第2話 こんなパーティーやめてやる!
「もう我慢の限界だ! こんなパーティーやめてやる!」
ダンジョン攻略終わりの冒険者で賑わう大衆食堂『白熊亭』の片隅で、目つきの鋭い白髪青年がジョッキの底をテーブルに激しく叩きつける。
「はいはい。レヴィンのいつものやつが始まった」
白髪青年ことレヴィン・レヴィアントの対面に腰掛ける栗毛の長身青年が慣れた様子で受け流す。
「それなりの見た目でそれなりに評価されている【槍術士】のダンテに俺様の気持ちが分かってたまるか!」
「それなりってひどいな。それがいつも愚痴を聞いてあげてる同郷の幼馴染に対する言いぐさ?」
ダンテ・ダンテリオンは言葉とは裏腹に気分を害した様子もなくひょいとピクルスを摘まみ食う。
「でも、やめるのもったいなくない? レヴィンのパーティーって僕たち【王立冒険者アカデミー】でもトップクラスの実力者ぞろいじゃん」
「まあ、俺様がサポートしてやるのに過不足ないメンバーではある」
「素直に優秀なメンバーだって認めなよ」
「問題は実力云々ではない! 問題はやつらがイケメンすぎることだ!」
レヴィンが再びジョッキをテーブルに叩きつける。通りすがりの褐色メイドに「レヴィンさーん、ジョッキが痛むんでやめてくださーい」と注意される。
悪びれない白髪青年に代わってダンテがメイドに小さく肩をすくめる。
「いやいや、イケメンのなにが悪いのさ? 今後の『ダンジョン攻略配信』の収入とか考えたらメンバーがイケメンのほうが絶対に有利じゃん」
「貴様が馬鹿の一つ覚えのように口にしている『今まさにこの世は大ダンジョン時代だ!』ってやつか?」
「そうそう! 世界最大級のダンジョン【無限迷宮】は大陸中から注目されてるんだ! ダンジョン攻略配信が大衆の一大娯楽としてもてはやされてる! 今や世界はダンジョンで廻っていると言っても過言じゃないのさ」
王都の中央にそびえ立つストラーヴァ城の地下には【無限迷宮】と呼ばれる文字通り底知れないダンジョンが広がっている。
生き物のように定期的に内部構造を変える未曾有のダンジョン。
そこから排出されるお宝や食材や資源は世界中で珍重され軒並み高値で取引されている。
宝箱や魔物からドロップする希少なアイテムなどに至っては家が一軒建つほどの貨幣が動くことも珍しくない。
「景気のいい話、人気のパーティーともなれば配信やグッズの収入、さらにスポンサー料などだけで巨万の富が築けるほどさ」
白髪青年は憮然とした表情でジョッキの蜂蜜酒を喉に流し込む。
「レヴィンあからさまに嫌な顔するなって。僕たちの目的を忘れたのか? 有名なダンジョン冒険者になりたくて、辺境の村からこの王都にやって来たんじゃないか」
「愚問だぞダンテ! 名声を手に入れ大金を稼ぎ! ちんけな故郷の村を復興するのが俺たち選ばれし者たちの使命だ!」
「素直に身寄りのない自分をここまで育ててくれた村のみんなに恩返しがしたいって言いなよ」
「とにかく目的のためにも! 俺様の優れた能力を最大限に発揮できる実力あるパーティーに所属する必要があるのだ」
「だったらなおさら今のパーティーをやめる必要はなくない?」
「ダンテ! 貴様の目は節穴か! 黒髪イケメンの【双剣士】に金髪眼帯エルフの【聖騎士】に赤髪犬耳の【白魔導士】! そして【灰色魔導士】のこの俺様の4人パーティーだぞ?」
「確かにレヴィンが見た目もジョブもびっくりするくらい一番地味だよね。だけど、目立たないのが不満とかじゃないよね?」
「寝言は寝て言え。俺様は『強化魔法アビリティ』のスペシャリストだぞ? むしろ目立つことなく陰からパーティーを支えることに無常の喜びを感じている」
「レヴィンって昔から自分の掌の上で人が踊ってるのを見るのが好きだよね」
「ダンテ! 俺様のことをよく分かってるじゃないか!」
「褒めてないからね。良い性格してるって言ってんの」
ダンテが呆れて肩をすくめる。