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神龍の癇癪


 めちゃくちゃ寝込んだ。物心付いてから初めて3日も寝込んだ。お陰様で意気軒昂、元気溌剌なアルマである。

 アルマが寝込んでいる間に神龍調伏作戦――寝込んでる間に作戦名ができていた――はアルマ隊とミレー=ベルツ砦の各隊に伝えられ、準備が進められた。

 絨毯や映像記録用の神具の扱い方についても練習を重ねた様で、4日目の朝にようやくベッドから出て自分の天幕で経過報告を受けていたアルマにズィニーダとマルスティーラが自信満々に報告してくれた。


「神具は消費魔力が膨大ですが、幸いにしてバァドゥルヴの魔石が大量にあるので十分に訓練できました。お任せください」

「記録用の神具は絨毯ほど扱いは難しくないので、多角的に撮る事にしました」

「なんでだよ」


 得意気に報告するマルスティーラの抱える金の玉が1つから5つに増えていた。

 言い訳としては、絨毯より扱いが難しくないので試しに預かっていた予備を使って二方向から撮ってみたらしい。その映像をロンディート経由で神界に戻ったマレズテレサに確認してもらったら、えらくご満悦の様子で更に3つ追加で送って寄越したらしい。欲望に忠実な神様である。

 確かに、試しに5つで撮ったものだと見せてもらった映像は凄かった。様々な角度から記録された躍動するトマリ。映像をつぎはぎして1つにまとめられたそれは肉眼で見たものとはまた違っていて、映像の角度とつぎはぎ次第ではもっと面白いものになりそうだ。

 ちなみに映像編集用の神具があればなぁ、とロンディートが言ったら翌日には送られてきたらしい。しかも叡知の神と叡知の子達の総力で作られた新作である。叡知の神も親には甘いらしい。


「お前達に負担はないんだな?」

「問題ありません。なんなら絨毯で空を駆ける楽しさに目覚めたので空を飛ぶ機構だけでも導入したいくらいです」


 絨毯担当、ズィニーダ。

 本人曰く没落寸前の男爵家の末っ子(※領地は魔の森に飲まれた)らしく、手にするものは誰かのお下がり。今回の絨毯は人族でも魔力の詰まった魔石さえあれば使えるように魔石つきのタッセルをもりもりに増やした特別製なので新品である。神様は四隅にタッセルを付けて魔石に自らの魔力を充填しながら使うそうなので人と神の魔力量の差が明白だ。

 ズィニーダは与えられた新品の神具が嬉しかったのか、寝食以外は絨毯に乗っているらしい。絨毯には排泄を自動処理してくれる機能が付いているので魔石の魔力が尽きない限りは起動の僅かな魔力だけで延々と乗っていられるらしい。

 それを聞くと、マレズテレサの言う「怠惰の極み」も分かるような気がする。この男、絨毯に乗ったまま下りてきやしねぇそうなのだ。


「僕も問題ありません。なんならあと3個くらい同時で行けます」


 そしてズィニーダとなぜか張り合う撮影担当のマルスティーラ。

 下級神族は人界にも神殿とかにそれなりに暮らしているのだが、彼はその下級神族と人族との混血児だ。神と人の身体構造はほぼ同じなのでやることやれば子供はできる。なお、子供の魔力量が多いと母体が危ないので神が母の方が多い印象だ。

 マルスティーラの母もその例に漏れず、人族と恋に落ち、マルスティーラを産み、そして伴侶が天寿を全うし、生きる気力がなくなってしまって自ら冥界に還った。神を親に持つ半神の子供はよくあること、だとマルスティーラは言った。

 親の顔も知らないアルマからしたら両親の顔を知り、見送れるだけ良いと思っている。そんなマルスティーラは現在90歳くらいらしいが、神の血が混ざっているので魔力量が多いのか、若々しい。それでも父の方の血が多く現れたせいか、分類としては人族となるらしい。この辺の違いはアルマにはよく分からない。

