36.お酒の神さまの能力
ディオニュソスの能力が明らかに!?
ひょんなことから知り合った、お酒を司るディオニュソスさま。その方と一緒に酒蔵まで行く途中、恋愛の話題になり、そこから僕が3人と真剣交際してることを話すことに。例の魂の女性に惚れているらしいディオニュソスさまから、恋愛の秘訣を教えてくれと頼まれてしまった。
僕、別に何にも特別な事はしてないんだけどな……でも、まず、そのお相手のことを知らないとアドバイスも何もないよね。
「ディオニュソスさま?その魂の女性はどんな方なんですか?先程、武道の心得があるとのお話でしたが……」
「そうだね、なんて言えばいいかな……そうだ!彼女がアルテミスちゃんと一緒に過去に飛んでしまった話は知ってるかい?」
「えぇ、もちろんよ!とは言っても、私たちも今日の午前中に知ったばかりなんだけどね」
「それで、迷惑かけた詫びも兼ねて挨拶しようってことになって、お前んとこに行くとこだったのさ」
ディオニュソスさまの質問に、2人の女神さまたちが反応して答えてくれ、ついで、千秋が続き――
「そうそう!それでさっきの広場で休憩してる時に、ディオニュソス様にお会いしたんです」
「その時に、お兄ちゃんが天界のご飯をおいしくしてくれるって話をしてたんだよ」
アルテミスも言葉を繋いで説明してくれた。
「そうだったのか。それはわざわざ、どうもありがとう。彼女もきっと、喜ぶと思うよ。そういえば、アルテミスちゃんはついこないだ来たばっかりじゃなかったかい?まぁ、何度だって来てくれて構わないんだけどさ」
「うん。でも、いまのわたしは未来のわたしだから、3年振りなの」
えへっと笑うアルテミスの頭をゆっくりと撫でながら、あぁ、そうだったね、と優しく返すディオニュソスさま。
男の僕から見たってこんなに穏やかな表情されたら、心が休まるような感覚になっちゃうよ。イケメンで優しいディオニュソスさまなら、大抵の女性はとっくに惚れてると思うんだけどな。恋愛って難しいや。
「それで、彼女なんだけど、生まれた星では『唯一無二』という総合格闘技の達人だったらしいんだ。それが、とある事故で亡くなってしまったんだけど、突発的なものだったらしくて――」
「彼女の本来の寿命ではなかったんだな?」
ディオニュソスさまの言葉に、フォルが聞き返す。その通り、と頷くディオニュソスさまに対し、尚もフォルが言葉を続けた。
「だとすると、アタシら迷子の魂の保護担当が早急に保護できなかったことになるな……やっぱり、来て良かったぜ。これはアタシも謝らなきゃな……」
若干、トーンを落として話す彼女。
「彼女はそこまで気にしてないみたいだったけど?過去の天界でアルテミスちゃんと離れ離れになってしまって、初めは焦ったと言ってたな。でも、良い経験ができたとも話してたんだ。だから――」
「それでもさ!アタシらとしては職務怠慢と同じだ。これはアタシのケジメでもあるんだ。どうか、彼女に謝らせてくれ」
ディオニュソスさまの言葉にも、頑として首を横に振るフォル。彼女なりの責任を感じてるのかな。普段、おちゃらけた感じのあるフォルだけど、こういうとこは真面目なんだね。
僕はなんだか心に温かいものを感じた。それはディオニュソスさまも同じだったみたいだ。その表情を見ると、スッキリとした笑顔でとても優しい眼差しをしていた。
「フッ……君のそういう真面目なところ、変わらないな。好きにするといいよ。最も、彼女なら笑って水に流すだろうけどね」
でた!イケメンスマ~イルッ!後ろに色とりどりの花まで見えちゃったよ。さっすが、イケメン成分は凄いな!?その花が重力に従って落ちていく幻覚まで見せるとは……!!
「わっ!今の見た!?ディオニュソス様のバックに花がたくさん咲いてるよ!?」
あれ?千秋にも見えるの……?
「ちょっと、ディオニュソス!気を付けなさいよね!こんなに散らかしちゃって!」
デメテルが怒りながら、道に落ちた花を拾い集める。えっ……!?
「あ、あれ……?そ、その花っていまどこから落ちてきたの……?
なんだか頭が混乱してきちゃった。ディオニュソスさまのバックに花が見えたと思ったら、落ちたんだけど……?それって幻覚じゃ……ない!?
