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40.流星の決意

突如として変わったレーアの態度!その意味とは!?

 突如、ディオニュソスさまのワイン工房に来訪された、デメテルとアルテミスの母親であるレーアさま。アルテミスが彼女に駆け寄ろうとした時、それまでの和やかな雰囲気が一変した。レーアさまの神力が突然、跳ね上がったのだ。

 例えるなら、そう……それはまるで、噴火直前の荒ぶる活火山のごとく!大地を激しく震わせ地鳴りを響かせる、そんな世界の終末が始まるような圧倒的絶望感。


「おっ……お母様っ!?」


 レーアさまのあまりに激しく高まっていく神力。そんな様子に、デメテルが驚愕し叫ぶ。しかし――


()()()()、下がりなさい」


 さっきまでのデメちゃん呼びじゃなくなってる!?そいういえば、アルテミスのこともアルちゃんと呼んでいたのに。


「私がなぜ、ここにいるのか分からぬのか?大神帝様の命によって来ているのだぞ?私の言葉は、大神帝様の言葉と心得よ!」


 さっきまでの朗らかな口調は消え失せ、冷たい視線でデメテルを突き刺すレーアさま。僕と千秋、アリアさんと話していた時とはまるで、別人じゃないか!怒るとここまで変わるのか……!?まさしく、神の怒りそのものだ。

 母親の激烈神力(抗えない実力差)の前にどうすることもできず、その場で押し黙ってしまうデメテル。思わず彼女の手を握り締める。が、僕も為す術がなく、ただただ、レーアさまの凄まじい神力に気圧(けお)されていた。

 それにしても、アルテミスに言っていた()()()()()()()()ってなんだろう?


「さすが、レーア様だ。この圧倒的な神力の凄み!アタシも久々に感じたけど、身震いがするぜ……」

「全くだ。あの最高位の『極大(オメガ)』を発現させ、さらに高官の中でも中心に位置するお方だからな。星の大陸をも消滅させる実力は、天界でまず間違いなく3本の指に入るだろう。そんなお方の神力を跳ね返せる神はそうはいないさ」


 フォルも、そして、ディオニュソスさまでさえもレーアさまの凄まじい神力に顔が引きつり、身動きできないでいるようだ。そんな中、僕たちからやや離れ、自分の母親に程近い位置で立ち尽くすアルテミス。その表情は、レーアさまの急変に困惑しているようだった。


「アルテミスはもしかしたら、この状態のレーアさまを見るのは初めてなのかもしれないな……」

「デメテルとアルテミスのお母さん、なんだか凄いね!威厳そのものって感じじゃない?それはそうと、流星、大丈夫?皆もなんだか辛そうだけど、どうかしたの?」


 僕とデメテルがお互いに手を繋いでようやくその場に踏みとどまっているというのに、千秋はのほほんとした感じだ。


「え?千秋……動けるの??」

「どういう意味?」


 そう言って、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねてみせる千秋。


「ね?」


 ニコッと可愛らしく微笑み小首をかしげるその様子は、普段の千秋そのものだった。


「お母様から何か感じない?もの凄い神力なの……私たち、それで体が思うように動かないのよ」

「そうなの?私、特に何にも感じないよ?アルテミスを怒ってるのは分かるけど……」


 何も感じない?一体、どういうことだろう?そういえば、アリアさんも涼しい顔してるな。ちっとも気にしてないみたいだ。あの顔は苦しいというより、アルテミスのことを心配してるって表情だもんな。


「アルテミスが怒られるのって、もしかしたら、私のせいかも知れないんだよね……」


 千秋がポツリと呟く。


「え?どういうこと?」

「どうして、千秋のせいなの?教えて頂戴」

「うん……私とアルテミスって3年前から来たじゃない?その時に教えてくれたんだ。過去に行く能力を使う時の条件みたいなものがあって、それをお母さんと約束したんだって。それはね『自分のためじゃなくて、本当に必要な事情を抱えてる大切な誰かのために使うこと』って言ってた。それでね――」


