19.妄想爆発と、フォルの想い
お泊りパーティーに向けた準備開始……!?
誰かと一緒に料理をするのって楽しいよね。みんなで作って一緒に食べると、美味しさも一味、違うもんな。死んじゃったはずなのに、またこうして賑やかにワイワイできるのってホント、嬉しいよ。
さて、お腹を空かせた女神さまたちが待ってる!気合い入れなきゃね!
「じゃ、早速だけど、始めるね?キッチンはこっちでいいの?」
「ああ!そこの廊下を行った先だ」
「なんだか、わくわくするわねっ」
2人ともすっごく嬉しそうだ。大人しく待ってなんていられないって感じだね。
「そうだ!せっかくだから、2人にも手伝ってもらいたいんだけど、どうする?」
「えぇ!もちろんよ!」
「こんなオイシイ機会、滅多にないからな!やれることなら何でもやるさ」
そう言うと思った。だって、2人の目がもの凄くキラキラしてるもんな。ん?フォルが亜空間に半身乗り出して、なにやら探してるみたいだ。何やってんだろ?
「フォル、どうしたの?食材?」
「んー?あーそれもだけど、その前に料理といったらこれだろ?」
じゃーん!と効果音声付きで取り出したのは――
「あら!素敵ね~!いつの間に、こんな素敵なの用意してたの?」
「いいだろ?元々、アタシ用のはあったんだけど、いつか使うような気がしてさ、何枚か買っといたんだ」
楽しそうな顔でフォルが手に持ってるもの、それはエプロンだった。
「へ~よくあったね!凄いや。フォル、ありがとう!」
「これも、直感のお陰さ」
えへへ、と得意そうに笑い、渡してくれたのは、青を基調としたシンプルなデザインのエプロンだった。
どこまでも広く澄み渡る空を表したような、スカイブルーの明るい青。そして、だんだんと深く濃い紺碧へと変わるグラデーションが、とても鮮やかだった。胸元にはワンポイントの白い模様が描かれており、まるで、のんびり屋の雲が空の散歩を楽しんでいるような、そんなイメージに思えた。
「流星のそれ、素敵ね~!きっと、よく似合うわよ!フォル、センス良いわね」
「そうだろそうだろ?そんで……はいよ、これがデメテルのな」
「わぁ~っ!可愛いっ、私、こういうの好きなのよね!ありがとう、フォル!」
デメテルが受け取ったのは、淡いピンク色のエプロンだった。彼女は早速、広げてみると、弾んだ声を上げてウキウキと着け始めた。
大きなハートマークがあちこちにあしらわれ、乙女チックで愛らしさ全開だ。
「どうかしら?ちょっと可愛すぎないかしら……?」
腰まで伸ばした長い髪をきちんと一つにまとめ、その場でくるりと一回転する彼女。その初々しい姿はとても新鮮で正直、ずっと見ていたいくらいだ。
「とってもよく似合うよ!可愛すぎてビックリしちゃった。エプロンも素敵だけど、着けると元々、美人なのに更に愛らしい感じがプラスされて、より魅力的だよ!思わず見惚れちゃった」
本心のまま褒めると、嬉しそうに頬を染めて、くねくねと身をよじらせるデメテル。上目遣いに微笑む彼女は、本当に可憐という言葉がよく似合った。
「ほんとだよ?いま着てるギャルっぽい服も似合うけど、ハートとか可愛らしい系もデメテルの雰囲気にピッタリだもん。こうして並んでエプロン着けてると、なんだか結婚してるみたいだね」
「~~~~っっ!?もう、やだぁっ!流星ってば、そんないきなりだなんて……!大胆なんだからぁっ!『僕と結婚してくれ』だなんて……急すぎるわよ!?」
……え?なんだって?
