表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/38

13.迷子の魂

フォルは、何を語ってくれるのでしょうか?

 体を持った魂が天界にいることはNG。そんな規則があると聞かされていた。でも、僕がなんとか天界にいられるようにと、デメテルがご両親に相談してくれるって話だったんだけど……。

 その規則自体がデマ!?一体、どうなってるんだろ??


「ちょ、ちょっと待って!?え?お、お母様とフォルが流したデマってどういうことなのよ!?」

「そうだよ!デメテルは必死の思いで僕を天界に呼んでくれたんだよ!?それに、これからこの先、どうなるんだろう、デメテルと引き離されるのかなって、もの凄く不安だったのに……」


 いきなりのことで混乱する僕とデメテル。


「私なんて、泣いちゃったじゃないっ!!?それに、お母様から、大神帝さま直々のご下命って教えられたわよ!?」

「あーそれね。大神帝様だってもちろん、知ってるさ」

「え?それって……」

「王さまの中の王さまなんでしょ?まさか……」


 フォルはものすご~くバツが悪そうに僕たちを見て……やがて口を開いた。


「うん、まあ、平たく言えば……大神帝様も共犯(グル)、かなー?」


 少し後退(あとずさ)るフォル。


「「えええええーーーーーっっっっっ!!!!!」」


 今までの思いが溢れてきたのか、デメテル、また泣いちゃったよ。そんな彼女の頭をよしよしと撫でてやる。


「だーかーらぁ、悪かったって。アタシにも事情があったんだよ。デメテル、お願いだから泣くなよ……」

「フォル、一体どういうことなのか説明してもらえない?僕たちはね……本当に不安だったんだよ」

「分かってるさ。悪かったな、この通りだ!」


 拝むように頭を下げるフォル。そして、静かに話し始めた。


「さっき、迷子の魂の保護をレーア様に仰せつかったって言っただろ?これは一部の神にしか通達されてないんだが、迷子の魂ってのは頻度としてはあまり多くないんだ。でも、確かにいることはいる。それで――」


 真面目な口調で話すフォル。どうやら、真実を話してくれるみたいだ。頭を撫でられていたデメテルも、落ち着いたのかいつの間にか泣きやんでいた。今は真剣な表情で聞いている。

 涙と鼻水がべっとりと僕の服についているのは、まあ……この際、良しとしよう。


「そもそも、迷子の魂ってのは要するに、()()()()()()()()()()ってことなんだ。何かの拍子に魂だけ体の外に出ちまうことがあるんだよ。それが、体に繋ぎとどめる力が弱くて(そら)を漂い、やがて天界(こっち)に辿り着くってわけだ」


 あ~……もしかして、あれかな?


「ねえ、それって幽体離脱ってやつ??オカルトかと思ってたけど、実際にあるんだね?」


 そう僕が尋ねると、フォルが頷き、デメテルとは異なる仕草で亜空間を出した。そして、中からタブレットを取り出す。亜空間を出す仕草って、自分で何かパターンみたいな動作を決めるのかな?デメテルの時は、腕が舞うような感じだったけど、フォルは直線的な動きだったな。

 そういえば、僕も亜空間貰ったんだっけ。落ち着いたら、使い方とか出し方聞いてみよ。


「あんまり大昔のデータは載ってないんだけどさ、ここ1億年くらいの間の迷子の数が確かあったんだよな」


 フォルもデメテルと同様に、当たり前のようにタブレットを使いこなしてるな。お?どうやら目的の物を見付けたらしい。ていうか、1億年って……数が大きすぎてよくわかんないな。


「1億年前って言ったら、私のお爺様たちの前の世代ね。そんな前からデータ取ってたのね」


 デメテルも驚いてはいるけど、僕と驚く理由が違うみたいだ。そういうところは神さまの感覚なんだね。


「あったぜ!これだ」


 差し出されたタブレットを見てみると、文字も数字もちゃんと読める。しかも、グラフ化してあって前後との増減比率まで表されてる。凄く見やすい。良い仕事してるなぁ。


「へー!これ、随分、分かりやすくまとめられてるね?ところで、神さまの使う文字って日本語なんだね?」


「あ……」

「へ?」


 デメテルとフォルが同時に声を出す。


「……なんだ?デメテル。その『あ』ってのは!?流星がなんで天界(こっち)の文字が読めるんだよ?あーん??」

「…………」


 (いぶか)しげに詰め寄るフォルと、あからさまに気まずそうな面持ちのデメテル。デメテル、どうかしたのかな??


