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34.女神さまの懇願!

デメテルたちが流星に頼み事があるようです。

その内容とは……?

 炒めた野菜を少し加えた改良版ホットドッグ(と言う程のものでもないけど)。アルテミスはそれを本当に美味しそうに食べてくれた。笑顔が見られて良かったよ。


 そういえば、串焼きや今のホットドッグで気付いたことがあるんだ。それは、天界(この世界)の食べ物って僕からすると、少し残念な部分があるように思うんだよね。肉が不揃いで焼き加減にムラがあったり、ホットドッグもパン自体が少しボソボソしてたり、ケチャップもマスタードもなかったりさ。デメテルの言うように、調理法がそんなに発達してないのかも知れないな。素材はすごく良いものだと思うんだけどね。

 例えばだけど、調理のコツを教えたり日本で使ってるような調味料を使えたら良いかも?もっと味に幅や深みがでて美味しくなるんじゃないかな。


「あ~!おいしかった!お兄ちゃん、ありがとう!わたし、こんなにおいしいの食べられて幸せ~!」


 アルテミスがすっごく嬉しそうにお礼を口にする。


「喜んでくれて良かったよ。でも、大したことはしてなくて、ただ少し炒めた野菜を足しただけなんだけどね」

「いや、それでも確かに美味かったぜ?ここいらで売ってるものよりはるかにな!」

「そうね。明らかな差があったように感じるわ。あの玉ネギだってすっごく綺麗な色だったし、甘みもあって最高だったわよ!」


 2人のお姉さん女神さまも絶賛してくれた。嬉しいけど、ほんとにそんな特別な事はしてないんだけどな。


「そんなに褒められると照れちゃうよ」

「あら、いーじゃない!自信もっていいと思うよ?流星だからできたんだから。ね?」


 僕の頬を人差し指でつんつんしながら、千秋がそんなことを言ってくれた。


「そ、そうかなぁ?だって、知ってれば誰にだって――」

「わたしもお兄ちゃんのほっぺ触りたいな~」


 言いかけた言葉に被せるようにして、小さい女神さまがそんなことを言うと――


「んじゃ、アタシも」


 フォルもアルテミスの後に続き、つんつんしてきた。なんだこれ?


「いよいよ、最後は大本命の私の出番ってわけね!」

 

 まるで、日本海の荒波をバックにドッパーン!と効果音が聞こえてきそうな迫力で、腰に手を当てポーズをとるデメテル。そして、ドヤ顔とマスクメロンとマスクメロン(合計2つ)。そのままノリノリで、頬つんつんに参加してきた。


「まぁ!柔らかいのね~!」


 ふふっと幸せそうに微笑む豊穣の女神さま。ホントに嬉しそうな表情だな。そんな顔されると、なんだか僕まで嬉しくなっちゃうよ!……このシュールな状況でさえなければね。

 だって、3人の女神さまに千秋で4人でしょ?それが各々、交代でほっぺをつんつんだよ?1人のつんつんする時間は大したことないかも知れないけど、僕はずっとつんつん連打されてるわけ。どうなってんのこれ!?


「あ、あの~……そろそろいい?さっきの話の続きを……」


 僕の言葉に皆から一斉に、え~っ!!と不満げな声が上げる。


「え~っ!!じゃありません!話がちっとも進まないでしょ!もう、ほっぺつつくの禁止だからね!」

「流星、そんなこと言うなよー。ほら、アタシのも触らせてやるからさ。もっと柔らかいと・こ・ろ!」


 ……っ!?ど、どどど、どこを!?もっと柔らかいところって……まさか!?


「流星、鼻の下のびてるわよ?」


 千秋のツッコミが入ったけど、それどころじゃない!柔らかいところの方が大事だっ!


「フォル、柔らか――」

「じゃ、話の続きすんぞー!」


 言いかけて僕の言葉は、フォルにかき消された。えっ……?


