30.いざ、神さまたちの街へ
いよいよ、神様たちの街へ出発します!
幼い頃のアルテミスが意図せず、過去へ飛んでしまった。その時に、偶然一緒に行ってしまった迷子の魂が、今はお酒の神さまの所にいるんだって!?
そんな情報をアルテミスが話してくれた。僕たちはデメテルとフォルの提案により、その魂に挨拶しに行くことに(フォルはお酒の種類が増えた秘密を探ることの方がメインみたいだけど)。
早速、神さまたちの街へ出発だ!
◇◇◇
フォルの家は小高い丘の上にあるため、神さまたちの街は道中遠くにずっと見えていた。それがだんだんと近づくにつれ、その荘厳ともいえる街並みが姿を現し始める。
レンガ造りのようにも見える建物の数々。高い塔もいくつか建っており、大きくて立派な時計塔も見える。そして、大きな通りにはたくさんの店が立ち並び、数多くの神さまや天使さまたちで賑わっていた。通りの先に少しだけ頭を出して見えるのは噴水かな?
「ここがデメテルたちの住む街なんだね!?うわぁっ!すっごく大きな通り!」
初めての光景に思わず、声を上げてしまった。
「お客人!ようこそ、我らの街『天上の都』へ!」
フォルがお得意(?)の演劇口調でこちらを振り向き、恭しくお辞儀をする。
「どーだ!圧巻だろ?流星たちの世界ともちょっと雰囲気が違うんじゃないか?」
「そうだね!ここは街ってよりもう都市だね!?ここに着いた途端、神聖な雰囲気が凄くて驚いちゃった!それに、なんだかお祭りみたいな熱気やワクワクするような楽しさも感じるね。こんな素敵な場所に来られるなんて大感激だよ!」
ここはまるで聖域に来たような、神秘的で心が安らぐようなものを感じる。喧騒でさえも騒々しくなく、むしろ、どこか落ち着くような温かな気持ちになれた。
「私、昨日の夜、少しだけアルテミスと来たんだけど、昼間来ると全然、雰囲気が違うんだねー!夜は賑やかさが少し控えめな感じだったけど」
「ふふっ、気に入ってくれたみたいね?良かったわ、流星や千秋が喜んでくれて」
デメテルも楽しそうだ。はしゃぐ僕と千秋を微笑ましそうに見つめていた。
「千秋なんてね、昨日、初めて見る天使さんたちに興奮しっぱなしだったんだよ!?」
「だってぇ!仕方ないじゃない?生まれて初めての天使様だよ!?神様は日本で嫌と言うほど、アルテミスを見てたしさ。ちっとも神様らしくなかったんだけどね。それに比べて、見てよ!あの天使様!フカフカで触ったら気持ちよさそうな羽!素敵じゃなーい!?」
「……千秋、いまわたしのこと、けなしてなかった?」
麗らかな春のような陽気なのに、ここだけ若干、周囲より気温が低くなっていく感じがする。
「あ~……きっと、千秋はアルテミスのことをそれだけ身近に感じてたんじゃない?僕だって、もし、アルテミスみたいな可愛い女の子がそばで献身的に支えてくれたら、大好きになっちゃうよ!」
また揉め事にならないように、僕は慌てて千秋の言葉を捻じ曲げてアルテミスに説明した。全く、千秋ってば。もうちょっと言葉を選んで話さないと。
ダメだよ、と軽く注意するつもりで千秋を見つめる。そんな彼女は、なーに?と嬉しそうに僕の方へ寄ってきて腕を絡ませてきた……ちっとも意図が伝わってない。
「お兄ちゃん、ありがとう。優しいね」
アルテミスも嬉しそうに、えへへと笑い、僕の反対側の手をぎゅっと握る。
「あら、アルテミスったら流星にすっかり懐いちゃったのね。今日だけは譲ってあげる。じゃ、アルテミスはそのまましっかり手を握っときなさいよ?迷子になっても知らないからね?」
そう言いつつも、デメテルはアルテミスのもう片方の手を繋ぐ。アルテミスもなんだか嬉しそうだ。やっぱり、お姉さんなんだね。妹のことが心配なんだな。そんな姉妹の様子がとても微笑ましかった。
「さあ、どんどん進んでいくからな!はぐれるなよ!」
フォルが元気よく先陣を切って進んでいく。
◇◇◇
僕たちは街の中心部付近へ歩みを進めていた。
「まいどぉ!新鮮な野菜や果物はどうだい?見てくれよ、この瑞々しいリンゴの色つやを!パイにしても良し!生で食べても最高さぁ!!お!千秋ちゃんじゃねーか、心配してたんだぜ?知り合いには会えたみたいだな!良かった良かった!」
☆☆☆
「蜂蜜はいかが?パンに塗っても飲み物に入れても美味しいですよ~!水仙とアネモネの蜂蜜が特におススメで~す!とろりと濃厚な蜂蜜がいまならなんと、2割引き!いらっしゃいませ~!!あら、千秋さん、また来てくれたんですね!ちょっと味見して休んでいきませんか?」