 本当に必要な事情か……それって状況や人によってかなり違ってくるだろうな。一概に決めるのは難しいかも。


「私、どうしても流星に会いたくて、それこそ一生日本に戻れなくてもいいからって、アルテミスにお願いしたんだよね。それで、お母さん――レーア様が怒ってるのかも知れない。私がわがまま言ったせいで……」


 そう話す千秋の瞳には涙が浮かんでいた。天界に来たことを後悔してるのかも知れない。千秋は昔からそうだった。自分のことより他人のために涙を流せる優しさがある子だもんな。

 でも、そんな彼女がたった一つ、それも心から願ったことがわがままなんだろうか?そんなに罪なんだろうか?僕にはとてもそうは思えなかった。


「千秋の気持ちはとっても嬉しかったよ。天界まで来てくれて本当にありがとう。僕に会いに来たことが罪だっていうのなら、僕だって同罪だよ?」


 千秋の潤んだ瞳を見つめる。すると、千秋も僕をじっと見つめ、一瞬だけハッとしたような顔をした。どうやら、僕の思ってることを読み取ったみたいだ。僕たちはお互いに小さく頷きあって微笑んだ。


「流星、千秋……何をするつもりなの?」


 不安そうなデメテルが僕たちを見やる。3人の視線が交わった時、千秋が弾んだ声でこう言った。自分にできることをするだけだよ、と――


「行こう!」

「行きましょ!」


 僕と千秋は同時に決意を口に出すと、デメテルの手をそっと離した。そして、戸惑いの表情を浮かべているまだ幼さの残る女神さまの元へと、揃って歩みを進めた。


◇◇◇


「レーア様、どうかお待ち下さい!」

「僕たちの話を聞いて下さい!」


 アルテミスを庇うようにして、レーアさまとの間に立ちはだかる僕と千秋。


「流星!千秋!?」

「おい!何をする気だ……!?」


 後ろからデメテルとフォルの悲鳴にも近い叫び声が飛んでくる。僕はそんな2人に振り向いて、大丈夫だよと軽く手を振る。そして、隣に立つ千秋を見た。すぐに目が合い、お互いに微笑む。

 不思議だなぁ。千秋と一緒にいると、さっきまであんなに感じていた圧が薄れていくみたいだ。ゲームならきっと、ラスボスに対峙してる場面だろうね。レベル1でさ。それでも、怖さは全くなかった。思いの丈をぶつけるんだ!今の僕には、そのことしか頭になかった。


「お兄ちゃん……千秋……」


 不安げな声で僕たちを見上げるアルテミス。その小さな手で僕たち2人の服の裾をぎゅっと握りしめる可愛らしい女神さま。大事な大事な僕たちの仲間。


「大丈夫だからね?」

「アルテミス、いつも助けてくれてありがとね。今度は私が……ううん、私たちが助ける番だよ。お母さんともまた、すぐ仲良しに戻してあげるね」


 小さな女神さまと目線を合わせてしゃがみ、優しく話しかける千秋。彼女が側にいてくれる。それだけで、勇気が湧いてくるようだよ。そんな思いを胸に、僕はレーアさまに真っ直ぐ向き直った。


「流星さん、千秋さん、如何なされたのですか?もしや、母である私と我が子、アルテミスとのことで何かご意見でも……?」


 丁寧な言葉の中にも他者の干渉を許さない、そんな強烈な圧が込められていた。それでも、引き下がるわけにはいかない!アルテミスは僕たちのために行動を起こしてくれたんだ。なら、今度は僕たちが行動を起こさなくちゃ!


