表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/38

28.時を遡って

アルテミスは流星たちに何を語るのでしょうか。

 千秋とアルテミスも加わって賑やかな朝食を取った僕たち。その後はリビングに移動し、アルテミスから千秋と共に天界に来た理由を聞くこととなった。


「まず、始めにそもそもなんだけど、わたしと千秋はこの時間軸の存在じゃないの。実は、いまから3年後の未来からやってきたんだ。着いたのは昨日の夜なんだけどね」


 ……!?3年後だって!?


「そうだったの!?じゃあ、()()()を使ったのね?」

「アルテミス、制御できるようになったのか!?」


 デメテルたちも驚愕してる。あの力って……?


「ねぇ、もしかして、アルテミスって時間移動ができるの?タイムマシンみたいに?昨日の夜、大きな光の柱を見たんだけど、もしかして、あれって……」

「お兄ちゃん、見てたんだ?うん、そうだよ。能力発動すると光の柱ができるの。わたしね、生まれつき時間移動できる能力があるんだ。それで、地球にいる間になんとか頑張ってコントロールできるようになったんだよ~」


 嬉しそうに話しながら、僕たちを見回すアルテミス。


「流星が見たっていう光はアルテミスだったのね?……アルテミ(この子)スは特別なのよ。普通、どんな高位の神でも自分自身が時間移動できる力なんて誰も持ってないわ」

「そうなんだ!?優秀なんだね!すごいよ、アルテミス!」

「ありがと、お兄ちゃん!あのね、【過去への扉】って言うんだよ」


 褒めると嬉しそうに照れるところがまた可愛いな。


「それに、1000万(その年)歳で【転生】できること自体、もの凄いことだしな。普通、【転生】ってのは『(ゼータ)』以上の能力を覚えた者が許可されるものなんだ。その『(ゼータ)』の能力が発現できるのは大体、神アカを卒業する1800万歳くらいなんだよな。それをアルテミスは、既に発現しちまってる。努力もあるが、恐ろしい才能だよ」


 フォルが僕と千秋に分かりやすく説明をしてくれた。


「え!アルテミスって、そんなにすごい神様だったんだ?日本だと猫の姿だったから、可愛いとしか思わなかったけど」

「千秋ってば、事あるごとにわたしの体を好き勝手に弄ぶんだよ!?もうっ」


 まあ、猫好きな千秋の気持ちも分からなくもないかな。今の姿のアルテミスにそれやっちゃうと、犯罪者になるけど。


「それにしても、たった3年で天界戻り(【新生】)できるなんてな。しかも、ランクダウンした能力まで覚え直して、さらにパワーアップなんて……前代未聞だよ、全く」


 心底、驚いた様子でそう話すフォルは、アルテミスの頭をよしよしと撫でる。


「フォル姉様、くすぐったいよ。ふふっ。それでね、話はお兄ちゃんがあの事故に合った時に遡るんだけど――」


 それから、アルテミスはこれまでのことを話してくれた。僕が死んでしまったショックで、千秋の心が死んでしまったこと。魂までもが不安定になったこと。それをアルテミスがかろうじて体に繋ぎ留めてくれたこと。千秋に神だと明かして、僕に会える可能性があることを話したこと。その目的によって、千秋が生きる気力を取り戻したこと。

 そして……千秋が魂となり日本には二度と戻れない覚悟で、アルテミスと一緒に天界に来たことを知った。


「千秋……そうだったのか。随分と辛い思いをさせてごめん。あの時は無我夢中でさ……子猫を助けなきゃってそればかり思って、自分が死ぬかも知れないなんて考える余裕はなかったんだ」


 当時を思い出したのか、いつの間にか涙を流している千秋。


「うん……うん……あの時は夢だと思った。流星が死ぬなんて思ってもみなかった。だって、一緒に月を見てさ、その後、コンビニで……」


 涙が溢れ、言葉に詰まる千秋。僕はそんな彼女を優しく抱き締めた。


「辛かったね。寂しかったよね。僕も寂しかった。僕は運よくデメテルに魂を助けて貰えた。そのお陰でこうして天界で過ごしてるんだけど、千秋はずっとずっと辛いままだったんだよね。本当にごめんよ」

