23.勇気を出して
流星は、フォルの機嫌を直せるのでしょうか?(笑)
「ふぅ~……あ~気持ちいい」
死んじゃってからもこうしてお風呂に入れるなんて、まるで夢みたいだよ。それにしても、随分と広いなぁ。浴槽なんて、大人が10人くらいは入れそうだ。
しかも、これって……もしかしたら、檜なんじゃない!?木の爽やかな香りがして、なんだかとってもリラックスできるよ。最高のお風呂だね!窓も広くて開放感があるしさ。涼しい風が入ってきて気持ちいいな。こんな入り方、街中じゃできなかっただろうから、ここに建てて正解だったね。さすが、フォルだ。
窓から見える星の輝きが凄すぎる!雲一つない満天の星なんて、子供の頃の田舎のおばあちゃんち以来かも?この星の輝きは、あの時以上だよ。地球じゃ見られない景色を僕は見てるんだなぁ。
それにしても、フォルには悪いことしちゃった……元気づけるつもりが、まさかディスっちゃってたなんて。なんとか正気に戻して、謝り倒して、ようやく機嫌を直してくれたんだよね。
お陰で何でもお願い事を聞くってのを2つにされちゃったけど、僕のせいだから仕方ないな。豆腐アイスを、あ~んで食べさせるのは、ちょっと恥ずかしかったけどね。デメテルも、仕方ないわねって顔してたし、よっぽど、フォルの壊れっぷりを心配してたんだな。ほんとにごめんよ、2人とも。
今頃、2人で話してるのかな……?爆発音や揺れも全くないから、きっと、お話じゃなくて、本当に話してるんだろうけど。
僕の気持ちはどうなんだろう……?デメテルのことはもちろん、大事だ。じゃあ、フォルは?……それは――
「……!?」
その時、窓の外に光の柱が見え、遅れて大きな音が聞こえてきた。まるで、近くに雷が落ちたかのような爆音だ。驚いて一瞬、目をつむってしまったけど、慌てて光が見えた方向を見直す。すると、そこにはもう何も見えず、静寂と夜の闇が広がっているだけだった。
「……なんだったんだろう?」
一瞬だけ見えたあの光の柱……雷とはちょっと違うようだった。あとで、デメテルたちに聞いてみようかな。
◇◇◇
「あら、流星!お風呂上がったの?」
「どうだった?すげー気持ちよかっただろ?」
お風呂から出てリビングに行くと、2人に声を掛けられた。良かった。どうやら、険悪な雰囲気じゃないみたいだね。
「うん、とっても広くて最高のお風呂だったよ!フォル、ありがとう!」
「へへっ、気に入ったんなら良かったぜ」
「デメテルもパジャマ、買ってくれてありがとね。これ、着心地すごくいいね!」
僕のために通販でわざわざ買ってくれたパジャマ。淡いブルーのふんわりとした柔らかい生地に、チェックの柄が入っていた。
「いいのよ、それくらい。思った通り、とっても良く似合ってるわっ。それに、髪型もさっきと違うからかしら?なんだかドキドキしちゃう……」
デメテルがポーっと少し上気した顔で僕を見る。え?あぁ、一応、乾かしてきたんだけどな。髪がまだ濡れてるのかも。
「そ、そう?まあ、お風呂上がりだからね。いつもこんなもんだよ」
「!?……てことは、風呂あがりには毎日、こんなカッコい……んんっ!この姿の流星ってことなんだな!?な、ならさ、これから、ここに住むってのは――」
「フォル……!!それはさっき話し合ったでしょう!?抜け駆けはダメよ?またお話しちゃう?」
デメテルがすごい殺気をだしながら、フォルに問いかける。
「…………っ!!」
無言で首を横に振りまくるフォル。そうだよね、さっきのあれを1日に2回はキツいよね。なぜか、僕もつられて首を横に振るのだった。
「じゃ、じゃあさ、デメテルたちもお風呂に入っておいでよ。その間に、パジャマパーティー用のおやつを作っとくから」
お風呂入ってた間の2人の話を聞きたかったけど、そんな雰囲気じゃないな。僕は慌てて2人に促した。まあ、後で話してくれるって言ってたし、待ってた方がいいのかもね。
「そ、そうだな!よし!風呂にしようぜ?デメテル、先に入ってこいよ。な?」
にっこり笑顔で、デメテルにそう勧めるフォル。
「あら?私、あなたと一緒に入るつもりだったけど?」
それ以上に、にっこにこな笑顔でフォルに返すデメテル。
「え!?」
予想だにしなかった答えに愕然とするフォル。当然といった顔のデメテル。女神さまたちの洗いっこに妄想待ったなしの僕……洗いっこするとは言ってなかったかな?いや、言ってたような?……言ってた、かな?言ってた……と思う!!
