24.楽しいパーティー
女神様たちとの楽しいパーティーが続きます!
パジャマパーティーって生まれて初めてだけど、凄く楽しいな。それに、デメテルもフォルも、僕の作ったクッキーを美味しそうに食べてくれてるし。気に入ってくれたみたいで良かった。
「このクッキーってやつ、ほんとに美味いなぁ!さっすが流星だぜ」
「ほんとね!通販で買ったおやつよりずっとずっと、何倍も美味しいわ!!」
「そ、そう?そんなこともないと思うけど、でも、ありがとね。フォルが材料くれたし、デメテルも足りないものを買ってくれたお陰だよ。こちらこそ、ありがと!」
作ったのは定番のものばかりだけど、日本でも人気のあるやつだから味は確かだと思う。チョコチップクッキーに、シンプルな味わいのタマゴボーロ。それに、サクサクした触感がたまらないアーモンドサブレだ。
「ねえ、流星ってどうして、こんなにお料理が得意なのかしら?」
クッキーを頬張りながら、デメテルが聞いてきた。
「そうだなぁ。日本にいた頃って、両親が仕事でほとんど家にいなかったんだよね。お金だけは置いてってくれたんだけどさ。最初は買ったものを食べてたんだけど、飽きてきちゃって……そのうち自分で作るようになったんだよ」
あの頃は僕もまだ、中学生くらいだったのかな。母さんの作るご飯が食べたかったけど、男の意地ってやつでそんなこと言えなかったもんな。正直、寂しかったけどね。
「ふーん……そうだったのか。じゃあ、寂しかったんじゃないか?」
聞きながら飲み物をついでくれたフォルは、少し慰めるような優しい目をしていた。
「うん。まあ、そうかも。その頃は僕もまだ子供だったしね。でも、自分で練習したから、今こうして色々と作れるようになったわけだから。良い経験だったんじゃないかな」
僕は、場の雰囲気が暗くならないように、わざと明るい声を出した。
「流星って偉いのね。それに、すごく努力してるし、尊敬しちゃうわ。私もお料理の練習しなくちゃね!」
「僕も付き合うからね?一緒にやろう?」
「あーっ!流星、アタシとの約束も忘れてないだろーな!?」
少しむくれた様子のフォル。
「大丈夫だよ。ちゃんと覚えてるからさ。パンだったよね?今度、時間見つけて作ろうよ」
「覚えてたんなら別にいいんだ。それに、なんたって、アタシには『なんでもお願いできる権利』が2回もあるんだからな!」
もの凄いドヤ顔のフォル。あーそれ、覚えてたんだね。豆腐アイスのあ~ん、はその1回に入ってなかったのか。まあ、僕のせいで落ち込ませちゃったんだから、仕方ないか。
「う、うん……それもちゃんと覚えてるから安心してよ。でも、あんまり無茶なのはダメだよ?」
「分かってるって!」
無邪気な笑顔で答えるフォルは、心底嬉しそうだった。
「流星、私もよ?1回だけど、お願い聞いてくれるんでしょう?」
今度はデメテルが控えめに聞いてきた。
「も、もちろんだよ。デメテルのお願いもちゃんと聞くからね?」
「ありがとう!何にしようかしら~!」
すっごく嬉しそうだ。はっ……そういえば、僕もお願い事聞いてくれるって話じゃなかった!?
「ね、ねぇ、2人も僕のお願いを何でも聞いてくれるって言ってたよね?ね!?」
「流星ってば……やっぱり、エッチだよな」
「流星、そういうのは2人っきりの時じゃないと、さすがにダメよ……?」
やっぱり!?……え?僕っていつの間にか、エッチなキャラに認定されてたのか。
「え!?い、いやいやいや。違うって!単にそうだったなーって思って聞いてみただけだって」
「ホントかぁ?それにしちゃ、何だか語尾が強かったぞ?」
ニタリと笑うフォルは、デメテルに同意を求めるように視線を送った。
「そうね。『何でも』ってところに力がこもってたわね」
「えぇー!そ、そうかなぁ……ソンナコトナイヨ?」
まいったな。完全に煩悩全開人って思われちゃったかな……?
「…………」
「…………」
「…………」
しばしの無言。あれ?2人とも黙っちゃった。なんか小刻みに震えてる……?
