちょっとスキップしてたような?料理を褒められて嬉しかったのかな。僕だって、作ったものを褒められるのは嬉しいもんね。
マカロニみたいな形のパスタにトマトらしきものを和えた料理、美味しそうな香りが漂う具沢山のスープ。そして、ちょっと大きめのマグカップがそれぞれの席に置いてあった。これなんだろ?触ってみると温かい。中にはちぎったパンと少し大きめのベーコン、それにこの緑のは……ほうれん草かな?それを卵でとじてあるみたいだ。地球でいうキッシュみたいなものかも知れないな。
「お母様たち、遅いんだもん。わたし、先にジュース飲んじゃった」
「アルテミス!あなたの話だったのよ?それなのに、あなたときたら……!」
「デメちゃん、落ち着いて。私も悪かったのよ。皆さん、本当にごめんなさいね~」
僕たち皆を見回し、丁寧に頭を下げるレーアさま。
「いえ!そんな!どうか顔をお上げ下さい。レーア様の凄まじい神力を久しぶりに間近で感じることができ、恐れ多くも大変、勉強になりました。神力は全ての能力の源、それは酒造りにも影響します。ボク、いえ、私もさらに精進して参ります」
「ディオニュソスのいう通りです。アタシも大変、勉強になりました。アリアさんにしてしまったような失態はもう二度といたしません。アタシもさらに神力を高め、業務に役立てられるよう邁進いたします」
ディオニュソスさまとフォルが椅子から立ち上がり、自分の成すべき目標をレーアさまに誓う。
「わたしはね~、次は『中』の能力を覚えられるように頑張ろっかな~」
椅子に座ったまま足をぷらんぷらんさせて、笑顔でそう話すアルテミス。『中』って確か、デメテルが前に話してくれたっけ。神さまの能力のレベルのことだったよね。『極小』『小』の次だったかな。
「アルちゃん?あなたはその前にママに言うことがあるでしょう?ママとの約束、忘れちゃった~?」
「え?だ、だって、千秋がお兄ちゃんに会いたいって気持ちはとっても真剣だったんだよ?だから――」
「ううん、そのことじゃないのよ~。それは凄く立派だったわ~。でもね、時空間移動をする時は、事前にママかパパに連絡すること。そう約束したはずでしょう……?」
話しながら少しずつ神力を高めていくレーアさま。えっ!またああなるの!?体中が重くなって動けなくなるさっきの様子を思い出し、僕は身震いした。
「大丈夫よ。いまはお母様からそんな気配はないわ。ちょっと叱ってるだけ。心配しないで」
隣に座るデメテルがそっと僕の手を握り、穏やかな口調で教えれくれた。怖くなった僕の心を感じ取ってくれたのかな?優しいな。
「そうなんだ?ありがとう」
そう伝えると、彼女はニッコリ笑って小さく頷いた。
「あ……!」
レーアさまの言葉に、しまったと言わんばかりの顔をするアルテミス。
「ね?思い出した?あなたの神力はね、同年代の子たちと比べても……いえ、恐らくだけど、デメちゃんたちと比べてもかなり上回ってるはずなのよ~?」
「え?そうなの?アルテミス、そんなに凄いんだ?」
デメテルとは反対側の僕の隣に座る千秋が驚いた表情で呟く。
「そうなのよ。天性の才能の塊なのよね。でも、まだまだ子供なんだから、危なっかしいのよ」
千秋の声を聞いたデメテルが、僕の代わりに答えてくれた。その表情はとても心配そうだ。しっかりお姉さんしてるね。偉いなぁ。
「そんなあなたが時空間移動なんて使ったらどのくらいの神力になると思うの~?隕石を落とす時とは訳が違うのよ~?一時的とはいえ、ママを超えちゃうんだから」
えぇっ!そ、そこまで凄いんだ!?あんな幼い顔して!?ジュースのお代わり貰ってて!?あと、隕石落としも相当、凄いことだと思います。
「連絡もなしにそんな力を使ったら、天界の皆、ビックリしちゃうでしょう?だから、必ず、ママやパパに事前に教えてねって約束したのよ?」