「え~と、どこからだったかしら?」

「わたしたちは力をほとんど星の管理のために割り振ってるから、お料理があまりできないってところからだよ?」

「おー!そうだったそうだった。サンキュな!アルテミス」

「流星、どうしたの?さっきの続き、始まるみたいだよ?」


 フォルの、話の続きすんぞーの声に、ピタッと動きを止め座りなおす面々。さらに、何事もなかったかのように()()()()()()()をスルーしてるし。

 一体、どうなってんの!?そんなキョトンとする僕の耳に、微かな呟きが聞こえてきた。


「あんなに喜んじゃってさ。なんだ、やっぱアタシのこと意識してんじゃんか」


 聞こえた方を見ると、フォルと一瞬目が合う。けど、すぐに逸らされてしまった。ほんのりと頬が染まってる。フォルも恥ずかしかったのかな?そう思ったけど、言うと怒られそうだから心に仕舞っておいた。それと……意識してるに決まってるよ。それも、心の中だけに留めた。


◇◇◇


「さて、飲食店、つまり、地球で言うところのレストランがなぜ天界(ここ)にはないか?それはだな――」

「それは?」


 千秋が興味津々といった感じでフォルに聞き返す。


「今まで必要とされてこなかったからさ。食事は大抵、天使たちの店で買って帰るか、家でごく簡単なものを作ってたんだ。例えば、スープとかさ。それに買ってきたパンとで済ませたりな。それで良かったんだよ。もちろん、神だって食事に興味はあるし美味いものを食いたいぜ?今までは天界(ここ)の食事内容で良かったんだ……今まではな」


 今までは?


「だけど、ほんの少しずつだが下界の発展した料理に慣れてきて、天界(ここ)の食べ物じゃ満足できない神が出てきたんだ」

「そうすると、神もストレスが溜まったりして、一時期、星を管理する能力にまで影響が出始めちゃったことがあったのよ。それで――」


 フォルの話に神妙な面持ちでデメテルが言葉を繋げる。


「なんとか解決しようということになって、私たちに役が回ってきたの」

「私たちって……デメテルとフォルのこと?」

「あ、ううん。流星、そうじゃないの。フォルはただ、相談に乗ってくれてるのよ。メンバーは私の他に何人かの神で構成されてるわ」

「問題なのは食事を改善しようにも、例え、店をやろうにも、神には客が満足するような料理を作る知識も技術もないってことだな」


 そう話すフォルは空を仰ぎ、その表情は半ば諦めているようにも見えた。


「さっき言ってた、星を管理する能力に全振りしてるからってこと?」


 僕の言葉に、千秋も続いて――


「知識も技術もないから、料理をすること自体に元々、そんなに興味もないってのが普通ってことなのね?」


 そういや、さっき、デメテルが言ってたもんな。食べることに興味はあっても、作ることには興味はないって。


「そう、そういうことだ。その代わり、アタシたち神は星の管理をする。それは他のどんな存在にもできないことだからな。たぶん、そういう風に割り切って作られてるんだろうな。誰が神々(アタシたち)を作ったか知らないけどさ」


 驚いた。神さまって僕たち人間とホントに同じなんだね。初めから存在してたわけじゃないんだな。フォルの言葉に、アルテミスもビックリしたみたいだ。ただ、彼女は僕とは違う捉え方をしたみたいだった。


「フォル姉様!わたしたちって誰かに作られたの!?」

「ん?あーいや、その言葉は適切じゃなかったな。作られたっていうか、()()()()だな。人と同じさ。人だって別に、アタシらが研究して作ったわけじゃないだろ?自然の進化の過程で生まれてきたんだ」

「ふ~ん……?」


 フォルの言葉に、いまいちな様子のアルテミス。そんな彼女にデメテルが言葉を付け加える。


「いい?神だって天使だって、何らかの要因があってこの世界に生まれたのよ?最初の神や天使がどうやって生まれたかはまだ、解明されてないんだけどね」


 神さまの世界もそうなのか!


「地球でも最初の生命はどうやって生まれたのか、大昔から研究はされてるよ。でも、人間もそれから今の話だと神様だって、人工的な存在じゃないみたいだから安心してね?」


 千秋がアルテミスの頭を撫でながら、優しく微笑んだ。


「アミノ酸みたいな有機物が関係してるとか、海底火山の熱が生命誕生のエネルギーになったんじゃないかとも言われてはいるんだけどね」

「流星、詳しいな?そういう方面に知識があるとはなんか意外だな」

「大学の講義でたまたま『環境地球学』っていうのがあってさ。面白そうだから受けたことがあるんだ。ただ、それだけだよ」


 フォルの言葉に、少し照れながら僕は答えた。


「そうなんだ~!でも、良かった!わたしやお兄ちゃんたちが誰かに作られたものじゃなくて!」

「どうして?」


 アルテミスの言葉に千秋が反応する。


「だって、もし、誰かに作られたとしたら、楽しいとかおいしいっていう気持ちも誰かに作られたものってことになっちゃうでしょ?そんなの悲しいもん」

「不思議な事思うのねぇ、あなたって。でも、素敵ね」

「そういう考え方もアリだと思うぜ?この気持ちは自分だけのもの。他の誰のせいでもなく、自分でそう感じて自分で決める。それって結構、重要なことだもんな」


 アルテミスの考えに、お姉さん女神さまたちも優しく微笑んで賛同した。そうだね。自分の気持ちは自分が作り出したもの。だから、一生懸命考えるし、その気持ちに沿ってする自分の行動には責任が伴わなきゃいけないんだ。

