25.訪問者
流星と女神様たちとの別れ……!?
あれ?ここどこだろ?真っ白だ……僕、確か、フォルの家で寝てたはずなんだけどな……?
「……流星」
「デメテル!いたんだね、良かった。ねえ、ここはどこなの?周りが真っ白ってことは、またプライベート空間の中?」
「…………」
何も言わないデメテル。どうしたんだろ……?
「流星、こんなことになるなんて残念だ」
「フォル!?」
いつの間に後ろに?なんだか顔が怖いよ?
「ここで、あなたとはお別れよ」
え?
「アンタはこれから地獄へ行く。『大焦熱地獄』へな。地獄の中で最もアツい思いができるぜ?」
「なっ!?ちょ、ちょっと待って!なんでそんないきなり!?僕が一体、何をしたって言うんだよ!」
「まだ分からないの?あなたは私たちを悲しませたでしょう?」
「アタシたちのどちらかを選ばない、それは仕方のないことさ。気持ちの強制はできないからな。でもな……自分が消えることでアタシたちのためになるなんてことを考えるのは、大バカのすることだ!!」
「それがあなたの罪よ。失望したわ……」
「そんな……僕は2人のためにと思って――」
「違うな。自分が傷つきたくなかっただけだろ?」
……!?
「さよなら、流星」
「ここまでだ。地獄でも達者でな」
「……!?ま、待って!待ってくれ!!デメテル!フォル!お願いだから行かないでくれっ!行かないでくれぇーーっっ!!」
絶望の中で叫ぶ僕が最後に見たもの。それは、2人の蔑むような表情だった……。
――そして
「はぁっ!……こ、ここは!?デメテル!フォル!!」
急激に意識が覚醒した僕が見たものは――
「流星、少しは懲りたか?ん?」
「大丈夫……?でも、これはあなたのせいなのよ?私たち、本当に悲しかったんだからね」
ソファーベッドのそばに佇む、2人の女神さまのちょっと困ったような微笑みだった。
「デメテル!フォル!」
僕は無我夢中で2人に抱きついた。
「ちょ、ちょっと、流星!?」
「あちゃー……ちょっと薬が効きすぎたか?」
僕は泣いた。2人にまた会えたことに感謝しながら。そして、自分がいかに自分勝手で愚かだったか思い知らされた。
「うぅ……デメテル……フォル……」
2人は何も言わずに、ただ黙って優しく抱き締めてくれた。2人の温もりを、愛情を感じながら僕は後悔した。自分が消えてなくなる、それで2人がどんな気持ちになるのか考えもしなかった。
僕はなんて浅はかなんだろう。自分が選ぶことでどちらかを悲しませたくない、なんて。そんなものただ単に、逃げていただけじゃないか。
「ぼ、僕は……自分から逃げてたんだ。2人の気持ちを真剣に考えなきゃと思ってたのに、結局、自分のことしか考えてなかった……本当にごめん、ごめんよ」
「ねぇ、流星。私ね、思うんだけど、恋愛って綺麗事ばかりじゃないと思うの。振られるのは誰だって悲しいわ。もしかしたら、恨んでしまうかもしれない。でも――」
デメテルは俯いている僕の顔を強引に自分に向かせ、口を開いた。
「相手の気持ちを考えずに、自分だけで何でも納得してしまうのはだめよ?……私たちが……私が……どんなに悲しかったか!傷ついたか分かってるのっ!?」
声を荒げる彼女は、いつの間にか涙を流していた。
「そうだぜ、流星。昨日のアンタの願い、あれはあまりにも残酷だ。アタシたちに千秋って子と同じ思いをさせるのかよ……」
フォルも静かに涙を流していた。
「デメテル……フォル……ごめん」
僕は一体、何をしていたんだろう?こんなに2人を傷つけて。両方から想いを告げられて、知らず知らずのうちに良い気になっていたんだろうか?傲慢な気持ちになっていたんだろうか?
真摯に考えるとあれほど決意したのに、まるで真反対のことをしてるじゃないか……!
