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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
二千年ほど前、若き竜帝は『運命石』を生み出せる一族の末裔である乙女と恋に落ちました。
その頃世は正に戦乱の時代でありました。
若き竜帝は殺伐としている人間たちを見て、これを束ね天下統一戦乱の世を終わらせ平和な世界をもたらすという大きな野望を持っていました。
そんな若き竜帝の願いを叶えたいと思った乙女は、若き竜帝のために『運命石』を生み出しそれを渡し永遠の愛を誓ったのです。
若き竜帝は必ずや目的をはたし、乙女のもとへ帰ってくると言い残しわずかな兵を引き連れ天下統一の旅に出ました。
はたして若き竜帝は約束通り天下統一を成し遂げ乙女のもとへ帰ってきたのですが、その時乙女は亡くなっていました。
竜帝は乙女を弔い『運命石』を大切に保存しその後も国を統治し続けたのでした……。
妹のサーシャに寝物語として建国物語を話してほしいとねだられたシーディは、語り終わると話の途中から寝息をたて始めたサーシャの頬をなで、布団をそっと掛けなおしその場を離れた。
「サーシャのことはもういいから、貴女も寝なさい」
背後から小声で母のジャコウに言われ、シーディは頷く。
「母さんおやすみなさい」
そう言ってベッドにもぐった。
だが、すぐには寝付けそうになかった。なぜなら今、建国物語にも出てきた竜帝がこの村へ来ていたからだ。
シーディには前世の記憶があった。
前世でのシーディは奉公に出されると、奉公先で竜帝ユニシス・ビィ・シャイロン・エプスタイナーに見初められユニシスの寵姫となった。
後宮にあがるとシーディは美しいと瞬く間に評判になり、周囲の者から『牡丹』と呼ばれとても大切にされた。
環境の変化に戸惑っている牡丹を、周囲の者は時に厳しく、時に優しく迎え入れてくれた。家族に厄介者扱いをされ奉公に出されていた牡丹は、後宮での生活に幸せを感じていた。
だが、それも長くは続かなかった。
ユニシスに豪族の娘との婚約の噂話が流れだすと、ユニシスは牡丹の部屋へ通ってこなくなったのだ。
それと同時に牡丹は心震病という病に罹患した。治療をしたが良くなることはなく、ひとり後宮をあとにすると牡丹はユニシスとの思い出の丘の上で息を引き取ったのだった。
牡丹とシーディは雰囲気が似ている程度で、ユニシスに牡丹の生まれ変わりだと気づかれることはないだろう。
それに、気づいたところで飽きて捨てた寵姫のことなどユニシスが気にするわけもないが、それでも知られたくはなかった。
ばれるはずはない。
そう自分に言い聞かせ、それでもなるべくユニシスには会わないよう細心の注意を払うことにした。
そんなことをあれやこれやと考えているうちにいつの間にかシーディは深い眠りに落ちていった。
次の日、なるべく家の中ですませられる手伝いだけして過ごしていたシーディは、夕食を作るのに水瓶に水が入っていないことに気がついた。
「母さん、水がないみたい。私、沢に行って水を汲んでくるね!」
「だいぶ暗くなってきたけど、一人で大丈夫なの?」
「大丈夫だって。それに水がないと困るし。足が悪い母さんに行かせる訳にはいかないでしょ?」
「そう、ごめんなさいねシーディ助かるわ。明日の昼間に瓶をいっぱいにすればいいから、そんなに往復しなくていいいわ。危ないもの」
「はーい」
シーディは水を汲むための瓶を背負うと家を出た。いつも水を汲んでいる沢とユニシスがいる村長の家は逆方向にある。シーディは安心して出かけることができた。
美しい夕焼けを背に沢に向かって鼻唄を歌いながら歩くと、間もなく沢にたどり着いた。
暗くならないうちに早く汲んでしまおう。
シーディは背負っていた瓶を地面に下ろすと、その中に沢の水を汲み始めた。
その時、沢の向こうがわから葉擦れの音がしてシーディは鼻唄を止めてそちらを警戒して見つめる。すると、奥から誰かが出てきた。
「驚かせたな。綺麗な歌声に誘われて来てしまった」
その声にシーディはどきりとし、心臓が早鐘を打つように脈打ち始めた。なぜならシーディにはその声に聞き覚えがあったからだ。
なぜユン様がここに?
思わず手が震えたが、なんとか気を取り直し答える。
「あの、どちらの方でしょうか?」
「そうか、お前は私の顔を知らないのだな。まぁ、こんな田舎の村娘が私の顔を知るわけもないな。ならそのままお前は私のことを知る必要はない」
シーディはその台詞にほっと胸を撫で下ろすと、落ち着いてユニシスの顔を見つめる。
ユニシスは昔と少しも変わっていなかった。美しい黒髪に美しい金の瞳、そして端正な顔立ち。竜族の特徴を全て兼ね備え、堂々としていてそばにいるだけでも気圧される。
あまり見つめすぎても失礼にあたるため、シーディは我に返ると頭を下げた。
「はい、承知いたしました。では、失礼いたします」
そう言うと水瓶に手を掛けた。
「待て、お前名はなんと言う?」
呼び止められ、シーディは緊張しながらも絶対にユニシスに分かる訳がないと自分を落ち着かせながら答える。
「はい。シーディと申します」
「シーディ? シーディという名なのか?」
「はい」
その名にユニシスは少し驚いたような顔をした。牡丹と同じ名だからかもしれなかった。だとしても、そんなことで驚くユニシスを意外に思いながら、素早くもう一度頭を下げると水瓶を背負った。
「では、失礼いたします」
シーディは駆け足でもと来た道へ戻っていった。途中立ち止まると振り返り、追いかけられていないか確認する。
後ろにはただ闇が広がるばかりで、なんの気配もなかった。
シーディはほっとしたが、少し残念に思いながら家路についた。
ユニシスは数日村に滞在し、帝都へ帰っていった。前世の時のように寵姫にされることはなく、今回はこのまま穏やかに暮らしていくのだろう。
そんなことを考えていた矢先のことだった。
村役場前に張り紙が張り出され、それを見た弟のタオが慌てて家に駆け込むとシーディを呼んだ。
「ねーちゃん! 大変なんだよ。役所に張り紙が出てさ、読める奴が言うにはねーちゃんのことが書いてあるって! ねーちゃん字が読めるだろ? 早く見に行こうぜ!」
そう言うと、シーディの腕を引っ張り役所の前まで連れてきた。シーディが張り紙を読むとそこには宮女として宮廷へ行くことが決まったと書かれていた。
宮女? どうして……。
くわしいことは、役所に来ている中官から話があると書いてあり、それをそのままタオに話すとタオは大喜びしていた。
「やった! ねーちゃん宮女なんてスゲーよ!! 俺、かーちゃんに話してくる!」
そう言って家に向かって走っていった。シーディはその後ろ姿を複雑な気持ちで見つめていた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。