愛を込めて大輪の花束を
「アルマ殿。私は貴女と共にある事を願うためにこの戦地に参りました」
かつて炎神が伴侶となる龍姫に100年かけて毎日欠かさずに花を贈ったと言う神話から求婚に定番の花。愛の神の名を冠し、燃える恋情のように真っ赤な大輪の花は大きな花束に束ねられ、芳醇な香りを辺りに漂わせながらアルマの前に差し出される。
本数は分からないが、神話になぞらえればおそらくちょうど100本。100年の妻問いも厭わない。そんなものは苦でもなんでもない。この花の様に焦がれ、燃える思いを。あなたに永遠の愛を誓う。そんな意味合いだと、誰もが知っている一般常識だ。
「………あー…」
アルマは膝をついて自分に花束を差し出す男と花束を交互に見て、それから周囲でアルマと同じように固まっている兵士達にぐるりと視線を向けた。
皆、一様に信じられないものでも見るように息を呑んで事の成り行きを見つめている。アルマも同じような状況に遭遇したら同じように成り行きを見守るだろう。それぐらい、この前線に娯楽は少なく、こんな状況は酒の肴にもってこいだ。
――そう、自分が当事者でなければ。
痛む頭を押さえ、アルマは目の前で膝を付き、真っ直ぐに彼女に熱視線を送る男にばれないようにこっそりと息を吐いた。
生まれてこの方こういったことには縁遠いアルマは、戦場でも経験した事がない程高速で鳴る鼓動を押さえようともう一度息を吐く。当然ながらその程度で動揺は消えない。
なお、恋愛方面に縁遠く、そんな感性は疾うに戦場に置いてきた(もしくはそもそも持ち合わせていなかった)アルマのこの動悸は「求愛されるなんて……!動悸が止まらない!!」ではなく「ヤバいお貴族様きた。怖いどうしようすっごくビックリした」である。残念極まりない。
「………ちょっと、整理させて、頂いても?」
なんとか絞り出した言葉に、目の前の男が優美に笑い、勿論ですと頷いた。
麗しい。これがお貴族様特有の気品ってやつだと思いながら、アルマは事の発端を思い返した。