「あ!まだお兄ちゃんと千秋には話してなかったんだっけ?あのね、ディオニュソスさんは笑うと、後ろに本物のお花が出てくるの。それでね――」
なんですと!?
「出てくるお花の種類なんだけど、その時の気持ちの高ぶりとかで決まるんだって!」
楽しそうに教えてくれるアルテミス。そして、花屋さんができるね!とちょっとズレたことを言う千秋。原価ゼロだから丸儲けだね!とまで言っているのが聞こえる。原価は……そうだね、ゼロだよね。でも、千秋?そんなキャラだっけ?この3年で逞しく成長したってことなのかな?
「まだそれ、コントロールできないのか?」
若干、からかうような声でディオニュソスさまをつつくフォル。
「実は……そうなんだ。気を抜くと今みたいに花が出てしまってね……」
「ディオニュソスさま?あの……今のって能力なんですか?」
悲し気なディオニュソスさまに追い打ちをかけるみたいで申し訳ないど、好奇心が勝って聞いてしまった。
「ん?あ、あぁ……そうなんだよ。しかも、これ……生まれつきの能力なんだ」
「「え~っ!?」」
あまりの衝撃に僕と千秋の声がハモる。
「ほら、全部、拾ったわよ!これ、ちゃんと持って帰りなさいよね?」
花束になるほどの花を拾い集めたデメテル。ディオニュソスさまに渡しついでに文句を言うも、その顔は本気では怒ってないようだった。
「す、すまないね……気を付けてはいたんだが、フォルが昔と同じで何でも真面目に取り組む姿勢が嬉しくてさ。力を抑えるのが間に合わなかったんだ」
「そういうところは神アカ時代から変わってないのな。ま、でも、だいぶマシにはなったんじゃないか?さっきだって、一度、条件満たしてたみたいだけど、花でてなかったじゃないか」
さすがに可哀想だと思ったのか、今度はフォルも優しい声色だった。
「昔に比べたらね。でも、やっぱり、ふとした時に発現してしまってよく彼女に怒られてるよ」
「条件ってなんですか?」
千秋がすかさず、質問をする。聞きたいことをためらわずにすぐ聞ける性格って得だよね。千秋のそういうところ、ほんと凄いよ。
「大したことじゃないさ。ただ、体を楽にしつつ気持ちを高めて『フッ』って笑うだけさ。そうすると、こうなるんだ」
そう言って、また、フッっと笑う彼の背後に1本の赤いバラが現れ、次の瞬間には足元に落ちてきた。
「へぇ!凄い能力ですねー!」
「そ、そうかい?そんなこと言われたの初めてだよ。でも、ありがとう」
「ねぇ、ディオニュソスさん?そのお花の能力の名前、お兄ちゃんたちに教えてあげて?」
あ、そうか!能力だから名前があるんだ?
「いや、でも、こんな役に立たない能力名なんて知っても――」
「いえ!ぜひ、聞かせて下さい!」
「私も聞きたいです!それに、どんな力だって授かったからには素晴らしいものに違いないと思います。使い方次第では凄く可能性のある能力だと思いますよ?」
千秋、凄いな。僕はただ、ディオニュソスさまに元気になって欲しいっていう気持ちからだった。でも、千秋は能力の可能性にまで言及するなんて!本当に大人に成長したんだね。僕と同い年になってるはずだけど、千秋の方がずっと大人だな。
「あら?私もそれ聞きたいわ。いつか聞こうと思ってるうちにクラスが別々になっちゃったりして、結局、聞けなかったのよね」
「アタシは前に聞いたけど、忘れちまったな。悪いけど、もっかい教えてくれ」
デメテルもフォルも興味津々といった様子だ。もちろん、僕と千秋も。
「は~い、それじゃ、みんな、ディオニュソスさんにご注目ください!」
アルテミスが司会の人みたいになってるね。でも、面白いからそのままやってもらおう。
「みんな、拍手の用意はいいですか?」
「「「「おーっ!」」」」
声が綺麗に揃う。こういう時、僕たちの団結力って凄いな!もっと他のことで活かせればいいんだろうけどね。
「じゃ、ディオニュソスさん。ちょっと……」
アルテミスがなにやら耳打ちして、ごにょごにょ言ってる。何伝えてるんだろう?
