第29話 これだからイケメンどもは!
「レヴィンくんせっかくだ。さらにボクたちが強くなるための具体的なアドバイスをくれないかい?」
金髪眼帯エルフが前のめりで尋ねてくる。
「ああ! 今回の戦術を継続するのはもちろんのこと、それ以外に改善する点があるならぜひ教えてくれ!」
黒髪イケメン双剣士が威勢よく続く。
「幾つかあるがまずは――」
レヴィンは品定めするみたいにイケメンどもに目を細める。
「――装備の最適化だな」
「装備の最適化?」
イケメン三人が不思議そうな顔を浮かべている。レヴィンが盛大なため息を漏らしたのは言うまでもない。
「ハァ! これだからイケメンどもは!」
「いや、装備と見た目って関係あります?」
狼耳族の赤髪犬耳少年が怪訝そうに尋ねてくる。
「あーるッ! 俺様からすれば道理は一緒だ!」
レヴィンが再びジョッキをテーブルに叩きつける。案の定、通りすがりの褐色メイドに「レヴィンさーん、ジョッキが痛むんでやめてくださーい」と注意される。
「俺様調べだと! イケメンは見た目に無頓着な連中が多い! なぜなら生まれながらに容姿が整っているからだ!」
「俺様調べって……それレヴィンくんの偏見だよね?」
「黙れミカエル。偏見ではない主観だ」
「あくまで客観ではないんだね」
「そもそも、人こと言えるんですか? レヴィンさんだって見た目に無頓着じゃないですか?」
「黙れロイス。俺はダンジョン攻略にすべてのリソースを割いているだけだ。ダンジョンミニマリストと呼べ」
「はいはい」
呆れるロイスとミカエルを無視してレヴィンは続ける。
「同様に優秀なジョブである『ジョブイケメン』の貴様らは装備に対してあまりに無頓着なのだ! 今の武器や防具はスポンサー様からの支給品を特に深い考えもなくさも当然のように使ってるだけだろうが?」
聖騎士のミカエルは盾役らしいプレートアーマーに片手剣に大ぶりなカイトシールド。
白魔導士のロイスはその名の示すように白を基調としたローブにロッドにウッドシールド。
双剣士のジルは動きやすさを重視した軽装備。ただし少しでも防御力を補いたいのか鋼鉄の胸当てと鋼鉄で補強された小手を装備している。武器はブロードソードの二刀流。
「考えもなくってのはさすがに語弊があるが、結成当初からオレたちのことを応援してくれている『グラングラン』という大手装備品メーカーの最新モデルを信頼して使わせてもらっている」
見るからに上等な装備品である。値段は数十万ルナはくだらないだろう。少なくとも、一介のアカデミー生がおいそれと装備できる代物ではないだろう。
「オレたちは今の装備品に特に不満を感じていないが?」
ジルの視線にロイスとミカエルがうんうんと頷く。その様子に白髪青年がやれやれと大げさに首を振る。
「これだからイケメンどもは! そりゃ20階層程度ならメーカー品で問題ないだろう。ただ今より強くなろうと考えた時、さらに強い魔物と対峙した時、万人向きの装備品では壁にぶつかることになる。装備品とは自らの特性や状況を鑑みて継続的に最適化してゆくべきなのだ!」
偉そうな態度は別にして白髪青年の言うことにも一理あると、イケメン三人が「確かに」と納得している。
「例えば盾役のボクならば……この先を見据えて、今より防御力の高い装備で身を固めるべきってことだね?」
「ミカエル。それは不正解ではないが、俺様が言う最適化とは違う」
「どういうこと?」
「貴様らが『Favorite3』などと呼ばれていた以前はジルなら攻撃力。ミカエルなら防御力。ロイスなら回復力とシンプルにそれぞれのジョブの長所を伸ばせばよかっただろう」
イケメン三人が真剣な表情でレヴィンの話に耳を傾けている。
「しかし、俺様が加わってパーティーの戦術が大きく変わった。今後は新たな戦術に最適化した装備選びをするべきだ」
レヴィンがびしっと金髪眼帯エルフを指さす。
「例えばミカエル。聖騎士には両手剣の適正もあったよな? 今の戦術なら両手剣聖騎士ってのも悪くないと思うぞ」
「おお! 両手剣か! 考えたこともなかったよ!」
ミカエルが青い瞳を輝かせている。
「防御力とのトレードオフにはなるが、間違いなく火力は現在の片手盾装備よりも出せる。敵視も今より稼げるはずだ」
レヴィンはミカエルの長い耳をちらりと見やる。
「そもそもエルフの貴様が防御に特化したところで鬼人族のような先天的に頑強な種族連中には堅さでは永遠に勝てんぞ?」
「手厳しいね。でも、事実だから反論しようがない……魔導士適正の高いエルフが盾役というのは物珍しいからね。そのせいで入学した頃はパーティーになかなか誘ってもらえなくて苦労したよ」
途端に金髪眼帯エルフが長いまつ毛を伏せる。
(ミカエルのやつ……俺の想像以上にコンプレックスを感じていたみたいだな)
エルフ自体は珍しくないが、エルフの盾役はアカデミーではミカエルくらいだ。そんな物珍しさもあって口さがない連中からエルフ盾役に対して懐疑的な声も耳する。
白髪青年の悪評ほどではないが。
(ったくイケメンどもは打たれ弱くて困る……しょうがない)
白髪青年は腕を伸ばして金髪眼帯エルフの丸まった背中を叩く。
「ミカエル下を向くな! エルフはどの種族よりもマナ総量に恵まれているだろうが! ならばアビリティを最大限に活用するスタイルにシフトチェンジすればいい! 今日の戦い方がそのひとつの答えだ!」
「レヴィンくん……まさかそのことまで考えて今日の戦術を……」
「固定観念なんてくそったれだ。俺様が手を貸してやるんだ。エルフ盾役こそ最強だと証明してみせろ」
「ふふふ、君の尊大さは偉大だね。驚くほど心が軽くなった。改めてレヴィンくんがパーティーメンバーに加わってくれてよかったよ」
ミカエルが微笑みながら青い瞳を潤ませている。そして、その様子をリーダーの黒髪イケメン青年が誰よりも嬉しそうに眺めている。




