17.楽しい夜
流星にとって、天界での初めての夜です。
デメテルのお母さん、なんだかとっても明るそうな神さまだったな。『デメちゃん』『フォルちゃん』なんて呼んでてフランクな感じだったし。声も凄く若くて、デメテルそっくりだ。お会いするのがなんだか楽しみになってきたよ。
それにしても、成り行きでフォルの家に泊まることになっちゃったけど、僕まで良かったのかな……?
「ね、ねえ?一応、聞くけど、僕も泊まらせてもらってもいいの……かな?」
超がつく程の美人な女神さま2人と僕が、一つ屋根の下って天界の倫理的にはどうなんだろう?
「何言ってんだよ!?いいに決まってるだろ?なあ?」
「もちろんよ!流星とお泊りなんて夢のようだわ!」
「……おい、アタシんちだってこと、忘れるなよな!?」
全然、大丈夫みたいだね。ちょっと安心。
「2人とも大丈夫ならいいんだ。ありがとう!もし、ダメだったら行くとこないしどうしようかと思っちゃったよ」
「流星なら、いつだって大歓迎さ!そうだ!夜さぁ、あれなんだっけ?こないだ雑誌に載ってたんだよな。デメテル、分かるか?ほら、泊まりに来た友達と夜、やるやつ」
「それ、私も読んだことあるわ!えっとね……パンツ祭り?じゃないわよね。なんて書いてあったかしら……あ、パジャマ祭りじゃないかしら!?」
もしかして、パジャマパーティーのことかな?多分、それだな。それはそうと、美人女神さまたちのパンツ祭りってすごく興味ある。無形文化遺産に登録してもいいんじゃないかな?きっと、素晴らしいお祭りになること間違いなしだよ!
色とりどりの下着……白……ピンク……赤!……黒!!……そして、透け透けの――
「――――せいっ?――うせい!?……流星!?どうした?大丈夫か??」
「ハッ!……ご、ごめん。大丈夫だよ。なんでもないから」
まずいまずい、また妄想に入り浸っちゃったよ。
「流星、本当に大丈夫なの?具合が悪かったら言ってね?」
フォルもデメテルも心配そうな表情だ。悪いことしちゃったな。でも、まさか、下着のお祭りについて考えてました、なんて言えないし……。
「う、うん、ほんとに大丈夫だよ。心配してくれてありがとね。そ、それよりも、パンツパーティー、じゃなかった、それきっとパジャマパーティーって言うんじゃないかな?お菓子とか用意してさ、きっと楽しいと思うよ」
「あら!素敵!やりましょうよ、ね?流星?フォル?あとで、流星のパジャマ、買っとくわね!どれがいいかしら~」
「あ~そうそう、それだ!パジャマパーティー!よーし!盛大にやろうぜ!!でも、その前に晩飯だったな」
「それだったら、今夜は僕が料理しようか?泊まらせてもらうお礼にさ」
デメテルやフォルのような凄い能力はないけど、料理だったら日本で日頃から作ってたし、多少、自信はあるんだよね。
「え~~っっ!?流星のお料理!!?キャ~~~ッッ!!!食べたいわっ!嬉しいっ!!ありがとう~~~!!」
「そいつは嬉しいな。アタシ、本場の地球の料理を一度食べてみたかったんだ!こんな幸運、滅多にないぜっ!!2400万年生きてて初めてだ!」
すっごい喜んでくれるのは嬉しいんだけど、僕にそんな本場の料理を期待されても困っちゃうんだけどな……ていうか、フォルって地球換算だと24歳なのか。デメテルより1つ年上なんだね。
「あの~……そんなに大したものは作れないから、あんまり期待しないでね?オムライスやカレー、あとハンバーグとかさ、よくある普通のものしか作ったことないし……」
「いやいやいや、その『普通』って地球の普通だろ?天界じゃ、そんなの誰も食べたことないしさ、すっごく楽しみだ!」
「そのオムライスってなんだか変わった名前ね?でも、私も地球の食べ物は好きだし、きっとそれも美味しいんでしょうね~!ケーキや水ようかんみたいに完成してる食べ物の多くは、通販で買えるようになってるんだけど、お料理は完全に対象外なのよね。材料を買って自分で作らないといけないのよ。だから、私、地球のお料理ってまだ、フォルが作ってくれたものしか口にしたことないのよね」
そうなのか!料理は買えないんだね。そういえば、買えないものも結構、あるって言ってたもんな。
「そうなんだね。じゃあ、張り切って作るからさ、今日は僕の手料理をぜひ、食べてね。さっき言ったオムライスにしようかな。それでいい?」
「えぇ!ぜひ、お願いするわ!」
「どんな料理かわかんないけど、期待してるぜ!」
「そういえば、材料ってあるかな?ねぇ、フォル?この家ってどんな食材があるの?」
作るのはいいけど、材料のことすっかり忘れてたよ。しかも、ここって天界だもんな。お米とかなかったりして……?
