#03 記憶
……
背中に刃物が突き刺さる。でも、感覚がマヒしているのか、痛みは感じなかった。
ああ。そうだ。すべてを思い出した。
僕はここで死んで…
世間的に言って、前世の記憶。と言うやつなんだろうか。
僕はあの地獄の施設で、13歳で死んだ。
その瞬間、意識が引っ張られるような感覚がした。
___
「いっ…!!!」
小屋を燃やす赤は未だに健在だ。
でも僕が感じた痛みは炎の痛みではない。
頭にいくつもの情報、記憶が入ってくる。
これも、勇者の力なのか…?
「うぅっ……あぁっ……!!」
これは…かつて、勇者の力を授かったものの記憶…
脳みそがパンクしそうだ。何も考えられない。
でも、強制的に情報は入ってくる。
「うぅ…!!!」
僕は数時間の間、痛みに悶えていた。
……
…
そうして痛みが治まった頃、辺りは真っ暗になっていた。
僕はすべてが分かっているようで分からなかった。
歴代の全勇者の記憶…人生を追体験しているようだった。
真っ当に人の為に働いた者。勇者の力を使って犯罪や私利私欲の為に働いた者。
でも一番多かったのは、僕と同じ。勇者の力が分かった途端に殺された者だった。
「大丈夫かい?」
倒れている僕の近くから声がした。
誰だろうか…?
僕はゆっくり立ち上がって辺りを見回した。
「やあ。」
目の前には青白い何かがいた。
それは、人の形をしているような気がした。
「君は?」
「君の記憶にもあるだろう?私は、解放の勇者だよ。」
先ほど流れてきた勇者たちの記憶の中にあった。
彼はつい最近、僕と同じように殺された。
しかし、その死に際に神官と神…?を呪って、次の勇者の力を解放した。
つまり、自分の命と引き換えに僕に力をくれた。って事かな。
「…そうか」
僕はあまり興味がなく、ゆっくりと歩き始めた。
「どこに行くの?」
「帰るの。家に。」
記憶の中で見たことはどうでもいい。
神官が勇者を殺してたことも、僕も殺されかけたことも、目の前の勇者がやろうとしていることも。
家に帰って、また彼女に会えたら。それだけでよかった。
「分かったよ。せめて、服とか探したら?」
僕は歩くスピードを速めた。
…………
「もうすぐかい?」
「うん」
目の前の亡霊は、永遠と僕に話しかけている。
あと少しで家につく。
ずっと走り続けているのに、疲れ知らずだ。
って、それは来た時も同じか…
しかし、そんなときに僕は奇妙なことに気が付いた。
「……」
長い旅路により、僕の体はほとんど完全に回復していた。
全身の火傷も。失った感覚も。むしろ、前よりはっきりとする。
感覚が研ぎ澄まされているのだ。
そこで、嗅いだことのある匂い。
知っている。
「どうしたの?」
僕は、走り出した。
ただひたすらに。
限界なんて知らずに走った。
……………
「これ……は………」
小さな村のすべては燃えて灰になっていた。
幾つか並んで建っていた家はすべて黒く焦げ、焼けた時の匂いが漂っていた。
「な…んで」
果たして、僕が何をしたんだろうか?
僕の足は自然に家へと向かっていた。
彼女は…!
____
「やっぱりこうなっていたか…」
「う……うぅ……」
黒い、何かしかなかった。
部屋は焦げ、その中には恐らく彼女であろう…
黒い塊があった。
よく見れば服の切れ端が彼女の物と一致しているみたい。
「ね。分かったかい?神官は悪だ。神は悪だ。私たちで、それを正そう。」
「……君の目的、やりたいことは知ってるさ。」
僕の脳内には歴代の勇者の記憶がある。
「君が命を懸けて、力をくれたのも知ってる。だけど、協力するとは限らないさ。」
「…ふーん?悔しくないの?」
彼が意外そうに言った。
「もうどうでもいいよ。僕は自由に生きるんだ。20年前。奴隷だった頃は夢にも見なかった生活だ。」
彼に目をやる。
いつの間にか、彼は青白い人型の光から、より人に近い姿になっていた。
「というか、その姿は…」
「死体があれば、生前の姿になれるみたいでね。」
彼は世話係の姿をしていた。確かに、周囲にあった黒い塊は消えている。
なぜか服もバッチリ。服が無い方が困る訳だが…
「君、本当に何なのさ。」
僕は呆れながら聞く。
「さっきも言ったじゃないか。解放の勇者」
そうではない。死んだはずの人間なのに、どうして今ここに居るんだ。
「……」
「わかったよ。ごめんごめん。私は今、怨霊みたいなものなのさ。ゴースト。君の力でこの世界に縛られているんだ。」
「へ~。解除してあげようか?」
「いや、私には私の目標があるし…自分で望んで縛られたんだ。勘弁してくれ。」
その発言…なんか危ないような気が…
「とにかく、自由に生きるなら分かった。そのためにもまずは、服を探したらどうだい?」
あ…完全に忘れていた。
と言うかここ、服とか無さそうだけど…
「…それで、君の名前は?」
「私?」
解放の勇者がきょとんとした顔で聞いてくる。
「話を聞く限り、僕から離れたら消えるみたいだし。これからよろしくするんだから名前ぐらい知っておきたいじゃん?」
「ああ。そっか。そうだね。私の名前は、ユール。」
「うん。よろしく。ユール」