11.腐れ縁
流星とデメテルの会話の中ではなく、実際に登場する人物がようやく出せました。
この人……いや、天界なんだから女神さまかな?一体、誰なんだろう?確か、『フォル』って呼ばれてたな。デメテルの知り合いっぽいけど……。
それにしても、この女神さま(仮)もほんと綺麗だな。天界には美形しかいないのかな??最も、目の前の彼女は、悪戯大スキみたいな雰囲気を漂わせてるけど。
「デメテル……アンタ、久しぶりに顔を見たと思ったら、やっとできた初カレに舞い上がっちまったのか?まさか、こんな道の真ん中でイチャつくとはねえ。もしかして、周りが見えないくらい夢中ってやつ?」
その白金髪の女性は、美しい髪と顔に似合わず、イヒヒとからかうように笑い、腰に手を当てて更に続けた。
「ま、分からなくもないけどさ、その気持ちも。そこのカレ、この辺の神たちとは雰囲気がまるで違うし、結構、カッコイイじゃん!でも、見たことない顔だなー?なに?どっかから異動してきた?」
そう言うなり、グイっと僕に近づき品定めをするように見つめてきた。顔、近っ!……異動?人事異動のこと?天界ってそういうシステムなの??
と、とりあえず、笑顔で印象を良くしとこう。
「……!?アンタ……」
困って言葉に詰まり、ぎこちない笑顔を作ったところで、ようやくデメテルが復活してきた。
「ちょっと、フォル!流星に近づきすぎよ!?もっと離れなさいっ!」
「あーはいはい、愛しのカレを取られちゃ困るもんなー?」
怒るデメテルに対し、軽く受け流す彼女。
「フォ・ル!!」
「そういや、さっき、お2人さんがくっついてた時になんか聞こえてたなー?なんだっけかな?確か……『早くちゅ~したいな。カレからちゅ~してくれないかしら?しゅきしゅきだいしゅき!愛してるわ』だったかな?」
彼女はニヤリと笑って僕を一瞥してから、デメテルの方を向いた。うん、100%嘘だな、これ。
「……!?きゃあっ!ウソよウソよ!!そんなこと言ってないわよ!?」
うんうん、そりゃそうだよ。デメテルは顔を真っ赤にしながら続けた。
「心の中で思ってただけよ!?それに、フォルには精神感応能力はないはずでしょ!聞こえるはずないもの!!」
おっと……?
「へえー?心の中でねえ??ホントにそんなこと思ってたんだ?まいったね」
手を叩きながら大笑いする彼女。恥ずかしさと怒りで、わなわなと体を震わせるデメテル。混沌すぎて何にも言えない僕。
「流星、違うの!違うのよっ!?……フォルッッッ!!騙したわね!!?もう許さないわ!!!」
デメテル、照れと怒りが同時に頂点にきちゃった感じだな。ちょっと、さすがに可哀想かも。思いきってフォルって女性に話しかけてみようかな。
興奮気味のデメテルの側に寄り、彼女の手を優しく握ると、ビックリしたように僕を見て、それから繋がれた手を見た。
――大丈夫だよ、任せて
デメテルだけに聞こえるように呟くと、こくりと頷き、途端に大人しくなった。繋いだ手にギュッと力が込められた。安心させるように優しく握り返すと、彼女は頬を染めて柔らかい表情を見せてくれた。
「あの……フォルさま?初めまして、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は、流星と申します。デメテルさまには、とある件で助けて頂いたことがきっかけで、懇意にして頂いております」
僕は、姿勢を正してペコリとお辞儀をする。極力、失礼のないように言葉を選んだつもりだけど……どうだろ?
「…………」
「…………」
「…………」
あ、あれ?誰もなんにも言わない。ど、どうしよう。何かやらかしちゃったかな……?
