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第45話 長いまつ毛と眼帯と

「ところで、ミカエルには希望はあるのか? 『オークションボード』をざっと見た感じ『防御力UP』と『攻撃力UP』の付与されたものが多く出品されているが?」


「まさにそれをレヴィンくんに相談したかったのさ!」


 エルフの青年がぐっと両手を胸の前で握りしめる。


「アイアンクラッドシリーズは両手剣にしては攻撃力が低いよね」

「通称『鉄くず』だからな」

「でも、その代わりに幅広の刃の側面を盾のように利用して防御行動を取れることが最大の特徴だよね?」

「まあな」

「その特徴を考えたら『防御力UP』一択かなとボクは思うんだよね」


「だな。盾役タンクの貴様ならそっちだろうな。しょせんは鉄くず。少し攻撃力を盛ったところで焼け石に水だ」


「うん。じゃあ『防御力UP』効果が一番高そうなのに入札するよ」



「いや、待てミカエル。それより貴様なら《《こっち》》だろ?」



 おあつらえ向きの獲物を発見したみたいに白髪青年がにやりと微笑む。


「どれ?」

 ミカエルは無防備に頬を寄せると、白髪青年の視線の先を覗き込んでくる。

 必然的にエルフの端正な横顔がレヴィンの目と鼻の先にあった。


(ミカエルのやついつにも増して艶々の顔しやがって……)


 きめの細かい肌は輝くように白く、真横から見るとまつ毛が驚くほど長い。考えてみれば、ジルもロイスもまつ毛が長い。イケメンとはまつ毛が長くないといけない決まりでもあるのだろうか。


(ん? よく見ると眼帯の表面に『刺繍』がほどこされているのか……)


 黒地の眼帯に黒色の糸で刺繍されているのでこれまで気づかなかった。

 《《羽》》のようなデザインが薄っすらと見て取れる。しかし、全体像を把握するより先にミカエルがぐいっと『オークションボード』に身を乗り出してしまう。


「わあ、珍しいね! 『敵視ヘイトUP』効果だ!」


 エルフの青年が声を弾ませる。


「『敵視ヘイト』系の効果が付与されたアイテムはかなり貴重だ。これはもしかしたら『掘り出し物』になるかもしれん」


「そう言えば、キングボア戦で入手した『敵視ヘイトDOWN』のネックレスをレヴィンくんは100万ルナはくだらないと言っていたね」


 現在そのネックレスはパーティーでもっとも敵視ヘイトを稼ぐ黒髪イケメン双剣士ブレイバーが装備している。


「でも、この両手剣は即決価格で10万だよ? ずいぶんとお得じゃないか?」


「需要と供給の問題だろうな。非常に需要の高い付与効果だが、アイテムが不人気なせいで売れ残ってるんだろう」


「高い攻撃力を求めて両手剣を装備する攻撃役アタッカージョブにとって『敵視ヘイトUP』は相性最悪だよね」


「だが、盾役タンクの貴様にとってはどうだ?」


「うん。ボクにとってはこれ以上ない組み合わせだよ! 決めた! 落札する!」


 そう金髪眼帯エルフの青年が頬を紅潮させて端末に腕を伸ばす。

 ところが、即座にエルフの長い腕を白髪青年が捕獲する。


「なに? レヴィンくん?」


「なにじゃなーい! これだから裕福な貴族のお坊ちゃまはッ!」


「え? なんで怒ってるのさ」


「5万前後の相場で10万って。倍額だぞ倍額? 声も荒げたくなるだろうが」


「でも10万じゃないか? 安いよ?」

「まあ、確かに高いか安いかで言ったら安い。『敵視ヘイトUP』効果が付与されてこの値段は買いだ」

「じゃあ即決価格で入札するね」

「だが、待て」

「どうして止めるのさ?」


「醍醐味を味わえないからだ!」


「えぇ……」

 エルフの青年は細い眉毛をハの字にしてに困惑している。



「まずは入札しろ! そして落札できるか期限までドキドキして過ごせ! 無事に落札できたあかつきには全力で喜べ! それがオークションの醍醐味であり、オークションの正しい作法だァ!」



「あのね、レヴィンくんの気持ちはありがたいんだけどね……ボクはできれば明日のダンジョン探索から両手剣を使っていきたいんだよ」


「それは良い心がけだ」


「今日は初めての森林エリアだったから使い慣れた片手剣と盾で挑んだけど……ボクは少しでも早く聖騎士パラディンの両手剣スタイルを確立したいんだ! こんなにもダンジョン探索が待ち遠しいのは初めての経験なんだよ!」 


 真剣な相手から真っ直ぐな眼差しを向けられ真っ向から否定できるはずもない。


「そこまで言うなら仕方がない。好きにしろ」


 そもそも両手剣のスタイルを提案したのは誰あろう白髪青年である。これほどまでに前向きな姿勢を見せられて悪い気がするはずもなかった。


「ありがとうレヴィンくん!」

「ただし! 別のアイテムを入札しろ! これだけは譲れん!」

「あ、意地でも醍醐味は味わわせたいんだね……」


 金髪眼帯エルフの青年は呆れるように肩をすくめながらも「レヴィンくんらしいや」と楽しそうに笑うのだ。


          ◆◇◆◇◆


 ミカエルが落札カウンターから宝物を手に入れた少年のように肉厚な両手剣を大事そうに抱えて戻って来る。


「即決だけどボクはとても嬉しいよ! オークションの醍醐味を少しだけ味わえた気がするね!」

「その調子だミカエル。見込みがあるぞ。いずれは俺様のようなオークションマイスターになれるかもしれん」

「それは別になりたいわけじゃないんだけどね……」


「というわけでミカエル。目的も果たしたし俺様は帰って寝る」


 白髪青年が大あくびをしながら帰ろうとすると、

「待ってレヴィンくん! お世話になったお礼に御馳走させてよ! お腹減ってるでしょ? 減ってるよね?」

 金髪眼帯エルフの青年が熱心に引き止めてくる。


「言われてみれば昼飯がまだだな……よーし、奢れミカエル」

「了解、じゃあボクのおすすめのお店に案内するよ!」

 

 そうして白髪青年がミカエルに連れられて来られたのは王都の繁華街にあるオシャレな《《スイーツカフェ》》だった。

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