「ふふっ!ごめんね、流星」
「あっははっ!悪い悪い。ちょっとからかっただけさ」
僕が困ってると、2人が急に可笑しそうに笑いだし、種明かしをしてくれた。
「そーだったんだ?あーよかった」
「流星のお願いなら、何だってOKさ!」
「そうね!私もよ!……でも、エッチなのは本当に2人の時にしてね?恥ずかしいわ」
頬を染めながら、とんでもないことを言うデメテル。
「はは……そ、そんなことお願いで頼まないってば!」
僕たちは、顔を見合わせて思わず、吹き出してしまった。
「そういえば、聞きたいことがあるんだった!さっきお風呂に入ってる時、大きな音がしてさ、光の柱みたいなものが外に見えたんだ。あれって何か知ってる?雷とは違うような感じだったんだけどね。でも、音は雷に似てたかも?」
「そうなの?私、そんな音、全然気付かなかったわよ?フォルは?」
「いんや、アタシもだなぁ。風呂の時っていったら、アタシたちが話してる時か。この部屋だもんな、いたの」
え?あのもの凄い音が聞こえなかったんだ?
「結構、音が凄くてさ。ビックリしちゃったよ。2人にはなんで聞こえなかったんだろ?」
「あーもしかして、この部屋、窓もドアも閉めてたからか?この家って実は、プライベート空間を応用してるんだ。だから、閉め切っちまうと外の音を完全に遮断するんだよな」
「あら、それは良い工夫ね!私も自分の部屋にやってみようかしら?」
そんなことできるのか!神さまって色々と便利なんだなぁ。
「凄いことができるんだね!?だとしたら、それでかもね。聞こえなかったのは」
「たぶんな。でも、何なんだろうな?その光の柱って……」
「私もそんなの今まで見たことないわ」
2人とも知らないのか……なんでもなければいいんだけど。
「それも、レーア様に聞いてみるか。流星、それって風呂の窓から見たんだよな?」
「うん、そうだよ。窓から少し右の方向に見えたんだ。音は凄かったけど、光は割と遠くに見えたように感じたよ」
「だったら、街とは方向が少しずれてるわね。ほんと、何かしら?」
「まあ、ここで考えてても仕方ないさ。明日、レーア様に相談してみようぜ」
そうだね。2人に分からないことは僕にだって分からないし。デメテルのお母さん頼りになっちゃうけど、聞いてもらえたら嬉しいな。
「そうね、流星の魂のことと一緒に聞いてみましょう。じゃあ、はい!この話は終わりにして、何か別のことお話しましょうよ!せっかくのパジャマパーティーなんだもの」
ウキウキとあまりに楽しそうなデメテルに、フォルも僕も思わず、笑顔になって頷いた。
「ねえねえ、僕から聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「お!なんだ?何でも答えるぞ?」
「スリーサイズはまだ秘密よ?」
その流れはもういいってばっ!……興味あるけど。
「あはは……2人って幼馴染なんでしょ?いつからの知り合いなの?ずっと気になってたんだよね」
「あら、それは良い質問だわ。ふふっ」
「アタシらは親同士が仲良かったからな。物心ついた時にはもう一緒に遊んでたぜ。なぁ?」
「えぇ、そうね。あの頃が懐かしいわ~!まだ私たち、神としての使命なんて知らなかったものね」
そんな前からの付き合いだったのか。じゃあ、だいたい、3歳くらいからってことかな?神さまたちの年齢で言うと……約2000万年前ってこと!?凄いな!
「へ~!随分と長い付き合いなんだね!小っちゃい頃はどんなことして遊んでたの?」
「そうねぇ、私、木登りが得意だったわよ。あとは、川で魚と追いかけっこしたりとか楽しかったわね」
「追いかけっこって、そんな可愛い遊びじゃなかったけどな」
フォルがため息をつきながら、話を続けた。
「あのな、流星。デメテルの見た目に騙されるんじゃないぞ?あれはいつだ?……アルテミスと同い年くらいの時か。結構、おっきな川でさ、泳いでる魚を手掴みで捕まえたんだぜ?しかも、一度に片手で3匹ずつだ。信じられるか??川の神かっての」
「え!?そんなことできるの!?なんか……凄いね」
「ふふっ、そんなに褒めないでよ。2人とも~!」
「…………」
「…………」
僕とフォルはただ、黙ってデメテルに笑顔を返すのだった。
「そうそう!フォルも結構、凄かったのよ!神アカの時はね……って、神アカは正式名称『神アカデミー専門院』って言うの。アカデミー中等部の次に位置する所なんだけど、もの凄くモテたんだから!」
「そうなんだ?でも、それって分かるかも。フォルは気さくだし話してて楽しいし、モデルみたいに綺麗だもんね」
「あら、流星。私も、でしょ?」
「え?う、うん。もちろんだよ!で、デメテルもとっても綺麗だから、モテたんじゃない?」
いま一瞬、デメテルの目が怖かったような……もうあんまり、2人がいる時に片方だけ褒めるのは止めよう。
「デメテル、言わせるなよなー!流星、困ってるぞ?」
「あ~ら、ごめんあそばせ?おほほほほ」
また、なんかのキャラクターの真似かな?全く、分かんないけど。
「だ、大丈夫だよ。ありがとね、フォル。モテモテだなんて凄いね!」
「あ、あぁ。でも、下級生の女神たちにだけどな」
そういうことか。女の子同士でよくあるってやつかな。
「そうなんだ。でも、それでも慕われてるってのは良いことじゃないか。人気者だったんだね!」
そう言うと、まあな、と苦笑してフォルはカップに口を付けた。
「あれ?もうないか。えーっと……あと何があったっけか?」
亜空間に腕を突っ込んで何やら探すフォル。
「何探してるの?もしかして、飲み物?」
パジャマパーティーが始まる時に出してくれた飲み物はもう、全部飲み切ってしまったみたいだ。
「フォル、何か買いましょうか?私の亜空間にももう残ってないのよね。あ!水ようかんならあるわよ?」
デメテル……水ようかんはね、飲み物じゃないよ?分かるかな?
