4.驚きの能力
ようやく、神さまたちの能力のお話です。
僕のことを死なせてしまった自己嫌悪に陥って、涙を流して謝る女神さま。僕が死んじゃったことはもう覆しようのない事実なんだし、実際、そこまで遺恨もない。ただ、漠然とこの先どうなるんだろう?という不安はあるけどね。
今はそれよりも、デメテルさまへの感謝の方が大きいかな。僕の魂が消滅しかけたところをわざわざ、天界のルールを破ってまで救ってくれたんだもん。本当に心の優しい神さまだよね。真の美しさってきっと、彼女みたいな神さまのことを言うんじゃないかな。
もしも、デメテルさまのために僕なんかが何か出来るんだったら、どんなことでもしたいな。神さま達のような素晴らしい力は何もないし、治してもらったこの体くらいしかないけど……。
あるとしたら、パン作りの知識くらいかな。でも、ここではあんまり関係なさそうだけどね。デメテルさまを笑顔にするためだったら、僕は……。
「ありがとね、流星君。あなたの気持ち、とっても嬉しいわ。神なのに人一人救えなかった不甲斐ない私を責めてもいいのに……優しいのね。私もね、流星君のために何かしてあげたかったの。後先考えずに、天界に呼んじゃったけど……」
泣きはらした目を背けながら、恥ずかしそうに話すデメテルさま。お、泣き止んだみたいだね。泣き顔も綺麗だな。
「もうっ……恥ずかしいこと思わないでよ」
「え?……あ!?」
そ、そうだった!心の声を感じ取れるんだった!!泣き顔も綺麗だなんて不謹慎なこと思っちゃったよ。あれ?……ってことは、背中をさすってた間に思ってたことって、もしかして、全部筒抜け……!?
「えぇ、ぜ~んぶね!聞こえちゃったわ。だって、流星君ったらかなり強い力で発信してたわよ?でも……流星君の気持ち、温かかったわ。とても嬉しかった。本当にありがとう。ねぇ、もうちょっとだけこのままでいてもいい?」
そう言うと、ピタッと体を寄せてきた。ふわっと甘美な香りが舞い上がり、心地よい柔らかさが体に伝わってきた。
「あ……ぅ……僕で良ければ、ど、どうぞ」
「ふふっ、ありがと。照れちゃうけど……ありがとね」
デメテルさまは、安心したかのように目を閉じて僕にくっついている。こんな僕でも少しは役に立ったのかな。
「流星君、パンを作れることだってとっても素晴らしい能力よ?私はパンどころか料理もまともにできないもの……凄いことなんだからね?だから――」
ゆっくりと僕から離れ、まだ涙の残る瞳で彼女は真っ直ぐに見つめてきた。
「『僕なんか』って、あまり自分を卑下しないで。お願いよ。私は流星君のことを悪く言う人は、例え、流星君自身でもイヤなの……」
「さっきの僕の心の声、ほんとに全部聞こえてたんですね。分かりました……もう自分のことを悪く思うのはやめます」
なんたって、女神さまからのお願いだからね。聞かない訳にはいかないよ。もっと自分に自信を持とう。自分のために。
そして、デメテルさまのためにも。
「それから、デメテルさまのために何かしたいって気持ちは本当ですから。もし、僕に出来ることがあれば、なんでも言ってください」
僕がそう言うや否や、彼女はパッと顔を上げ、その綺麗な瞳を輝かせて微笑んだ。
「言ったわね?言質取ったわよ!?それだったら、早速、お願いしたいことがあるの!良いかしら?さっき背中をさすってくれてた時、一瞬、敬語じゃなくなったでしょう?あれ、そのまま続けてくれないかしら!?敬語はやめてほしいのよ」
えぇっ!!?いや……それは、ちょっと……問題ありなのでは??
「あ、あの時はなんとか泣き止んでほしくて、咄嗟にというか……つい、あやすような感じになっちゃったんです……すみません」
「いいのよ。それに謝ってほしいんじゃないんだから、ね?……じゃあ、こうしない?今、私たちがいるこの空間って、実は私が作ったプライベート空間なのよ。だから、他の神たちからは一切、中の様子を見ることができないし、声も他の誰にも聞こえないわ」
そう言われて、改めてぐるっと辺りを見回す。天井も壁も床も白一色の不思議な空間だ。ソファとテーブルだけがあって僕たちがいる。なんともシュールな感じだな。
「ここには、私と流星君しかいないの。それなら、敬語じゃなくてもいいじゃない?あと、『さま』もいらないわ。名前だけで呼んでほしいな」
「あの……でも、他の神さまがいらっしゃらなくても、デメテルさまは女神さまですし、恐れ多いというか……」
とんでもないこと頼まれちゃったよ。神さま相手にタメ語って……処刑されそう。
「……ダメかしら?」
そのうるうるした上目遣いはダメだって!破壊力抜群すぎるから!!
