3.僕たちと同じなんだね
まだ天界での話が続きます。
神さまが僕たちの文明の利器を活用してるなんて、なんだか意外だったな。魔法みたいなものしかないんだと思ってたけど。そういえば、どうやって買ったものが地球から届くんだろ……?そもそも、お金はどうしてるんだろ??
「あ、そうだ!こないだ買っといた美味し~いとっておきがあるんだけど、ご馳走しちゃおっかな♪紅茶もお代わりいるわよね?」
女神さまは再び舞うような仕草をすると、不意に何もない空間に光が生まれた。そして、そこから新しいティーセットと、何か食べ物らしきものを取り出してきた。
「あ、はい。ありがとうございます。それにしても、その光は何ですか?テーブルとかもそこから出てきたように見えましたけど……」
「あ、これ?これはね、亜空間を利用してそこから自由に物を出し入れできるようにしてるのよ。神だったら皆、使える能力なの。まあ、容量の大小とかは違ってくるかもしれないわね」
女神さまは、驚く僕を微笑ましい眼差しで見つめながら答えた。
「それは便利そうですね。僕もそれが使えたら、どんなに良かったですかね。重いものを持たなくてもいいですし、学校に行く時や買い物なんかも手ぶらですもんね」
「ふふ、確かにそうね。それに、亜空間内は時間の流れも止まってるのよ。だから、例えば、食べ物を入れとくでしょ?そうすると、その状態がずっと続くんだから。腐らないし冷たいものは冷たいまま、温かいものは温かいまま取り出せるわ!」
説明しながら彼女は、新しく紅茶を入れてくれた。湯気が立ち上り、フルーティーで美味しそうな香りが鼻をくすぐった。
「ね?さっきのも今の紅茶もアツアツでしょ?それに、通販サイトと繋げておけば、買ったものは瞬時に亜空間の中に出てくるのよ。ほ~んと便利よね!」
女神さまはそう言って、先程の光から取り出した食べ物を僕の前に置いてくれた。神さま達って物凄い能力を持ってるんだな。僕も使えたらいいな……ってもう死んじゃってるから意味ないか。
「さ!はい、ど~ぞ!たくさん食べてね!これはね、日本という所で作られてる『水ようかん』って言うのよ」
目の前には、お皿に山盛りに積まれた水ようかんたち……そして、更に、同じ様にもう一皿取り出す女神さま。当然、そこにはお皿に鎮座する山盛りの水ようかんズ……え?こ、これ……2人で一皿じゃないんだ?いや、2人で一皿でも十分おかしい量なんだけどね!?
「あ……え……と、こ、これ美味しいですよね。女神さまもお好きなんですね。僕も大好きです。でも、こんなにたくさんは……」
「あら~!流星君、水ようかん知ってるのね!?あ、そういえば、流星君って日本所属だったのよね。だいじょ~ぶよ!まだストックたくさんあるんだから、全部食べていいからね?気にしないでいいのよ?」
そう言って、とびっきりの笑顔を向ける女神さま。あぁ、なんか女神さまの周りにキラキラしたオーラみたいなものが見える。きっと、100%善意なんだろうな。
「は、ははは……あの……ありがとうございます」
あんな可愛らしい笑顔を見せられたら、他に何も言えないよ……死ぬ気で頑張ります!もう死んでるけど。
「日本のものって何でも素晴らしいわよね。通販の中でどこの地域のものを買うか選べるんだけど、私、いっつも日本を選んでるわよ!日本をよく知ってる流星君なら、私のまだ知らない素敵なものをきっと、たくさん知ってるんでしょうね~!羨ましいわ!」
楽しそうに話しながら、水ようかんを頬張る女神さま。なんか、可愛いな。ちょっとリスっぽい。
「フルーツやケーキも美味しいし、私、亜空間の中にいつも好きなものをストックしてるのよ。欲しいものが多くてホント困っちゃうわ!」
ほんとに甘いものが好きなんだね。こうして見ると、普通の人間の女の子みたいだ。表情が豊かでよく笑うし、明るくて人懐っこそうな雰囲気もあるし。ま、まあ、食べる量がちょっと多いみたいだけど。
ちなみに、女神さまのお皿の水ようかんたちは既に、半分の量が消えていた……早くない!?