「あ、あのね、流星に私の亜空間を分けてあげたんだけど、その時に間違って『言語の4技能』も共有しちゃったみたいなの……」


 あ、あれか!


「あー、あのおでこにキスされて、不思議な感覚が体の中に入ってきた、あれのこと?」

「りゅ、流星……」

「……そんなことしたの?アンタ」


 顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに手で隠すデメテル。こいつ、マジかよみたいな顔のフォル。


「え?……え?2人ともどうしたの??」

「はぁ……【クオリティ・タイム】を使ったのか?確かに禁止はされてないけどさ……普通、キスはやらないだろ?手を繋ぐとか肩を触るくらいだぜ?」

「……だって、あの時はつい、気持ちのスイッチが入っちゃったんだもん」


 頬に手を添えて赤くなりながら、だもんって、めちゃ可愛いな。フォルはそんなデメテルを、もの凄い呆れた目で見てるけど。


「まあ、いいさ。でもな、デメテル……能力の共有は禁止されてないが、それは何でもやっていいって訳じゃないんだぜ?今度から、気を付けた方がいい」

「うん……分かってるわよ。でも、ごめんね。これから気を付けるわ」

「あ、あのー……なんかマズいことになってるの??」


 事情がよく飲み込めず、不安になってきた……。


「いや、そんなに不安そうな顔しなくて大丈夫だ。ただ、あまり『人』にはやらないことだからさ。まだ子供の神に感覚を教えるために、親が共有するってのが一般的なんだ」

「そうなんだ……で、その、さっき言ってた『言語の4技能』って?」

「私が説明するわ。流星、あのね、言語って1つの星の中でも幾つもの違った言語に派生してるでしょ?当然、流星のいた地球と私たちのいる天界(ここ)も異なる言語なのよ。でも、それだと意思の疎通ができないから、それを可能にするために『読む・書く・聞く・話す』の4技能が必要になってくるの」


 あぁ!それのことなのか。知らなかったな。

 

「流星の魂を復元した時に、とりあえず、『聞く』のと『話す』の2つは共有したんだけどね。今まで黙っててごめんなさい。」

「だから、デメテルとこうして普通に会話が出来てるんだったの!?全然、謝ることなんてないよ!むしろ、ありがとう!凄い能力だね!?」

「えへへ。だって、流星とお話したかったんだもん」


 だもん、めちゃ可愛い(本日、2回目)。だもん教があったら入りたいな。


「……おい、アタシがいること忘れてイチャイチャするなよな!」


 あ、はい、すみません。ちょっと忘れてました。


「で?その気持ちの入った『キス』で亜空間だけでは事足りず、残りの2技能も共有しちゃったと、そういうことか」

「ちょっと言い方――」

「あ?」

「な、なんでもないわよ……」


 デメテルが負けてる……。


「あの、そ、それでさっきのグラフなんだけど……ん~と、これは……あ、100万年毎になってるんだね。この赤い数字が迷子の魂の数を表してるのかな?どれも同じような数字……じゃないのか。こっちの100万年では2,753,017だし、その隣は1,261,154だ。あ、ここ!これが直近の100万年かな?978,099か……これって地球だけで?」

「お?よく見てるなー流星!いんや、アタシ達の管轄は地球を含む天の川銀河と、その近くにあるアンドロメダ銀河なんだ。だから、その2つの銀河全体での数ってことさ。生命のいる星は結構、あるからなー。それに比べたらゼロに等しい数字だな」


 そ、そうなんだ。275万って数字でも大したことないんだね。多すぎるのかと思ったけど。


「それで?迷子の魂をフォル、あなたが保護して体を与えてるのね?」

「ああ。まあ、体を与えるって言っても、ほんの一時的なんだけどな」

「その魂たちはどうなるの?さっき、まだ死んでない生命って言ってたけど。僕みたいに死んじゃって天界に来たなら分かるけど、まだ死んでないのに天界に来ちゃったら、その時点で死んじゃうってこと?」


