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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
突然声をかけられ驚いて振り向くと、そこには牡丹の世話係だったランが仁王立ちしていた。
「ラン?」
思わず名を呼ぶと、ランは少し戸惑った顔をした。
「どこかで会ったことがあったかしら? って貴女どこかで見たことがあると思ったら、この前花見の宵で舞を踊ってたシーディ様?」
「はい、すみません勝手に入って。鍵が開いてたので」
ランは訝しんだ。
「開いていた? ここに入れるのは牡丹様と竜帝陛下だけよ? それ以外の人間は入れないようになっているのに……」
「そうなんですか? どうして入れたのか私にも良くわかりません。入ってしまってすみませんでした」
そう答えて頭を下げると、部屋を出た。
慌てて廊下へ出てしばらく歩き、もう一度牡丹の部屋を振り返る。すると、ランがこちらを不思議そうな顔で見つめていたので、もう一度頭を下げた。
シーディはランがとても元気そうで嬉しかった。
部屋へ戻ると、リンが心配そうな顔で出迎えた。
「シーディ様、お帰りなさいませ。あの、差し出がましいことかもしれませんが、陛下はお優しい方です。きっとすぐに仲直りできると思います」
シーディはリンの気違いを嬉しく思いながら、これ以上心配させないよう笑顔で答える。
「そうよね、ありがとう」
炬燵に入ると、ユニシスがどうしてあんなことを言ったのか考えた。
おそらく、牡丹が編んだものと同じ物をシーディが編んだことで、ユニシスはシーディが牡丹の組紐を知っていたのではないかと思ったのだろう。
そうだとしたら、そんなことを知っているシーディを怪しく思うのは当然だった。もしかしたら、誰かの回し者だと思っているのかもしれない。
なんとか自分が後宮にいるあいだに誤解を解かなければ、だがどう話そう。
そう思っているところへ、スンが訪ねて来た。
「シーディ、どうした? 元気がないじゃないか」
スンはそう言うと、リンに土産のお重を押し付け炬燵に入った。
「姉さん。それが、あの、うっかり牡丹様の部屋へ入ってしまったのですが、素敵な組紐を見たものでそれを真似して編んだんです。そうしたら陛下を怒らせてしまったようで……」
「は? お前、牡丹の部屋に入ったのか? あの部屋はユニシスのやつが風化しないよう魔法をかけて、誰にも入れないようにしてたはずだが?」
「そ、そうなのですか?」
だから当時のままだったのかとシーディは納得した。
「陛下は寵姫を大切になさる方なのですね」
「いや、牡丹は別格だ。ユニシス自身もまだ、自分の中で牡丹のことにちゃんと向き合えていないぐらいだしな」
そう言うと、ため息をついて話を続ける。
「牡丹の組紐って、茶色と淡い緑のやつか?」
シーディは牡丹の編んだ組紐をスンが知っていることに驚く。
「そうです。とても素敵な組み合わせだったので。よくご存じですね」
「まぁな。やつが大切にしてたからな。それにしても、少しまずいことをしたかもな」
その話を聞いて、シーディはユニシスが牡丹が死んでしまったことに対して責任を感じているのかもしれないと思い、申し訳なくなった。
俯くシーディを見てスンが慰める。
「そんなに落ち込むな。ユニシスはいつまでも怒りを引きずるやつじゃない。それに私からも言っといてやる」
そう言って、シーディの背中を優しくなでた。
スンはそう言ってくれたが、その後ユニシスがシーディの前に現れることなく、誤解を解くこともできずにいよいよ藤の月の十五日を迎えた。
予言によると、誕生日に運命石と運命の乙女が接触することによって乙女が覚醒するとのことだった。
シーディは誰が運命の乙女だろうと、その素晴らしい瞬間を目の前で見られることを嬉しく思った。
その反面、今日までにユニシスから許しを得られなかったことが悔やまれた。
この日を過ぎたら、シーディは村に帰ることになるし、この後ユニシスに会うことができるかもわからなかったからだ。
緊張しながらリンが準備した服に袖を通し、身支度を整えたところで戸をたたく音がした。リンが対応するとリューリが立っていた。
「ご無沙汰しております」
「リューリ様、ご無沙汰しております」
リューリも後宮には居るものの、ほとんど顔を会わせていなかった。シーディは、リューリの顔を見てここに来た頃を思い出していた。
無言でぼんやりしているシーディを気遣ってリューリが話しかける。
「シーディ様、どうされました? 緊張されているのですか?」
「いいえ」
自分が運命の乙女ではないことを知っていたので、その点他の候補よりは緊張していないだろう。そう思いながら微笑んで返すと、リューリもほっとしたようだった。
「とても落ち着いてらっしゃるようだ。では、参りましょう」
リューリと、後宮の大広間へ向かうと中へ入る。一番奥の玉座に不機嫌そうなユニシスが座っており、その横に預言者サンタスが立っている。そして、そこへ続くように手前から真っ直ぐ赤い絨毯が敷かれていた。
その絨毯を挟むように両脇に役人たちが整列し頭を下げていた。
シーディはここへ来て、その厳粛な雰囲気に少し緊張しだした。
すでにスエインとタイレル、サイも来ておりユニシスの前に並んで立っていた。シーディも部屋へ入るとその列に並び頭を下げた。
「揃ったな。ではサンタス、お前の言った通り舞台が整った。この後どうなる?」
すると、サンタスは頭を下げたままで答える。
「はい、陛下。この後乙女らが運命石に手をかざすと、運命の乙女の前で運命石が光り輝くのです」
「そうか、わかった。では乙女らよ、これから運命石に一人ずつ手をかざせ」
固唾を呑んで見守る中、恭しく運命石が運ばれてくる。シーディは初めて見る運命石に目を奪われた。その石は透明だが、光を反射し七色に光って見えた。
手をかざす順番は端から順となり、一番手はシーディとなった。
合図されて前に出ると、運命石に手をかざす。当然だが運命石は光らない。わかっていたこととはいえ、もしかしたらと少しは期待していたのでがっかりしながら元の位置へ戻る。
その様子を見てスエインが笑っているのが見えた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
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