2.ギャル?とのお茶会
ストーリー展開としてはそんなにぐいぐい進みませんが、読んで頂ければ幸いです。
……あの子猫、助かったかな……千秋はどうしただろう?早く起きなきゃ……僕はここだよって安心させてあげなきゃ。
どれ程眠っていたのだろうか?とてつもなく長かったような、それでいて一瞬だったような気もするし。僕はそんなことを考えながら目が覚めた。
どこだろ、ここ……?真っ白で何もない空間が広がってる。でも、不思議と落ち着く感じがするな。ぼんやりとここがどこか考えていた時、突然、前方の空間に大きな扉が現れた。
そして、一人の女性がこちらに向かって手を大きく振りながらやってきた。あの人は……?なんだかちょっとギャルっぽいな。
「やっほ~!!もう目が覚めたのね!よかったぁ。どう?体、綺麗に復元できてるでしょ?イタイとこない??もう~お姉さん、とっても頑張っちゃったんだからね!」
「え?あの……ここはどこなんですか?病院ですか?あなたはお医者さん?……には見えないですけど。僕、トラックにはねられましたよね?あの後、どうなったんですか?」
そのギャルは、天を仰いでちょっと困ったような感じで話し始めた。
「あ~……う~んとね、何から話せばいいかしら……うん、とりあえず座って話しましょ?」
そう言うと、ギャルは不思議な舞のような仕草をしだした。すると、目の前に光が現れ、中からソファとテーブルを取り出した。
しかも、ご丁寧に、上品な奥様方が使うようなティーセットまである。
「!?……な……いまどこから!??」
「一緒にお茶、飲まない?地球の紅茶ってホント、美味しいわよね~!私、大好きなの」
突然、ソファやティーセットが出てきて驚く僕を無視して、事を進めるギャル。何者なんだろ?……ていうか、さっき、地球の紅茶って言った?地球のってどういうことだろ??
優雅な所作でお茶を入れてくれるその姿は、どこかの貴族のお姫様みたいに思えた。気品に満ち溢れていて神々しささえ感じる。ほんと恰好はギャルっぽいけど……。
「さ、流星君、座って座って!飲も飲も!」
「…………」
「あれ?お~い!流星君?……りゅうせいく~んっ!!」
「ハッ……!」
「ふふっ。大丈夫?ビックリしちゃった?ごめんね……目が覚めたらいきなり知らないトコにいたんだもんね。それに、わけわかんない女の人に話しかけられても困っちゃうわよね」
そのギャルはすまなそうに目を伏せていた。でも、とっても優しい声だった。確かに色々、分からないことだらけだ。なんで僕の名前を知ってるのかとか、ここの場所も目の前のギャルも謎だらけで不安すぎる。
でも……最初に目が覚めた時に感じた、あの落ち着く気持ちは、なんとなくこのギャルから漂ってる気がするな。
ふぅ……とりあえず、話を聞かないと何も分からないよね。もしかしてだけど、僕……死んじゃってるのかも知れない……なんとなくだけど、そんな気がする。どう考えたって、さっきのは魔法?みたいだったし。ここ、地球じゃなさそう。
てことは、このギャル、天使なのかな?こんなに綺麗で優しそうなギャル天使がいるなら、もしかしたら天国なのかもね。
「私、天使じゃないわよ?でも綺麗だって思ってくれてるのね。お姉さん、とっても嬉しいわ」
「……声に出てましたか?」
「ううん、流星君が強く感じてることをそのまま読み取っただけ。あ、心の中を全部読めるってわけじゃないから、そこは安心してね?」
「なんと言って表現したらいいか分かりませんが、分かりました」
「それよりも、ほ~ら!飲みながらお話しましょ」
「はい、失礼します」
ソファに座った僕に、にこにこしながら紅茶を勧めてくれた。
「はあ……おいしいです。あったかくてポカポカします」
