14.迷子の魂の悩み
フォルが語る、魂を転生させる『ある理由』とは!?
フォルは、僕たちのことを始めからどうこうするつもりなんてなかったみたいだな。良かった。それに、ちゃんとデメテルのこと、彼女なりに大切に考えてたんだね。最初の印象と大分、違うけど、フォルもやっぱり女神さまなんだなぁ。
他人を大切に思う気持ちって、人とか神さまとか関係なく大切だよね。僕もデメテルのこと、大事にしていきたいな。知り合ったばかりだけど、もちろん、フォルのこともね。
そういえば、体のある魂を転生させる『ある理由』って何なんだろう……?
「な~に、2人で仲良くやってるのよ??私だけ仲間外れにしてずるいわよっ!」
さっきのフォルの呟きは、どうやらデメテルには聞こえなかったらしい。嫉妬しちゃったらしく、フォルに文句を言っていた。
当の本人は、僕の背中をもう1発軽く叩くと、口元に人差し指を当て、言うなよ?と目で合図してきた。その顔は若干、頬が上気しており、目が合うとすぐに逸らされてしまった。どうやら、フォルも照れることがあるらしい。
初めて見るそんな彼女の様子に、僕は思わず、堪え切れずに笑ってしまった。
「え~~~!りゅ、流星までっ!?ひどいわっ」
あからさまに慌てたように、僕に擦り寄ってくるデメテル。そんなデメテルが愛しくて、フォルが素直じゃない照屋さんだと分かって、そして……友達思いだと分かって。僕は、嬉しくて笑った。
こんなに素晴らしい女神さまたちと出会えたことに感謝しながら。
――それから、僕たち3人は、これからのことを話し合った。その中で、迷子の魂に天界での暮らしをさせるのではなく、他の世界に転生させる理由と、そしてもう一つ、体を持つ魂が天界にいてはいけないという嘘の規則を作った理由を知ることとなった。
「ねえ、フォル。さっき言ってたじゃない?迷子の魂は、天界での暮らしじゃなくて、転生させることになってるって。あれはどういうことなのかしら?」
「あぁ、それな。2人とも疑問に思ってるだろう?ちょっと長くなるけど、聞いてくれ」
フォルはそう言うと、亜空間からお椀のようなものを取り出して、僕たちの前に置いてくれた。ん?なんだろ、これ??蓋を取ると、普通に味噌汁みたいだ。豆腐とワカメ、それに卵がかきたま汁風に溶き入れてあった。鰹節の豊かな香りと味噌の味わい深い風味がなんとも美味しそうで食欲をそそった。
いまからご飯にするのかな?何の説明もないけど……天界だと唐突に食事の時間が始まるんだろうか?
「あ、あの……え?こ、これって……?」
「あぁ、それ美味いぞ。流星も飲みなよ。説明に時間かかっちゃうかも知れないし、飲みながら話すよ」
普通に味噌汁だけすすりながら、ご満悦そうなフォル。デメテルも普通に飲んでるな。フォルが取り出したものはお椀とスプーンだけで、他のおかずとかご飯は何もない。
「????」
訳が分からず戸惑っていると、デメテルが助け船を出してくれた。
「これはね、お味噌汁っていうのよ。日本のものだから流星も知ってるかと思ったけど、こういうのは初めて?」
う、うん……味噌汁をお茶代わりに飲むのは初めてかな。あまり、助け船にならなかった。でも、ありがとう。
「あ、いや、味噌汁は知ってるよ。これ、凄く良い香りがして美味しそうだね。でも、これってご飯の――」
「流星!あんまり褒めるなよー!照れるじゃんか」
フォルが心底、嬉しそうに笑ってる。え?これ、もしかして……。
「この味噌汁、もしかして、フォルが作ったの??凄いね!卵の黄色が鮮やかで彩りも綺麗だし、香りを嗅ぐだけでお腹が鳴っちゃいそうだよ。日本の味噌汁と全く遜色ないよ!」
「……!?あ、ありがとな、流星。そう言ってくれて、すっげー嬉しいよ!アタシ、全然、女神らしくないって自覚あるんだけどさ、料理だけは得意なんだ。でも、そんなに褒められると照れるな」
あははー!と照れながら笑う彼女を見てると、お茶代わりに味噌汁を飲むことなんて全然、大したことないんじゃないかと思えてくる。そうだよ。フォルが一所懸命作ってくれたものなんだから。ありがたく頂戴しよう。
そんな風に思っていると――
「ちょっと、フォル!もっとお代わり頂けるかしら?」
かなり不機嫌そうな声の方を見ると、デメテルが、まるでわんこそばのようにお椀を幾つも積み上げていた。一気にそんなに飲んだら体に悪いんじゃ……?