「へーっ!!アンタ、礼儀正しいんだね!それに、神相手に物怖じしないで挨拶できるなんて凄いよ!……デメテル、さっきはからかってごめんなー?あんまり2人が仲良さそうにしてたから、ついイジワルしたくなったのさ」
彼女はそう言うと、僕の肩に腕を回しもう片方の手で頭をバシバシ叩いて、よく通る声で笑った。ホッ……よかった。印象は悪くないみたいだ。力強くてちょっと痛いけど……。
「流星!とっても良かったわ!あなたって優しいだけじゃなくて、堂々としてるのね。素敵だわ」
「ホントだなー!アタシも惚れさす気か?コノコノー!」
「もうっ、フォルったら!相変わらずなんだからっ」
「許せよー。アタシたち、友達だろ?」
屈託なく笑う彼女に、やれやれといった感じで首を振るデメテル。よかった、もう大丈夫みたいだね。
「……全く調子いいわね!いいわ、腐れ縁のよしみってことで許してあげる。それから――」
言うなり、デメテルは素早く僕と彼女の間に割り込み、両手で無理やりこじ開けた。
「流星にいつまでくっついてるの!?フォルトゥーナ!」
「分かってるって。そんなにムキになるなよなー」
またも怒るデメテル、飄々と受け流す彼女。ん?さっきと同じだ。なんか、この2人って対照的な感じがするな。その対比がおかしくて思わず笑ってしまう。
「ん?どーした?流星くん?」
あ、マズイ……声に出して笑っちゃってたよ。
「あ、いえ、その……お二人がとても仲良さそうに見えましたので、つい微笑ましいな、と」
「まーな。アタシたちは親友――」
「く・さ・れ・縁よ!全くもうっ」
デメテルが凄い勢いで被せてきたな。でも、顔は困りながらも笑ってるし、ほんとに仲が悪い訳じゃなさそうだね。よかった。
「一応、紹介しておくわね。流星、これは幼馴染で腐れ縁のフォルトゥーナよ。みんな、フォルって呼んでるわ」
「おいおい、『これ』呼ばわりかー?デメテルさま、ひっどーい!キャピッ」
わざとらしい笑顔とウインク、それに、キャピッて……。
「あ、よ、よろしくお願いします。フォルトゥーナさま」
「ああ!よろしくな、流星くん。そうだ、アタシのことはフォルでいいよ。アンタのことも流星でいいだろ?」
「はい!では、フォルさまとお呼びし――」
「フォ・ルでいいってば!あと、デメテルと同じように敬語もいらないよ。普段はデメテルにも敬語なんて使ってないんだろ?」
!?……鋭い。あぁ、そうか。そういえば、さっき目の前で手を繋いじゃったもんな。
「あ、はい、わかり、じゃなかった。うん、わかった、よ」
「ん、よろしい」
満足そうに笑うフォル。デメテルはというと、そんなフォルを少し難しい顔で見ながら何か考え事をしているようだった。
……?どうしたんだろう?
「ところでさ、アンタたち、付き合ってるんだろ?それにしては、初々しさMAXじゃないか?まだ付き合って間もないのか?」
疑問を口にして、僕たちを見るフォル。
「あ~……そのことなんだけどね、実は、私たちまだお付き合いしてないのよ。その……お互いの、き、気持ちの確認中っていうか……」
「ふーん」
まあ、ちょっと言葉にしては表現しにくけど、そんな感じだよね。いまの僕たちって。デメテルが答えずらそうに口を開くと、フォルもなんとなく察したのか、大人しく聞いていた。
すると、デメテルが一瞬、僕を見た。その瞳は何かを決意したかのような力強さに満ちており、僕もそれが何なのか分かってしまった。
「あと、ちょっと真面目な話があるの。流星のことなんだけど……」
デメテルは僕を見、僕はデメテルをほぼ同時に見た。話すんだね?このフォルって女神さまは幼馴染だって言ってたし、随分と親しいみたいだ。味方になってくれそうなのかな?
