表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

#03 記憶

……


背中に刃物が突き刺さる。でも、感覚がマヒしているのか、痛みは感じなかった。


ああ。そうだ。すべてを思い出した。

僕はここで死んで…


世間的に言って、前世の記憶。と言うやつなんだろうか。

僕はあの地獄の施設で、13歳で死んだ。


その瞬間、意識が引っ張られるような感覚がした。


___


「いっ…!!!」


小屋を燃やす赤は未だに健在だ。

でも僕が感じた痛みは炎の痛みではない。


頭にいくつもの情報、記憶が入ってくる。

これも、勇者の力なのか…?


「うぅっ……あぁっ……!!」


これは…かつて、勇者の力を授かったものの記憶…

脳みそがパンクしそうだ。何も考えられない。

でも、強制的に情報は入ってくる。


「うぅ…!!!」


僕は数時間の間、痛みに悶えていた。


……


そうして痛みが治まった頃、辺りは真っ暗になっていた。


僕はすべてが分かっているようで分からなかった。

歴代の全勇者の記憶…人生を追体験しているようだった。


真っ当に人の為に働いた者。勇者の力を使って犯罪や私利私欲の為に働いた者。

でも一番多かったのは、僕と同じ。勇者の力が分かった途端に殺された者だった。


「大丈夫かい?」


倒れている僕の近くから声がした。

誰だろうか…?


僕はゆっくり立ち上がって辺りを見回した。


「やあ。」


目の前には青白い何かがいた。

それは、人の形をしているような気がした。


「君は?」


「君の記憶にもあるだろう?私は、解放の勇者だよ。」


先ほど流れてきた勇者たちの記憶の中にあった。

彼はつい最近、僕と同じように殺された。

しかし、その死に際に神官と神…?を呪って、次の勇者の力を解放した。

つまり、自分の命と引き換えに僕に力をくれた。って事かな。


「…そうか」


僕はあまり興味がなく、ゆっくりと歩き始めた。


「どこに行くの?」


「帰るの。家に。」


記憶の中で見たことはどうでもいい。

神官が勇者を殺してたことも、僕も殺されかけたことも、目の前の勇者がやろうとしていることも。


家に帰って、また彼女に会えたら。それだけでよかった。


「分かったよ。せめて、服とか探したら?」


僕は歩くスピードを速めた。


…………


「もうすぐかい?」


「うん」


目の前の亡霊は、永遠と僕に話しかけている。

あと少しで家につく。


ずっと走り続けているのに、疲れ知らずだ。

って、それは来た時も同じか…


しかし、そんなときに僕は奇妙なことに気が付いた。


「……」


長い旅路により、僕の体はほとんど完全に回復していた。

全身の火傷も。失った感覚も。むしろ、前よりはっきりとする。

感覚が研ぎ澄まされているのだ。


そこで、嗅いだことのある匂い。

知っている。


「どうしたの?」


僕は、走り出した。

ただひたすらに。

限界なんて知らずに走った。


……………


「これ……は………」


小さな村のすべては燃えて灰になっていた。

幾つか並んで建っていた家はすべて黒く焦げ、焼けた時の匂いが漂っていた。


「な…んで」


果たして、僕が何をしたんだろうか?

僕の足は自然に家へと向かっていた。


彼女は…!


____


「やっぱりこうなっていたか…」


「う……うぅ……」


黒い、何かしかなかった。

部屋は焦げ、その中には恐らく彼女であろう…

黒い塊があった。


よく見れば服の切れ端が彼女の物と一致しているみたい。


「ね。分かったかい?神官は悪だ。神は悪だ。私たちで、それを正そう。」


「……君の目的、やりたいことは知ってるさ。」


僕の脳内には歴代の勇者の記憶がある。


「君が命を懸けて、力をくれたのも知ってる。だけど、協力するとは限らないさ。」


「…ふーん?悔しくないの?」


彼が意外そうに言った。


「もうどうでもいいよ。僕は自由に生きるんだ。20年前。奴隷だった頃は夢にも見なかった生活だ。」


彼に目をやる。

いつの間にか、彼は青白い人型の光から、より人に近い姿になっていた。


「というか、その姿は…」


「死体があれば、生前の姿になれるみたいでね。」


彼は世話係の姿をしていた。確かに、周囲にあった黒い塊は消えている。

なぜか服もバッチリ。服が無い方が困る訳だが…


「君、本当に何なのさ。」


僕は呆れながら聞く。


「さっきも言ったじゃないか。解放の勇者」


そうではない。死んだはずの人間なのに、どうして今ここに居るんだ。


「……」


「わかったよ。ごめんごめん。私は今、怨霊みたいなものなのさ。ゴースト。君の力でこの世界に縛られているんだ。」


「へ~。解除してあげようか?」


「いや、私には私の目標があるし…自分で望んで縛られたんだ。勘弁してくれ。」


その発言…なんか危ないような気が…


「とにかく、自由に生きるなら分かった。そのためにもまずは、服を探したらどうだい?」


あ…完全に忘れていた。

と言うかここ、服とか無さそうだけど…


「…それで、君の名前は?」


「私?」


解放の勇者がきょとんとした顔で聞いてくる。


「話を聞く限り、僕から離れたら消えるみたいだし。これからよろしくするんだから名前ぐらい知っておきたいじゃん?」


「ああ。そっか。そうだね。私の名前は、ユール。」


「うん。よろしく。ユール」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