「私たち、流星に気持ちを押し付けないって決めたわ。でもね、もし、振られたとしても流星が……あなたがいなくなればいいなんて、夢にも思った事ないわよ。それは、あなたからの気持ちの押し付けじゃなくて?そんなのあんまりだわ……」
「流星、それは優しさなんかじゃない。アタシたちが傷つくのを見て、自分が傷つきたくないだけさ」
2人の言う通りだ。僕は……無責任だ……。
「僕は軽薄だ……大事にするどころか2人とも傷つけてしまった。どうやって償ったらいい……?どうしたら、許してくれる?」
「デメテル、ちょっと耳を貸せ」
「どうしたの?……え?……まぁ!それはいいかも知れないわねっ」
何事か相談する2人。女神さまを悲しませたんだ。どんな罰だって受け入れるよ。
「よし、ならこうしようぜ。いまからアタシとデメテル、2人とお試しで付き合ってもらう。お試しと言ったって、本物の恋人のつもりでいてくれよ?」
「私たち2人に、平等に愛情を注いでね?」
泣いていた2人が嘘のように晴れやかな顔を見せてきた。若干、悪魔的な笑みを浮かべて……。
「え?……えぇ!?そ、それっていいの?」
「いいの?って何がだよ?」
「だから、それって罰になってなくない?むしろ、嬉しいというか……」
デメテルとフォル、2人と付き合うだって!?お試しとはいえ、それっていいのかな??
「あら、結構、良い思い付きだと思うわよ?3人で付き合って、流星は私たちそれぞれのことを今度こそ、真剣に考えてもらうわ」
「それで、流星がアタシたちのどっちかを選ぶまでの間も、アタシたちは付き合えるんだから、一石二鳥ってわけだ」
満面の笑みで押し迫ってくる2人。えぇ……?
「……うん、分かったよ。やるよ。ううん、ぜひ、お願いします。2人とお付き合いさせて下さい」
「ん、よろしい」
「よろしくね、流星。えへへ」
頬を染めながら嬉しそうに返事をくれる女神さまたち。2人の望みならどんな事だって叶えてあげたい。今度こそ、彼女たちの想いを大事にしなくちゃ!
「ねえ、聞いてもいい?」
「あら?な~に?」
「夢にデメテルとフォルが出てきてさ、地獄行きだ!みたいなことを言われたんだけど、あれって……なんだろ?」
やけにリアルな夢だったな……。
「それはね、フォルの能力なのよ。ふふっ、怖かった?ごめんなさい。でも、どうしても、許せなかったんだもの」
申し訳なさそうに謝るデメテルだけど、その顔は少しむくれていた。
「アタシって『運命の神』だろ?実は、運命と夢って密接な関係があるんだ。詳しくは省くが、夢を操れる能力があってさ、それで今回、流星に悪夢を見せたってわけ」
そう説明するドヤ顔のフォル。あんな恐ろしい夢はもう二度と見たくないなぁ……。
「そうだったんだ。2人からあんな冷たい目でみられるなんて……思い出しただけでも、ゾッとするよ」
デメテルたちにあんな表情されるのは、かなりショックだもんな。病んじゃいそう。
「じゃあ、僕が月に願ったことをどうして知ってたの??」
それも不思議だよね。なぜ分かったんだろう?
「あーそれも答えは簡単だ。アタシが聞いてたからさ」
え!?じゃあ、やっぱりドアは開いてたのか!