「あ、あの……デメテル?そんなこと言ってないんだけど……」
「フォルが見てるのに……恥ずかしいわ。いやんいやん……ふふっ……ケッコンケッコン……いやぁんっ」
かつてない程、顔を真っ赤にして照れまくるデメテル。そして、くねくねも更に激しいものと化していた。確かに、結婚の単語は言ったけど……言ったけどさ。
どうしたものかと考えていると、後ろから唐突に肩をトントンと叩かれた。
「流星、どうだ?アタシも着けてみたぜ?……へ、変じゃないか?」
そこには、エプロン姿のフォルが顔を紅潮させて立っていた。胸の前で手をもじもじさせながら、上目遣いでジーッと見てくる。
「か、可愛い……!」
そのエプロンは乳白色のレースをベースに、可愛いらしいフリルがふんだんに施されていた。肩紐や前面のポケット周りにもフリルがあり、可愛さにクラシカルな雰囲気を合わせたようなデザインだった。
「フォル、すっごく似合うね!なんて可愛いんだ!フォルってどっちかっていうと、クールでカッコイイ感じがしてたからさ、驚いちゃった」
「そ、そんなに褒めるなよなー!いくらアタシでも恥ずかしいってばっ!いや、まいったなー!」
頬を染めながら嬉しそうにくるくる回って、エプロン姿を見せてくれるフォル。
「フォルがもし、将来を決めた人と同棲したら、毎日、こんな可愛いらしい姿が見られるのかな。羨ましいな」
「……!!?りゅ、流星、デメテルがそこにいるのに、マズいってー!」
あれ……?な、なに?どうしたのかな……?なんだか既視感が……。
「いきなり、そんな……さすがのアタシでも困っちゃうって!『いますぐ同棲したい』だなんてさー!まだ告白もしてないのに……困っちゃうなーっ」
フォル、同じ事言わないで……そんなこと言ってないよね?そりゃ、同棲って言葉は言ったよ?……言ったけどさ。
「そりゃあ、アタシだって、流星のことカッコイイなって思ってるさ。それに、こんなアタシでも自然体で接してくれるし……すごく褒めてくれて優しいし。でもでも、こ、こういうことはもっと、順序を大事にした方がいいっていうかさー!あ、べ、別にイヤってわけじゃないからな?それに、もし、流星がどうしてもって言うなら……もうっ、アタシに何言わせてんだよー!」
照れと興奮のためか、もの凄い早口でなんだか聞いちゃいけないことを言ってくるフォル。照れ隠しにバシバシと叩かれてる背中がとっても痛いんですが。
そして、いつの間にか、腕が掴まれていて動けないし。力、強っ!
「流星、アタシのこと、好きになっちゃったのかー?ふふっ……こういうのはもっと、2人っきりの時に言ってくれないとダメなんだぞ?そしたら、アタシだって……可愛いヤツめ。全くしょうがないなぁ。あははーっ」
そう言って、よりピタッとくっついてくるフォル。も、桃が……天然の桃が……!
「ちょ、ちょっと!落ち着いて!ね?冷静になろ?で、デメテル!デメテル、聞こえる!?フォルが……」
妄想から覚めたであろうデメテルを必死に呼ぶ僕の声に、彼女は――
「いやぁん……りゅうせい、まだお付き合いしてないのにぃ、ダメだったらぁ……」
……全く、覚めてなかった。2人の女神さまが妄想爆発させてる。僕の時もこんな感じだったのかな?第三者視点で見ると、かなり恥ずかしいんだね。僕も気を付けないと。
デメテル、自分で自分を抱きしめて、くねくねしてる……あ、激しくなっちゃった。フォルは……ダメだ。腕を離してくれそうもないや。仕方がない。まずは、フォルからだね。何とかしなくちゃ!
「フォル?聞こえる?大丈夫??」
「んー?もっとギュッてしてほしいのか?全く、アタシがいないとダメだなぁ。でも、デメテルがいるのに、どうすんのさー?アタシ、もう自分の気持ち、隠さなくていいか?隠さないからなー?りゅうせい……アタシぃ、結構、尽くすタイプだからなー?大事にしてくんなくちゃメッだぞ?……ふふっ」
こっちも悶え方が激しくなってるな。それにしても、フォルが僕のことを……?いやいや、いまはそれよりも、2人を正気に戻さなくちゃ!ほんとは気安く女の人に触ったりしたらダメなんだけど……ごめん!
「フォル!落ち着いて!」
腕を無理やり引き離して、彼女の正面に立ち、腰に軽く触れて少しだけ強く引き寄せた。
「……きゃっ!?」
「……大丈夫?僕のこと、分かる?」
「あ……りゅ、流星!アタシ、どうしてたんだろ……?なんだかすごく夢心地だ……ふわふわしてたカンジがする」
良かった!もう大丈夫みたいだね。
「フォル、心配したよ。でも、正気に戻ってくれて本当に良かったよ!」
「もしかして、アタシ……おかしくなってたのか?悪い……流星に褒められて、ちょっと舞い上がっちまってたみたいだ」
ふ~……ほんとにどうなることかと思ったよ。
「あ、あのさ……流星……」
「ん?どうしたの?」
「そ、その……こ、腰……」
ん……?やばっ!抱き寄せたままだった……!
