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天才軍師ロンディート

 

 ロンディート・ロンダル。王都に属する子爵家の第4子で、ロンダル家は文官の家系だ。彼はある意味で有名人であった。


 この世に生まれる赤ん坊は何かしらの精霊の祝福を受けて生まれてくる。その祝福の種類や量は人によって様々だが、それは瞳や髪の色に現れる。この世界のあらゆる生物は基本的に生まれ持つ色は皆等しく茶色だ。その色に、精霊の祝福が加算されて祝福の量によって色が変わるのである。

 アルマの青緑色(ネオンブルー)の瞳は強い雷霆の精霊の祝福によるものだし、赤茶色の髪は炎の精霊の祝福によるものだ。強い祝福ほど鮮やかに祝福を送った精霊の色に染まる。

 ロンディートもその例に漏れず薄茶色の髪に薄紫色の瞳を持っている。この薄紫色の瞳こそ彼を有名にしている要因だ。


 薄紫色を象徴色として持つ精霊は叡智の精霊だ。

 叡知の精霊は他の精霊が生まれる前の魂に適当に祝福を振り撒くのに反し、魂の本質から「知識」を貪欲に求める知識欲の権化にしか祝福を与えない。故に祝福を持つ者は少なく、稀少だ。一国に存在するのは片手の指で事足りる程だ。

 稀少な叡智の祝福持ちは成人と同時に世界の中心にあるこの世の知識を全て集めた大図書館への出入りを許される。大図書館に集められた知識は農業大国の土壌改良方法だったり海洋国家の造船技術や航海術だったりと、多岐にわたる。これを、好きなだけ閲覧できる権利を得るのが、その薄紫色だ。

 叡智の祝福を持つ者は成人となる15歳と同時に大図書館に送られ、祖国のために書物を読み漁り、知識を祖国に伝える。因みに祖国へは直接帰って口頭で伝えるか手紙を送るかの二択しか許されていないのでよほど実地で伝えるのが難しいもの以外は後者が選ばれる。叡知の祝福持ちは叡知の子と呼ばれ、基本的に大図書館から出たがらず、一生涯を大図書館で過ごす知識の虫だ。

 だから、まずここに居ることがあり得ない、ある意味異端児として有名なのがロンディート・ロンダルであった。

 彼はどういう手を使ったのか知らないが、成人になる前の10歳から大図書館に移動を許された。そして10年で図書館から王国に戻り、その年に王国の生命線である湖に出没した大海蛇(シーサーペント)の討伐を指揮し、見事打ち倒して王国の危機を救い、一躍天才軍師として名を挙げた王国の一番新しい英雄だ。



 ロンディートは砦に到着すると出迎えた常駐する守備隊長の子爵に挨拶をし、そしてその後ろに控えたアルマを視界に捕らえた。今思い返せばあれは獲物を見付けた狩人のそれだった、とアルマは思う。


「ロンダル軍師殿。ご存知だとは思うが、この者はアルマ。今回の作戦では我ら常駐軍は砦の守護に注力するので掃討戦にはこの者の隊が主に参加することになる」

「存じております。かの英雄と共に戦場に立てるなど、望外の喜びです」


 ロンディートはにこりと笑って優雅に一礼した。アルマ達のような庶民はまずしない、戦場では滅多に見かけない綺麗な所作にアルマは面食らったようにパチパチと数度目を瞬かせた。

 アルマの隊にも子爵以下の貴族は幾人か居るが、戦場の空気に馴染んだ彼らではまずできない綺麗な所作は戦場では明らかに異彩を放っていた。


「こちらこそ、天才軍師どのにお会いできて光栄です。私の隊は戦略が足りていないので助かります」


 妨害の喜びとはなんだろう。このお貴族様は噂に違わない変人なんだろうかとぼんやりと思っていたアルマは(後にこの事を副隊長に聞いたら凄く白い目で見られて懇切丁寧に意味を教えてくれた。優しい。)、副隊長に叩き込まれた挨拶を無難に告げ、軽く開いた右手の掌を上にした状態で同じく軽く開いた左手の甲の上に乗せて胸の前に水平に引き寄せる。この手に武器はない。あなたに害意はない。そんな事を示す軍式の敬礼だ。

 本来貴族相手には膝をついて行わなければならず、王都での公の場ではまず許されないが、戦場では貴族相手に簡易な礼で許される。このしち面倒くさい礼節にかつて散々苦労させられたアルマは二度と王都には行くまいと心に決めている。


「アルマ殿に頼られるよう、しっかりと働きたいと思います。……ミレー卿。少し宜しいですか?」


 アルマの言葉に照れたようにはにかんだ様はおそらく多くの子女の心を鷲掴みにするのだろう。アルマはあまり人の美醜に興味がないのでわからないが、王族や上位貴族の派手で華やかな容姿と比べれば確かに見劣るが、ロンディートはそこらの一般人より容姿が整っていて見目麗しい。そんなことを思いながらアルマはロンディートが子爵に私的な時間を貰う許可を取っている姿をのんびりと眺めていた。

 付き合いの長いミレー子爵の瞳が面白そうに輝くのを不審に思いつつアルマはもう下がっていいかなぁ、と暢気な事を考えていた。軍師殿が到着したので今後軍略会議はあるだろうが、まずは一休みしてからだろう。

 隊に戻ったらやることをつらつらと脳裏で挙げていると、芳しい香りが鼻腔を擽った。

 なんだろうと意識を現実に引き戻すとちょうどロンディートが部下から大輪の花束を受け取っている所だった。

 真剣なロンディートの薄紫色の瞳と目が合った。


「アルマ殿――」


 そして、冒頭に戻るわけである。


  

 

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