「……ぅ……ひぐっ……私も……一緒に連れてっでほじがった。何度も()のうと思っだ……」

「千秋……」


 泣きじゃくる彼女を静かに抱き締める。魂が悲痛な叫びを上げていた。とても明るく元気で皆からあんなに愛されていた彼女を、こんな風にしたのは僕だ。彼女の苦痛を少しでも和らげるように、苦しみから解放されるように、ただ黙って抱き締め続けた。

 こんなことしかできない自分が歯痒い。千秋にこんなに悲痛な思いをさせてしまった自分が腹立たしかった。


◇◇◇


「千秋、落ち着いたか?ほら、飲みなよ」


 フォルがマグカップを千秋に渡す。


「うん、ありがとう……ふふ、おいしい」


 温かい飲み物を飲んでリラックスしたのか、恥ずかしそうな顔で僕を見つめる千秋。


「流星、ごめんなさい。また泣いちゃった」

「ううん、いいんだよ。僕の方こそ、ごめんな」

「千秋、これも良かったら食べてね」


 デメテルが山盛りの水ようかんをテーブルに置く。


「デメテル、ありが……え!?」


 思わず、二度見する千秋。僕たちはもう慣れてしまってるから驚かないけど、千秋は初めてだもんな。


「無理しないでいいからね?ほとんどはデメテルが食べちゃうから」


 小声でこそっと教えてあげると、安心したのか1個だけ手に取り、再度、デメテルにお礼を言っていた。


「お兄ちゃん、地球ではごめんなさい。わたしを助けてくれたせいで、死なせることになってしまって……」

「あぁ、そのことね。もういいんだよ。千秋とアルテミスが無事だったんだし、僕はそれで満足してる。千秋には申し訳なかったけど……」


 どうやら、アルテミスは責任を感じているようだ。悲しげな顔で瞳に涙を溜めている。大丈夫だよ、と頭を撫でると、ようやく少し明るい表情をしてくれた。


「あの……千秋?実は、あの時、私、視てたのよ。事故の時……それで、流星を助けようとしたけど、間に合わなかったの。本当にごめんなさい。流星は私に救われたって言ってくれるんだけど、本当なら事故の時にちゃんと助けるべきだったのよ……でも、それができなかったの。ごめんなさい……」


 デメテルもあの時のことをかなり引きずってるみたいだ。泣きそうな顔で千秋に謝り、頭を下げていた。


「デメテルはさ、確かに流星を助けられなかったんだけど、魂を守るために天界(ここ)でも必死になってたんだ。どうかそれを分かって欲しい。頼む!」


 フォルも続けて頭を下げる。


「ちょ、ちょっと!デメテルったら、フォルも頭を上げてよ!ね?確かに、流星が助かってたらそれが一番良かったよ。でも、デメテルは必死に助けようとしてくれたんでしょ?その結果を流星が納得してるなら、それでいいと思う。そりゃあ、悲しい気持ちは簡単に消えはしないけど……」


 まだ少し涙の残る赤くなった目を伏せる千秋。そして、数秒のち、顔を上げて穏やかな口調で言葉を紡いだ。


「一生懸命助けようとしてくれたのに、そのことで責めたりなんてしないよ。私の方こそ、何も出来なかったんだから」

「千秋……ありがとう。優しいのね。流星が好きになるわけね」

「流星と同じで純粋な魂を持ってるんだな。とっても綺麗だぜ、千秋の魂。ありがとな」


 千秋と2人の女神さまが手を取り合って微笑みあう。そんな姿を見て僕は心から安心した。千秋も魂となって天界に来ちゃったけど、皆と仲良くできそうで本当に嬉しかった。


「お兄ちゃんが助けてくれた時、お姉様の神力を感じたの。それで、お兄ちゃんの魂はきっと、何か普通じゃないことが起きて、一時的にお姉様の元にいるんじゃないかなって思ったんだ」