「あ、でもね、欲しいものはたくさんあるんだけど、やっぱり結構するのよね。値段が……」
「やっぱり、天界にもお金ってあるんですか?人間の世界みたいですね」
「ええ、もちろんあるわよ?最初に天界で使ってて、それを私たちが知識として下の世界に広めたのよ。確か最初の頃は、石か何かをお金の代わりに使ってたんじゃなかったかしら?貝殻を使ってた所もあるみたいね」
あ!それ学校で習ったやつだ。そうだったのか!よくよく考えてみたら凄いな。貨幣文化を歴史に落とし込んだ神さまの話が聞けるなんて。
「それからだんだん、銅なんかも使われるようになって流星君たちが使ってる今のお金の形になったのよ」
「それじゃ、僕たちの生活は、女神さまたちが授けて下さった知識のお陰で成り立っていたんですね!?」
「まあ、そうなるわね。他にも進化の過程で少し干渉することはあるわ。でも、私たちは始めのキッカケを与えたに過ぎないわよ?ここまで進化したり世界を発展させてきたのは、み~んなその世界に住んでる人や動物たちなんだから!凄いのはあなたたちよ?」
今まで考えたことなかったけど、神さまって世界に驚異的な影響力を持ってる方たちなんだな。進化の歴史って全部、偶然が重なってるだけかと思ってたけど、なんだか衝撃の事実を知ってしまった感じ。
目の前にいる綺麗なギャル風女神さまもきっと、物凄い能力を持ってるんだろうな。亜空間から物を出し入れするのが当たり前ってのが既に信じられないくらい凄いけど。
「水ようかん、美味しい?」
にっこり微笑む女神さま。
「え、ええ。とても美味しいです。もったいないので味わって頂きますね」
女神さまはいつの間にか、完食していた……もう帰っていいですかね?僕。
「流星君、抹茶味もあるわよ?ど~ぞ、召し上がれ」
お皿にこんもり抹茶水ようかんズ……やたら、水ようかん推してくるな。
「あ、ありがとうございます。あの、ところで女神さま?どんな力で世界を見守っていらっしゃるかのお話なんですけど……」
僕は諦めて、話を元に戻すことにした。
「あ!そういえばそうだったわね。ごめんなさい、話が寄り道しちゃって。私ってどうしてこうなのかしら……?」
「いえ、そんな。僕の方こそ、話を脱線させてしまってすみません」
「ふふ、そんなに申し訳なさそうにしなくてもいいのよ?お姉さん、流星君とお話しするのすっごく楽しいし。ね?」
「ありがとうございます。僕も女神さまとお話できて、とても嬉しいです」
「あら、ありがとう。嬉しいこと言ってくれるじゃない。ふふっ。あ!そうだわ!その『女神さま』って呼び方やめましょ?今から『デメテル』って呼んで欲しいな」
「ええと、女神さま、いえ、デメテルさまがよろしければ……」
「ありがと!そっちの方がずっといいわ!流星君とは仲良くなりたいから、これからヨロシクね?」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします?」
女神さまと仲良くして不敬罪とかならないんだろうか……?でも、少しでも良い関係でいられるのは僕も嬉しいな。
「そうそう!私たちの能力の話だったわね?」
「はい、きっと重要機密なんでしょうから、もしダメでしたら……」
「あ、それは大丈夫よ?天界では、みんなオープンにしてるのよね」
そう言うと、亜空間からまた何かを取り出すデメテルさま。へー、あれってちゃんと自分の手が入りやすい距離と高さの所に出てくるんだ。地味に凄いな。遠くに出現しちゃっても意味ないもんね。
「でね、私たちってたくさんの世界を視てるでしょう?だから、神もたくさんいるのよ。例えば、海の神だけでも万単位でいるわ。もちろん、それぞれ出来ることは少しずつ違ったり、影響力の大きい小さいはあるんだけどね?それで、例えば――」
話しながらも抹茶水ようかんズを食べる手は止まらない。流石です、デメテルさま!