「いや……あーこれがあったか!大丈夫だ」
嬉しそうに取り出したもの。それは――
「ほら、これさ!ディオニュソスから貰ったのがあった!こいつは美味いぜ?」
「あら!いいわね~!いつの間にそんなもの貰うような仲になったの?彼、そんな社交的じゃないのに」
立派な瓶に入った葡萄酒だった。ディオ……なんだっけ?聞いたことないや。お酒の神さまなのかな?
「結構、前だけどさ、あいつが酒造りのことで困ってたんだ。ずっと天候が悪い時期があっただろ?それで、アタシが仕事柄知ってる、それぞれの季節の神と話したんだ。その時に仲を取り持ってやったんだぜ」
「それでなのね。彼の実家は、お酒造りの有名なところだものね」
「その、ディオ……え~と……」
「ディオニュソス、よ」
「ありがとう。そのディオニュソスさまってお酒の神さまなの?」
ちょっと言いにくい名前かも。でも、いつどこでお会いするか分からないもんな。ちゃんと覚えとかなきゃ。
「ああ、そうさ。葡萄酒以外も造ってるけど、やっぱ一番はなんたって葡萄酒だな」
一升瓶よりも二回りくらい大きめのそれを、テーブルにドンと置くフォル。
「彼はね、私たちと同級生だったのよ?」
「へぇ、そうなんだ。ほんとに色んな神さまがいらっしゃるんだね」
「そのうち、流星にも紹介するからな!天界で暮らすんだから、色んな神と知り合いになってた方がいいだろ?その方が絶対、楽しいぜ?」
「いいわね、それ!流星が私たちの友達とも仲良くなってくれたら、嬉しいわっ」
「うん!ありがとう、フォル!デメテルもありがとね!その時が楽しみだなー」
神さまを紹介してくれるって考えたら、凄いことだよね!迷子の魂扱いの僕とも仲良くしてもらえるのかな?友達にとまでは言わないけど、せめて挨拶をできるような関係になれたら嬉しいな。
――1時間後
僕たちはあれから、葡萄酒を堪能しつつ、色んな話題で盛り上がった。そして、いまはフォルがハマっているというアニメを、タブレットで観ているところだ。
「ねぇ、この赤いのはどうしてこんなに速く動けるのかしら?もの凄い勢いで敵を倒してくわよ?」
「そりゃ、赤いからさ!通常の3倍のスピードが出せるんだぜ?」
「そうなのね!凄いわ!そういえば、やけに赤いものね!?」
やけにって……うん、まぁそうだよね。赤いよね。楽しんでるようで何よりだ。女神さまたちにここまで熱心に観てもらえたら、制作会社も本望だよね。
――さらに1時間後
「きゃ~~~!これ、美味しいわね!あはっ!」
「で、デメテル、ちょっと飲みすぎだよ?大丈夫?」
「……完全に酔っぱらってるな、こりゃ」
デメテル、ぐびぐびと飲みまくってたもんな。あんなに顔を赤くして大丈夫かな。
「な~んでこんにゃに美味しいのかしら~?わかりませ~ん!私には全然、わかんにゃい!わけワカメ!あっははっ!瓶だけに、ガビーンって感じよねっ!」
「ね、ねぇ、フォル?共有してもらった言語の力がちゃんと機能しなくなっちゃったよ。言ってることが全く分からないんだけど、どうしよう……!?」
「……大丈夫だ。アタシにも分からないから」
ですよねー。僕たちは、お互いに大きなため息をついた。
――そして、さらに30分後
「ぅ……むにゃむにゃ……」
「デメテル、寝ちゃったね」
「ああ、きっと凄く楽しかったんだろうな。アタシもだけど。こんなに賑やかなのは久しぶりだ」
「僕も楽しかったよ。2人のお陰だね。ありがとう」
ほんとに楽しかったな。色んな話が聞けたしさ。デメテルやフォルのアカデミー時代のことや初仕事のこと、それに他の神さまたちのこともね。
「いや、アタシたちは大したことはしてないさ。全部、流星が作ってくれた縁のお陰さ」
「そうかな。僕の方こそ、ご飯とクッキー作ったくらいなんだけど……」
「謙虚だなぁ。ま、そこが流星らしいっちゃ流星らしいな」
そう言って、小さく笑うフォル。