「アルテミスが能力を使ったのは、僕たちのためなんです!どうか話を聞いて下さいっ!」

「お願いします!」


 必死に頭を下げる僕と千秋。


「…………」


 しばしの間、沈黙するレーアさま。固唾を飲んで事の成り行きを見守るデメテルたち。凛と張り詰める空気がこの場を支配する。誰も動かない。いや、動けなかった。

 そして――


「分かりました。お伺いしましょう」


 ハッとして僕たちは顔を上げ、再度、頭を下げる。


「「ありがとうございます!!」」


 やった!とりあえずは第一関門突破だ。頭を下げながら千秋が、やったね!と笑顔でアイコンタクトをしてくる。僕も素早く瞬きし、頷いた。


「あなた方はアルテミスの能力をご存知のようですね?」

「はい、アルテミスちゃん。いえ、アルテミスが時を超える能力を使ってくれたお陰で、いま私はこうしてここにいます。彼に……流星に会いたいと強く願ったのを聞き入れてくれたんです」

「千秋は僕のために天界にまで来てくれたんです。もし、そのことが――」

「本当に分かっているのでしょうか……?」


 僕の言葉を遮って、レーアさまの静かな、それでいて重々しく力強い声が響き渡る。


「……どういうことでしょうか?条件のことなら知ってますけど」


 訝しげな表情の千秋が溢れ出る負の感情を隠そうともせず、棘のある言葉をレーアさまにぶつける。


「時空間を移動するということは、並大抵の力ではありません。悠久ともいえる長い天界の歴史上でも、これまで誰一人として発現したことのない能力なのですよ?現大神帝様は歴代随一の神力をお持ちの方ですが、そんな方をもってしても時空間移動は不可能なのです。これがどういうことかお分かりですか?」


 まるで、地獄の底から漏れ出すような暗く低い声。その声には殺気にも似たようなものを感じる。それでも気丈に立ち向かおうとする千秋。彼女が一歩踏み出そうとしたその時――


()()()()()だということです」


 レーア様の言葉に、動きをピタリと止める千秋。


「安易に発動したアルテミ(その子)スには罰を与えねばなりません。今後は私が能力を管理しなければ……彼女ごとね」


 そう冷たく言い放ち、視線を僕たちの後ろ(おそらくアルテミス)へ向けるレーアさま。


「管理……だと……!?」


 心の中で何かが爆発しそうだ。管理!?それが神の言う事か!親の言う事か!?


「ふざけ――」

「ふざけんじゃないわよ!!管理!?冗談じゃないよ!アルテミスは物じゃないんだよ!?それに――」


 僕がキレるよりも早く、千秋がぶちキレた。


「あなた、約束したんでしょう?それで、アルテミスはそれを守った!それの何がいけないのよ!?私の願いは単なるわがままだって言いたいわけ!?それならそれでいーわよ!だったら、罰せられるのはアルテミスじゃないっ!無理やり頼んだこの私よ!!」

「レーアさま!千秋は僕に会うために天界まで来てくれました!死んで魂となっても、それでも会いたいと願ってくれたんです!僕はとっても嬉しかった!それがそんなに罪なことでしょうか!?もし、千秋の願いが……再会の喜びが能力を使う条件にかすりもしないというのであれば、事の発端であるこの僕を罰して下さい!!それから――」


 そこまで一気に言って、一呼吸入れる。ちらりと後ろにいるアルテミスを見ると、目を丸くしていた。きっと、僕たちのあまりの剣幕に驚いちゃったんだろうな。でも、言うべきことは言わないとね。言わずに有耶無耶にされちゃったんじゃ、後悔しちゃうもんな。


「いくら神でも我が子を管理するなんて、なんて言い草だ!アルテミスに謝れ!アルテミスは……あなたの所有物じゃない……!!」


 最後の方は興奮しすぎて僕も千秋も思いっきり、神さまに対する口の利き方じゃなかったな。けど、言いたいことは言ったんだ!これでも心が通じないというのなら、その時は仕方がないよ。デメテルたちには悪いけど、もう天界にはいられそうもないな。レーアさまに逆らった罰として地獄にでも落とされるのかな。でも、もし、そうなったとしても、千秋とアルテミスだけは何とか助けなくちゃ!


「ほぉ……私に謝れと?良いでしょう。流星さん?もし、あなたが千秋さんやアルテミスの分も1人で罰を受けるというのであれば、さっきのは発言は取り消しましょう。そして、これまで通り、アルテミスは何不自由なく暮らせることを約束しますよ?もちろん、千秋さんの生活も保障しましょう」


 ……っ!?なんだよ、それ!ほんとにラスボス戦が始まる前の最後の問いみたいじゃないか!僕はただの村人で武器も魔法も使えないってのにさ。

 でも、心だけは負けるもんか!何の取り柄もない僕だけど、せめて大切な人たちは守りたい。いや、守ってみせる!