この場面だけ見ると、普通に普段の生活の中にいるような感じがするな。バイトのない日は、大学の帰りによく千秋と待ち合わせてお茶してたっけ。なんだかとっても遠い昔のような感じがする……。
「どう?少しは落ち着いた?……じゃ、話す前にちょっと確認させてね?あなたは、天井流星君よね?」
「はい、そうです」
「じゃ、改めて挨拶させて頂戴ね。初めまして、流星君。私はデメテルよ。これでも、れっきとした神なんだから。エッヘン!どう!凄いでしょ~っ!!」
腰に手を当てて、豊かなたわわを主張……んんっ、胸を張りドヤ顔するギャル、いえ失礼、女神さま。
「神さまだったんですか!?本当に神さまっていらっしゃったんですね!驚きました。それに、僕、初めてお会いしました」
「まあ、大抵の人は私たちに会った事ないわよね。でも流星君、驚いたって言ってる割には、凄く落ち着いてるのね?偉いわぁ!いいコいいコ」
女神さまがぐっと近寄ってきて頭をなでなでされた。照れちゃうな。
「そ、それで女神さまがここにいるってことは、やっぱり僕、死んじゃったんですか?」
「……ええ、そうなのよ。ごめんなさいね、アルテミスのためにこんなことになってしまって」
「アルテミス……?」
「えと、流星君は地球の日本所属で、ここで目が覚める前はパン屋さんからの帰りだったのよね?……あら?アルテミスってお店なの!?まぁ!妹と同じ名前よ!ふふ、なんだか親近感湧いちゃうじゃない」
何かの書類を見ながら声を上げる女神さま。あの書類なんだろ?それに、妹……?
「でね、そのアルテミスなんだけど、あ、私の妹ね?流星君、車に轢かれそうになった子猫を助けてくれたでしょう?あの子が妹のアルテミスだったのよ。助けてくれてありがとう。心から感謝するわ」
……えぇ!?
「ど、どういうことですか……??」
「えっとね、私たち神は、地球を含めた数多の星々の運命を見守ったり、時には良い方向に導くために手助けしたりしてるのね。でも、流星君たち人間が考えてるように、最初から何でもできる存在じゃないのよ。そこで、私たちは神として成長するために【転生】と【新生】を繰り返すの」
転生は最近、よく物語に登場したりしてるけど、新生ってなんだろ??
「転生ですか?あのよく異世界に行くってやつですよね?でも、新生って……?」
「そうそう!よく知ってるわね!で、【新生】なんだけど、下界の世界にいる神が成長してこっちに戻ってくることを言うのよ」
「つまり、こっちの天国から」
「ここ、天国じゃないわよ?天界ね。天国と地獄の間にある、いわば中継地点ってところね。ほら、あの扉の向こうにオフィスもあるわよ」
そう言って、女神さまが最初に登場した扉を指差す。オフィスがあるんだ……まあ、深いことは考えないようにしよ。
「神さまとして成長するために、天界から下の世界に行くことが【転生】、無事に成長して天界に戻ってくることを【新生】って言うんですね?」
「ええ、そうよ。それで、アルテミスなんだけど、あの子は今、地球に転生中なのよ。それで、転生してる仮の姿があの子猫だったってわけなの」
「そうだったんですか……でも、あの時、助かったんですよね?それだったら、むしろ、アルテミスさまを偶然とはいえ、助けられて良かったです」
「流星君……優しいのね、ありがとう。も~う、お姉さん、感激しちゃったわっ!」
ギュッと抱きしめてくる女神さま。嬉しいんだけど、わっ、胸が当たってるよ。おぉ、この弾力は……!?ぷるんぷるんだ。さすが女神さま!素晴らしいメロンをお持ちです。
そういえば、千秋はどうしたのかな……無事だったかな。心配になってきたよ。決して、いまのぷるんぷるんで千秋を思い出したわけじゃないよ?
