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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 スエインは目を逸らすと俯いた。そんなスエインに畳み掛けるようにカーリムは言う。


「僕が言ってることわかる?」


「はい……」


「じゃあ、どちらの方が酷いことをしているかわかるよね?」


 スエインがその質問に押し黙まると、カーリムは畳み掛ける。


「わかるよね? どちらが悪いのか」


 そう言ってスエインの顔を覗き込む。その圧に負けたのか、小さな声でスエインは答えた。


「わ、私です……」


「よろしい。だが、この事は竜帝陛下に報告させてもらう。最初から君たちが話していた会話は全部聞いていたから、全て余すことなく報告するよ。その後の判断は陛下におまかせしよう」


 スエインとタイレルは絶望的な顔をした。カーリムはそんな二人に言った。


「次にこんな騒ぎを起こしたら、どうなるかわかってるよね?」


「はい、すみませんでした」


「よろしい。じゃあ解散」


 その一言でスエインとタイレルは楽屋を出ていき、こちらを注視していた周囲の者も一斉に自分の仕事に戻っていった。


 シーディはカーリムに頭を下げる。


「問題を解決できず、騒ぎを起こしてしまい申し訳ありませんでした」


 カーリムは苦笑する。


「いや、これは避けようがなかったんじゃないかな。それに君が本当は舞が得意だったから良かったものの、そうでなかったら大切な花見の宵で大変なことになっていたかも。君が舞えて本当に良かったよ」


 言われてみれば確かにその通りだった。その時はスエインも注意どころではすまない話だったろう。


「でも、私も久しぶりに舞えてとても楽しかったです」


「そうそう、僕がここに来た理由は君の舞を褒めるためなんだ。本当に素晴らしい舞を見せてもらった。ありがとう」


「いいえ、どういたしまして」


 こうして桜見の宵は、少し嫌なこともあったが概ねシーディにとっては大成功のうちに終わった。正直、スエインに対してはしてやったりという気持ちの方が大きかった。


 部屋に戻るとリンが興奮した様子でシーディに言った。


「シーディ様、私もこっそり舞台を覗いたのですけれど、とても感動しました。シーディ様があんなに舞が上手だなんて知りませんでした!」


「本当は舞う予定じゃなかったのよ? だから誰にも私が舞うところを見せないつもりだったんだけれど」


「そんな、もったいないですよ! シーディ様の舞はとても神秘的です。それなのに誰にも披露しないなんて」


 シーディは苦笑した。


「でも、もう二度と舞うことはないわ。今回はやむを得ず舞ったけれどね」


「そんなぁ、みんながっかりしますよ」


「そんなの、しばらくすれば私のことなんてみんな忘れるから大丈夫よ」


 そう、昔のように。そう思いながら、手土産をリンに渡した。




 次の日、習い事でスエインはシーディの顔を見た瞬間に不愉快とでも言わんばかりの顔をした。


 自業自得でしょ? 何を不機嫌になっているの? 本当に意味がわからないわ。


 そう思っているとスエインがシーディに近づき耳元で囁いた。


「私が運命の乙女だとわかった暁には、貴女の処遇は色々考えているから楽しみにしていてね」


 そう言うと微笑んだ。シーディは思わずぼそりと答える。


「はいはい」


 するとスエインは一瞬憎しみのこもった眼差しでシーディを睨みつけ、以後シーディと視線を合わせることは一切なかった。


 自分が運命の乙女に選ばれると決めつけている、その自信は一体どこから来るのだろう?