「そんなの考えるまでもない!答えは――」


 彼女の突き刺すような視線にひるむもんかと、精一杯の勇気を振り絞り言葉を発しようとしたその時――


「流星いぃぃ~~~~~っっ!!ダメえぇ~~~っっ!!」

「勝手な事やってんなよな!?レーア様に歯向かうなんて何やってんだよ!?早く謝れ!!」


 デメテルとフォルがもの凄い速さでぶっ飛んでくる。2人とも真っ青な顔をし、加えてデメテルは涙でその頬を濡らしていた。


「流星!お母様はね、普段は優しいけど、躾や仕事ではとっても厳しいのよ!?罰を1人で被るなんて本当に魂が消滅してしまうわ!!」

「そうだぜ、流星!頼むから謝ってくれよ!これはいつものおふざけじゃないぞ!?本気(マジ)で言ってるんだ!」

「そうだよ、流星!1人でなんてダメだよ!?私も一緒に罰を受けるんだから!私だって本気度・改(マジ・アンリミテッド)だってーの!」

「千秋!お前はちょっと黙ってろっ!!」

「千秋は黙ってて!!」


 デメテル、フォル、そして、千秋。皆が僕を心配してくれている。なんて幸せ者なんだろう。こんな素敵な彼女たちを守れるなら、僕は喜んでこの(いのち)を捧げるよ。


「デメテル、フォル、千秋。ありがとうね。こんなに僕のこと大切に想ってくれて。でも、僕だって皆が大事だよ?だから、僕に守らせてよ?ね?僕はレーアさまの言葉を信じるよ。だって、大好きなデメテルやアルテミスのお母さんだもん。嘘を言うわけがないよ。僕だけが罰を受ければ、それで元通りになるんだから」

「ちょっと、お兄ちゃん!さっきから何言ってるの!?能力を使ったのはわたしだよ?罰を受けなきゃいけないのはわたしなんだから!」


 突然、響く幼い声。声のする方を見ると、小さな女神さまが腕組みのポーズをして仁王立ちしていた。


「アルテミス、殊勝な心掛けに母は嬉しく思うぞ?何か申し開きはあるか?」


 レーアさまの威厳のある声がアルテミスに投げかけられる。


「あのね、わたし、千秋のためにこの力を使いたいと思ったの!だから、後悔なんてしてないよ?それに、お母様との約束は守ったと思ってるもん!千秋はわたしのと~~~っても大切なお友達なんだから!力になってあげたいって思うのは当たり前でしょ?」


 レーアさまの威圧感もなんのその。すっかり自分を取り戻したアルテミスはいつもの明るい口調でハキハキと答える。加えて、僕たちに向かってピースサインまでしてきた。すっごい余裕だな!?さすが、天界史上唯一の時空間移動能力者だ。


「そうか。それがアルテミ(そなた)スの答えなのだな?」

「うん!わたしだって本気度・改(マジ・アンリミテッド)だよ~!」


 元気よく言い放つアルテミス。ところで、その『マジ・アンリミテッド』ってなんだろ?さっき、千秋も言ってなかった??僕が死んだ後、日本ではそんなのが流行り出したのかな?


「お母様!お待ち下さい!お願いです!お願い――」

「レーア様!こいつらにはアタシたちがきっと、言い聞かせます!だから――」


 涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら懇願するデメテルとフォル。そんな彼女たちにレーアさまは――


()()()()()()()()()()()、お下がりなさいな」 


今回もご覧いただきありがとうございます。

レーアと流星たちのぶつかり合いはいかがでしたでしょうか?

流星と千秋はアルテミスを守るため。

そして、デメテルとフォルはそんな流星と千秋(もちろん、アルテミスも)を

守るために、レーアの前にやってきました。


次回、レーアの真意が明かされる!?

ご期待下さい☆☆☆

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