 僕は、この小さなまだあどけない女神さまに大切なことを教わったような気がした。


「あ!ねぇねぇ!思ったんだけど、神様がムリなら天使様たちに改善策のお店をやってもらったらどう!?」

 

 千秋が凄いこと閃いちゃった!みたいなキラッキラな瞳で叫ぶ。ん~どうだろな。あの調理品の完成度を見ると……。


「いや、それもダメなんだ……」


 フォルの若干、沈んだ声にデメテルが言葉を続ける。


「あのね、天使は元々、広い意味の日常生活の中で、神が苦手な事やできない事をやってくれるのよ。例えば、街を作ったりお店をやったりね。そういうことができる種族として誕生したらしいの。恐らくだけど、私たち神と一緒で進化の過程でそうなったんでしょうね」

「神さまは星の管理、天使さまは日常の管理なんだね?」


 僕の言葉にデメテルもフォルも大きく頷いた。


「なら、なおさら――」

「千秋の言いたいことは分かってる。日常のことが得意なら料理だってできるはず、そう言いたいんだろ?」


 黙って頷く千秋。


「天使たちは確かに()()()さ。でもな、さっき食べて分かったように、地球レベルには程遠いのさ。それに、彼らには神々(アタシたち)の仕事をサポートするっていう役目もあるんだ。天使という種族全体としてそっちにも能力を割り振ってるから、今のこの状態がたぶん、神のサポートと日常の管理、両方こなすのにバランスが良いんだと思う」

「天使さまも日常のことだけじゃないんだね?言い方悪くなっちゃうけど、日常の管理、とりわけ料理に関する能力は神さまより高いけど、地球よりは下。でも、それが精一杯ってこと?」

「流星の言う通りね……」

「だな……ま、アタシやレーア様みたいに、料理に興味があって出来る神もいるにはいるんだけどさ。店をやったりする数には程遠いんだ。そもそも、そういう神は星の管理の仕事が忙しいしな。ただ、神だって天使だって、進化の過程で能力のバランスが今の状態に落ち着いてるが、きちんと教えればきっと料理も上手くなるはずなんだけどさ……」


 はぁ……と、ため息をつく女神さまたち。


「それでさ、流星に大事な頼みがあるんだ」

「え?」

「実は……私たちを助けて欲しいの。流星に天界に戻ってき(【新生】し)た神の口にも合うような料理を考えて欲しいのよ。さっきのホットドッグの変わりようは本当に素晴らしかったわ!お願い!」


 えぇ~~っ!?


「僕は単に日本の家庭料理がちょっとできるだけで、そんなの無理だよ!」

「あら、そんなことないよ!流星、料理とっても上手だもん。料理を考えるってより、日本でいつも食べてたのを教えてあげたらいいなんじゃない?材料だって調味料だって通販で買えるんでしょ?パスタとかピザとか色々あるし!」


 千秋が身を乗り出し、もの凄い勢いで賛成してきた。


「で、でも――」

「それに思うんだけど、流星がずっと、付きっきりでやるわけじゃないと思う。さっき言ってたじゃない?調理法の落差が激しいって。だったら、その調理法を教えてあげたらどう?」

「それなら、なんとかできそうだけど……僕が知ってるのなんて主婦の人なら大抵、知ってることだよ?例えば、さっきの玉ネギを飴色にするには、油でコーティングして焼いて炒めるとか、しょっぱすぎる魚の干物の塩分を抜くには、真水よりも適度な塩水でやると程よく塩抜き出来て旨味成分も逃がさない、とかさ」