デメテルもきっと、そう判断したんだろう。意を決したようにその先を口にした。
「実は――」
「カレ、『人』だろ?」
デメテルが言うより早く、フォルが核心をついてきた。え、なんで?一体、いつから分かって……。
「……やっぱり、感付いてたのね、フォル。流星が『人』だってこと」
「まあな。どうしてアタシが気付いてるって分かったんだ?」
頭の後ろに手を組んで、にひひと笑うフォルに対して、当然よ、とばかりに澄まし顔のデメテル。
「え?僕のことがバレてるの知ってたの?」
訳が分からない僕は、頭がハテナマークでいっぱいだった。
「えぇ、知ってたわよ?でも、それに気付いたのは途中からなんだけどね。あの時――」
そんなに不安そうな顔をしてたんだろうか?デメテルが話しながら、僕に寄り添い手を握ってくれた。
「からかわれた私がフォルに怒ったでしょう?それで、その時、収めるために流星が挨拶してくれたじゃない?」
あぁ、あの時……でも、特別、何かあったっけ??
「その後、フォルがこう言ったのよ。『神相手に物怖じしないで挨拶できるなんて凄い』って」
「そうだね。そう言ってたかも……ん?神相手に??」
「流星も気付いたみたいね。そう、フォルは、神相手にって言ったのよ」
あぁ!そうか!!
「ここは天界なんだから、神がいて当然なの。でも、その言い回しは、流星が人だって分かってたからこそ使ったのよね?そうでしょ?フォル」
「いやあ、よく気が付いたな。えらいえらい」
パチパチと手を叩きながら愉快そうに笑うフォル。
「でも、アタシもそこまで気が回らなかったよ。まあ、久々にデメテルに会って少し気が緩んでたのかもな」
「凄いよ、デメテル!よくそんな些細な事に気が付いたね!?」
僕なんて言われるまで全く気付かなったのに。
「私もその時は、分からなかったわ。でも、フォルが初対面にしてはすごくフレンドリーだったのよ。いつもは私が友達を紹介しても、もっとぶっきらぼうというか……興味なさそうなのにね。そこが引っかかったのよ」
「よく分かってんじゃん。その洞察力は健在だな。さっすがレーア様のご息女であらせられる」
レーアさま……?
――私のお母様の名前よ
疑問に思って思わず小さく呟くと、デメテルがこそっと教えてくれた。サンキュ。お母さまって、大陸を消滅させることができる、あの大地の神さまのお母さんか。
「ねえ、どうして流星が『人』だって分かったの?やっぱり名前かしら?天界にはいないタイプの名前だものね」
「いいや?あ、まあ、名前もそうだけどさ、名乗る前からアタシには分かってたよ。最初に流星に会った時、アタシ、近づいてジッと見てただろ?それなのに全然、反応を示さなかった」
あぁ、あれか。いきなりすぎてビックリして反応できなかったってのが正直なとこだけど。
「う、うん、そうだね」
「こう言っちゃなんだけど、そこそこ有名な『運命の神、フォルトゥーナ』を見ても平然としてた。しかも、笑顔まで見せてきたんだぜ?これは、自分によっぽど自信がある神か、何も知らない神か、そもそも神じゃない何かってことになる」
フォルは僕を真っすぐに見て続けた。
「流星は、一目見て優しすぎる心を持ってるのが分かったからな。同時に危うくもあるけど……そんな極端な心の持ち主は、神にだっていやしないのさ。そんな心を持ってるのはアタシの知る限り『人』だけだ。だから、本来なら有り得ないとは思ったけど、『人』だって結論付けたんだ」
「そう……あなたはやっぱり『運命の神』ね。本質を見抜くことに関しては、誰もあなたに敵わないわね」
「デメテル……僕……」
これから僕はどうなるんだろう?どこかに連れて行かれたりしちゃうのかな……?
「大丈夫よ、流星。フォルは敵じゃないわ。ね、そうでしょ?フォル」
僕の顔を覗き込むようにして、デメテルはいつも以上に優しい声を掛けてくれた。
「…………」
フォルはそんな僕たちの様子を黙って見ていた。やがて、無造作に髪をかき上げ、大きく息を吐いた。そして……デメテルに鋭い眼差しを向け、ゆっくりと口を開いた。
「で?そのご息女がなんで、天界にいるはずのない『人』と一緒にいるんだ?」
……その表情は、さっきまでとは打って変わり、ひどく真剣そのものだった。
読んで頂き、ありがとうございます。
新キャラ、運命の女神フォルトゥーナの登場です。
彼女は、流星をどうするつもりなんでしょうか?
次回もお楽しみに!