「……せ~の……うわ~んっ!!りゅうせいくんが嘘ついた~~~っっっ!!!え~~ん!!」
いま、「せ~の」って言った!?これ、ウソ泣きか!?……ボク、ワケワカンナイヨ。
「あ~……負けました。僕の負けです。分かりましたから、泣き止んでください」
「あら?あらら?やった~!ありがとう!じゃ、私も『流星』って呼ぶから、絶対に『デメテル』って呼んでね?なんだかとってもワクワクするわね」
ものすっごいキラッキラな笑顔だ。やはりウソ泣きか。綺麗だけど、性格が少しめんどく……んんっ!!
……まあ、何でもするって言っちゃったしな。神さまがいいならいいのかな。
「……え~と、よ、よろしくね?で、デメテル」
「!?……えぇ!こちらこそ!!これからもっと仲良くなりましょ~ね、流星!」
女神さまとタメ語か……生きてる頃は、神さまに会うことすら考えたこともなかったのに。天界に来てからなんだか驚くことばっかりだよ。
もし、他の神さまとお会いすることがあったら、気をつけなきゃ。
「あ、そうだわ!流星、確か、亜空間が使えたらいいなって言ってたわよね?」
「え?あ~……そ、そういえば、あると便利そうだなって言いまし、言った、よ?」
なんだか緊張するな。タメ語。千秋となら普通に話せるのに。
「大丈夫?だんだん慣れてくるわ。それでね、流星が私のお願い聞いてくれたから、今度は私が流星のお願いを聞いてあげたいの!」
「僕のお願い……?」
「ええ、そうよ。ちょっと待っててね。こうして……これをこっちに移して……と。今度はこっちを……このくらいの大きさならいいかな」
瞬時に呼び出した光の中に手を突っ込んで何やらごそごそしてるけど、何やってるんだろ……?
「出来たわ!流星、さ、こっちにいらっしゃい!」
とびっきりの笑顔で僕を呼んでる……行くべきか、行かざるべきか!……行くしかないよね。
「準備はいいかしら?いくわよ~?【私を近くに感じてね】!」
呪文のようなものを唱えると、デメテルの体が微かに光り始めた。そして、僕の体を引き寄せて……額にキスをした。
「……!??」
なんだろ、この感覚……?どう表現したらいいかよく分からないけど、デメテルの優しい感じが体に流れ込んでくるみたいだ。
「えへへ……どう?びっくりさせちゃった?」
「う、うん。まあ……いきなり、その……おでこにキス、されて、驚いちゃったよ」
「え?あ、そ、そうよね。ごめんなさい、考えてみたらそうよね。……イヤだったかしら?」
「ううん!!全然、そんなことないよ!ちょっと驚いたけど、その、僕もデメテルと仲良くなりたいし、嬉しかったよ」
「うふふっ、良かった。なんだか照れちゃうわね」
あ~びっくりした……!キスもそうだし、あの流れ込んできた感じは一体??
「さっき、唱えてた呪文?みたいなものは何?それに、キスされた時、体の中に何か流れ込んできたような感覚があったんだけど……」
「あのね、あれは私の能力の一部を流星と共有したの。その時に、私の力が流星の中に流れていったのよ。亜空間を使いたがってたでしょう?だから、私の亜空間を少し、流星専用に分けたの。だから、これからは自由に使っていいわよ!」
エッヘン!と聞こえてきそうなくらい得意気な表情のデメテル。
えええええっっっ!!!亜空間を……僕に!?