 なお、なんで神殿や王都ではなくこんな前線にいるかは話してくれないので知らない。一般的な半神は魔力量が多いので王都で貴族と結婚したりして優雅に暮らしている。


「お前達、練習もほどほどにな。明日には神龍に挑むんだから」


 このままでは直前まで神具の練習をしそうなので念のため注意しておいた。2人は分かりました、と頷いたが本当に分かっているかは不明である。

 

「それにしても、隊長は……なんか、こう、強くなりましたね」

「強く?」


 ズィニーダの言葉に首をかしげれば、マルスティーラがアルマをしげしげと眺めながら言った。


「隊長の後ろになにか大きい力を感じます。本能的に逆らっちゃダメだって気になりますね」

「そう!そんな感じ!!」

「神龍の威を借りてるってことか?」


 寝込む前と今とで変わったこと、と言えばマレズテレサの祝福だ。祝福によってアルマの魔臓は作り替えられた……らしい。それの影響なのだろうか。

 つまり今、他人から見るとアルマの後ろには見えないマレズテレサが居るような感じなのだろうか。……うん、それは強い。逆らってはいけないやつだ。


「マレズテレサ様の祝福で魔臓が強化された効果ですね。これでバァドゥルヴを従えても反逆されません」

「軍師どの」


 開け放たれた天幕の入り口からひょこりと顔を出したのはロンディート。アルマが寝込んでいる時も方々に指示を飛ばしていたらしく、今も忙しなく動いている。


「マレズテレサ様を疑うわけではないですが、人が神龍を従える事なんてできるんですかね」

「できますよ。次期神龍の族長と名高かったマレズテレサ様から直接祝福を受けているのです。バァドゥルヴが抗える筈がありません」


 失礼します、と断ってから天幕に入ってきたロンディートが持っているのは回復薬などを詰め込んだ籠だ。アルマの分の消耗品を持ってきてくれたらしい。

 籠を机の上に置きながらアルマの疑問に答えたロンディートに、アルマは首をかしげた。


「次期……?」

「炎神との結婚で里を出たので次期候補から外れましたが、おそらくは族長に次いで力のある方です」

「そんなに凄い(ヒト)だったんですか!」


 そりゃ炎神の求婚を100年も袖にする訳である。次期族長と言われていたならそうそう簡単に里を出れないだろう。炎神様、よく口説き落としたものである。100年の執念は半端ない。


「そんなに凄い(ヒト)なのでバァドゥルヴを御自ら調伏され、アルマ殿に下げ渡す形となります。調伏したマレズテレサ様の祝福を持っているアルマ殿には必然的に逆らえなくなります」

「なる、ほど……?理解できないことは分かりました」

「取り敢えずは心配ない、とだけ思っていただければ」


 なぜマレズテレサが調伏した神龍をアルマに下げ渡すことでアルマも神龍を使役できるかは分からなかったが、頭の良いロンディートができると言うのだからできるのだろう。

 理解できないことはスッパリ諦めた方がいいとこれまでの経験で知っているアルマは考えることを放棄した。

 

「軍師殿、バァドゥルヴは族長に挑んだのですよね?族長は神龍では一番強いのですから、今は弱っていても、当時は勝てる程の実力があったのでは?」


 それまで静かに会話を聞いていたマルスティーラが手を挙げて質問した。

 確かに。500年前に族長の座を狙って族長に挑んだのだ。勝算があって挑んだのだろうし、負けたとしてもマレズテレサと同様の実力はあるのではないだろうか。


「あぁ……アレはマレズテレサ様曰く"子供の癇癪(かんしゃく)"だそうで」

「かん……?」


 言葉の意味が分からなくて眉を寄せたらロンディートは簡単に言いますね、と言ってくれた。優しい。


「つまり、バァドゥルヴは自分が一番じゃないと気に入らなかったんです。当時まだ10歳の子供だったようで」

「「「10歳?!!」」」


 アルマとズィニーダとマルスティーラの声が見事に揃った。

 いやだって10歳。人族ならまだまだ未成年。それが、神龍の族長に挑んだ、と……


「……無謀すぎでは?」

「ですよね。族長も適当に相手をしてから逆鱗を取り上げて反省させるつもりが、取り上げた時点で自ら人界に飛び下りて逃げたそうです。成龍である神龍が人界に下りると影響が酷いし、かと言って成人前の神龍を送るわけにもいかないので捜索にも行けず、もう死んだものと思えと……」


