本と犬
泥まみれのすて犬が
人間の食事と惰眠をむさぼっている
ちかくに
子供のようにわらう女がいる
そのあまい匂いに誘われて
街を徘徊した
おおきな瞳の女は
やさしい人と呟いた
犬は苦笑した
俺はきたない
だれよりも汚れている
女は微笑した
彼女のやさしさを理解できなかった
ちいさな身体に本をかかえ
犬のとなりにすわった
横目で本をのぞくと
主人公は犬よりも下等な人間だ
華奢な手で
犬の頭を撫でながらねがった
小説を書いてと
首をよこにふったが
言葉は呪いのように
生きていた
白紙の原稿用紙まえで
ペンを動かせずに
のこったものは
いかにも未熟で
ふざいくな作品
その作品を女はだきしめ
犬のまえから姿をけした
さむい夜がおわるころ
ぐったりとつかれ
ふざいくな作品のうえに寝そべる
目をとじると
あの笑顔がうかんでくる