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いざ神龍調伏




「おう、お嬢。ロディ泣かせたって?罪な女だなぁ~!」


 翌朝。アルマの天幕に顔を出したセルゲイが開口一番そう言った。隣には顔を両手で覆っているロンディート。耳まで真っ赤である。


「おはようございます……」

「おはよう、ございます。軍師どの」


 消え入りそうな声で朝の挨拶をしてきたロンディートは両手を下ろした、真っ赤な顔だ。こっちもつられて赤くなる。そしてそれをセルゲイが面白そうに見ている。不快極まりない。


「甘酸っぱくて寿命延びそう」

「100年くらい余裕で生きそうなのに更にか」

「お嬢とロディがくっついてくれたらあと50年くらいいけそう。孫の顔見せてくれたら更に20年いけるかも」


 セルゲイ、現在は確か50手前。今の倍は生きる気満々らしい。しかもこの男の中ではアルマとロンディートがくっつくことは前提らしい。

 そんな茶化してくるセルゲイの背を珍しくロンディートが抗議するようにバシバシと叩いている。


「ちょっと、もう、本当にそういうのいいですから!」

「なんだよロディ!お嬢はほんっとーに自分の事になると途端に察し悪くなるんだから言わないと響かないぞ!」

「分かってますよ!でも、少なくともそれは僕のやることであっておじさんのやることではないんですよ!!」


 黙れ、黙らないの攻防を繰り広げるロンディートとセルゲイ。やり取りが親子みたいで微笑ましいな、と思ったのは秘密である。いつも掴みどころのない笑顔を浮かべている軍師どのも、付き合いの長いセルゲイの前では年相応らしい。


「すみません、アルマ殿。この人本当に、なんでも口出したいお節介でで……」

「あぁ、うん、知ってます……」


 マクシムとセルゲイ(実の親子)は性格が似ているので悪友っぽい関係だが、この2人はなんだかまた違った感じだ。

 後ろでまだ何か言っているセルゲイだが、アルマに音は届いていない。どうやらうるさすぎて声を封じるか届かなくする魔法をロンディートにかけられたらしい。それでも動作がいちいちうるさい。顔もうるさい。もはや才能である。


「うるさいおじさんは放っておきましょう。そろそろマレズテレサ様が到着する時刻です」

「到着?」

「はい。まずは一番大きい天幕に移動しましょう。おじさんはマレズテレサ様相手にやらかしそうなので、絶対にこないでください」


 どうやら神界からマレズテレサがやってくる時間が迫っているらしい。神様を待たせるわけにはいかない。

 ロンディートは彼に促されて天幕を出ようとしたアルマに付いてこようとしたセルゲイ(※一応アルマの私設親衛隊長)を止めた。

 なんでだよ!と声が出てないのに動作と表情で言っていることがすぐに分かるセルゲイだが、アルマもこの男をマレズテレサの前に出すのはゾッとする。礼儀礼節が落第点すぎるのだ。この砦の貴族達はギリギリ許してくれるが、マレズテレサがそうとは限らない。下手したら不興を買って今回の神龍調伏作戦が頓挫し、最悪国が滅びかねない。


「私もお前はダメだと思う」

「そんな顔しても駄目です。上官命令なので従ってください。これ以上邪魔するなら縛り付けますよ」


 ロンディートの言葉が効いたのが、セルゲイは不満を隠しもせずに唇を尖らせたがしぶしぶ引き下がった。





「…………上官?」


 ロンディートの言葉に違和感を覚え、その理由に辿り着いたのは自分の天幕を出て会議用に使っている一番大きい天幕に着いた時だった。


「セルゲイの上官、軍師どのですか?」

「はい、私が私費で雇っています」


 ロンディートのこれまでの発言とセルゲイの態度でなんとなく予想は付いていたが、突然長年の謎が明かされた。

 いつの間にかセルゲイを隊長として組織されていたアルマ私設親衛(ホウセンカ)隊。軍属ではないのでアルマの無事を最優先に行動する謎の部隊である。なぜ謎かと言うと、資金源が不明だったからだ。尋ねても「さるやんごとなきお方から」としか聞かされていなかったが、ここにきてそのやんごとなきお方が明かされた。ロンディートは貴族様で、しかも稀少な叡知の子である。それは確かにやんごとない。


「大図書館に居る私がアルマ殿を支援するためには、手足のように動いてくれる人達が必要でしたから」


 開け放たれた天幕の入り口をくぐりながらロンディートはそう言葉を続け、中に居た部下たちに挨拶をしながら言葉を続けた。


「とは言え、ちゃんと組織できたのは私の金策が軌道に乗り始めた8年ほど前からですが。それまでは隊に所属していたでしょう?」

「……そうですね。気付いたら除隊していたのには驚きました。本人達は居るのに」


 何年前だったかは忘れたが、当時セルゲイを筆頭に何人かが突然「除隊して隊長の親衛隊になった」と言ってきたことがあった。いい後援者が居たからと言っていたが、意味が分からなかった。