「ご、ごめん!ほんとにごめんね!」
慌てて離れ、必死に謝る僕。
「…………」
反応がない。まずいなぁ……そんなに怒らせちゃったのかな?そんな風に思いながら、下げた頭をゆっくりと上げてフォルを見る。
「そんなに謝らなくたっていいって。ぜ、全然、イヤじゃなかったしさ……ふふっ」
ホッ……良かった。怒ってないみたいだ。顔を赤らめながら、上目遣いで僕を見つめる彼女。いつものクールな雰囲気とは違って、とても愛らしい表情が印象的だった。
「可愛い……」
「えっ?」
しまった……!思ってることが勝手に……。
「あ、いや、ごめん!つ、つい……」
「本当か?」
「え……?」
「いま言ったことは本当か?」
「うん……ほんとだよ。思ってなかったら嘘でも、可愛いなんて言わないよ」
「普段、そんなこと言われたことなくてさ……アタシ、自分でも男っぽいと思ってるんだ。ガサツだし、デメテルみたいに全然、優しくもないし……だから、流星がそんな風に思ってくれてるなんて、なんだかとっても嬉しいんだ。ありがとな……」
いつもの明るさは消え、やや緊張気味に話す彼女。その顔は恥ずかしそうに笑っていたけど、なにか吹っ切れたような感じにも見えた。
「フォルはさ……カッコ良くもあるけど、可愛らしいところもあるよ?さっきの照れた笑顔も、そのエプロン姿もね。とっても可愛いし素敵だと思う。それに、味噌汁もすごく美味しかったし、神さまの能力だって素晴らしいじゃないか」
「流星……」
フォルはちょっと気が強そうで、自分に自信があるように見える。だから、全然、悩みなんかとは無縁なんだと思ってたよ。でも、コンプレックスもあるし、色々と悩んだりするんだね。
僕は、そんな彼女の手を、自分でも気が付かないうちに握っていた。
「ほら、僕に直感の能力を分けてくれたじゃない?それだって、フォルの優しいところだよ?だから、もっと自分に自信持っていいと思う。凄く魅力的なんだからさ。ね?」
「だ、だったら……流星、アタシのこと、異性として見てくれないか?」
「……!?」
「知り合ったばかりなのに、いきなりごめん。でも……さっき、抱き寄せられてさ、思ったんだ。あぁ、この温かい気持ちは、やっぱりアタシ、恋してたんだなって。アンタといると、胸がドキドキして締め付けられるんだ。少しでいい、デメテルに向けてる笑顔をアタシにも分けて欲しい……かな」
フォルはそう言うと、あはは、と照れ隠しに小さく笑った。僕は迷いながらも無下にはできず、ゆっくりと頷いた。それを見て、彼女は赤い顔をさらに紅潮させ、下を向いてしまった。
――ありがと……
消え入りそうな声で呟いたフォルの言葉が、何故か耳に残って離れなかった。
フォル……僕は……。
「そうだ!デメテルはどうしたんだ?こんなとこを見られたら、またズタボロにされちまう……!」
……!?フォルの意外な魅力を目の当たりにして、つい忘れてたよ。僕たちは慌ててデメテルの方を見た。すると――
「ね~ぇ、りゅうせい~?式はどうするぅ?私はやっぱり、挙げたいな~」
……まだ妄想中だった。聞こえてくる独り言が、かなり反応しにくいけど。
「なぁ、アタシもあんなんだったのか……?」
フォルが恥ずかしそうな顔と、若干、震える声で聞いてくる。
「うん……まあね」
そう答えると、あまりの恥ずかしさからか、顔を両手で隠してしまい、しゃがみ込んでしまった。完全に戦意喪失のフォル。
「……すまん。恥ずかしくてアタシはもう、ダメだ。デメテルのことは任せた」
身悶えする動きに磨きがかかるデメテルを目標に定め、僕はゆっくりと足を進めた……。
読んで頂き、ありがとうございました。
さて、女神様たちの妄想が激しかったですね。
1人は現在進行形ですが(笑)
フォルは意外にも流星のことを……?
流星の気持ちは?そして、デメテルは?
次回もご期待下さい!