「ふふっ、大丈夫よ。ただ、久しぶりに一緒に入りたかっただけよ。子供の頃はよく入ったじゃない?洗いっこだってしてたじゃないの」
緊張してるフォルに、柔らかい声で語りかけるデメテル。その表情は、子供の頃を思い出したのか、懐かしいような少し悪戯っこのような微笑みを浮かべていた。
ま、それはそれとして、やっぱり洗いっこするんだね!?よし!!
――1時間後
「……あ、あれ?僕、どうしてたんだろ?確か、デメテルたちがお風呂に入るって話してて、それで、洗いっこするって……」
いつの間にか、キッチンに移動してる!しかも、クッキーが出来てる!?なんで??もしかして、妄想してる間に作っちゃった!?……僕、とてつもない能力に目覚めてしまったのかな。なんか凄いな。凄いけど……変な人まっしぐらになりそうだから、気を付けよ。
「ふぃー!あー気持ちよかった。流星、出たぞー!」
ふぃーって、女神さまなのに。ははっ、フォルらしいな。
「おかえり!おやつのクッキー出来たよ!」
「おぉ!美味そうな匂いの正体はこれだったのか!脱衣所まで漂ってきてたぜ」
「ふふーん!上出来でしょ?」
ちょっと得意気な僕。
「そういえば、デメテルは?」
「ん?暑いからって向こうで少し涼んでるぜ」
「ふーん、まあ、お風呂上りって暑いもんね。つい、湯舟に入りすぎちゃうことってよくあるし」
「そうだな」
フォルと2人で笑いあう。
「…………」
「…………」
ふいに、途切れる会話。ふと、フォルを見る。湯上がりの彼女は、頬をほんのりと桜色に染めていた。その様子がなんとも艶かしく、僕は思わず見とれてしまう。普段の少し勝気な彼女とは別人のように思えた。
――綺麗だ
危うく、そう口に出しそうになったが、なんとか心に留めた。さっきから胸のドキドキが止まらない。フォルの方も僕をただ、黙って見つめていた。まるで、翡翠のような輝きを放つ深緑の瞳。その瞳までもが艶やかで、僕は目を奪われる。このまま、ずっと見つめていたかった。
「フォル……」
「流星……」
僕たちはいつの間にか、互いに寄り添っていた。2人とも目を逸らすことなく、見つめ続ける。すると、瞳を閉じて何事か呟き始めた。どうしたんだろう?
やがて、瞳を開く彼女。その表情は恥ずかしそうな、だけど、何かを決意したような意志を感じさせた。
「……流星……大好き」
「……!?」
その声は震えていた。あまりの恥ずかしさからか顔を真っ赤に染め、泣きそうになっているフォル。僕にそっと抱き着き、その顔を隠すように胸にうずめた。
――少しだけ、このままでいさせて
消え入りそうな声でささやく彼女に、僕はただ、静かに身を任せるしかなかった。オムライスに書いてくれた文字やその前の会話で、彼女の気持ちは分かっていた。いや、分かってるつもりになっていただけかも知れない。
実際、言葉で言われると、その純粋な想いがひしひしと伝わってくる。これは決して、蔑ろにしていいものじゃない。デメテルと同じように、フォルにも真摯に向き合わないといけないんだ。心からそう思った。
どれくらいそうしていたんだろう?デメテルがまだ戻ってこないことを考えると、数十秒足らずだったのかな。やがて、フォルが顔を上げた。そこには、スッキリした表情で僕を見上げるいつもの彼女がいた。
「ふぅ……緊張するな。へへっ。勇気の神に祈ったりして、アタシらしくなかったな」
「フォル……僕――」
「待った。いまは何も言わないでくれ。デメテルと約束したのに、早速、破っちまった。さっき、話し合ったんだけどな。あとで、デメテルに謝っとくよ」
そう話す彼女は、顔を曇らせ少し後ろめたい様子だった。
「ごめんね。僕の気持ちが曖昧なばっかりに、2人に迷惑かけて……」
「いや……アタシこそ、急にこんなことになっちまって、悪いと思ってる」
僕は自分の気持ちが分からなかった。デメテルは大事だ。フォルだって大事だ。でも、2人に対してそれは恋愛として?それとも、神さまへの敬愛?