「それじあ、お願いしま~す!」
僕たちに注目されてるからか、やや緊張気味な面持ちのディオニュソスさま。
「では……ボクの生まれ持ったこの力!一度笑えば花が舞い、二度目には咲き乱れ、三度の微笑み、春の錦が訪れる!これがボクの能力!【笑う門には百花繚乱】さ!」
どこかで聞いたことのあるような完璧な演劇口調と振付けだった。最高の笑顔でやり切った感を醸し出すディオニュソスさま。そして、うんうんと満足げなアルテミス。
一瞬の間をおいて、一斉に拍手が巻き起こった。
「良かったわよ~!ディオニュソス!」
「やるなぁ!アルテミスの差し金か!?前に教えたかいがあったぜ!」
……っ!?どうりで聞いたことがあると思ったよ。これ、フォルの演劇口調とそっくりだもんね!アルテミスに教えてたんだ?この子もそういうの好きそうだもんな。
「ディオニュソス様ー!最高でーす!」
千秋も目に涙を浮かべて拍手してる。良かった。これでディオニュソスさまも少しは落ち込んだ気分を解消してくれたかな?
「あ……あ、ありがとう!ありがとう~~っ!!」
ははっ、あんなに嬉しそうな表情で笑ってる。本当に良かったなぁ。僕たちは惜しみない拍手を送り、彼を讃えた。
「本当にありがとう~っ!自分の能力をこんなに温かく受け入れてくれるなんて!ボクは……ボクは!感謝と感動で胸がいっぱいだよ!!」
あっ!泣き始めちゃった。そんなに喜んでくれるなんて、なんだか僕まで感動して涙が出てきちゃうな。
「皆、ボクの感謝の気持ちを受け取ってくれぇ~~っ!!」
「「「「「えっ!?」」」」」
感極まったディオニュソスさまがとんでもないことを言いだした。その途端、彼以外の全員が目を丸くして驚愕する。
「おいっ!まさか……!?」
「ディオニュソス様、やめ――」
「ちょっと!一体、誰が片付けると――」
「だ、ダメだってば!ディオニュソスさん!」
皆が口々に止めようとするも時すでに遅し。神さまらしく神々しさ120%、倍率ドン!さらに倍!?の笑顔が炸裂する。
「フッッッ!!!」
次の瞬間、辺りが一斉に優しい光に包まれ、なんとも穏やかな空間になる。そして……空中の至る所、まさに目に見える空間全部から様々な花が次々と現れる。赤やピンク系のバラから青や紫、瑠璃色といったアネモネや紫陽花にもよく似た花々。そして、カスミソウのような白くて小さい、とても可愛らしい花までありとあらゆる色と種類の花が一面に咲き乱れた。
まさに百花繚乱とはこのことを言うんだな。僕は今まで見た、どんな美しい景色よりも美しいこの最上の景色に見とれていた。他の皆も呆けたように動きを止め、見とれているようだった。その時――
「また、こんなに散らかして!!一体、どういうおつもりですの!?ディオ様!!」
突然、よく通る声が辺りに響き渡る。驚いて声のする方向を見ると、そこには――
「今日という今日は許しませんわよ!?押忍っ!!」
もの凄い押忍オーラを発しながら、とんでもないスピードでこっちに向かってくる1人の女性。
「……っ!?ま、待って――」
「いえ、待ちませんわ!」
怯えるディオニュソスさまの背後を一瞬でとったその女性は軽々と、彼を……空中へと投げ飛ばした。悲鳴を上げる余裕もないのか、沈黙のまま空中浮遊。
そして――
「あら、皆様、ごきげんよう。はしたない姿をお見せしてしまって申し訳ありません」
くるりと僕たちの方を向きながら、愛くるしいまでの笑顔を見せる女性。そして、瑠璃色が鮮やかなスカートの両端を摘み、ゆっくりと持ち上げる優雅なカーテシーを披露する。それと同時に、ディオニュソスさまが地面へと落ちてきた。なんだか決して聞いちゃいけない凄い轟音に包まれて……。
今回もご覧いただき、本当にありがとうございました。
ディオニュソスには意外な能力がありましたね!
お酒を造る能力とは全く、関係ないみたいです(笑)
果たして、千秋の言うように使い道の可能性があるのでしょうか?
そして、最後に登場した女性の正体は!?
ぜひ、次回もご覧くださいね!☆




