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第44話 オークション先生

「おい、急いでシャワーを浴びてくると言ったのはどこの誰だ?」


 ギルドオークションの入り口で白髪青年が腕組みしながら仁王立ちしている。見るからに爆発寸前と言わんばかりの顔で。


「ボクとしてはかなり急いだほうなんだよ? 人生で最速かも?」


 プレイトアーマーを脱ぎ軽装になった金髪眼帯エルフの青年がふわりと微笑む。見るからに気分さっぱりと言った顔で。


「知らん知らん。貴様の普段のシャワー時間とか! どれだけ俺様が待ったと思っている! 帰らなかったことに心から感謝しろ!」

「ありがとう。レヴィンくん。さあさあ、それよりお待ちかねのオークションだよ」


 すっかりご機嫌のエルフの青年は柔和な笑顔で白髪青年の背中を押してくる。華奢なスタイルからは想像できないほどの力強さだ。


 そのままレヴィンたちは冒険者で溢れかえる盛況のオークション会場の中ほどへとずんずんと進んでゆく。


 すると、艶やかな金色の髪から花のような芳醇ほうじゅんな香りが漂い鼻孔びこうをくすぐる。甘い蜜に誘われる虫たちのように周囲の冒険者も振り返る。


「ミカエルこの野郎! やけにいい匂いさせやがって! 余計に腹が立つ!」

「これダンジョンローズの香り。ボクの最近のお気に入りなのさ」


 まさに花咲く笑顔をミカエルが浮かべる。


「褒めてないんだよ! 喜ぶな!」

「ほら、レヴィンくん! 『オークションボード』だよ! 見て見て!」


 金髪眼帯のイケメンにあからさまに矛先を逸らされているわけだが、悔しいかな『オークションボード』を前にして興奮を抑えられないレヴィンである。


 通称『オークションボード』と呼ばれる壁一面の【水晶鏡クリスタルミラー】には競売中のアイテムがびっしりと表示されている。

 武器、防具、アイテム類によってカテゴライズされており、さらに武器種によって細分化されている。

 レヴィンたちは人混みをかき分けて目当ての『オークションボード』の前に進む。


「アイアンクラッドシリーズは……えっと、この辺りだね」


 ミカエルの視線の先にはアイアンクラッドシリーズのアイテム情報がずらりと並んでいる。『オークションボード』には攻撃性能や付与効果、装備できるジョブ、落札期限等々が表示されている。


 案の定、ポッカリと穴が開いたみたいにレヴィンたちの周囲にだけ冒険者の姿がない。『鉄くず』と揶揄やゆされる両手剣の不人気ぶりが如実に表れていると言えよう。


「ところで、ミカエル。入札の仕方は知ってるのか?」


「うん。調べた。目当てのアイテムがあったら『オークションボード』脇にある端末にアイテム番号と入札価格を入力するんだよね?」


「当たり前だが、現在の『最高入札額』を超える金額しか入力はできんからな?」


「でも仮にボクがここで最高入札額を入力しても、また別の誰かによって上書きされる可能性があるよね?」


「そりゃ競売だからな。落札期限ギリギリまでそうした競り合いが続く」


「出品者によっては『即決価格』を提示している場合もあるよね? 最初から即決価格を入力してしまえば手っ取り早いじゃない?」


 屈託なく尋ねてくる金髪眼帯エルフに白髪青年が盛大なため息をこぼしたのは言うまでもない。


「ったく! これだから裕福な貴族のお坊ちゃまは!」

「え? なにダメだった?」

「ダメではない!」

「え? じゃあなに?」

「醍醐味が味わえないだろうが!」

「だ、醍醐味……?」


「オークションの醍醐味とは! 姿形の見えない複数の競売相手との手に汗握る駆け引きにあるのだ!」 


 白髪青年がいつもの熱弁モードに入ったことを察して金髪眼帯エルフの青年は小さく肩をすくめるのである。


「言っておくが、ただ楽しんでるだけではないぞ? 多くの冒険者が入札するということは、そのアイテムにそれだけの価値があるという証左しょうさでもある」


「へー、そういう見方もあるんだね」

「例えば、行列のできる飯屋と閑古鳥かんこどりが鳴いている飯屋。どちらの飯の味が上か? 言うまでもないだろ」

「確かに! 人気のスイーツ店のスイーツに失敗はないからね」

「だが、多くの冒険者が入札するということは落札価格はどんどん跳ね上がってゆく」

「人気スイーツほど早く品切れになるのと一緒だね」


 スイーツの例えが多い。

 もしかしてミカエルはスイーツ好きなのだろうか。


「ん? でも待ってレヴィンくん……それなら上限が存在する『即決価格』のアイテムを落札したほうが結果的に安上がりだったなんてことにならない?」


「甘いぞミカエル! スイーツよりも甘い!」


 なぜかスイーツ例えで対抗する白髪青年である。


「人気アイテムなら『落札価格はどんどん跳ね上がってゆく』んだぞ? 上限を設定したら儲け損なうだろうが」


「そうか! 出品するアイテムに自信があるならそもそも『即決価格』なんて設定しないってことか」


 生徒の成長を喜ぶ熱血教師のように白髪青年が「うむ。そういうことだ」とむんずと腕組みしながら頷いている。


「即決価格を設定する理由はいくつかあるが、一番多いのは『繰り返し出品しているがまるで落札されない』パターンだな。出品するにも手数料がかかる。落札されずに期限を迎えれば手数料だけ取られ続けることになる。赤字だ」


「不人気アイテムを売るための工夫なんだね」

「相場より低めの即決価格にすることで最悪手数料だけでも回収したいという涙ぐましい工夫だな。ちなみに俺様もよく使う手だ」

「妙に熱がこもっていると思ったら実体験なんだね」


「他には『急ぎ資金が必要な場合』だな」

「そんな場合があるのかい?」


「ある! 別の競売アイテムの落札期限が迫っていて最後の大勝負に打って出るための資金を稼ぐ場合だ!」


「もう分かった。それもレヴィンくんの実体験だよね?」

「正解だ! ちなみにこの場合は悪くない出物でものが多い! まさに掘り出し物と言えるだろう」

「どうしても資金が必要なんだもんね。不人気アイテムを出品しても意味がないか」



「そうだ。つまり、不人気アイテムであるアイアンクラッドシリーズの両手剣なぞに掘り出し物は存在しないということだ!」



「いやいや、じゃあ今までの話なんだったのさ?」

「オークションマイスターとしての貴重なアドバイスだ! 精々、今後に活かせ!」

「……はいはい、分かりました先生マイスター


 悪びれることなく言い放つ白髪青年に金髪眼帯エルフの青年は白旗を振るみたいに小さくかぶりを揺らすのである。

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