 その魂たちはもう元の世界には戻れないのかな……。


「う~ん、ちょっと違う。まだ死んでない、じゃなくて『まだ死ぬには早い』だ。それに、天界(ここ)に来るから死んじまうんじゃなくて、魂が体から離れた時点でもうその体は遅かれ早かれ死ぬんだ。魂が離れる原因はよく分かってないんだけどな。魂と体との結びつきが弱くなって、ある時、前触れなく魂が抜け出てしまうのさ」

「あぁ、だから、時間差はどうであれ、死んでしまう前に魂が先に抜けてしまうから、『迷子』扱いってわけなのね?」

「そーいうこと。本来なら、天国か地獄かの審査を受けなきゃならないんだけどさ、レーア様がおっしゃったんだ。『魂たち(彼ら)の生きる時間が少しでも短くなってしまうのは、神々(こちら)としても意に反することです。運命の導きを頼みましたよ』ってさ」


 運命の導き……??


「お母様が……?それってつまり、どういうことなの?」

「要するに、その人生を全うさせてやりたいのさ。ほんと、レーア様はお優しい方だよな」


 へぇ、デメテルの優しさはきっと、お母さん譲りなんだろうな。


「運命の導きって具体的には何をしてるの??」


 僕も疑問に思ってたことを、デメテルが先に聞いてくれた。


「ん?ああ、転生だよ。さすがに元いた世界には戻せないからな。他の世界に転生させてやるんだよ。そこで、新しい生を受けてやり直すってことさ」


 転生!?なんだか異世界ものの話っぽくなってきたな。


「神さま以外も転生って出来るんだね!?凄いな」

「まあな。でも、アタシらと違って成長して天界(こっち)に戻ってくるってことはないけどな」


 つまり、一方通行ってことか。でも、自分の意志に反して死んでしまうより、他の世界でも新しい人生をやり直せるなら、それもいいかも知れないな。


「流星も転生させてやろーか?特別に、アルテミスみたいに子猫にしてやってもいいんだぜ?」


 そう言って可笑しそうに笑うフォル。


「うちまで歩いてる時に聞いたけど、アルテミスを助けるために死んじゃったんだって?それで、バラバラになった魂をデメテルが助けた、と」


 一人でうんうん頷きながら話すフォル。


「流星って良いヤツだなー!それなら、天国だって余裕で行けるし、寿命死じゃなくて『迷子』に該当するだろうから、他の世界に転生させてやってもいいぜ?なー?デメテル?」

 

 どことなく挑発的に話を振るフォル。


「なっ!?だ、だめよっ!流星は私と一緒にいてくれるって約束したのよ!?ね?そうでしょ?流星!」


 ギャル服のスカートの裾を掴んで涙目になってるデメテル。安心させるように優しく頷いてから、僕はフォルに向き直った。


「フォル、ありがとう。でも、気持ちだけ受け取っておくわけにはいかない?僕、どうしてもデメテルと一緒に天界で暮らしたいんだ。助けてもらった恩もまだ返してないしさ。それに、きちんと自分の気持ちをまだ伝えてないんだ」


 飾り気のない言葉だけど、本心をそのまま伝えた。僕の心からの願いだった。


「……分かってるさ、そんなことは。一応、聞いてみただけだ。安心しなよ。本人の意志に反して転生させるなんてことはしやしないさ」


 優しい声と微笑みでそう返してくれたフォルは、軽くウインクをして言葉を続けた。


「デメテル、流星、さっきは罰を受けるなんて(あお)ったりしてごめんな。2人の気持ちを確かめときたかったんだ。体のある魂は、ある理由があって天界(ここ)での暮らしを与えるより、転生させることになってるんだ……でも、流星はその必要はないみたいだな」


 ニカッと笑う彼女は、僕の背中をバンバン叩いて、ふいに小さく呟いた。


――デメテルを……親友を頼むな


 驚いてフォルを見ると、今までの彼女からは考えられないくらい柔らかく、慈愛に満ちた笑顔だった。まさに女神さまそのものだった。僕は嬉しくなって力強く頷いた。

 

 ……背中に残る痛みを感じながら。

今回もいかがだったでしょうか?

デメテルとフォルは、意外と良いコンビかも知れませんね。

流星とフォルも良い仲を築けていけたらいいなーと思ってます。


それでは、次回もご期待下さい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