「親衛隊、7人は居ますよね?」

「正確には実働隊7人と別動隊若干名ですね」


 濁された。深く尋ねるべきではないという事だろうか。


「隊長の親衛隊は軍師殿の善意ですから、有り難く受け取っておくのが正解ですよ」

「そうです。私、各国の御用聞きでかなりの資産有してるので気にしないでください」


 どうしたものかと眉間にシワを寄せていると、中に居たマルスティーラが話の内容で察したのか、ロンディートの言葉を補足した。ロンディートもニコニコといつもの調子を取り戻して頷いている。そんなに儲かるのか、各国の御用聞き。まぁ、あの"怠惰の極み"の絨毯を見るに、なんとなく察せられる。


「……ん?つまり、セルゲイ達から色々と情報漏れてたってこと?」

「情報の提供について、王の許可は頂いてるので問題ないです」

「問題ないですかぁ……」

「はい。問題ないです」


 王の許可ってどうやって手にしたんだろう。笑顔で言い切るロンディートの姿に、これ以上聞かない方が平和そうだと断じたアルマはこの話を切り上げることにした。


「それで、龍姫様はどうやってこちらに?」

「あぁ、こちらの椅子です」


 話題を変えるために時間が迫っているらしいマレズテレサの来訪について尋ねれば、ロンディートは収納魔道具から先日マレズテレサが座っていた豪華な椅子をにゅるりと取り出した。大きなものが小さな袋から出てくる様は何度見ても面白い光景だ。


「この座席の下に魔力補充用の魔石と、座標指定用の魔方陣が記されています」

「………要するに?」

「魔力を流すとあちらにある対の魔道具に位置情報が送られてそれを目印にマレズテレサ様がお越しになります」

「なるほど?」


 やはり聞いてもアルマにはよくわからなかった。でもなんかこの豪華な椅子のお陰で来れるらしい。ただの豪華な椅子ではなかったようだ。


「準備ができたらこの座席の裏にある魔石に魔力を流します。あちらから来られる際はこの背もたれの裏に取り付けられた魔石が光り……光ってますね」


 ロンディートは座席の裏に魔力を流してないはずだが、背もたれの魔石が淡く光っている。いや、よく見ると光ったり消えたりしている。


「準備出来てるから早くしろ、と言うことでしょうね。神龍族は基本的にはのんびりした気性なのですが、やる気満々みたいです」

「いや、催促されてるならのんびりしてる暇でないのではないですか!」


 慌てたようにマルスティーラがお出迎えの準備を急がせる。だいたいこう言った時はルネが周囲に指示を飛ばすのだが、姿が見えない。ルネ不在の時はだいたいマルスティーラが指示を出すのでルネからこの場を任されているのだろう。

 マルスティーラの指示に従い、アルマの部下たちがお出迎えの準備を急ぐが、ロンディートの部下たちの方が慣れているのか、動きが違う。さすがである。


「約束の時間はまだですので待たせても怒りませんよ。そんな理不尽な事をするとマレズテレサ様の子供達が私達に代わって怒ってくれますので」

「それ、密告するって事ですか……?」

「いえ。密告ではなく正当な主張です」


 そんな軽口を言い合っているうちに優秀なロンディートの部下たちによって整えられたお出迎え準備。アルマたちも手早く身なりを整え、ロンディートが準備が完了した合図として椅子の魔石に魔力を流した。


「強く光ったら来――」


 ロンディートが触れている魔石が強く光り輝いた。皆まで言わなくても分かる。"来る"合図なのだろう。

 控えていた部下たちは慌てたようにその場に膝を着いて頭を下げ、椅子の裏に居たアルマは急いで椅子の前面に回り込んだ。椅子の座面が光っている。恐らくは仕込んだ魔方陣が輝いているせいである。


「ちょ、待っ……!」


 さほど遠くはない、なんなら数歩で届く自席に戻り、頭を下げる暇もなかった。自席まであと一歩と言うところで椅子が光に包まれると、パッと、椅子に座った状態でマレズテレサが現れた。


()く断線!」

「かしこまりまして!」


 姿を現すや、声を張り上げたマレズテレサに椅子の後ろから動いていなかったロンディートが素早く答え、なにやら魔石を操作した。椅子の光が消える。


「断線していてもアレなら無理矢理繋げてくる。片付けてしまえ!」

「炎神様ですか。お疲れ様です」


 椅子から素早く立ち上がったマレズテレサの指示に心得たとばかりにすぐに従ったロンディートは椅子を収納魔道具に収納し、代わりの背もたれつきの立派な椅子を収納魔道具から取り出した。用意周到すぎる。


「すまぬ、急かした。我が伴侶が一緒に行くと聞かなくてな。子等に足止めさせている間に来た」

「炎神様がお越しになったら周囲の生きとし生けるものは皆等しく弾け飛びますので助かりました」


 ロンディートの用意した椅子に疲れたように腰かけたマレズテレサはこの前とは違った装いだった。邪魔にならないようにか、赤と黒の髪を綺麗に結い上げ、装飾を最低限にした黒い軍服と赤い外套がこの上なく似合っている。前回は装飾が凄い軍服だったのでこちらが実戦用の装いなのだろう。

