第37話 答え合わせ
白髪青年が小馬鹿にして鼻で笑う。
「ふん! ロイス! 貴様はそんなことも分からんのか?」
「じゃあ! レヴィンさんには分かるんですか!?」
赤髪犬耳少年が唇を尖らせて応戦してくる。
「【超誘惑体質】が『アビリティ』だとするならば《《おそらく》》答えはひとつだ」
「おそらくってなんですか? 偉そうなこと言ったくせに」
「黙れロイス。確証を得るための質問に答えろ。貴様が誘惑した男どものジョブはなんだ? 覚えてるだけ挙げていけ」
「……え? それ答えなきゃダメですか?」
赤髪犬耳少年はあからさまに嫌そうな顔を浮かべる。
「答えを知りたくないなら好きにしろ」
だが、白髪青年からの誘拐犯のような脅し文句に「もう、分かりましたよ……」と渋々口を開く。
「えーっと、【戦士】に【槍術士】に【拳闘士】に【剣術士】に【黒魔魔導士】に【弓術士】に【盗人】に【暗黒戦士】に【遊撃手】に【人形師】に――――」
「待て待て待てえ! ストップストップゥ! 多い多い! 貴様はどれだけ罪のない男女を誘惑してきたんだ?」
「そ、そんな言い方しないでください! ぼくがとんでもない『たらし』みたいじゃないですか!」
「実際、そうだろうが」
「違います! 不可抗力です!」
「まあいい。確証を得る材料としては十分だ。やはりそういうことか」
「それで答えは?」
「馬鹿め。少しは頭を使え。列挙したジョブに共通点があるだろ?」
「共通点ですか……?」
赤髪犬耳少年が腕組みしながら思案する。やがてカッと目を見開く。
「そうか! 全員『攻撃役』だ!」
「それだけじゃない。他にもあるだろ?」
「そっか! ほぼ『前衛職』だ!」
「で? 導き出される答えは?」
「え? なんだろう……?」
「仕方がないやつめ……大ヒントだ! 前衛職の中でも『盾役』がなぜ貴様に誘惑されなかったのか不思議だとは思わんか?」
「確かに!」
「それを踏まえてミカエルがジルより『勝っているスタータス』がなにかを考えれば答えは自ずと見えてくるはずだ」
「……あ。防御力や各種耐性の高さだ! それらが高いジョブは【超誘惑体質】の影響を受けづらいってことですね!」
「正確に言えば『魔法耐性の高さ』が直接的に影響している」
「なぜそう言い切れるんですか?」
「貴様に誘惑されたジョブが総じて魔法耐性の低いことで知られる『物理系アタッカー』もしくは『アタッカー系の前衛職』だからだ。ちなみに灰色魔導士の魔法耐性はかなり高い!」
「それでレヴィンさんは大浴場でぼくの裸を見ても冷静だったんですね!」
「いや、違うが?」
「……え?」
「耐性とか関係なくあんな貧相なボディに俺様が誘惑され――ってなぜまた俺様のケツを蹴るロイス?」
「――は? なぜ? 自分の胸に手を当ててよーく考えてみなよ」
赤髪犬耳少年がまさしく狼が獲物を狙うような目で睨みつけてくる。
普段敬語の人間が突然ぶっきらぼうな口調なった時の恐ろしさたるや。まるで自分が無力な野うさぎでもなった気分だ。
白髪青年はわざとらしく咳払いして続ける。
「要するにジョブ性能のお陰で俺様には【超誘惑体質】が効かなかったというわけだ! だから決して! ロイスに魅力がなかったとかそういうことではないと付け加えておく」
「いいでしょう。許しましょう」
かくして白い野うさぎは一命をとりとめるのである。
「ん? ということは……ぼくの【超誘惑体質】は魔法系のパッシブアビリティに分類されるってことですか?」
「なにを驚く。不思議ではないだろ? 幻視や幻惑や混乱などの相手を惑わすタイプのアビリティのほとんどは魔法系だろうが?」