☆☆☆
「ほいっ!寄ってっとくれ!焼きたての黒糖パンだよっ!香りは抜群、味はもっと抜群だよー!!うちのは黄金牛のミルクを使ったバターだからな!コクも風味も最高だよー!よう!千秋ちゃん!昨日のパン、どうだった?……そーかそーか!美味かったか!ははっ、そりゃあそうさ!なんたって、この街一番のパン屋だからな!」
☆☆☆
「黄金牛だったら、うちだって使ってるさね!栄養たっぷりのミルク直売はこっちさ!新鮮なミルクだよー!奥さん、いらっしゃい!いつもの大きさでいいかね?よしきた!……おや?千秋じゃないか。昨日のミルク、飲んだかい?美味しかったろう?……ひゃっしゃっしゃっしゃ!何度でも飲みたいだって?こいつは嬉しいこと言ってくれっさね!」
☆☆☆
「さぁ!どうだい!?この見事な天空豚を!!こいつの肉は美味いよぉ!!天空豚の揚げたてコロッケだよぉっ!らっしゃらっしゃい!熱々のこいつをいっぺん食べてみなぁ!……千秋ちゃんじゃないか!昨日、大丈夫だったかい?……コロッケありがとうございました?よしてくれよ!困った時はお互い様ってもんだろ?気にしないでくれ!またいつでも寄ってってくれよ?」
☆☆☆
もの凄い賑わいの店の数々。天使さまたちがひっきりなしに呼び声を上げている。お客には神さまだけじゃなく天使さまたちも大勢いて、まるで、何かのフェスティバルみたいな雰囲気だった。
それでも、押し合いへし合いにならずに、皆が譲り合って道を通れるようにしている。それに、きちんと順番を守って買い物してるあたり、さすがだなぁ!
「おじさーん!おばさーん!みんなー!ありがとうございましたーっ!また後で寄らせてもらいまーすっ!!」
千秋も次々に話し掛けてくるお店の天使さまたちと軽く世間話をしつつ、活気のある場を楽しんでいるみたいだ。そして、最後に元気な声を出して挨拶をしていた……あれ??
「ち、千秋?なんでそんなに天使さまたちと仲良いの?昨日来たばっかりなんでしょ……?」
天界に来てまだ半日しか経ってないのに、その仲の良さはおかしくない??バイト先でもそうだったけど、凄いコミュ力だな!?神さまの街でも本領発揮しちゃってるよ!?
「うん。実はね、昨日の夜、流星の居場所を知ってるかと思って、デメテルに会いに行ったんだ。でも、家には誰もいなくて……」
あぁ……昨日は僕たち、フォルの家に泊まったし、デメテルのご両親も緊急の何かで帰れないって話してたもんな。ちょっとタイミングが悪かったね。
「それで、仕方ないから夜ご飯食べようってなって、アルテミスが食べ物買ってくるって出掛けたんだ。でも、中々、戻ってこなかったから、ちょっと外の様子を見に私も出ちゃったの」
「そうだったの?私たち、フォルの所にいたから……ごめんなさいね」
「ううん、そんなのタイミングが合わなかっただけなんだし、謝らないでよ。ね?」
謝るデメテルに千秋が優しく声を掛ける。
「それにさ、その後、アルテミスと合流する前に、少しだけど色々見られて楽しかったよ。実はね、さっきのお店の天使様たちに昨日、食べ物を探しに来てるって話したら、色々と貰ったんだ。タダでいいからって。で、それをアルテミスと一緒に戻って食べたの」
「そうだったんだ?皆、優しい方たちなんだね。良かったね、千秋」
うん!と屈託のない笑顔で頷く彼女。神さまや天使さま相手でも、普通に仲良くなれるんだね。そういう誰からも愛される性格は、ちっとも変わらないな。
それにしても、初めて会う千秋にこんなに良くしてくれて、心配までしてくれて……本当に心の優しい方々ばっかりだね。千秋が天界でもこんなに明るい笑顔を見せてくれて、本当に嬉しいな。
「昨日はごめんね、千秋。わたし、あの時、お財布落としちゃって探してたから、遅くなっちゃったんだ……」
悲しそうに俯くアルテミス。
「そうだったの?それなら言ってくれたら昨日、一緒に探したのに」
「うん、でも、初めて来た世界で千秋も疲れてるかなって思って……」
「そんなこと気にしなくていいよ?でも、ありがとね」
そう言って、アルテミスの頭をぎゅっと抱き締める千秋。
「財布は結局、見つかったのか?」
フォルも心配そうに声を掛ける。
「ううん、まだ……お気に入りのお財布だったのに……」
アルテミスはどうやら、お金そのものよりも財布自体を無くしてしまったことを後悔してるみたいだ。