 僕の知ってる知識なんて、特別なものじゃなくて昔から使われてるものばかりなんだけどな。そう思い、やっぱり自信ないし断ろうと思ってると――


「す、凄い!流星、ほんっと凄いな!?そういう知識が欲しかったんだ!それをぜひ、天界(アタシたち)に教えてくれないか!?」

「流星、私からもお願いよ!上に掛け合ってお店をやってくれそうな天使は募集かけるわ。だから、流星の力を貸してちょうだい!お願い!」


 必死に頭を下げるフォルとデメテル。そんな彼女たちを目の当たりにして、僕の心は揺らいでいた。


「お兄ちゃん……」

「アルテミス……?」


 何か言いたそうなアルテミス。


「どうしたの?」

「アルテミス、何かあるなら遠慮なく言っていいんだよ?」


 僕と千秋の言葉に小さく頷くと、彼女はおずおずと口を開いた。


「さっきのホットドッグ、ほんとにおいしかったよ。お兄ちゃんからしたら何でもないことなのかも知れない。でも、わたしにとってはもの凄いことだったの。上手く言えないけど、暗かった心に色が付いたみたいだった。それくらい、暗くてしょんぼりした気持ちが明るくなったんだ」


 アルテミス……。


「わたし、今夜には未来に戻っちゃうけど、もし、お兄ちゃんがお店作りのお手伝いしてくれるなら……きっと、きっと3年後にわたしもお手伝いする!約束する!だから、みんなの心にも色を付けてあげて欲しいな」

「アルテミス……いつの間にか成長したのね。流星、私、お料理苦手だけど頑張って覚えるわ。だから……」

「アタシだってもちろん、一緒にやるぜ?それに、デメテルには【料理は基本と愛情と】っていう打って付けの能力があるしな!」


 デメテル、フォル……。


「流星、どう?何も1人で全部、抱え込まなきゃいけない話じゃないからね?私も一緒にやるよ?」


 千秋が僕の手を取る。その手は優しく僕を包み込み、まるで勇気が湧いてくるようだった。


「分かったよ。やる。僕、やってみるよ。どこまでできるか分からないし、本当に僕の知識が役に立つか分からないけど……でも、皆にこんなに頼まれたんじゃ、やるしかないよね!」

「えっ……流星……ありがとう~~っ!!」

「流星、ありがとな。本当にありがとう。これで天界(この世界)も変われるな」


 涙ぐんで真っ先に抱き着いてくるデメテル。ついで、寄り添うようにピタッとくっつくフォル。


「お兄ちゃんはやっぱり、お兄ちゃんだ!頼りになるね!お兄ちゃんも()()()()()()()()()()()()()、『神恋(かみこい)』の()()()()()()()()()()()の男の人とは違うね!」


 アルテミスが心底、尊敬してます!って瞳で見つめてくる。は、はは……け、結構、辛辣なこと言うね。そ、そんなことないよ?僕、()()()()()にそこまで興味ないこともないけど、あ、ううん、ない……よ。


「嘘はダメよ?」


 頬を染めながら釘を刺すデメテル。


「……っ!?」


 そうだった!心が読めるんだっけ!?そんなに強く思ってたかな。


「流星、私もいるからね?ずっと一緒にいるから……頑張ろ?」

「ありがとう、千秋。うん、僕、やってみるよ!」


 神さまたちの食文化を変えると言ったら大袈裟だけど、新しい食事とか店で食べるというスタイルを受け入れてもらえるように頑張らなきゃ。僕だけでなんとかなるようなものじゃないし、皆と協力してやれば、きっと上手くいく。そんな希望が僕の心に明かりを灯した。


「す、素晴らしい!なんて、素晴らしいんだっ!!いや~感動したよ!君は何て言う神なんだい!?」


 ん?誰だろう?いつの間にか、すぐ近くのベンチに座っていた人物が声を掛けてきた。


「え?」

「誰だれ?」


 僕と千秋が同時に声を上げる。


「あら、久しぶりじゃない!でも、どうしてここにいるのよ?」

「あっ!いたのか!?これから丁度、お前んとこに行こうとしてたんだぜ」


 ついで、デメテルとフォルが見知ったように声を掛ける。そして、最後にアルテミスが――


「押忍!ディオニュソスさん!」

「おぉ、アルテミスちゃん!押忍!あれ?でも、確か君、転生してるはずじゃなかったかい?」


 お酒の神さま!?お、押忍って!?

今回もご覧いただき、ありがとうございました。

時間が取れず、更新が遅くなり申し訳ありません。


流星が天界の食事事情の改善に乗り出すことになったようです。

そして、いつの間にか近くにいたお酒の神様、ディオニュソス!

押忍とは!?


次回もご期待下さい☆

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