 まだ魔力の質が固定されていない幼体だったから、上手いこと逆鱗がないことに順応して生き延びているんでしょうかね……とロンディート。

 話を聞いたときは強力な神龍と神龍が戦う光景を思い描いていたが、今の話で一気に印象が変わってきた。そう言えば見せてもらった絵もバァドゥルヴの方が小柄だったような気がする。


「両親はバァドゥルヴが初めての子供だったらしく、大層気落ちして数年後には冥界に還ったそうです。祖父母達も既に還っていませんし、兄弟もいません。天涯孤独ですね」

「それは可哀想だな……なんて言うとでも思ったか?」


 子供の癇癪とやらで500年に――厳密にはもう少し少ないが――渡り魔物の驚異に脅かされてきたメテオール王国の兵士が何人……いや、何万人死んだと思っているんだ。


「まぁ、そう言う反応になりますよね。指揮が高まったようで何よりです」

「すごくやる気が出ました」

「ぜひとも隊長の武勇伝の一翼となっていただかないといけませんね」

「神様を騎龍にするとか気が引けてましたが、よく考えれば長い魔物被害が騎龍にすることだけでいいのか、そっちの方に疑問出てきましたね」


 ロンディートのもくろみ(?)通り、アルマ達の指揮は確かに高まった。だが、アルマの騎龍にするなんていう簡単な罰で――言い変えればアルマ隊だけが報酬を得るような方法で――500年の被害を帳消しにしていいのかは疑問である。


「それに関しては後日、国宛に神龍の長からお詫びの品が届くと思います。全国民むこう100年は納税しなくても済むくらいの詫びの魔力が届くかと」

「神様の魔力!」


 この国、メテオールはもとより、多くの国も納税は魔力で行っている場合が多い。魔力を納められないアルマのような者や魔力を別な用途で使いたい資産家などは貨幣で支払うが、大抵は毎月魔石に溜めた魔力を月毎の奉納の日に神殿に納めるのが主流だ。

 納められた魔力が神殿を通して世界に張り巡らされた世界樹の根を通り、土地を潤すので魔力はあればあるだけいい。……魔物も活性化するが。

 だから国と国とのやり取りは貨幣より様々なことに転用する魔力(魔石)が一般的だ。


「全国民……100年……?膨大すぎて良いのか悪いのか分からない……」

「それ、我が国に渡して大丈夫なやつかなぁ……絶対好き勝手使うでしょ。あの王」

「また王宮ムダに豪華になるんだろうなぁ……神様の魔力だとか言って国外に高く売り付けそうですし」

「国民のお腹膨れることしろよ……」

「ホントそれ」


 部下2人に言われたい放題の我等が王族。否定できない辺りが悲しいが、純然たる事実なのでしょうがない。

 神様の……しかも神龍族の魔力なんてそうそう手に入る代物ではないので絶対にあのクソ……じゃない、ダメダメな王は機を見て国外に高く売り付けるだろう。


「不敬ですが同意せざるを得ないですよね。やっぱり国取りします?」

「しません!!」


 ロンディートの言葉を即座に否定したアルマは、このままでは王家批判大会が開催されそうなので話題を逸らすために「ともかく」とズィニーダとマルスティーラに視線を向けた。


「お前達は明日に備えて早めに寝る!以上!解散!!」

「はっ!!失礼します!」

「善処します!!」


 よく訓練された2人は反射的に敬礼して退室していったが、「善処」じゃなくてやれって話である。

 そして残ったのは笑顔のロンディート。そう言えば立たせたままだった。忘れがちだが、この人お貴族様なので入室した時点でアルマが真っ先に椅子をすすめなければならなかった。


「少しお時間頂いて宜しいでしょうか?」

「……ハイ」


 笑顔の圧に耐えられなかったので思わず頷いてしまったアルマは後に盛大に後悔することになる。






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