 シーディはそう疑問に思いつつ、もしもスエインが運命の乙女だったとしてもあのユニシスがスエインの暴挙を許すはずがないと思った。


 なので、シーディは当然そんな脅しは聞き流した。そうしていつものように変わらず習い事を終えると、直ぐに部屋へ戻った。


 部屋に戻ると、スンが来ていた。


「姉さん、いらしてたんですね」


 そう言って直ぐに炬燵に入る。スンはシーディを見て満面の笑みを見せた。


「昨日は凄かったな。私はお前に教えることはなにもないと思ったよ。あんなに素晴らしい舞は十数年ぶりに見た。見ているだけでも感動できる舞はめったに見られるものではない」


「ありがとうございます」


 シーディは恥ずかしくて俯いた。それに、スンにそう言ってもらえてとても嬉しかった。前世で頑張ったことが報われた気がしたからだ。


 スンは満足そうに付け加える。


「あれだけの舞を舞えるのはユニシスのお気に入りだった牡丹と、お前ぐらいのものだろうな」


 お気に入り? それは違う。


 シーディはそう思ってスンに言った。


「今、姉さんは牡丹様の事をお気に入りと仰いましたが、当時陛下は豪族との婚約話があったと聞いています。それで、その、牡丹様に飽きたと……」


「まさか! そのような噂があるのか? 牡丹をひとりで死なせたことを誰よりも悔やんでいるのはユニシスだ。あの頃、確かに豪族との婚約話があったが、ユニシスはそれを何とかしようと奔走していたからな」


「そうなのですか? 知りませんでした」


 そこへユニシスが現れたことで、二人の会話が中断される。


「スン、お前もいたのか」


 そう言うと、ユニシスは炬燵に入った。シーディは複雑な気持ちでみかんを手に取り、皮を剥くと無心でアルベドを取り除くことに集中した。


 スンはユニシスに言う。


「ちょうど今、あんたの事を話してたんだ。昨日の舞を見て牡丹を思い出してね。牡丹はあんたのお気に入りだったってね」


 ユニシスはそれを聞いても眉ひとつ動かさず冷たく言い放った。


「くだらない。お前たちそんな話をしていたのか」


 シーディはその一言にとても傷ついた。ユニシスにとっては牡丹のことは『くだらないこと』なのだ。


「まぁた、また~。あんた本当に素直じゃないねぇ」


「勝手に言ってろ」


 ユニシスはそう答えると、いつものように寝転びシーディに背を向けた。


「牡丹のことはあんたにはまだつらい話なんだねぇ」


 ユニシスの背中に向かってそう呟くと、スンはため息をついた。


 この一件があった後、ユニシスがシーディの部屋に来ることが極端に減った気がした。それは以前牡丹だった頃ユニシスが部屋に来ることがなくなったのを想起させ、シーディは少しつらくなった。


 陛下は私に飽きたのだろう。いずれこうなることはわかっていたのだし、お陰で今回は寵姫にされずにすむではないか。


 シーディはそう自分に言い聞かせた。






 藤の月に入り、後宮に居るのも残るところあと半月となった。長いようで短かったと思いながら、シーディは毎日を過ごしていた。


 自分が運命の乙女ではないことがわかっているので、恐らく他の候補よりは心穏やかなのではないかと思っていた。

 

 この日、朝早く起きるといつものように洗面に向かった。だが、その日はいつもと調子が違った。急に眩暈に襲われたのだ。


 ふらつきながら、それでもなんとか支度をしようと物につかまり洗面所へ行くと、その姿をリンに見られてしまった。


 リンはとても心配し、直ぐに侍医を呼んだ。だが、シーディはこの症状に覚えがあり、侍医に診断されずとも自身の命がそう長くないことをこの時悟っていた。


「シーディ様、残念ですが心震病のようです」


 侍医にそう言われ、シーディはやはりと思う。そして、これが心震病ではないこともわかっていた。


 前世でも牡丹は心震病と診断された。心震病は高価な『狐の手袋』という薬草をずっと飲み続けなければならない。


 その時ユニシスに飽きられていた牡丹は、高価な薬を飲み続けなければならないことに後ろめたさを感じた。


 そして、ユニシスに迷惑をかけないように治療を拒否した。


 ところがそれを許さない侍医が、牡丹の知らぬところで『狐の手袋』を煎じて毎日飲ませるように手配しており、結局牡丹は知らぬまに治療薬を服用することになった。


 だが、牡丹の病気は回復するどころか悪化していった。


 なぜ薬草を服用していたことを知っているかと言うと、治療の成果が見られなかったため、侍医が自分の診断が間違っていたと牡丹に謝ってきたからだった。

誤字脱字報告ありがとうございます。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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