第20話 不幸なエンカウント
男女関係もダンジョン同様に弱肉強食らしい。
言い負かされ主導権を握られたレヴィンは、ジュリアンの腕を振りほどけぬまま人混みを進むしかないのである。
寝ることが最大の欲求だと豪語するレヴィンとて健全な青年である。美人に密着されて必ずしも悪い気はしない。
(だが、中身がジルだと思うと手放しで喜ぶ気にはなれん。いや、むしろこいつに女を強く感じるほどに負けたような気分になってゆく)
しかも、すれ違うたびに街の男たちから敵視を向けられるのだ。鬱陶しくてたまらない。
(目立つパートナーというのも考えものだな。まるで街中でレアな装備品をひけらかしているような状況だ)
羨望と嫉妬は紙一重なのだと学ぶレヴィンである。
さすがに耐えられなくなってきた。白髪青年は密着する彼女にささやく。
「なあ……もしかしてだが、今日、ずっとこの距離感でいくつもりか?」
「うん。本物の恋人に見せるためにはやりすぎくらいが丁度いいんだよ」
「やりすぎね……ジルの過剰なまでのヒーロー気質はそれが理由か」
「うん。女の子のわたしが自然な男の子を演じるなんて逆立ちしたって無理だから。なら男女関係なく『ジルという人物』を演じるほうが無理がないかなって」
「まるで手品のタネを明かされている気分だ。世の中には知らないほうが幸せなことがあるというのは本当だな」
「もう、あからさまにげんなりしないで。わたしだって恥ずかしいけど頑張ってるんだからレヴィンも協力して」
「恥ずかしい? 俺様には貴様がさっきから妙に嬉しそうに見えるのだが?」
「そう?」
「貴様、この状況を楽しんでるだろ?」
「ほら、ダンテくんたちが人混みに紛れて見えなくなっちゃった。急ごう急ごう」
黒髪の彼女はとぼけた顔でレヴィンの腕をぐいぐいと引っ張ってゆく。
「……こいつめ」
思えば今日は最初からジュリアンのペースである。
(ん? いや、待てよ……実は女だと発覚してからずっと俺はこいつに振り回されてないか……?)
——その時だ。先を急ぐレヴィンたちの目の前に三人の男子学生が立ちはだかる。
「よう。久しぶりだな。レヴィアント」
忘れもしない数か月前、白熊亭の裏路地でレヴィンのことを袋叩きにした元パーティーメンバーの三人組である。
レヴィンは舌打ちする。
(くそったれ、面倒な連中とエンカウントしちまった)
「聞いたぜ。20階層突破目前らしいな? 絶好調じゃないか!」
「どんな汚い手を使って『F3』のパーティーメンバーになったんだ? ご教授願えませんかねえ!」
「おいおい、すげーいい女連れてるじゃん! イケメンどものおこぼれか? 俺たちにも少しわけてくれよ!」
元メンバーたちがあからさまにつかかってくる。自分たちの状況がかんばしくないのもあるだろう。レヴィンの成功が心底気に入らないらしい。
「そういう貴様らは相変わらず12階層あたりをふらふらしてるらしいな? まったく成長のないやつらだ!」
と言い返したいところだが、ジュリアンの手前レヴィンはぐっと言葉を飲み込む。
「誰だ貴様ら? 知らんな」
代わりにそうすっとぼける。
ところが、むしろ、こちらのほうがより連中のプライドを傷つけたらしい。三人が一斉に詰め寄って来る。
「俺たちなんぞ眼中にないってか! 調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「良い気になりやがって! くそ強化役野郎が!」
お陰でなにごとかと周囲の注目を集めてしまう。衆人環視の中、トラブルを起こせば衛兵の世話になりかねない。アカデミーにも報告が行くだろう。
「くそったれ、やはり大人しく寮の部屋で寝てたほうが良かったではないか」
レヴィンはやれやれと首をすくめる。
(さて、どうする。くだらなすぎて相手をするのもバカバカしい。人混みに紛れて走って逃げるか)
ところが、なぜか純白ワンピースの彼女が両手でレヴィンの腕をぎりぎりと締め付けてくる。そのせいで身動きが取れない。
「……痛いんだが?」
「レヴィン。こいつら《《オレ》》がぶっ飛ばしても構わないか?」
見ると、ジュリアンがダンジョンでおなじみの勇猛果敢な双剣士の顔つきをしている。どうやら彼女の中に住む仲間想いで正義感の強いイケメンがご立腹らしい。
レヴィンが小さく首を振る。
「引っ込んでろ。自分の尻は自分で拭く。貴様はそのへんで震えてろ」
中身はジルだ。彼女がこの三人に後れを取ることはないだろう。だが、それでは弱気な妹という設定と辻褄が合わなくなってしまう。
レヴィンが「付いて来い」と裏路地にあごをしゃくる。三人組は上等だとばかりに意気揚々と灰色魔導士に続く。