「通販サイトはさすがに共有できなかったけど、私が買ったものなら流星のところに移せるからね!」
「い、いいの?すごく嬉しいよ!で、でも、また、天界のルールを破ることになってない?大丈夫!?僕のせいでデメテルの立場が危うくなったら……」
「それなら、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。でも、問題ないわ。だって、大事な妹を助けてくれた恩人に亜空間をプレゼントしちゃいけないってルールなんてないもの」
すっごいドヤ顔。ドヤ顔もなんであんなに綺麗なんだろ。
「そ、そうなんだ?それならいいんだけど……ありがとう、デメテル。なんだかデメテルがすぐ側にいるような感じがするよ」
「そういう能力だもの。流星にだけ特別よ」
この温かい感覚、なんだかすごく心地良いな。デメテルは気安く接してくれてるけど、やっぱり凄い神さまなんだよね。
「うん、凄く嬉しい。ありがとう。デメテルの柔らかくて優しい感じが近くに感じられて心地良いよ」
「そんなに言わないで……恥ずかしいわ。あ、それでね、もう一つプレゼントが用意できるというか、また、私からのお願いになっちゃうんだけど……」
……?なんだろ?すごくソワソワしてる。手もモジモジさせてるし、なんだか可愛さが溢れてるよ。ずっと見てられるな。
「あのね、良かったら、このまま天界にいてくれないかしら……?もし、いてくれるなら部屋もちゃんと用意するわ……流星がここにいてくれたら、私、すごく嬉しいな」
「え!?……僕、ここにいてもいいの……??」
「うん……ほんとはダメなんだけど、過去に一度だけあなたと同じような事があったのよ。なんらかの理由で魂を天界に連れてきて、体を与えた例があるんですって。そのことを知ってたから、あの時、咄嗟に同じことをしたのよ」
「そうだったんだ。で、その魂の人は今もここにいるの??」
「ううん、分からないの。かなり古い話だし、先々代の神たちの時代のことらしくて。他の星に転生したとも言われているわ。でも、一時は天界で暮らしてたらしいの。それは確かよ」
その人、何者なんだろう?やっぱり僕と一緒で魂が消滅しちゃうところだったのかな……。
「そっか……もし……もしも、僕もここにいていいなら、デメテルと一緒がいいな。せっかく仲良くなり始めたのに、離れ離れは寂しいよ……」
「本当!?本当にそう思ってくれてるの?……ありがとう!はぁ、良かった~っ!私、断られたら寝込んじゃうところだったわ」
「はは……そんな大袈裟な。他に行く当てもないしね。それに、デメテルと一緒にいられるんだったら最高だよ!僕」
「ありがとう~!流星!嬉しい!他の神になんと言われようと、私が絶対、あなたを守るからね!?」
ギュッと抱き着いてくるデメテルがなんだかとっても可愛らしい。よかった、しばらくは一緒に過ごせそうだ。いまは不思議と女神さまって感じがしないな。普通の女の子みたいに思えるよ。
「デメテルが守ってくれるなら百人力だね!でも、僕だって守るからね?僕なりにその……デメテルのこと大切にしたいって思ってるからさ」
「も、もうっ……そんな風に言われると照れちゃうじゃない」
頬に手を当てて恥ずかしがる彼女は、目が合うと更に顔を赤くし俯いた。くぅ~っ、テレ顔もなんて可愛いんだ!
「あはは、ご、ごめん。あ、そ、そうだ!他の神さまはどんな能力を持ってるの?」
「あ、そうよね、その話をしようとしてたんだったわよね。え~っとね、神たちの能力は基本、タブレットを見れば載ってるのよ」
じゃーん!!と声に出して、タブレットを天にかざすデメテル。
「例えばなんだけど、さっき、少しだけ海の神の話をしたじゃない?でね、同期のお母さまに、テティスさまっていう偉大な神がいらっしゃるのよ!」
声がもの凄くウキウキしてる。デメテルってテンション上がると、身振り手振りがおっきくなるんだな。なんだか微笑ましいというか……聞いてるこっちまで楽しくなるよ。
「その方の能力は凄いわよ!?【母なる海より愛を込めて】っていうんだけど、その星の海、栄養満タンにして丸ごと元気にしちゃうんだから!」
へぇ~!!神さまって同期とかいるんだね!?あと、親御さんもいるんだね、やっぱり。
「そのテティスさまって、とっても素敵な力をお持ちなんだね。慈愛に満ちてて優しそうな感じがするよ」
「そうなのよ!私も小さい頃、よく相手をしてもらったわ。とってもお優しい方よ。私、大好きなの!」
昔を思い出しているのかな。デメテル、とっても優しい顔してるね。
「あとはね、私のお母様も凄いわよ~!大地を司る神で、最高ランクの能力を幾つか持ってるの!最高ランクって開花させるの、とっても難しいのよ?」
デメテル、さっきよりテンション更に上がってない?お母さん、大好きなんだね。
「それにね、開花出来たとしても普通は1つだけなのよ。お母様は、と~っても優れた神なんだから!」
まるで、自分の事のように上機嫌で語る彼女は、人差し指を立てて誇らしげにポーズをとった。
「その最高の能力の1つがこれよ!【大地神、渾身の一撃】!」
え、やば……なにそれ?
「そ、それはどんな能力なの……?」
「これはね、星の大陸が消滅する程の破壊力をもって、悪しき存在を滅するのよ!」
えぇ……こわっ……それ、天界最強じゃない?僕、消されたりしないよね?……ね?
読んで下さり、ありがとうございます。
今回、2日連続の投稿となりました。
次回は、デメテルと家族についてのお話です。