「そんなに落ち込まないで?お姉ちゃんも後で探してあげるから。探しがてら、食べ物を下さったお店に一緒にお礼を言いに行きましょうね?」
デメテルが腰を少しかがませて、落ち込むアルテミスの目線と目線を合わせる。よしよしと、彼女の頭を撫でながら、きっと見つかるからね、と優しい言葉を掛けていた。
「僕も一緒に探すからさ!元気出してよ」
「アタシも手伝うぜ!」
「ありがとう。お兄ちゃん、フォル姉様」
皆で探すことになり、少しだけ明るい表情になったアルテミス。僕と繋いだままの手を優しく握り返すと、彼女もまた控えめに握り返してくれた。
千秋のために買い物に出掛けて、それで落としちゃったんだもんな。なんとか見つけてあげたいな。
「ねぇ、落としたのって、お姉ちゃんがあげたあの小銭入れのこと?」
「ううん、違うよ。転生してる時に日本で手に入れた物なの」
「あ!もしかして、日本で買ってあげた少女マンガ雑誌の応募者全員プレゼントの?」
「そうそう!それ~!」
アルテミスってそういうの応募するんだね。日本での暮らしを結構、楽しんでたみたいだな。
「アルテミスったら、猫で字が書けないからって応募する時、私に書かせたのよねーそれ」
「ふふっ、あの時は助かったよ。ありがとね!」
「いいえー」
全く、しょうがないなぁという顔でアルテミスを見る千秋。でも、その瞳はどこか優しく感じられた。
「それで、どんな財布だったの?」
興味本位から聞いてみた。
「えっとね~、大きさはこのくらいで、こう半分に折るタイプで――」
二つ折り財布みたいだな。
「あと、お財布を折った内側のところに名台詞が書いてあるんだよ!」
「なんて台詞?」
「お兄ちゃん、聞きたい?ふふっ」
アルテミスが嬉しそうな顔をして僕を見る。なんだろ?そんなに素晴らしい言葉なのかな?
「あのね、『愛憎は 表裏一体 世の真理』だよ~!」
それ、少女漫画に出てくる言葉!?渋すぎでしょ!しかも、川柳になってるし。そのプレゼント企画の担当者も、よくその台詞で財布作ろうとしたよね!?
「そ、そうなんだ……それはなんだか身に染みるような言葉だね」
僕は何と言っていいのか分からず、とりあえず、当たり障りのないことを口にした。ごめんよ、アルテミス。
「全員プレゼントってそんなのがあるのか?そいつは凄いな!」
「地球にはそんなシステムがあるのね!?」
フォルとデメテルがもの凄く驚いた様子で食いついてきた。
「地球のシステムっていうか、マンガ雑誌にたまにそういうプレゼント企画が載ってるんだよ。僕も子供の頃、何回か応募したことがあるんだ」
「私も私もー!あれって好きなキャラのグッズがあったりすると、つい欲しくなっちゃうよね。アクリルスタンドとか可愛いし」
千秋も懐かしそうな顔して笑ってる。子供の頃って皆、これ欲しいなー!って友達と雑誌見ながらわいわいやってたもんな。
「で、千秋たちが言ってるのは、いくらかのお金を払うとその全員にプレゼントされるってやつだね。昔だと、キャラクターの絵柄のテレホンカードが結構、あったみたいだけどね」
「テレカか。確か、磁気のとICのがあるんだよな?それで、日本での販売当初は、50・100・300・500の4種類の度数だったんだぜ?」
「そうよね。でも、最近はあんまり使われなくなってしまったのよ。だから、いまはテレカ自体を実際に使うんじゃなくて、コレクターズアイテムとしての人気があるのよね。特に非売品のものは人気が高いんでしょう?確かそうよね、流星?」
……なんで、フォルもデメテルもそんなこと知ってるんだろ??テレホンカードに種類があるとか当初の販売度数のことなんて、僕、全く知らないんだけど?そもそも、テレホンカード自体、使ったことないし。
ていうか、それは知ってるのに、応募者全員プレゼントのことは知らないんだね?どういう経緯で地球の知識をインプットしてるんだろ?偏りが凄いな。
今回もご覧頂き、ありがとうございました。
千秋とアルテミスも加わって、5人で街へ繰り出しました。
目指すはディオニュソスの元へ!
千秋のコミュニケーション能力は、天界でも遺憾なく発揮されてましたね。
天使たちとのあまりの仲の良さに、流星も驚いていました。
彼女のこの力はもはや、天性といってもいいかと思います。
千秋たちが来たことによって、より一層明るく賑やかになった流星たち。
次回も彼らのわちゃわちゃした時間をお楽しみ下さい(笑)