「アルテミスのところまで気配、届いてたのね?」

「うん。あの時、すごい神力が出てたよ?だから、お姉様が保護してるんだって確信できたの」

「そうか!だから、わざわざ過去に来たんだな?アルテミスたちの時間軸だと、3年も経ってりゃ寿命死の魂だろうと迷子の魂だろうと、天界(ここ)には既にいないはずだもんな」


 そうだったんだ。それで、事故直後の僕がいるであろうこの時代に来たんだね。


「その3年っていうのはもしかして、その【過去への扉】だっけ?その力を使うのに準備が必要だったから?」


 年数に何か意味があるのかと思って、アルテミスに聞いてみた。


「うん、その時はまだ力を上手く使えてなくて、狙った時に正確に遡ることができなかったの。あとは、千秋がずっと寝たきりだったから、それの回復もあったし……」


 千秋の3年を思うと涙が出そうになった。僕はなんて残酷なことをしてしまったんだろう。


「千秋、ごめんよ。大切な3年間を、しかも、一番楽しいはずの時間を奪ってしまって」

「大丈夫だから、もう謝らないで。ね?こうしてまた会えたのが何より嬉しいもん!」


 笑顔を見せる千秋。僕は彼女のこの笑顔に何度救われたことか。日本でも両親が不在がちな僕にいつも寄り添ってくれた。死んでからもこうやって追いかけてきてくれた。感謝してもしきれないよ。


「ありがとう。本当にありがとう!また顔を見られて本当に嬉しいよ!」

「ふふっ、私も」

「3年経ったら、そりゃ大人っぽくなるはずだよね。元々、可愛かったけど、すっごく綺麗になっててビックリしたよ」

「褒めすぎだってば。でも、ありがと。とっても嬉しい」


 頬を朱に染めて嬉しそうに微笑む千秋。本当に綺麗だ。僕は心からそう思った。


「そうだ!千秋はこの後、どうなるの?」


 僕と一緒で迷子の魂ってことでいいのかな?と、疑問をフォルに聞いてみた。


「あぁ!寿命死じゃないのは明らかだし、迷子の魂に該当するから審査は受けなくて大丈夫さ。それに、流星と同じでストレスはないだろうし、天界(ここ)にいても問題ないはずだ」

「そうね!迷子の魂の転生は、ストレスを感じていないなら必ずじゃないものね。よかったわ、千秋がこのままいられて。せっかく出来たお友達だもの。嬉しいな~!」

「よかったー!ありがとう、フォル!デメテル!これから天界のこと色々、教えてね?」

「千秋、一緒にいられるね。ホッとしたよ」

「そうだね。せっかく会えたのに離れ離れはもうやだもん」


 僕たちは自然と笑顔になり、喜びをかみしめた。


「千秋、良かったね!わたしは今日の夜には未来に帰らないといけないけど、それまではいるからね?」

「え!?アルテミス、帰っちゃうの?な、なんで!?」


 アルテミスもしばらくは一緒にいられるんだと思ってたのにな。


「流星、あのね、アルテミスの能力って過去にいられるのは1回につき24時間限定なんだって……」


 千秋がそう教えてくれる。そんな彼女も少し寂しそうな表情だった。


「お兄ちゃん、寂しいって思ってくれるの?ありがとう。でも、また3年後に会えるから、そしたら、いっぱい遊んでね?」


 アルテミスも寂しそうだ……。


「うん、分かった。これっきり会えないわけじゃないもんな。約束するよ。次に会う時は好きなことして遊ぼ?」

「アルテミス、私とも遊ぼうね。日本にいた時みたいにさ」

「うん、ありがとう!楽しみにしてるね!」


 彼女はそう言って、とびっきりの笑顔を見せてくれた。


「流星も千秋も優しいわよね。私たち神よりずっとずっと心が綺麗だわ」


 そう言いながらデメテルがお代わりにと、紅茶を皆に入れてくれた。


「確かにな。まぁ、デメテルも優しいけど、特化してるのは優しさより食欲だもんなー」

「お姉様、食べすぎは良くないよ?あ、でも、お姉様ったら前に『食べることが私の一番の幸せなのよ』って言ってもんね~」


 フォルとアルテミスが揃って、デメテルをちゃかす。


「デメテル、たくさん食べる女の子もステキだけど、太っちゃわないの?大抵の男の子ってほっそりしてる女の子が好きだと思うよ?」


 それに加わる千秋。


「え……!?そ、そうなの!?で、でも、流星は少なくとも、私の胸は大好きなはずよ!?いっつも視線感じるもの!」


 で、デメテル!?