「さて、それじゃ、アタシらも寝るか。もう随分といい時間になっちまったな。デメテルはアタシが責任持って寝かすからさ。流星は悪いけど、そこのソファ使ってくれるか?それ、ベッドにもなるんだぜ。」
そう言いながら、タオルケットを取り出して渡してくれた。
「うん、ありがとう。使わせてもらうね」
「よいしょ……と」
デメテルを器用におんぶするフォル。
「ドア開けるよ。寝室はこっち?」
「ああ、サンキュ。そこの隣の部屋だ」
寝室のドアも開けて2人を通す。それから、デメテルをベッドに寝かすのを手伝った。
「ん~……むにゃ……フォル……困ったら、私に言うのよ……お姉ちゃんが……ついてるからね……う、ううん……むにゃむにゃ」
「デメテル?」
「流星、しー。一旦、外に出よう」
促されて廊下に出る僕たち。
「さっきのお姉ちゃんって??」
「アタシ、自分で言うのもなんだけど、アカデミーの成績が優秀でさ。一部のやっかんだ神たちから嫌がらせを受けてたことがあったんだ……」
え……!
「それで、それを知ったデメテルがさ、アタシを庇ってくれたことがあったんだ」
「そうなんだ……」
「アルテミスがいるからか、アタシにまでお姉ちゃん風を吹かせてくるんだぜ?まったく、アタシの方が年上だってーのに」
そう言いながらも、嬉しそうな顔をするフォル。
「デメテルはさ、凄く優しいヤツなんだよ。ふふっ、こんなアタシでも気にかけて良くしてくれるしな」
「それはそうだよ。だって、フォルは性格の優しい良い神さまじゃないか。人である僕とだって仲良くしてくれるしさ。デメテルだって、フォルの良さを分かった上で大切に思ってるんだと思うよ?」
「……!?流星……ありがとな」
「うん……」
少し開けた窓から穏やかな風が入り込み、僕たちの体を心地よい感触が包み込んだ。
「ふっ……デメテルに悪いから、2人きりの時間はまた今度にするかな」
少しおどけた声のフォル。
「その時はお手柔らかにね?」
2人して声を出して笑いあう。
「おっと……それじゃ、ありがとな。明日は朝寝坊しようぜ」
軽く笑いながら話すフォル。彼女も眠そうだ。
「そうだね。僕も眠たいや。おやすみ、フォル」
「ああ、おやすみ。流星」
フォルを見送った後、窓を閉めようとして手を伸ばす。すると、星空の中にひと際目立つ、大きな丸い月が浮かんでいた。澄み切った光を放つその様は、見る者全てを圧倒するような美しさだった。
そうだ!月には不思議な力があるっていうし、願い事でもしとこうかな。天界の月ならきっと、効果もありそうだし。
「天界のお月さま、どうか、デメテルとフォルがいつまでも仲良く過ごせるようにお願いします。もし、僕がいるせいで2人が仲違いするようなことになったら……僕は自分が許せません。その時は、僕の存在を天界から消して下さい」
本気だった。心から願った。デメテルもフォルも大好きだ。2人にはいつまでも親友でいて欲しい。そのために、僕という存在が邪魔になるんだったら、消えてもいいと思った。
「……さ、もう寝ようかな」
満月に願いを呟き、窓を閉める。あれ?いま寝室のドアが閉まった音がしたような……?さっき、フォルが入った時、ちゃんと閉まってたように思ったけど。
まさか、聞かれた!?……そんな訳ないか。だって、ほとんど声に出さずに半分くらい心の中でお願いしたようなものだし。
そんなことを思いながら、さっきのリビングへ戻る。自分1人だけになった部屋は、さっきまでの明るい雰囲気とは裏腹に、なんだかとても暗く寒く感じた……。
今回もご覧くださって、ありがとうございます!
楽しいパジャマパーティーも終わってしまいました。
流星たちは存分に、楽しんだみたいですね!
女神様たちの過去のエピソードも少しずつ明かされました。
デメテルは意外と、活発だったんですね。
そして、最後に呟いた流星の願いですが、もしかしたら、聞かれていた!?
次回もぜひ、ご期待ください!