「わ、私だってね……お料理の一つや二つくらいできるのよ?ただ、出来たものが黒いだけなの……」
あ、拗ねてたのか。
「そ、そうなんだ。あ!今度、デメテルの料理、食べてみたいなー!それに、良かったら一緒に作らない?僕、パンを作るのスキだけど、それ以外も作るのスキだよ?」
「え~~~!?ほんと?うん!一緒に作ってくれるなんて嬉しいわっ!ありがとう、流星!今からとっても楽しみ!!」
デメテルを元気づけようと何気なく放った一言に、ものすごい反応してきた。まあ、でも、デメテルの料理を食べてみたいってのは本当のことだしな。それに、こんなに喜んでくれるなら僕も嬉しいよ。
「おおぉーーーっっ!流星、パンを作れるのか!!?すっげー!!!アタシに今度、作り方教えてくれよ!な!?レシピ本買ったんだけど、それだけじゃよくわからねーんだ。なあ、頼むよ」
もう1人の女神さまも、もの凄い勢いで食いついてきた。
「私が先に一緒にお料理するのよ!?邪魔しないでよっ!あ~!流星から離れなさいってのに、もうっ!……ちょっと!流星に胸を押し付けないで!!」
「いいじゃんか、ちょっとくらい貸してくれても!なあなあ、いつにする?なんなら、今から作っちゃうか!?材料ならあるぜ?」
既にやる気満々なフォル。そんなフォルを僕から必死に引き離そうともがいてるデメテル。ちなみに、2人の女神さまのお胸さまは、ムニュムニュとずっと僕に当たってます。
あちらのメロンか、こちらの桃か……あ~困った。あ!そんなこと考えてる場合じゃなかった。
――結局、一緒に料理をする日はまた改めて決めようと、話を強引に終わらせた。申し訳ないけど、今はそれよりも迷子の魂の話の続きを聞きたいしね。
「……んんっ!まあ、とりあえずだ。話の続きをするぞ」
「ん、お願い」
デメテルが答えて、味噌汁をすする。まだ飲むのか。
「えーと、なんだったっけ?どこまで話した?あ、まだ全然じゃないか!……さて、迷子の魂を転生させるってことと、アタシとレーア様(大神帝様もだけど)とで流したデマなんだが、これは繋がりがあるんだ。そもそもの始まりからの方がやっぱ分かりやすいかな」
ふう、ようやく始まった。今度こそ、話に集中しないと。
「じゃあ、なぜ転生させるかだけどな、これは結論から言うと、魂に体を与えても天界じゃ暮らしにくいことが分かったからなんだ」
暮らしにくい?一体、どういうことなんだろう?
「以前は……って言ってもかなり昔のことだ。先々代かその前あたりくらいだな。迷子の魂がいたら、体を与えて天界で生活ができるように便宜を図ってたらしい。最初は、上手くいってるように見えたんだ。でも、やがて、魂たちがみるみるうちに元気がなくなって、自分から天国と地獄、どっちでもいいから行かせてほしいって頼むようになってきたんだ」
「そうなの?なぜかしら?食事が口に合わなかったとか??」
なんだろう?確かに食事が合う合わないは大切だけど、それだけで……?
「いや、そうじゃない。調べてみると、意外なことが分かったんだ」
「意外なこと?なんだろ?」
「ああ。流星、アンタならその魂たちの気持ちがよく分かると思うぜ?」
「僕なら……?」
「実はな、魂たちは自分が元いた世界とあまりに生活環境が違うために、過度のストレスがかかってたんだ」
ストレスだって!?よく日本でも、ブラック企業に勤めてて休みもなく残業ばかりで過労死してしまう事件がニュースでやってるけど、そういうこと??