「ね!そうでしょ、流星!?いつも見てるわよね!?大好きよね!?」


 マスクメロン、見てるのバレてたんだ!?っていうか、そんな大声で言わなくても……恐る恐る皆の顔を見渡すと――


「へー……流星、デメテルの胸、そんなに見てたんだ?でも、私の胸も日本で()()()()()()()こと、ちゃんと覚えてるからね?」


 いつになく冷たい目でジーっと見つめながら、秘密を暴露する千秋。それもバレてたの!?


「なんだよ。アタシのを全然、見ないと思ってたけど、理由は大きさか?んん!?……アタシのだってなぁ!着痩せしてるだけで結構、あるんだぞ!?」


 胸のあたりを持ち上げて懸命にアピールするフォル。あぁ、ゆさゆさ感が凄い!……なんて、見とれてる場合じゃなかった。


「お兄ちゃん、『神恋(かみこい)』シリーズの男の人みたいだね!そういう話あるんだよ?」

「そ、そういう話って……?」

「主人公の男の人が()()()()()好きでね、胸のおっきな3人の女の子から愛を告白されるの。でもね、散々、とっかえひっかえ付き合ってるうちに女の子たち皆から捨てられちゃうんだ。それで、その女の子のうちの1人に妹がいて、最終的には真実の愛に目覚めてその妹と結ばれるんだよ~!」


 無垢な笑顔全開で、どろっどろなストーリー展開を解説してくれるアルテミス。


「……そ、そうなんだ」


 なんか、なんて言っていいのかよく分からなくなってきたな。そんな僕とアルテミスを尻目に、千秋と2人の女神さまたちはいかに自分の胸(とその他)が優れているか、アピール合戦を始めていた。


「あ~ら、千秋。確かに大きさはあなたの方が上かも知れないけど、触り心地はどうなのかしら?流星なんてね、腕を組んだ時にわざと当てるとものすっごく嬉しそうな顔するのよ?心の声だってウキウキしてるんだから!」

「ふ、ふんっそれくらい何よ。私なんかね、いっつも日常的に流星からの視線を感じてたんだからね?あれは絶対、私の胸をガン見してたもん!」

「へっへーん、女の魅力ってのはな、ただでかいだけの胸じゃないんだぜ?腰と尻だよ!昨日なんてさ、アタシの腰にぴったりと腕を回して抱き寄せてくれたんだぜ!?しかも、尻を触りたそうに必死に我慢してたんだからなぁ!!」


 僕の秘密にしときたかったことが全部、大声で暴露されてるんですけど……あぁ、どうしてバレてるんだろう?


「お兄ちゃん、ちょっとかがんでくれる?」


 そんな恥ずかしさMAXな僕にアルテミスが近づいてきた。


「え?う、うん……」


 かがむ僕の耳元にこそっと口を寄せて、彼女が可愛らしい声でささやく。


「わたしが3年後の未来に戻った時に、もし、お姉様たちに捨てられちゃってたら、お兄ちゃんの彼女になってあげるね?」


 可愛らしい女神さまの申し出に、僕はなぜだか涙が出てきた。それって確定じゃないよね?3年後から来たって言ってたけど、僕とデメテルたちの関係を見てから3年前(こっち)に来たわけじゃないよね!?……違うよね?

いかがだったでしょうか?

ご覧下さって本当にありがとうございます。


デメテルの千秋に対する思い、そして、アルテミスの流星に対する思い。

それぞれ胸につかえていた言葉を告げ、新たな関係の始まりとなりました。


次回もアルテミスたちの話が続きます。

ご期待下さい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