「で、でも、僕、ほとんど声に出してなかったよ?」
「初めて会った時に言わなかったか?耳がいいってさ。あの距離ならどんなに小さい呟きだって聞こえるさ」
得意そうに笑うフォル。そうだったのか。迂闊だったな。いやいや、それよりも、もうあんなこと考えちゃダメなんだってば。
「流星……もうあんなこと思わない?」
「約束できるか?」
デメテルとフォル、2人ともまだ凄く不安そうな顔だ。
「もちろんだよ!もう絶対、消えたいなんて考えないよ!どっちを選ぶとか選ばないとか以前に、あんな思い上がったことはもう二度と考えないって約束する!」
誠実でいたいと思ってたのに、まるで出来ていなかったんだな。ダメだな、僕って……。
「分かった、ならもういいぜ」
言いながら、デメテルに視線を送るフォル。
「流星、こっちに来て」
優しい微笑みを浮かべたデメテルが両手を広げる。
「ほら、あ、アタシたち、もう付き合ってるんだから、こ、このくらい当然だろ?」
顔を真っ赤にしてフォルも腕を広げていた。
「……ありがとう、2人とも」
僕は迷わず、2人を片腕ずつ抱きしめた。強く、しっかりと。離さないように。
「もうこれっきりにしてよね?あんな悲しい思いはしたくないわ……」
「お試し期間はアタシたちが決めるからな?覚悟しろよな、ふふっ」
そう言うと、2人の女神さまがより一層抱き着いてきて、両頬にキスをくれた。
「一度に2人の美人女神からキスされるなんて、きっと天界始まって以来だぞ?」
「ほんとよね!流星、あなたからも……してほしいな」
もの凄く期待する顔の2人。そんな目で見られちゃ断れないな。恥ずかしかったけど、愛情を込めてそれぞれの頬にキスをした。
僕たち3人は顔を真っ赤にしながら再び、抱き締めあった。
「ありがとう。押し付けないって決めたけど、今は言ってもいいわよね?……大好きよ、流星」
「アタシも……大好き。だ、ダーリン」
「…………」
「…………」
「……おいっ。2人ともなんか言えよ。恥ずかしいだろ!?」
「あら?それ新しい冗談かと思ったわ」
珍しくちょっと悪そうな顔のデメテル。
「あ、いや、フォルがそんなこと言うなんて驚いちゃって……ごめんね。すっごく嬉しいよ」
ふん!とご機嫌斜めのフォル。あーぁ、拗ねちゃったかな……?
「本当に嬉しかったよ?ありがとね。僕もフォルのこと大好きだよ。お試しだけど、彼女になってくれて嬉しいな。ほんとだよ?」
僕から離れて腕組みをし、そっぽを向きながらも、耳はしっかりと聞いているようだ。
「ま、まぁ、そこまで言うならアタシも好きになってやっても――」
「ツンデレもいいけど、その間に私が流星、取っちゃうわよ?」
えへへ、と可愛く笑いながらも、しっかりと僕の正面をキープするデメテル。
「おいぃっー!?なにをドサクサに紛れてアタシの場所まで占領してんだ!右半分はアタシのだって決めただろ!?」
え?そんな取り決めいつの間にしてたの?僕、魚の開きじゃないんだから……。
「あ~ら?そうだったかしら?離れたからいいのかと思ったわ」
「なにぃ!?」
「ふふっ、冗談よ。早くこっちにいらっしゃい」
面食らった顔をしながらも、しょうがねえな、と呟いて、またしっかりと抱き着くフォル。なんだ?このコントは。いや、僕はいいんだけどね。
その時だった。部屋に聞き覚えのある音が響き渡ったのは。
「あれ?これって、もしかして……チャイムっぽくない?」
「誰か来たのかしら?」
「誰だ……?ここに家を建ててることは、限られた神にしか教えてないはずなんだけどな」
フォルの友達でも来たのかな……?
「はいはいっと」
玄関の扉を開けるフォル。そこにいたのは――
「フォル姉様!」
え?あの女の子は?まさか……!?
「「アルテミス!!」」
フォルとデメテルが同時に叫ぶ。やっぱり、アルテミスさまか!あの緩やかにウェーブのかかった黄金色の髪。見せてもらった写真の女の子そのままだ。でも、なんでここに?日本に転生してるはずじゃ……?
「な、なんでここに?まだ転生したばっかじゃないか」
「アルテミス!?転生はどうしたのよ!」
「お姉様!?どうしてここにいるの?」
アルテミスさまはデメテルもいることに驚いたのか、目を丸くしている。
「それはこっちの台詞よ!なぜ天界に戻ってるの?」
「あ……え~と、話せば長くなるんだけど、なんて言えば――」
「アルテミス?大丈夫?フォルさん、いた?」
外にいる人物が扉に手をかけながら、中に声を掛けてくる。顔は見えないが、その声には聞き覚えがあった。彼女に似ている。声を聞いた瞬間、まるで、何年も聞いていなかったような懐かしさが込み上げてきた。
明るく透き通るような、それでいて、少しだけ幼さの残る声。僕の知っている彼女の声とは少しだけ違う。でも、それは例えば、成長した彼女の声のように思えた。
僕の瞳からはいつの間にか、涙が溢れ出ていた。
ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
流星と女神様たちは、ついにお試しで付き合うことになったようです。
そして、とうとう流星たちの元へ訪れたアルテミス!
アルテミスがいると言うことは、彼女も……!?
次回も目が離せません!
どうか、ご期待下さい。




