2,賢者は追放されました。
その日の夜、俺は書斎に呼び出された。
「すまないとは思っている。しかし、我が公爵家として、お前を家に置いておくわけにはいかない…。」
「…はい。」
「明後日の朝までに荷造りをしておけ…」
「…わかりました。」
どうしてこんなことに…
転生が成功したのはいいものの、この世界では俺の想定していないことが多すぎる。
そもそも賢者が中位職なわけがない。
俺は確実に賢者を『最上位職』と設定したはずだ。
実験は多少なりともやっていたつもりだったが…
どうもこの世界は俺の設定通りの世界ではないらしい。
公爵家からも追放を余儀なくされてしまった。
「何事も都合よくはいかないものだな。」
明後日からどうしたものか…
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そして翌日の朝、俺は近隣の家や領民たちに挨拶回りをした。
もちろん優しく送ってくれる人もいたが…
「やーい落ちこぼれ中位職!大教会の出来損ない!」
「やめろよw無能が移るぞw」
「あははっ!たしかになw」
こんなこともザラにあった。
俺はもう公爵家の人間ではなくなるのだ。仕方がない。
「出来損ない…か。それも案外悪くないのかもな。」
せっかくファンタジーの世界に転生したんだ。設定とは違っても全力で楽しんでやる。俺は俺なりに!
「はぁ…疲れた…。」
騒ぎ立てる子供の相手をしていたら日が暮れていた。
「…それにしても、明日か。」
俺は明日から自分の力で食っていかなければならない。
どうやって稼ぐのか、どこで暮らすのか、考えなければいけないことがたくさんあるが…なんとかなる気がする。
「だって俺主人公だもん。」
明日からのことは明日考えよう。今悩んでも仕方ないし。
荷造りも終えたし今日は早く寝るか。
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「お父様、おはようございます。」
「ああ、おはよう。荷造りはできているか?」
「はい。できております。」
「そうか。」
「…不安は無いか?」
「無いことはありませんが、今さら嘆いても仕方がありませんので。気を遣ってくださりありがとうございます。」
「そうか、ならよかった。」
と言って、父は袋を差し出してきた。
「これは餞別だ。1週間は暮らせるだけの金が入っている。ないよりかは幾分かマシだろう。」
「…ありがとうございます。」
餞別なんてないものだと思っていた。
仮にも父親…か。これだけの金を私財から出したのだ。息子への愛はたしかにあるのかもしれない。
なんにせよ、ありがたくもらっておこう。
「これからどう生きていくつもりだ?」
「ここから南にあるミール伯爵領で冒険者として生きていきたいと考えております。あそこは伯爵と領民の距離が近いため、厳しい法に縛られず自由な生活ができると聞いておりますので。」
「なるほどな。お前は冒険者になろうと思っているのか?」
「はい、そのつもりです。」
「ならば伯爵領よりも東のトレント公爵領の方が良いかもしれないな。」
「それはなぜでしょうか?」
「冒険者はギルドの規模で働く環境もかなり変わるんだ。大きなギルドほど治癒魔法も進んでいるし、クエストも簡単かつ報酬が良いものが多い。その面で、公爵領は我が国最大級のギルドがあるからな。」
「なるほど…たしかにそれはいいですね。ですが、そんな大都市となれば宿も高くなるでしょうし…」
「そこも心配はいらない。公爵は幅広い身分の領民を迎え入れているからな。宿も安い宿から高い宿までたくさんある。それぞれに合った生活ができる自由度が高い都市なんだ。」
それはいいな。ちょうど俺が求めていた場所だ。
にしても、俺のためにそこまで考えてくれていたのか。
「なるほど、考えも及びませんでした。紹介してくださりありがとうございます。そこで暮らそうと思います。」
「ああ。」
「では、そろそろ時間ですね…。」
「…そうだな。」
「…あの、今までありがとうございました。」
「ああ。すまなかった、こんなことになって。」
「いえ、そんなに謝らないでください。」
「…私はお前の父親として何もできなかった。今もこうして、公爵としてお前の健闘を祈ることしかできない。」
…父も父なりに考えていてくれたんだな。
この言葉には、ちゃんと中身があるような気がする。
少しだけ何かが込み上げてきた俺は、それを誤魔化そうと足早に馬車に乗り込んだ。
「お父様、これは最後の別れではないと思います。また!」
「…ああ、そうだな。また会える。またな。」
こうして、俺は東のトレント公爵領へと旅立った。