「それって働きすぎてってこと??日本にもよくそういうケースがあるんだ」
「そうじゃない。逆さ。魂たちにできる仕事は天界には何もないんだよ。だってそうだろ?アタシたち神のような能力を持ってるわけじゃない。ましてや、他の世界に転生しても成長して戻っては来られない。神じゃないからな。そうすると――」
「無気力になるのね?」
デメテルの言葉に、フォルが大きく頷いた。
「仕事もなくただ、食べて寝て食べて寝て、の繰り返し。そういうことなのね?」
「ああ、正解だ。そんなのって生活とは言えないだろ?ただ、いるだけだ」
そうか、そうだったんだ。
「確かに、僕ならよく分かるかもね、その魂の人たちの感情。でも、僕はデメテルやフォルと出会えて、いますっごく楽しく過ごさせてもらってるけどね」
そう言うと、2人の女神さまはお互いに顔を見合わせ、嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとう、流星。私もあなたと出会えて、とっても嬉しいし楽しいわ」
「て、照れること言うなよな……バーロー」
……!?あれ?……もしかして、フォルも日本のアニメ、見ちゃってる感じ?
「生活が単調になり、無気力になる魂が続出したんだ。それではあまりに不憫だからって、他の世界に転生させることになったのさ」
「なるほどね。天界での暮らしより、よっぽどそっちの方が伸び伸びと人生を謳歌できるかもしれないもんね。まあ、行く世界によるんだろうけど。でも、僕のいた地球みたいな世界って宇宙に多いの?僕は地球しか知らないから、他の星が暮らしやすいかは分からないけど……」
他の世界に生命はいるみたいだけど、例えば、恐竜とかの世界だったら、絶対、転生したその日に死ぬ自信があるよ。
「ああ、そこらへんは大丈夫さ。事前に希望も聞くしな。流星んとこの地球みたいに、文明が発達した世界もあれば、魔法が当たり前の世界だってあるぜ?」
「あら、随分と気前がいいのね?転生先の希望を受け入れるなんて」
「まあな、でも、全部じゃないさ。ただ、本来の死ぬ予定より早く天界に来ちまうんだからな。ある程度は融通するってのが、レーア様や大神帝様の御心なのさ」
さすが、デメテルのお母さんと大神帝さまだなぁ。迷子の魂だからって有無を言わさず、天国や地獄に行かせるんじゃなくて、失った人生を違った世界とはいえ、取り戻せるように考えてるんだね。
「なんたって、大神帝様のモットーは『全ての魂に平穏を(挨拶がない者は除く)』だからな!」
え!?そのカッコの中がすっごく気になるんだけど……。
「ふぉ、フォル?ね、ねえ、魂って天界に来たら大神帝さまに挨拶に行くの?」
「ん?いや、挨拶しに行くんじゃなくて、天国か地獄かどっちに行くかの審査を受付ける場所があるんだ。で、魂たちはまず最初、そこに行くわけ。そこはな、Zoomで大神帝様と繋がってるから、その時に画面越しに挨拶する感じだな」
Zoom!?Zoomで大神帝さまに挨拶しちゃっていいの!?
「もちろん、迷子の魂たちもちゃんと、挨拶してもらってるぞ?ただ、迷子の魂は、審査をするわけじゃないから、体を与えたら直に大神帝様のとこへ行ってもらってるけどな」
「あら、そうなの?なら、今度、一緒に大神帝さまの所へご挨拶に伺いましょうよ。ね、流星?」
すっごく軽い感じで言うね、デメテル。大神帝さまってどんな方なんだろ??あ、その前にデメテルのご両親にもお会いするんだった。いまからもう緊張してきたよ……。
「う、うん……そうだね。ご挨拶しないとまずいよね……」
「大丈夫か?そんなに緊張することないって。あ、そーだ!アタシが元気になるおまじないしてやるよ。運命の女神特製のな!」
そう言うとフォルは、やや恥ずかしそうな、それでいてどこか緊張した表情で近づいてきた。そして、一呼吸置くと、聞いたことのある呪文を呟いた。
「流星、いくぜ?【運命をあなたと共に】!」
その途端、フォルの体が煌めくように光りはじめた。ゆっくりと僕の方に腕を伸ばし、優しく頬に触れそのまま添える。そして、何か含みのある憂いを帯びた瞳で見つめてきた。
――フォル、どうしたんだろう?
そう考えていると、彼女は一瞬、目を伏せて息を吐いた。そして、再び顔を上げ……頬にキスをした。
驚いて見ると、恥ずかしそうに、でも、どことなく嬉しそうに頬を朱に染めた彼女と目が合った。もうその瞳には、先程の憂いは感じられなかった。
はい、今回も読んで下さってありがとうございます。
デメテルとフォルは、相変わらずでしたね(笑)
フォルもデメテルと同じく、流星と何かを共有するつもりなんでしょうか?
しかも、ただ触れるではなく、キスをしたということは……?
次回もお楽しみに!