「ん~そうだな、まあ、色々あるぞ?」
そう言って、ごそごそと亜空間内を探るフォル。食材って全部、そこに入れてる感じ?冷蔵庫とかないのかな?
「フォル、食材っていつも亜空間に入れとくの?」
「ん?あぁ、そうさ。この中なら大量に入れとけるしな」
「そうね。それにね、亜空間に入れたものは時間が止まって、鮮度も温度もそのまま保持できるのよ?もし、冷たくしておきたいなら冷やしておくこともできるしね」
デメテルが説明の付け足しをしてくれた。
「そういや、そうだった。時間が止まってるんだったね。冷やすこともできるなんて凄いや!教えてくれてありがとう、デメテル」
「いいのよ、分からないことがあったら何でも聞いてね?」
ニコッと優しく微笑むデメテル。
「そうだわ!さっき流星が言ってたものを作るのに、どんな材料が必要なの?もし、なかったら私、通販で買うわよ?」
「あーそうだね。そしたら、もし、なかったらお願いしていいかな?ありがとね!」
「えぇ!任せて!」
「フォル?いまから僕が言う材料があるか教えてくれる?」
「おー!いいぜ!」
オムライスにも色々、種類があるけど、どれがいいかな……ま、ごく普通のいつも作り慣れてるやつが間違いないかな。
「まず、鶏肉と人参、玉ねぎ、ケチャップに卵。あと、サラダ油と塩・胡椒もある?できれば、バターもなんだけど」
一番、オーソドックスなケチャップチキンライスのオムライス。これなら誰でも好きな味だし、きっと2人も食べられるんじゃないかな。
「んー……とりあえず、塩と胡椒とケチャップはあるぞ。こないだ使ったしな。あと、鶏肉と人参、玉ねぎ……お、卵もあった。それってどれくらい使うんだ?それぞれ100㎏くらいあれば足りるか?」
すっごいあるな……なんで、そんなにあるんだろ?
「う、うん、全然、大丈夫だよ。そんなに使わないからね。てことは、全部、材料ありそうなのかな??」
「あ、流星!さっき何の油って言った?オリーブオイルじゃダメか?あと、バターだけど無塩バターならあるぞ?」
「え?オリーブオイルと無塩バターがあるの?それはすごいや!ありがとう!それ使わせてもらえる?」
「あぁ、いいぞ!無塩バターはパンの作り方に載ってたから買っといたんだ」
さすがだね!
「フォル、凄いよ!それならお菓子にも丁度使えるから、パジャマパーティー用のおやつ、何か作るね!」
「わ~っ!とっても楽しみだわ!」
「アタシ、ログハウス造ってから、誰かを呼ぶのって初めてだからさ、すっごくワクワクしてるんだ!」
フォルが黒光りする立派な太い柱を触りながら、顔を綻ばせる。その様子はまるで、修学旅行に来てる生徒のように楽しげだった。
「ほんと、あの時、直感通りに街への道を辿ってて良かったぜ。お陰で流星たちに出会えたしな」
デメテルもフォルもとっても嬉しそうにしてくれて、僕も嬉しいな。良かった、そんなに喜んでくれるなんて。まるで、親友ができたみたいだよ。
「そういえば、いま思うと、会った場所ってフォルのお家に帰るにしては遠回りだったものね。あれは、そういうことだったの?」
「それって例の【運命のささやき】って直感??」
「そうそう、それだ。どーだ?役に立つことが証明されただろ?」
ニカッと嬉しそうに笑うフォル。凄いなぁ、やっぱり神さまの能力ってとてつもないんだね。
「うん!ほんとに素敵な能力だよ!僕も使えるなんて嬉しいよ。改めてありがとう、フォル」
「いいってことよ。それより、材料はそれで全部か?」
え~っと、他に必要なものって何かあったかな……??