「世界の均衡を保つためには大抵、複数の神が能力を使ってるのよ。そうした方がお互いでフォローできるし、足りない能力を補えるものね」
お?手に持ってるのタブレットだ。しかも、なんか最新機種っぽいな。すごい……って、えぇ!?海の神様って1人だけかと思ってたよ。でも、宇宙に星ってたくさんあるもんな。それだけ神さまも必要ってことなのかな。
「神さまって大勢、いらっしゃるんですね?でも、そんなにたくさんの神さまの中からデメテルさまに助けて頂いて、しかも、こんなに良くして頂けて……本当に嬉しいです。ありがとうございます。僕の体を治して下さったの、デメテルさまですよね?お礼が遅くなって申し訳ありません。」
素直な気持ちだった。アルテミスさまが道路に出てきたのだって、居眠り運転のトラックがいたのだって、単に運が悪かっただけなんだから。終わってしまったことを悲観してても何も始まらない。いまこうしてデメテルさまとお会いできたことって、逆に凄く幸運だったんじゃないかな?死後の世界ってもっと怖いものかと思ってたしね。
でも、こんなに綺麗で愛らしい笑顔を見せてくれるデメテルさまがいてくれて本当に良かったよ。ここは天国じゃないって言ってたけど、僕にとってはここが天国みたいなものだね。
まさか、死んでからも水ようかんが食べられるとは思ってなかったけど。
「…………」
「……?デメテルさま?」
どうしたんだろう?デメテルさま、小刻みに震えてる……?
「わぁ~~んっっ!流星君、どうしてそんなに優しいの~~っっ!!?アルテミスを助けたばかりに死んじゃったから、もっと恨まれてもいいはずなのに……うぅ……あの時、アルテミスを助けようとしてくれた時、私もその場面を視てたのよ。転生したてのあの子が心配で……そしたら、車が来て……助けようとしたけど、間に合わなかったの!!私がちゃんと間に合ってたら、流星君、きっと死なずに済んだわ!本当にごめんなさい!」
大粒の涙を流しながら後悔を口にし、必死に謝るデメテルさま。そうなんだ……そんな事があったのか。
「結局、助けられなくて死んじゃって……体と魂がバラバラになっちゃったのよ……それを復元したのは、私なりの罪滅ぼしだったの。本当は復元して天界に呼んだりするのっていけない事なんだけど、あのままだと流星君、魂が不安定すぎて消滅もあり得たわ!天国にも地獄にも行けない、存在すらなかったことになってしまうなんて……私には見過ごすことなんてできなかった!」
泣き崩れてしまった彼女をできるだけ優しく支えてやる。彼女の言うように、恨みがあってもおかしくないんだろうけど、そんな気持ちは全くなかった。
元々、そんなことは考えてなかったけどね。こんなに懸命に、しかも、神さまなのに目を泣き腫らして謝る彼女や、子猫の姿の妹さんを恨むなんて、そんなことできるはずがない。
「妹のために体を張ってくれて命まで失わせてしまって……そんな優しい流星君を放っておくことなんてできなかったのよ。本当にごめんなさい!あなたの生きる時間を奪ってしまって……!」
泣きじゃくりながら抱き着いてきたデメテルさま。神さまだって万能じゃないって言ってたもんな。
「あれは不幸な事故だったんです。それに、僕はあの子猫が誰であろうと助けようと思いました。だから、決してデメテルさまやアルテミスさまのせいじゃありませんよ」
彼女の手をとり、僕は自分の気持ちを素直に口にした。
「大丈夫。僕はむしろ、デメテル様に出会えて感謝してるんですから。ね?泣かないで?僕は誰も恨んでないからね?……ね?よしよし……大丈夫だよ」
声を上げて泣くデメテルさまの背中をさすってやる。お姉さんっぽく振舞ってたけど、今はまるでか弱い普通の女の子みたいだ。神さまだってお腹もすくし、悩んだり悔やんだり……泣いたりするんだね。
なんだ、僕たちと同じじゃないか。能力は確かに次元が違うし、世界の常識を超越してるのかもしれない。でも、心は同じなんじゃないかな。
涙を流しながら小さく「ごめんなさい」と何度も繰り返すデメテルさま。僕は、そんな彼女をできるだけ優しくなで続けた。
僕なんかのために涙を流してくれて嬉しかった。そんなにも一生懸命になってくれて、死んだ意味があったように思えた。死んじゃったことが残念じゃないって言ったら噓になるけど、でも、あの時、子猫を助けられて良かった。アルテミスさまが死なずに済んで本当に良かった。悲しむデメテルさまの顔は見たくないよ。
……僕もデメテルさまのために何かしてあげたいな。心の中に芽生える何かを感じながら、そう思った。心からそう思った。
今回も読んで下さってありがとうございます。
神さまも人と同じような感情を持っていたらどうかな?と思って書いてみました。
本当は今回は神さまの能力メインの話にしようと思ってたんですが、
その話題に入る前に長くなってしまいました。
なので、今回はここまでとします。すみません。
次回、『驚きの能力』をぜひご覧ください。