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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
不思議に思いながらシーディは答える。
「ですが、スン様は風紀が乱れないよう私を注意したかったのではないのですか?」
シーディのその返答に、じっとシーディを見つめたあとスンは笑い出した。
「違う違う。私もお前の部屋で炬燵に入りたいだけだ。ユニシスもお前の部屋でくつろぐことがあるのだろう? なら上からのお許しはもらったも同然ではないか」
そう言うと、手に持っているお重を少し持ち上げた。
「ほら、ここに土産もある」
「え? あ、はい」
するとスンは満面の笑みを見せた。
「さぁ、早く行こう」
そう言ってスンはシーディの部屋の方向へ歩き始めた。シーディは呆気にとられたが我に返ると慌ててスンの後を追う。
スンはユニシスの一番目の寵姫であり、シーディは二番目の寵姫だった。前世でシーディが寵姫として後宮に入った時、スンはシーディの世話をしてくれた。
厳しかったが、なにも知らないシーディに教養を叩き込んだのはスンである。
シーディも必死でスンについていったものだった。
そういうことで、厳しいという記憶しかないスンが部屋に遊びに行きたいと言ったことにシーディは戸惑った。以前のスンならそんなことは絶対に言わなかったからだ。
スンはシーディの部屋に行くと勝手に引戸を開け突然訪ねてきたスンに驚いているリンを放って、宮女たちがくつろぐ炬燵に一直線に向かう。
くつろいでいた宮女たちは慌てて炬燵から出て部屋を去ろうとするが、スンはそれを制した。
「かまわん。お前たち、休憩していたのだろう? 旨いものを持ってきてやったぞ、一緒に食べよう」
その言葉にみんな顔を見合わせたが、最終的にシーディの顔を見つめどうすれば良いか判断を待っている。
シーディがみんなに頷いて返すと、炬燵から出ようとした宮女たちは座りなおした。
渡された土産をリンに渡すとシーディも炬燵に入り、突然遊びに来たスンにどう対応して良いかわからずしばらく無言になった。
するとスンが口を開いた。
「昔な、私の次に寵姫に来たシーディという娘がいた。ここでは牡丹と呼ばれていたがな。まぁ、お前と同じ名の娘だ」
そこまで話をするとスンは一度話を切り、一瞬躊躇した様子を見せたあと話を続ける。
「私が寵姫になった経緯なんだが、ユニシスは行き場のなかった幼馴染みで親友の私を寵姫と言う立場にしてここに置いてくれた。それに対して見返りを求めることもなく、私の好きにさせてくれていてな」
これは初めて聞いたことだった。驚いてスンを見つめていると、スンは苦笑する。
「驚いたか? だが、私も別にユニシスを愛してた訳じゃないからな、今の立場にはとても満足してる。奴とは本当にただ友情で結ばれているだけだし、互いに何かあった時には相談にも乗った。その、なんと言うか、そう、戦友みたいなものだ」
「知りませんでした」
シーディがそう答えると、スンは頷いた。
「まぁ、私も誰にも話したことはないからな。それにユニシスの奴は一途でね、シャンディと牡丹以外は誰も愛することはない」
シーディはそれを聞いて複雑な気持ちになった。そうは言ってもユニシスはシーディに飽きて捨てたのだから。
スンは話を続ける。
「それでな、牡丹が来たときユニシスに恩返しができるのは今しかないと思った私は、なにも知らない牡丹を徹底的に躾けた」
「そうだったのですか?」
聞きながらシーディは当時を思い出す。スンはとても厳しくて、自分のことを思ってくれているからこそと思いつつも、もしかしたら自分のことを嫌っているのではないかと思ったこともあった。
だが、それは杞憂だったのだ。
スンはそこで悲しそうに微笑んだ。
「だがな、厳しくするばかりで私は牡丹を褒めることをしなかった。そしてやっと優しく接しようとした頃には牡丹はいなくなってしまった。誰にもなにも言わず牡丹はひとりで死んでしまったからな」
シーディは当時を思い出した。誰にも知られないよう迷惑をかけないようにと、ひっそりと死に場所を探したあのときのことを。
その場にいる誰もが無言になっていると、スンは微笑む。
「私はその時とても後悔した。もっと優しく接していれば牡丹はちゃんと私に病気のことを相談したのではないかとな。きっと牡丹は私に嫌われていたと思ったことだろう。だから誰にも病気の話を相談することなく、死に場所を求めてひとり後宮を出て行った」
そこまで聞いて、不思議に思いスンを見つめた。するとそれを察知したのかスンは苦笑する。
「なぜこんなことを今話すかって?」
シーディは答えを待ちスンを無言で見つめる。それに答えるようにスンは言った。
「シーディ、お前は二番目の寵姫だった牡丹に似ている。私はお前で自分が後悔したことをなかったことにしようとしてるんだ」
そう言ってシーディの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「まぁ、そういったわけで私の自己満足に付き合ってもらうよ。お前はとにかくここでは楽しく過ごしていきな。それと、みんなも私に気を遣う必要はない。たまには私もみんなと楽しみたいからな」
そう言って炬燵の上にあるみかんを手に取る。
「それと、私のことは姉さんって呼んでくれ。様を付けられるとどうも気持ち悪くてな」
そう言って微笑んだ。
そうは言われても流石にみんな最初は気を遣って様を付けて呼んだり、遠慮した態度を取っていた。だが、だんだん慣れてくると普通に会話を交わせるようになり、気がつけばスンは宮女たちにも馴染んでいた。
シーディはスンから話を聞いたあと、前世で自分はこんなにも思われていたのだと知って、心から感謝しながら過ごした。
それからスンは土産を持ってシーディの部屋に遊びにくることが増えた。シーディもそれを嬉しく思いながら出迎え、シーディの部屋は今まで以上に賑わうことになったのだった。
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