「フォル、あのさ――」
「あ~暑かった……とっても気持ちいい風だったわ。流星たち、こっちにいたのね?2人ともお待たせ!」
話そうとした丁度その時、デメテルがキッチンに姿を見せた。よく涼んできたのか、とても気持ちの良さそうな表情だ。
「お、おかえり!デメテル」
「だ、大丈夫か?のぼせちまったんじゃないか?なんか冷たいものでも飲んだ方がいいぞ?」
少し慌てた様子で言いながら、亜空間からコップを取り出して渡すフォル。もう中身が入ってるようだ。
「ありがとう!もう喉カラカラだったのよっ!……はぁっ、生き返る~!」
女神さまも、そういうこと言うんだね。なんだかホントに人みたいだ。デメテルが一息ついたところを見計らって、フォルが話しかけようとしていた。さっきのことかな?
「あ、あのさ……デメテル、ごめん。実はさっきなんだけど、アタシ、流星に――」
「デメテル!僕――」
そこまで言って僕たちは、それ以上、言葉を言えなかった。デメテルが人差し指を僕たちの口に当てたのだ。
「分かってるわ。いいのよ。もし、黙ったままだったら、またお話をするところだったけど、正直に話そうとしてくれたんでしょう?なら、いいわ。流星もありがとう」
優しい声で話すデメテルは、フォルと僕を交互に見て、言葉を続けた。
「私ね、フォルに流星のことが好きなのか確認したの。答えはもう分かってたんだけど、一応ね。そしたら、今迄見たことのない乙女な顔で、流星の良いところをたくさん話し出すのよ?」
フォルをちらりと見ると、顔が真っ赤になってた。
「しかもよ?好きじゃなくて、大好きだ!なんて言うから、私も大好きなんだからね!?って応戦したの!」
僕もなんだか、顔が熱くなってきたな。嬉しいけど、聞いててすっごく恥ずかしいや。フォルはどうなったかな……?さっきよりもさらに真っ赤っかになってる!彼女は震えながら恥ずかしそうに両手で顔を覆っていた。
「それでね?私たち、流星の気持ちを大切にしましょうって話し合ったの。自分たちの気持ちを押し付けないって決めたのよ。流星には、自分の心に正直になって私たちのことを選んでほしいもの」
穏やかな表情で話す彼女は、優しい瞳で僕を見つめた。次いで、フォルに視線を向け、口を開く。
「流星に告白はできたんでしょう?」
「……デメテル!?知ってたのか?」
「デメテル、フォルは――」
「ううん、怒ってるんじゃないのよ。私、フォルと公正でいたいの。だから、時間をあげたの。でも、だからって、譲るつもりは毛頭ないわよ!?負けを覚悟なさい!!」
そう宣言するデメテルの瞳は、とても力強く自信に満ち溢れていた。
「望むところだ!アタシだって、この気持ちは大事だ。誰にも負けない!流星の……か、か、彼女はアタシがなる!」
フォルの彼女宣言に、デメテルはちょっと驚いてるみたいだ。でも、どことなく嬉しそうに笑ってる。
「デメテル、フォル、こんなに想ってくれて、本当にありがとう。でも……もう少しだけ時間が欲しいんだ。わがまま言ってごめん。自分勝手でごめん。きっと、自分の正直な気持ちを見つけ出すから!だから……どうか、待ってて欲しい!」
僕は、この世もあの世も含めた世界で一番の幸せ者だな。こんなにも優しくて思いやりがある、素敵な女神さまたちに想ってもらえるなんて。2人の気持ちを大切にしよう。僕の本当の気持ちを必ず、見つけよう。きっと……!
