表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

鬼将軍アルマ


 アルマはメテオール王国に属する兵士である。

 縦長の国土のほぼ中央に王都があり、北は広大な湖、東西は流れの激しい大河、そして南には国土の三分の一を占める広大な樹海とその先には険しい山々が連なっている。

 南の樹海と山脈を越えるのはまず無理だし、東西の大河は流れが激しく船で渡るのも橋を架けることも難しい。他国へは主に北の湖を渡って行くしかないが、一番近い町に船で行くのも半日はかかるほど湖は広大だ。

 そんなメテオール王国は四方を湖、大河、樹海と山脈で囲われ、天然の要塞となっているため他国からの侵略はまずない。いや、他国もこんな面倒な土地は手に入れたくない、と言った方が正しいか。

 その要因は国土の南に広がる樹海と山脈だ。人が踏み込めない程険しく、人が踏み込めないからこそ潤沢な魔力で満ちる霊峰やその麓に広がる樹海、通称魔の森からは魔物が湧き、定期的に間引いてやらないと餌を求めて人里に魔物が押し寄せる。

 魔物からは上質な素材や魔力の結晶である魔石が取れるので王国はそれを国外に売って生計を立てる。魔物は霊峰や樹海に満ちる魔力のお陰でかなり凶暴化しているので少しでも狩りに手を抜けば魔物は溢れ、手に負えなくなる。故にこの土地は常に魔物の驚異に晒されている。

 王国は魔物の驚異から国民を守るために魔の森の手前に長大な壁を築き、要所に幾つかの砦を置いた。それぞれの砦に常駐する兵は配備されているが、その砦を転々として魔物を狩るのがアルマ率いる特殊部隊だ。

 特殊、というのは魔物が増えた位置に一番近い砦に真っ先に駆けつけ、対応できる様にと特定の所属を持たない遊撃隊のような立ち位置だからだ。


 アルマは孤児なので家名はなく、成人して軍属となった15歳から現在に至る12年に渡り戦場を駆け、魔物を狩り、気付けば英雄として王国中はおろか隣国に名が轟くほどの存在となっていた。魔物はひっきりなしではないが定期的に森からやってくるため15から帰る家のないアルマは前線が家となり、王都には15の凱旋以来足を踏み入れてはいない。

 戦場を駆け、先頭で獅子奮迅の活躍をし、誰よりも先に強敵を屠り、仕留めた魔物の血に染まる。誰が呼んだか「鬼将軍アルマ」。

 別に将軍ではないし特殊部隊の隊長なのだが、たぶん語呂が良かったのだと思う。「早く寝ないと鬼将軍アルマがきて戦場に連れていかれるぞ!」は王国の子供を脅す鉄板の脅し文句であり、それを知った時、アルマはちょっとだけ泣いた。

 鬼、と呼ばれても中身は戦場しか知らない27歳の世間知らずの小娘である。まぁ、小娘と本人はのたまうが、その実彼女は「小娘」と呼ぶには憚られる体躯をしていた。

 射貫くような鋭い青緑色(ネオンブルー)の瞳を縁取るのは赤茶色の長い睫毛。以前は戦闘の邪魔だからとかなり短くしていたが、そのせいで威圧感が増したのか子供から恐れられて行く先々で大泣きされたため、少しでも柔らかい空気を纏えるようにと伸ばされた髪は美容オタクの部下の手入れ(何も手入れしてなかったらあり得ないと絶叫され、私がやるから手を出すなと手入れを懇願された)によりうるツヤサラサラのストレートだ。

 「隊長の素材は悪くないんだからもっとちゃんとしてください」と言うのは件の美容オタクの部下の言だ。

 筋肉に覆われた強靭でしなやかな体躯はおおよそ2m20㎝。そう、2m20㎝。(正確には215㎝だ。延びていなければ)大抵の人族はどんなに大きくても2m前後の身長がせいぜいで、平均身長がおおよそ170㎝を前後の王国においてその身長は文字通り抜きん出ていた。

 亜人種の血が混ざっている訳でもなく、生粋の人間種のアルマがその人間種の平均から大いに逸脱しているのは生まれ持った稀少な特異体質によるが、これは本筋に関係がないので割愛する。


 そんなアルマが現在居るのは王都に一番近い――と言っても、7日はかかる――ミレー=ベルツ砦だ。

 ここに駆けつけて日々魔物を狩ってからそろそろ半月となるが、魔物の勢いは衰えることがなく、それどころか徐々に知性を持つ魔物がちらほらと現れる始末だ。かつてアルマが英雄と呼ばれるようになった切っ掛けである12年前の魔物暴走(スタンピード)の始まりと類似したそれに、アルマは王都に援軍を要請した。

 砦に常駐する兵士とアルマの特殊部隊でどうにかできる規模を逸脱しつつある現状を打開するには王都からの援軍と共に魔の森に入り込み、元を断つかそれが見当たらなければ手当たり次第に魔物を狩っていく他はない。要は物量作戦だ。

 幸いにして魔物暴走の予兆を聞き付けた国に属さないが故に身軽な狩人(ハンター)達が国内外から魔物の素材目当てに続々と集まってきたため、すぐに前線が瓦解することはない。ことはないが、余力がある内に叩きたいと言うのがアルマの本音だった。


 そし援軍要請からわずか3日で砦に姿を現したのがロンディート・ロンダル率いる100人隊だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