 ちなみに比喩でもなんでもなく、神々の頂点たる炎神様が何の対策もせずに着の身着のまま人界に来たら脆弱な人族はその魔力(マナ)にあてられて身体の内側から弾け飛ぶらしい。笑い事ではない。


「それで移動の催促されていたのですね」

「我が伴侶は心配性なのだ。私の心配が勝って己が人界に与える影響をコロリと忘れている。そも、私があの凡骨に何かされるかも知れないと思っている方が私に失礼だ」


 嫌そうに顔を歪める美神(びじん)。どんな顔をしても様になるので神様ってスゴい。


「ルルとディーが抑えてるから無理にこちらに来ることはないとは思うが……人界に被害を与えたら2人から嫌われるだろうし……」

「叡知様に加えて豊穣様も?なら大丈夫では?」

「リリが居たら力を封じてくれって頼み込みそうだから私が戻るまでキュロス達とどこか行っていろと言っておいた」

「懸命な判断です」


 マレズテレサの身内の名前が次々とあがるが、アルマはイマイチ理解できていない。「ディー」は3子の叡知様の事だと知っているが、「ルル」と言う名前にロンディートは今「豊穣様」と言わなかっただろうか。まず間違いなくそのルル様とやらが豊穣神なのだろう。

 一族から炎神(主神)と雷神と叡知神と豊穣神(※いずれも神々の最高位である天上十二神)が出てるとか、強すぎる。たぶんリリ様とやらもキュロス様とやらもそれなりの地位なのだろう。


「さて。そんな訳で疾くあの凡骨を調伏し、疾く帰らねばならぬ。急ぐぞ」

「そんな近所に買い物行くみたいに……」

「急がねばこの辺一帯弾け飛ぶが?」

「急ぎましょう!」


 炎神様が乗り込んできたら我が隊はおしまいである。隊と言うか砦に居る全隊がおしまいそうだ。神龍より怖いものができたので神龍調伏に乗り込む面々に先ほどまでとは違った緊張感が生まれた。表情から神龍に挑む恐怖からくる固さが少しは消えたのでまぁ、良かったと言えば良かった。


「マレズテレサ様が到着する前に既に各砦の主要部隊は陽動のために壁外に出ています。ご挨拶できず申し訳ありませんと、各将が申しておりました」

「よいよい。陽動大儀である、と伝えておいてくれ」


 出発のために天幕の外に移動となった。

 移動しながらロンディートが現在の各隊の動きなどを説明してくれる。この場にいなかった将軍達は既に壁外に出ているらしい。アルマの部隊も総力戦のために残っている兵は少ない。ルネが居ないのも既に出陣した後だったらしい。せめて一言くらい挨拶していって欲しい。隊長が知らないってどうなんだろう。


「マレズテレサ様、絨毯の操作を担当するズィニーダと記録用魔道具の操作をするマルスティーラ、そして偵察を担当するトマリとフィーカです」


 天幕の外に出て絨毯を広げている間に簡単な顔合わせが行われた。

 龍姫を前にさすがのトマリも緊張しているようで、耳が横に倒れ、いつも陽気にぷらぷら動いている尻尾が身体に巻き付いている。あれは緊張している証拠だと前にルネが言っていた。


「うむ。お前達の安全は私が保証するが、念のためこれを授けよう。守護の神の紋章が刻まれた魔石だ。瀕した時、一度は身代わりになってくれる。首から下げておくといい」


 渡されたペンダントにはほんのり青みがかった白……氷雪の属性である雪白色の魔石が輝いていた。マレズテレサが言うように魔石には紋章が刻まれている。アルマは知らないが、これが守護の神の紋章なのだろう。

 皆、マレズテレサ自ら渡されたペンダントを恐縮しながら受け取っている。ロンディートだけは受け取ったペンダントをしげしげと珍しそうに眺めてから口を開いた。


「貸与ではなく下賜ですか?」

「いくら私が安全を保証しようと、人の身で神龍の前に立つのだ。その勇気に、神龍族(われら)からの褒美だ。使用しなかったらそのまま持っていて問題ない」

「良かったですね。皆さん、使わなくても言いふらさないように。偉い人に横取りされますよ」


 ロンディートの言葉に、皆が慌ててペンダントを服の中にしまった。悲しいことに我が国は偉い人が己の欲に任せて弱いものが持つ欲しいものを強奪してくるのが横行している。大切なものは隠さないといけないし、たぶんこのペンダントは人界ではものすごい価値があると思われる。いざと言う時の隠し財産としては十分すぎる報酬だろう。


「龍姫様、過分なる褒美をありがとうございます。それでは、参りましょう」


 ペンダントの価値もだが、身を守ってくれると断言したマレズテレサに皆の緊張が完全に解けたようだった。丁寧に頭を下げたズィニーダの顔からは緊張による強ばりがすっかりと消えている。

 絨毯に乗った1柱と6人は少数の兵士に見送られながらズィニーダの操縦で雲ひとつない大空へと舞い上がった。




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