表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

#02 走馬灯

天気は最高。気分は最悪だった。

今日もいつもの夢を見た。

それに、大切な家族と別れなきゃいけないんだ。


「ルリネ様が立派になって戻ってくるのをお待ちしていますね。」


僕の世話係が道の前でそう言った。

彼女とは、昔からずっとの付き合いだから、ほんの少しでも別れるなんて考えたことなかったな…

本当の家族ではもちろんないけれど…

それでも、大切な人に変わりは無かった。


「うん。絶対、すぐに戻ってくるから。」


「ルリネ様にも、年相応な部分もありますね…」


彼女の声は、風にかき消されて消えた。


「なんか言った?」


よおく見れば、なんだか口元が微笑んでいるように見える。


「いえ。何も?」


「…じゃあ、またね」


僕は惜しみながらもゆっくりと歩き出した。


彼女に心配をかけないようにも、強くなって帰ってこなきゃ。


手紙に書いてあった場所は、付近の森の中。

そういえばどんな試練が課されるのか聞いていなかったけど、行けば分かるかな…


「…やっぱり帰りたいな……」


少しだけ弱気になりながらもどんどんと歩いて行く。

少し大変だが、一日中歩けば着く距離だ。


______


「……」


部屋の掃除をしながら、静かな部屋を見つめる。

ルリネ様が出発してから数時間。


言ってしまえば短期休暇なのに、私の心は何か物足りなかった。


「ルリネ様が居ないとこんなにも静かなんですね…」


寂しさからか、つい独り言をもらしてしまう。

だめだ。きっと、ルリネ様も今頃頑張って、立派な勇者になって帰ってくるんだ。

私はその帰りを信じて待つことしかできない。


……


私の棚にしまってある、幾つかの紙を出す。

幾つかのニュースの切り抜き。

ルリネ様には内緒にしていたもの…


数十年前から、数々の勇者が試練の途中で命を落としているという内容であった。


「大丈夫ですよね……」


私には、神に祈ることしかできなかった。


______


「ここ…だよね…?」


かなり深い森の奥。

夕刻と相まって、明かりは一切ない様に感じた。


一日中走ってきたが、少し疲れただけだ。

もう、僕の中に勇者の力はあるんだ。と確信させられる。


「大丈夫…大丈夫…あ、あれ?」


辺りを歩いていたら、何か小屋の様な建物が見えた。

何か既視感がある…

なんとなく、見覚えがある。でも、思い出せない。

何だったかな…


「あなたがルリネ様…ですか?」


「うわっ!!」


背後から急に声がして、腰を抜かす。

すぐに後ろを向き、声の主を探す。


「ああ。ごめんなさい。驚かせるつもりじゃなかったんです。」


そこには、白い服を着た男性が居た。

なんだか優しそうな笑みを浮かべている。


「あなたは?」


「私は、神官様の頼みで、試練を伝えに来たんです。」


「ああ。なるほど!」


なんだか、暗い森の中に人が居た。

ただそれだけが嬉しくて、僕は何も疑わずに彼に聞いた。


「では、試練は何をすればいいんですか?」


「うん。試練はあの小屋を使うんです。一緒に来ていただけますか?」


「分かりました。」


僕は彼に付いて行き、小屋の中に入っていった。

小屋の中はそんなに広くなく、ここでも例の既視感が働いた。


やっぱり何か見覚えがある…

そして、それが心の奥に引っかかる。


「では、ゆっくり目を閉じて下さい。」


僕は言われるままに目を閉じる。

目の前では、彼が何かを唱えているような声が聞こえる。


「なん……」


僕は本当に突然に意識が薄くなり、彼の声を最後に完全に意識が消えた。


………

……


「あつい…」


なんだか熱を感じ、瞼を開ける。

その瞬間。何も考えられなくなった。

と同時に、すべてを理解した。


「……なんで…」


この小屋も、目の前の赤色も…夢の中で、見たことがあったはずなのに。

僕はそのすべてを忘れていたんだ…


夢の中と同じ。手足は縛られている。

状況もすべて同じ。僕は、ここで死ぬんだろうか。


「ああ……あつい……」


赤はそんなに熱くなく、既に僕の足を燃やし続けている。

じりじりと…熱さと痛みがずっと襲って来ている。


頭が…思考が全く追いつかない。

目から入るどんな情報も、脳が拒絶する。


「なん…で…?」


僕が何をしたんだろうか。何を間違えたんだろうか。

……帰りたい。


僕はここで死ぬのだろうか…


………


燃え始めてから、数時間が経った。

急激に赤は勢いを増し、火力も上がる。

僕は痛みによって、何も考えられない程になっていた。


「痛い痛い痛い痛い…うぅ………!!!」


手足を縛っていたロープはもう燃えてしまって、手足は自由に動く。

でも、その手足を動かせないでいた。


小屋も大半が焼け飛んでる。

生命力の強い。勇者の力に恨みを持った。


「痛い…あぁ…………」


…もう声も出なくなってきた。

それに、また意識が薄くなっていく。


「うぅ……」


最後に、彼女の顔が思い浮かぶ。

死にたくなかったな…

僕の意識は闇の中に堕ちた。


………


深い。深い夢を見ているようだった。

それでも、何か懐かしいような感覚もした。


僕は、森の中にある村?の様な場所に居た。

そこは、酷く原始的な構造の建物ばっかりが並んでいて、見たところ多くの人がそこで暮らしていた。

突然。耐えがたい匂いがする。しかし、僕は何も反応しなかった。


「ねぇ、ミーナ」


僕の事だろうか。呼ぶ声がする。

よく見れば、いつもより視線が低い。


僕は…


「うん?」


体は勝手に動き、少女の方に向かう。

大切な記憶を思い出そうとしているのか。酷い頭痛がする。


僕はそこで………


拷問を受けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