出会い。
交流型SNS、サケビッターの通知を見て溜息をつく。
「またかぁ」
「どしたー…って、またこの人?」
画面を覗き込んできた幼馴染にしてバンド仲間の翔が眉をしかめた。
【千風さぁんっ!新曲お披露目ライブお疲れ様っ♡めっっっっ…………ちゃ☆+☆)/サイッコーでしたよぉっ♡】
そこまではまぁよくあるファンからの感想。
問題はこれの後である。
【でもでもぉ特典会はサイッテーでしたっ!ポーズ指定したらスタッフさんに怒られちゃったしぃ、千風さん怒られてる悠李衣の事見てるだけ。笑って助けてくれなかった!サイッテー!ファンの事笑うとかなってないよォ?ちゃんと指導してあげなきゃダメかなぁ?ダメだよね?しかもシングル3タイプ出すとか…ほんっとお金かかるわよねェ……(笑)ちゃんと事務所からおちんぎん(えっちなの好きなのは知ってるけど読み間違えないでねッ✩.*˚)貰えてるのかお姉さんはァ心配ですヨッ♡】
「…この人さぁ…お姉さんっつーか俺らのかーちゃんに近い歳の人だよな…?」
「言うてやるなよ。ちなみにDMはさらにエグいぞ」
「DM閉じたらよくね?」
「そーするともっと叫びがエグくなる」
「ご愁傷さま」
俺こと千風(本名近走智祐)と風翔(本名宮前平翔)はStreichというヴィジュアル系バンドをやっている大学生である。
最初はロキノン系邦ロックな感じでノーメイクTシャツ姿で愛だの恋だの歌ってたんだけど、2年生の時の学祭で学祭の為だけに書き下ろした曲に戯れにガッチガチのヴィジュアル系メイクと衣装を添えてステージで暴れ回ったら、それが動画サイトでバチクソ爆ぜた。
ヴィジュアル系というジャンルを懐かしんだ古のバンギャお姉さまから地雷系、オタクにおじさん、TakTekで遊んでるようなZ世代までもが俺達の音楽と暴れっぷりに喰いついたのだ。
そこからあれよあれよという間に事務所と契約やらCDデビューやらTV出演やら…と話がすこんと進んでしまったわけである。
やってみるとヴィジュアル系というのは中々奥深なジャンルで和風にメタル、パンクに演歌…となんのエッセンスでも受け入れてくれる懐の深さもあり、次はああしようこうしようとメンバー達と試行錯誤しながらライブやリリースをする内にじわじわとファンが増え始めた。
表現の形は違えど自分達の曲を楽しんでくれるファンが増えるのは純粋に嬉しかった。
…そう…ここまでは、良かったんだよなぁ…。
分母が増えるという事は、おかしな客も増えるという事だ。
なんだかんだまだ駆け出しのペーペーである俺達は知名度のある先輩方のライブに前座で呼ばれたりしているわけだけれどそこでついた客の中に遊李衣はいた。
ハコの後ろに作られた物販スペースの椅子に座り、先輩方のライブを眺めつつ差し入れのエナドリを啜る。
見るのも勉強だし、来てくれたファンの子と話すのもいろんなヒントがあって面白いから俺はわりとよく物販に出るようにしている。
「ねっぇえ〜?」
「はい」
声をかけられ顔を上げると逆光が目を焼いた。
かなり小さい人影はわかるけど、顔はよく見えない。
「あなた中々いいじゃない」
「ありがと」
「ゆりぃの推しにしてあげてもいいよぉ?」
V系界隈でも推しとか使うんだなぁとか思いながら目をこらすと、ぼってりと分厚い唇と眠たげで重そうな瞼と少し荒れた地黒の肌が見てとれた。
「……はぁ」
「じゃあヨロシクね♡」
わしっと遠慮なく手を握られた瞬間ぞわりと這い上がった悪寒。
それに正直に反応していればあんなことにはならなかったんだろうな。