2人は静かに頷くと顔を見合わせ、僕に抱き着いてきた。
「きっとよ……?」
「待ってるからな」
「……うん、必ず」
僕たちはお互いを慈しむように、想いを確認し合うように、しっかりと抱きしめ合った。
――そして
僕たちはくつろげるようにと、ソファのあるリビングへ移動した。夜のお楽しみ、パジャマパーティーをするためだ。
「やったぜっ!!待ちに待ったパジャマパーティーだ!」
「流星とこんな時間を過ごせるなんて、夢みたいだわっ!もちろん、フォルもよ?ふふっ」
2人とも子供みたいに大はしゃぎだ。なんだか、僕まで嬉しくなっちゃうよ。テーブルには、さっき作ったクッキーと、フォルが出してくれた飲み物各種が勢揃い。あと、デメテルも自分の亜空間からおやつを色々と出して並べてくれた。
そのオムライスは……デメテル専用だね?うん、分かるよ。誰が見たって。
「さぁ、どんどん食べて飲もうぜ!」
フォルがそう宣言?してパーティーが始まった。
「フォル?さっき、あなたの亜空間にちらっと見えたんだけど、あの本たちは何なの?左の方にあったじゃない?きちんと揃えて置いてあったから、気になったのよね」
「あーあれか。あれな、アルテミスが転生する前にアタシんとこ寄ってくれてさ。ログハウスじゃなくてオフィスの方な?貸してくれたんだよ。ほら、これ」
そう話すと、いくつかの本を取り出すフォル。どうやら、マンガみたいだ。アルテミス様ってフォルと仲良いんだね。
「あら、そうなの?あの子ったら、またお母様におねだりしたのね!しょうがない子ねっ」
若干、咎めるような声を出すも、嬉々とした表情でパラパラとめくるデメテル。目がすっごくキラキラしだしたな。
「それ、少女マンガじゃない?読んだことはないけど、絵柄がもろにそうだもんね」
「あーそうだな。確か、地球の通販で買ってもらったとか言ってたな。ほら、流星のいた日本で流行ってるらしいぞ?アタシも読んだけど、結構、ハマるな」
フォルも楽しそうだ。2人とも地球の文化のこと好きになってくれてて、なんだか嬉しいな。
「なんていうタイトルなの?」
既に読み始めて、ページをめくるデメテルに聞く。
「え?あ、ごめんさい、つい、読んじゃってたわ。えっとね……『神様の恋愛』かしら?」
「あぁ、違う違う。それはシリーズの名前さ。『神様の恋愛シリーズ』、略して『神恋』って言うんだ」
「へぇ、そうなんだ。詳しいね、フォル」
「あぁ!なんたって、アルテミスからアタシたちくらいの年齢に大人気の作品だからな!これ、いま実写映画化の話も出てるらしいぜ!?」
……ちょっと詳し過ぎない!?なんで日本のものなのに、僕より詳しいんだろうか?
「タイトルはこれさ」
フォルがデメテルからマンガを受け取る。
「ちょっと長いんだよな。えーと……『神様だってドキドキしたい!恋の流れ星で気になる彼を狙い撃ち!?』だな」
凄いタイトルだな!?意味が全く分からないよ……。
「あら!とっても面白そうじゃない!?こっちの本も同じなのかしら?」
ウキウキ笑顔のデメテルが、そばにある他の本をフォルに見せる。
「それは今のと同じ『神恋』だけど、また違うエピソードのやつだな。全部で20作もあるんだぜ」
「人気作品なんだね!?僕、日本にいたのに全然、知らなかったよ。デメテルが持ってるやつは、なんていうタイトルなの?」
「え~っとね……『神様だってラブラブしたい!愛の星が憧れの先輩に降り注ぐ!?』って書いてあるわ」
せ、先輩!先輩、逃げてーーっっ!!早く逃げてっ!?メテオが!……メテオが来ちゃうからっ!!これ、先輩も先輩以外も大惨事確定じゃない!?
「……凄すぎて言葉が出ないよ」
「だろ!?凄く面白そうだろ!?」
「私も読みたいわ、これ!」
興奮気味のフォルとデメテル。僕の言った、凄いはそういう意味じゃないんだけどね。
あれ!?そういえば、シューティングスターとメテオだって?まさか、アルテミス様……能力の呪文、このマンガを参考にしてない?してるよね?絶対。
今回も読んで頂き、ありがとうございます。
ついに、フォルが告白しました。
流星の気持ちはどう変化するのでしょうか?
デメテルとフォル、そして、流星、それぞれの想いが
ゆっくりと動き出します。
次回もパジャマパーティーが続きます。
どうぞ、ご期待下さい!