「お母様。もしかして、昨日の通信で仰ってた緊急の用件ってまさか……」
「そう。アルちゃんが何の連絡もなしにいきなり時空を超えてきちゃったでしょう?だから、天界の中枢部は大騒ぎよ。もう、あれには困っちゃったわ~」
そうだったのか。あの時の会話にはそんな背景があったんだね。
「アルちゃんが時空間移動する時って、神力があまりに大きすぎてその余波が前もって行先の時間軸に飛んでいくの。今回の場合は、アルちゃんから見たら過去に当たる現在の天界のことね。それで、昨日の夕方、その余波が来たんだけど、アルちゃんからは連絡ないしこの巨大な力はなんだ!?ってことになって……それからもう大変だったわ~。皆で必死になって調査したり、関係各所に連絡したり……もう少しで防衛配置まで多段展開するところだったのよ~?」
自分のしたことでこうなることを想像すらしていなかったのか、驚きの表情を浮かべるアルテミス。
「ご、ごめんな、さい……」
「済んでしまったことはもう仕方がないわ~。でもね、アルちゃん、一人前の神になるってことは、神力が高かったり能力を覚えて終わりじゃないの。周りのことを第一に考えられるようにしないといけないのよ~?分かる~?」
「……うん……」
「今回のことは、パパとママでなんとか大事にならないようにしたけど、次も上手く収められるとは限らないわ~」
レーアさまの話を聞いて、すっかりうなだれてしまったアルテミス。能力は凄くても、年齢的にはやっぱり地球の子と変わらないんだな。神さまも失敗したりしながら、少しずつ成長していくんだね。
「アルテミス、お母様の仰ること分かる?とても大切なことなのよ?でもね、お姉ちゃん、何があってもあなたの味方だからね?この先、何かどんな失敗をした時でも私にだけは教えて頂戴?きっと、力になるからね?」
「うん……お姉ちゃん、あり、がとう。ママ……ごめ、んなさい」
「今度から、気を付けましょうね~。さ、ママのそばへいらっしゃいな」
両手を広げるレーアさま。そして、駆け寄り抱き着くアルテミス。しばらくして、小さな泣き声が聞こえてきた。
「お姉ちゃんにママか……アルテミス、デメテルの真似をしたがるんだ。それでお母様、お姉様って呼ぶようになったんだけど、実際、無理してたのかも知れないな」
ポツリと呟くフォル。
「そうかも知れないね。日本で一緒に暮らしてた時も、絶対に成長してお姉様みたいな神になるんだ!ってよく口にしてたもん。頑張ってるのは分かるけど、あまり無理してほしくはないかな。」
千秋はアルテミスの頑張りを間近で見ていたからか、とっても優しい眼差しで彼女を見つめていた。神として成長しようと頑張ってる。ただ、今回は考えが少し足りなかっただけなんだと思う。
大丈夫だよ。きっと、将来、素敵な神さまになれる。だって、彼女の流す涙は単に叱られて泣くのとは違う、心からの後悔の涙なんだから。いまのその気持ちを忘れなければ、きっと素晴らしい神さまになれるよ。あんなに素敵で誇らしいお母さんとお姉さんがいるんだから!
アルテミスだけじゃなくて、僕も成長していかないとなぁ。フォルもディオニュソスさまも、きちんと自分の成すべきことが分かってる。
僕はとりあえず、自分ができることから始めるしかないかな。デメテルたちと一緒に、神さまの食事改善の策を考えなきゃね!精一杯、頑張ろう。アルテミスの自責の念がこもった泣き声を聞きながら、僕は心にそう誓った。
今回もご覧いただきありがとうございます。
時空間移動の際に、レーアへの連絡を失念してしまったアルテミス。
でも、こうやって失敗しながら成長していくのだと思います。
きっと、いつか彼女が素晴らしい神になれますように。
さて、次回はいよいよ、お酒の試飲パーティーの始まりです!
ご期待下さい☆