「女神さま、そういえば、アルテミスさまを助けた時に、すぐ側に女の子がいたはずなんですけど、彼女はどうなったんですか?」
「あ、千秋ちゃんね?千秋ちゃんなら無事よ。流星君が道路に飛び出してくれた時、巻き込まないように無意識に歩道側に押してたみたいね。そのお陰で千秋ちゃんはかすり傷一つ負ってないわ」
「ほんとですか!?あぁ、良かった。本当に良かったです」
千秋が無事で本当に良かった。もう会えないのは寂しいけど、僕の命でアルテミスさまも千秋も無事だったんだからいいよね?まあ、やりたいことはあったんだけど、仕方ないかな。
「流星君が妹を助けてくれてほんっと良かったわ!転生中だと、私たちってここにいる時と比べて神としての力は弱くなっちゃうのよ。ごくたま~に事故に巻き込まれたりして死んじゃったりすることもあるんだけどね」
えっ!そうなのか。転生してる神さまって無敵とかじゃないんだ!?まあ、でも、無敵だとそれはそれで不都合があるのかも知れないな。
「そうすると、神格……人でいう魂みたいなものね。神格は再生できるんだけど、天界に戻ってくるまでに万単位の年数がかかっちゃうの。だから、もしアルテミスが死んじゃってたら、次会えるのがものすご~っく先になっちゃうところだったのよ」
「そうだったんですね、なら、なおさらお役に立てて良かったです」
神さまたちも近しい間柄に会えないのは、悲しいんだね。僕たち、人間と同じなんだな。
「優しいのね、ありがとう。それに、私たちってそれぞれの役割というか使命があるの。もし、ある事象が起きてもその担当神がいなかった時だったら、大変なことになるのよ。ほら、私たちって世界の運命に関わるおシゴトでしょ?だから、【転生】と【新生】することは、超重要事項なのよ!」
「そ。そうなんですね。女神さまたちも大変なんですね」
「そうなのよ!分かってくれる!?ホントいいコね!お姉さん、嬉しくて泣いちゃうぞっ」
ギュッ!たぷんたぷん、ゆっさゆっさ!……や、柔らかいっ。幸せって案外、身近なところにあるんだね。
僕、死んじゃったけど、幸せ、見つけたよ。
「あの、女神さま?女神さまたちって具体的にどんなことをして世界を見守ってらっしゃるんですか?」
「あら、気になる?気になるのね!?え~知りたいの?どうしても知りたいのね!?そこまで言うなら、ト・ク・ベ・ツ!教えちゃうわね!なんたって、アルテミスの恩人だものね」
ははは……そこまで言ってないけど、まあいいか。
「私たち神はね、その神固有の能力があるのよ」
「固有の能力……ですか?」
「そうよ。ほら、地球にゲームってあるじゃない?あれにスキルとかアビリティとかあって敵を倒したりしてるじゃない?あれと同じような感じよ」
「よくご存じですね。地球のことというか、人間の生活のことはどうやって知るんですか?」
「あら、簡単よ?通販で地球の物がある程度、買えるのよ。地球の物ってホント、便利よね!質も高いのもポイント高いわ!」
女神さま、テンション高っ!
「お風呂入る時、いつも地球の、特に日本製のシャンプーやコンディショナーを使ってるのよ。それに、化粧品も良いのが揃ってるのが最高よね!買う時、いっつもどれが良いか迷っちゃうわ」
天界ってそんなことできるんだ?全然、知らなかった……結構、人間みたいな生活してるのかも?
「天界のシステムって凄いんですね。ていうか、凄すぎです!」
「システムの担当神が地球贔屓なのよ。でも、そのお陰で天界は助かってるんだけどね。パソコンも大分、新しいものに買い替えたってこないだ聞いたわ」
パソコンもあるのか。さっき見てたその書類、プリンターで印刷してきたのかな。普通に企業みたいだ。なんか凄いな、天界って。
……あ、これ裏紙使ってる。
「まあ、何でもって訳にはいかないんだけど、私も好きなものが買えるし、神だって甘いものも食べたいしお洒落もしたいのよ」
胸元に光る可愛らしいハート型のアクセサリーを触って、嬉しそうに話す女神さま。その柔らかい表情になんだか凄く親しみを感じてきたよ。
なんだ、こうして見ると、地球の人間の女の子と変わらないな。お洒落好きな普通の女の子だね。なんだかホッとしたよ。
今回も読んで下さって、ありがとうございます。
感想などお待ちしています。
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