第14話 感想戦
ジルたちは魔物解体用の自動ナイフで討伐したキングボアの毛皮や肉などの素材を回収する。
自動ナイフはマナを込めると、素材を自動回収してくれる優れもので回復系ポーション同様にダンジョン攻略に欠かせないアイテムである。
「おお! これは大当たりだな!」
白髪青年が声を弾ませる。なんと討伐報酬の宝箱から《《全ジョブ共通装備》》のネックレスがドロップしたのだ。
「敵視DOWNの効果が付与されてるね!」
「しかも全ジョブ共通装備だ! 【冒険者ギルドオークション】に出品すれば100万ルナはくだらないだろうな!」
ところが、律儀なジルは今回の儲けを『四等分』すると言う。当然、レヴィンは固辞する。
働かざるもの食うべからず。おこぼれに預かるなどプライドが許さないのだ。
結局、ネックレスは満場一致でもっとも敵視を稼ぐ黒髪イケメン双剣士が所持することで落ち着いた。
「どうだった! レヴィン! 君の灰色の瞳にオレたちのバトルはどう映った!」
ひと段落つくとジルが待ちきれないとばかりに尋ねてくる。白髪青年は大上段な態度を崩すことなく憮然と答える。
「まあ、悪くはなかった」
嘘である。『しょせんは人気だけのイケメン野郎たちだろ?』とあなどっていたが、想像以上の実力だった。
頭を下げてでもパーティーに加わりたいのが本音だが、レヴィン・レヴィアントはそんな殊勝な人間ではない。
すると、金髪眼帯エルフが柔和な笑顔で尋ねてくる。
「レヴィンくん。良かったら具体的な感想をもらえないだろうか?」
「幾つか気になった点がある」
「例えば?」
「例えば聖騎士。貴様はもっと攻撃アビを頻発して累積の敵視を稼ぐべきではないのか? リキャが終わる度に攻撃アビを発動させてもいいぐらいでは?」
双剣士の強力な一撃だけではなく、ちまちまとしたいやらしい攻撃でも敵視は十分に稼げるのだ。
「うーん、どうしてもマナの残量が気になってしまってね。ボクの攻撃アビはジルほど強くないし頻発するのは非効率に思えてしまうんだよ」
ミカエルが小さく首をすくめる。レヴィンは「なるほど」とつまらなそうに頷く。続いて中性的な顔立ちをした赤髪犬耳少年に視線を向ける。
「同様に白魔導士の貴様もだ。なぜ攻撃魔法アビを一度も使用しない?」
「決まってます。マナを温存するためです」
「だとしても慎重すぎるだろ? 〈プロテクション〉や〈ヒール〉の消費量はそれほど多くはないだろ? コスト的に重いのは全体回復魔法くらいか」
ロイスが不服そうに唇を尖らせる
「無茶言わないでください。ただでさえ回復アビは敵視を稼ぎやすい行動なんですよ? ヒーラーのぼくが倒れてもいいんですか?」
直後だ。レヴィンがボスフロアに哄笑を響かせる。
「ハッ! 笑わせるな! なにが最強を目指すだ! 現状の貴様らは双剣士頼りではないか! この先、火力不足でジリ貧になるのは目に見えている!」
レヴィンは努めて挑発する。最初が肝心だからだ。
「双剣士! 貴様もだ! お行儀の良いパーティープレイをしやがって! むしろタゲを取るくらい全力で行け! 盾役はその上でタゲを取らせるな! そうやってメンバー同士でせめぎ合いをするくらいでなければ最強になんてなれるか!」
バランスを取り合うことは大事だ。だが、見た目同様に彼らのバトルはあまりにスマートすぎるのだ。
もっとも、バチバチにやりすぎてレヴィンのようにパーティーの脱退を繰り返すのは考えものだが。
(さあ、どう反応する……)
レヴィンの歯に衣着せぬ言動が、これまでのパーティーメンバーと数々の軋轢を生んできた。
(だが、この程度の発言に目くじらを立てる器の小さいメンバーと最強のダンジョンパーティーを目指せるはずがない)
ちなみにレヴィンに己の傍若無人な言動を改めるという考えはまったくなかった。
「耳が痛いよレヴィンくん」
「悔しいけど……レヴィンさんの言い分も分からないでもないです」
ところが、気を悪くするどころかミカエルとロイスは申し訳なさそうにしている。どうやら本人たちにも思い当たる節があったようだ。
「さすがレヴィン・レヴィアントだ! 一発でオレたちの問題点を見抜くとは!」
ジルに至っては我がことのように喜んでいる。完全に拍子抜けだ。
「現在、オレたちは荒野エリアの突破を目指してる。だが、魔物の生命力や防御力が増してきて殲滅速度が徐々に落ちてきているんだ」
「そろそろボクたちだけでは限界を感じ始めてきたところだよ」
「うん。それで三人で話し合って四人目を加えようってことになったんですよ」
「ミカエル! ロイス! やはり彼を選んで間違いなかっただろ?」
「ああ。少々手厳しいが彼の戦術眼は確かなようだ。気に入ったよ」
「態度は偉そうですけど、レヴィンさんのように問題点を臆せず口にできる人材が貴重なのは認めます」
褒められて内心満更でもない白髪青年である。
「だが、今さらだな。パボの恩恵を考えたらもっと早くに四人目を加入させるべきだったんじゃないのか? 貴様らくらい有名なら幾らでも売り込みはあったろうに」
白髪青年の疑問に黒髪イケメン双剣士が真摯に答える。
「確かにパーティーに加えて欲しいという売り込みは毎日のようにあるさ。でも、妥協したくなかったんだ。オレたちは本気で最強のダンジョンパーティーを目指しているからな!」
白髪青年が「ほう」と満足気に目を細める。『妥協したくない』というジルの言葉に自尊心が擽られたのだ。
「攻撃役ではなく強化役の俺様をわざわざ選んだのも熟考の末か?」
「いや、前々からオレの中では四人目はレヴィンに決まっていた!」
「前々から?」
「レヴィンがパーティーを脱退するタイミングを見計らってたのさ。レヴィンが一つのパーティーに《《長く留まらない性格》》なのは知ってるからね」
「くそったれ……裏路地に都合よく現れたと思ったそういうことか!」
ジルが「まあね」と爽やかに微笑む。
「確かにアタッカーを加えれば短期的な火力アップには繋がるろう。だが、先を見据えた時、特に強敵との長期戦を想定した時、継戦能力を高めてくれる灰色魔導士がオレたちには絶対に必要だと思ったんだ」
ジルの熱っぽい言葉に二人がしっかりと頷く。全員が納得の答えらしい。
(ジル・ジェイルハート。ただのイケメン脳筋野郎かと思っていたが、意外と食えないやつだな……)
納得したのはレヴィンも同様だ。それは灰色魔導士にとって理想的な答えだったからだ。
この瞬間、レヴィンの心は完全に決まった。