「言われてみれば……」
「実際、魔法耐性の低い『物理系アタッカーの前衛職』がダンジョンで『混乱の状態異常』になって仲間を攻撃し始めパーティーが半壊したなんて話は珍しくない」
「でもそれ言うなら黒魔魔導士の人はどうして誘惑されたんでしょうか……?」
「そりゃ脳筋攻撃役だからだ! 魔導士のくせに強化役である俺様や回復役の貴様、弱体役などと比べて黒魔魔導士は魔法耐性が低いんだ。脳筋だからな!」
「うわ、脳筋って二回も言った」
白髪青年のあからさまな態度から黒魔魔導士にはあまりいい印象を持ってはないようだ。
「それにしても皮肉な運命ですよね……」
赤髪犬耳少年が力なく頭を揺らす。
「なにがだ?」
「【超誘惑体質】がなければぼくはアカデミーには来ていなかった。きっとジルさんたちにも出会っていなかった」
「いや、そもそも、白魔導士を神託されることもなかっただろう」
「え? ぼくが白魔導士のジョブを【運命の女神ルナロッサ】様から頂けたのは偶然ではないということですか?」
「因果関係はあるだろうな。考えてみろ? 身体能力に秀でた狼耳族が魔導士系のジョブを神託されるなど前代未聞だろうが?」
「そうなんです! 同族のみんなが神託されるのは攻撃役系の前衛や後衛ジョブなんです!」
「すなわち! その答えは【超誘惑体質】だ!」
「どういうことですか……?」
「忘れたのか? 自分で言ったんだろうが? 貴様のフェロモンは『量が多く効き目が強い上に年中、分泌される』と」
「はい。言いましたけど……」
「そのフェロモンが『魔法系のパッシブアビリティ』だということも判明した! そこから導き出される結論はひとつだ!」
「それって……もしかして……」
驚き言葉を詰まらせる赤髪犬耳少年に白髪青年が自信たっぷりに言い放つ。
「喜べロイス! 【超誘惑体質】とは隠しきれない才能の裏返し! 貴様には人並外れた『魔法的才能』があるってことだ!」
「そんなふうに考えたこともなかった……ぼくにとって【超誘惑体質】は人生を狂わせた不幸の元凶でしかなかったのに……」
数々の辛い出来事が走馬灯のように赤髪犬耳少年の脳裏を駆けめぐる。
しかし、それらが白髪青年から放たれた魔法の言葉によって、丸ごと報われたような気がして胸に込み上げてくるものがあった。
「貴様に魔導士系のジョブが与えられたのはある種の必然! 鍛え方次第では、脳筋の魔導士にも負けない威力の魔法攻撃だって夢じゃない!」
白髪青年が意気揚々と続ける。
「しかも! 貴様は狼耳族としての高い身体能力も備えている! 回復に魔法攻撃に物理攻撃に! 回復役の固定観念を余裕でぶち壊す特別な存在になれる未来が待ってるぞ!」
瞬間、白髪青年の高笑いが雲ひとつない鮮やかな空にこだまする。
「つまりなにが言いたいのかと言えばァ! このレヴィン・レヴィアントの見る目に狂いはなかったということだッ! さすが俺様ッ!」
臆面もなく自画自賛する白髪青年に赤髪犬耳少年からは呆れて言葉も出ない。
しかし、負けを認めるのに時間はかからなかった。思わず笑ってしまったのだ。
「ははは、ミカエルさんの言う通りだ……レヴィンさんの尊大さは偉大だ」
長い間、自分を縛り付けてきた重い鎖から解き放たれた気分だ。心も身体も軽やかで、不思議と空気も美味い。
「……いや、今なら空だって飛べそうな気がする」
燃えるような朝焼けに少年はまぶしそうに目を細める。
それから重い鎖をやすやすと断ち切った件の青年を横目に口元をほころばせる。
「認めたくないけど……もしかしたらあなたと出会えたことがぼくにとっての一番の運命なのかもしれないな――――」




