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第15話 スタンピード

「断言する! レヴィンが一番輝ける場所はオレたちのパーティーだ!」

「レヴィンくん。色よい返事を待っているよ」

「ぼくとしては同じ魔導士ですし素直に歓迎しますよ」

 レヴィンは「前向きに検討しておいてやる」ともったいぶった返事をしながらボスエリアの移動用魔法陣を起動させて11階層の荒野エリアに降り立つ。


 ――その直後だ。


 レヴィンたちのいる『セーフティエリア』に冒険者たちが血相を変えて次から次へと雪崩れ込んでくる。


 無限迷宮には【ファストダイブ】と呼ばれる踏破済みの階層をショートカットできる便利な移動手段がある。

 ただし任意の階層に移動できるわけではなく、一定の階層ごとに設置されている『ルナロッサの女神像(転送ポイント)』にしか対応していない。

 その女神像の設置されてる階層の入り口付近には魔物の侵入を拒む神聖な結界が張られており、俗に『セーフティエリア』と呼ばれている。


「君! 一体、どうしたんだ!?」


 乾いた大地に倒れ込むアカデミーの学生にジルが尋ねる。満身創痍まんしんそういの男子学生は息せき切らせて叫ぶ。



「す……スタンピードだ! 大規模なスタンピードが発生したんだッ!」



「スタンピードだってッ!?」

 途端に黒髪イケメン双剣士ブレイバーの顔が青ざめる。

「ご……ゴブリンをしゅ、主体とした……100体以上の魔物の大群だァ!」

 男子学生がごほごほと苦しそうに咳き込む。ロイスがすぐさま男子学生の近くにひざまずく。

「じっとして。動かいないでください〈ヒール〉」

「100体以上とは……命が幾つあっても足りないよ」

 ミカエルが険しい表情で腕組みする。


 15階層を突破済みのジルたちからすれば、11階層の魔物は必ずしも脅威きょういではない。だが、それは少数ならばだ。『数の暴力』という言葉があるように数十以上になると格下の魔物でも途端に格上の脅威に早変わりだ。

 リスクの高い多頭たとう戦を極力避け、一頭づつ確実に倒してゆくのが冒険者の絶対的なセオリーだ。

 ダンジョンでは『リスク』イコール『死』だからだ。


 ジルが神妙に続ける。

「被害状況は?」

「スタンピードに最初に巻き込まれたパーティーは全滅……その他の数パーティーも壊滅状態だ……」

「逃げ遅れた者は?」

「わからない……まだ数人ほど生き残りがいるかもしれないが……」

「ギルドへの報告は?」

「先に避難した冒険者たちが報告しているはずだ……」

「そうか。ありがとう」


 ジルがこちらに近づいてくる土煙を見据えながら双剣の柄をぐっと握りしめる。逃げ遅れた者たちを助けたい気持ちがあるのだろう。


「忠告してやるジル・ジェイルハート。勝てぬ相手に挑むのは冒険者としてもっとも愚かな行為だぞ?」

「レヴィンに言われなくとも分かってる! 冒険者にとって『死なないことが第一だ』というのは……」


 それは王立冒険者アカデミーに入学して最初に教えられることだ。周囲を見回すと、当然のように他の冒険者たちはファストダイブで地上に帰還してゆく。


「みんな! これは『ギルド案件』だ! オレたちもギルドの邪魔にならないように速やかに撤退しよう!」


 ジルは個人的な感情をぐっと押し殺してリーダーらしく決断を下す。

 ダンジョンで起こる不測の事態の対応に【王立冒険者ギルド】の精鋭たちが動くことがある。冒険者たちはそれを『ギルド案件』と呼ぶ。


「触らぬ神になんとやらだ。ギルド案件に一般の冒険者は手を出さないのが暗黙の了解だからな」


 呼吸が整った男子学生も「回復感謝する!」と頭を下げて転移ポイントの女神像へと走ってゆく。

 最早、セーフティエリアに残っているのはレヴィンたちだけだ。


「さあ! オレたちも急ごう!」

 そうジルたちが女神像に移動を始める。ところが、レヴィンだけが逆方向に歩いてゆく。

「レヴィン……?」

白魔導士ホワイトメイジ。俺様に〈プロテクション〉を寄越せ」

「え?」

「なにをする気だいレヴィンくん……?」

 戸惑いの表情を浮かべるイケメンたちに白髪青年が憮然と告げる。



「スタンピードを止めてくる」


 

「ま、待ってくれレヴィンくん! さっき『勝てぬ相手に挑むのは冒険者としてもっとも愚かな行為だ』と言ったのは君じゃないか!」

「貴方はバカなんですか? 100体を超える魔物の大群をひとりでどうこうできるわけがないじゃないですか!」


 ミカエルとロイスが慌てて止めに来る。しかし、レヴィンは二人を押し退けて結界の外へと悠然ゆうぜんと進んでゆく。

「貴様らのその目立つ耳は飾りか?」

「どういう意味だい……?」

 エルフのミカエルと狼耳族ワーウルフのロイスが戸惑いの表情を浮かべる。


「俺様は『勝てぬ相手』と言ったはずだぞ? 『勝てると分かってる相手』に挑むのは無謀か?」 


 白髪青年の自信に満ちた態度にミカエルとロイスは唖然としている。

「いやいや……よほど高レベルならまだしも! レヴィンくんのレベルはボクたちとそんなに変わらないじゃないか!」

「ダメだこの人……ねえジルさん! なんとか言ってくださいよ!」

 ロイスが呆れた様子で黒髪イケメン双剣士ブレイバーに助けを求める。二人はジルがいつのも熱血で白髪青年を止めてくれるものだと思っていた。

 ところが、ジルの口調は驚くほど落ち着いている。


「二人とも大丈夫だ。彼を信じろ」


 まさかの後押しである。どういうわけかジルの瞳もレヴィンの態度に負けず劣らず自信に満ちていた。

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