「うん、大丈夫……あっ!ごめん、肝心なもの忘れてたよ!ご飯ってある!?」
そうだ!ご飯がなきゃ、単なる卵の薄焼きになっちゃう……!
「ご飯?もしかして、これのことか?」
そう言うと、フォルは亜空間からやけに大きな鍋を取り出し、蓋を開けた。そこには――
「こ、これだよ!凄い!しかも、炊けてる!!」
ピカピカに輝く白米が美味しそうに炊けていた。
「これ、ご飯っていうのか?コメって書いてあったような気もするけど、まあいいか。アタシ、これ好きでさ、よく食べてるんだ。だから、まとめて炊いといたんだ」
「あら!なんだかとっても美味しそうな香りね。ん~お腹が鳴っちゃうわ」
鍋を覗き込むデメテルもご飯に興味津々のようだ。
「えっとね、日本だと炊く前の状態の物をお米って言って、炊いた後のこれをご飯って言ってるよ。あと、ご飯って言葉には食事っていう意味も含まれてるから、ちょっとややこしいかもね」
「へぇ、そうなのか。なるほどね。ま、とにかく、これで材料は全部あるんだな?」
「うん!大丈夫だよ。それに、フォルがご飯炊いといてくれたお陰で、オムライスも短時間でできるよ」
これから炊くとしたら、鍋でやるとしても30分以上はかかっちゃうと思うし。
「ねえ、そしたらさ、料理はきっと、そこまで時間かからないと思うから、さっきの続きを聞かせてもらえない?」
「さっきの続きって……なんだっけ?」
「ほら、迷子の魂を転生させる理由は教えてもらったけど、体のある魂が天界にいたらダメって規則がデマだってやつ」
「あーあれか」
「そういえば、そうね。まだ、そこの疑問が残ってたわね?」
えぇ……2人とも、もしかして、忘れてた……?結構、重要なことだと思うんだけど。
「ね?デメテルも知りたいでしょ?」
「う~ん、まあ、そうよね。フォル、その話って長くなりそう?」
「そうだな……端折っていいなら短く済むけどな。ていうか、その方がアタシとしてはいいかも。流星が料理してるとこ、早く見たいし!」
「私もさっきから、お料理してるところが見たくて仕方がないのよね~!流星、それでもいいかしら?とりあえず、その規則が嘘だってことは分かったんだし……ね?お願い」
2人とも、その話より完全に、料理に気持ちがいっちゃってるな。ま、詳しいことは食べながらでも聞けるからいいかな。
「うん、分かったよ。じゃ、フォル?手短でいいからお願いできる?」
「おっけー!じゃ、いくぞ?……実はな、本当の規則にして大神帝様のご下命として賜るとだな、体を持つ魂全員に神罰が下るんだ。だから、迷子の魂にも体を与えた途端に……な。もちろん、与えた神にもだ」
「あら?それなら、そんな規則を作らなければいいんじゃないかしら?」
確かにそうだね。なんでだろ??
「問題はここからだ。迷子の魂以外の魂にも体を与える事案が多数、発生してさ。それを抑制するために、その規則を作ったんだ。で、さっきも言ったように、ご下命だと融通が利かない規則になっちまうんだよ。だから、本当は神罰がないことを秘匿にした規則を作って、天界に広く流したのさ。はい、この話はこれで終わりー!!」
フォル……すっごく雑な終わらせ方したな。新たな疑問が出てきちゃってるけど……まあ、ご飯の時にまた聞こう。デメテルもフォルも、もう待ちきれないって顔して、妙にソワソワしてるし。
「ありがとう、フォル。また後で聞かせてね。じゃ、時間遅くなっちゃうし……料理に取り掛かるぞーっ!」
「「おぉーーっっ!!」」
拳を天井に向けて高く突き出し、交差させる僕たち。2人とも、ノリいいな。
誰かのために料理するのって、なんだか久しぶりな気がする。家ではほとんど、独りだったし……。
そういえば、千秋がよく顔を出してくれてたっけ。僕が作った料理を美味しそうに食べてくれたんだよね。あれ、嬉しかったな。千秋、どうしてるだろう?元気だといいな……。
読んで頂き、ありがとうございます!
流星の手料理やパジャマパーティーへの期待から、女神様たちも胸が高鳴ってます。
そんな中で流星はふと、千秋のことを思い出してましたね。
いま彼女は一体、どうしてるのでしょうか……?
次回もお楽しみに!




