表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

在りかを求めて

作者: 337

 ――認められたい。

 そんな大それた希望なんて抱いていなかった。

 ――認識されたい。

 誰の目にも留まらない無を終わらせたかった。

 ただそれだけ、ただそれだけを求めて薄暗い部屋の中で仄かな光を放つ、それに手を伸ばした。手のひらに収まるそれに自分を綴り、不特定の視線の留まれと祈りを送った。

 とりとめのない言葉。

 胸から湧き出た言葉。

 感情が溢れた言葉。

 叫べなかった言葉。

 羅列した。垂れ流した。いくつも、いくつも。

 言葉が人に見つかった。いいね、と押された。

 誰かに認識された。温もりが通った気がした。

 溢れる感情は速度を増した。

 連ねる言葉に自分を映した。

 一つ、二つといいねが増えた。

 一つ、二つと満たされた気がした。

 薄暗い部屋の中で誰にも見られていないのに、誰かに認識されて存在することを許されたように思えた。



 やがてフォローをされた。

 より一層存在を認められた気がして、口角が薄く持ち上がった。

 感情を忘れていた表情が、久しぶりに鈍く動いた。

 言葉を綴る指に調子が乗り、いくつも打ち出す。

 一人、二人とフォローが増えた。

 一つ、二つと満たされた気がした。

 けれどフォローは増えなくなった。停滞する数字に満たされていたものが揺らいでいた。

 何かをしないと誰にも見てもらえない。見てもらえないと存在を認識してもらえない。やっと手に入った存在証明を失いたくない。

 焦燥感に駆られた。

 何かをしなくてはと急かされて、手に収まるそれに答えを求めた。

 答えはあった。

 映した。姿を映した。肌の色を映した姿を映した。

 減っていた数字が増えた。焦燥感が消えた。存在を許された気がした。

 更に求められたくて肌の色を増やした。

 次第に言葉を贈られるようになった。

 言葉に応じて、従順な人形のように動いた。

 言葉が返ってきた。求められて口角が動いた。

 感情を取り戻してきて、表情は動きやすくなった。



 やがて数字は停滞した。

 映せるものは映し、晒せるものは晒したのに変化が止まった。

 送られる言葉は同じようなもので、数字の動きも同じようなもの。

 打てる手はこれ以上なくて、滅入る気持ちの消化先を求めた。焦がれる感情を吐き出したくても、手に収まるそれ以外に吐き出す先もなく、内側に溜めることしかできない。

 足りない、満たされない。

 それなのに内から溢れる欲求は儘ならず、吐き出すために傷つけた。

 赤い雫が滴った。

 鈍色の鋭利に、肌の色に。

 そして晒していないものが目に入った。

 外側は晒し尽くした。

 内側は晒していない。

 未だに残っていた自分。溢れ出た欲求を垂れ流すかのような雫を、その源を載せた。

 熱さに疼く腕なのに、なぜだか妙に心地が良かった。

 新たな感情の発露にまた口角が上がった。

 感情を取り戻してきて、人間らしくなれた気がした。



 それでも数字は停滞した。

 外側を晒し、内側を晒し、身体にいくつも刻んでももう限界を感じていた。

 だからまた手に収まるそれに答えを求めた。

 映した。動画にして映した。動く姿を映した。

 少しは反応が良くなった気がした。それだけだ。

 今まで比べて小さい変化に焦燥感が募る。

 このままでは認識されなくなってしまう。

 思いは満たされず、口角は動かない。

 取り戻してきた感情は、零れていく。

 何かをしなくてはと、急く気持ちの答えを求めた。

 次の手を見つけた。

 配信に手を出した。

 口で何かを語ることはできないので、内側を晒し、雫を垂れ流す。ただそれだけの短い配信。

 反応は早かった。

 すぐ返ってくる言葉に口角が上がった。

 人の目が集まり、認められた気がした。



 止まった。停止した。静止した。

 数字は増えなくなった。

 これ以上認識されなくなった。

 認められてなんていなかった。

 感情を取り戻し、人間らしく慣れて来たと思っていたのに、すべてまがい物だった。

 認識されている間しか生を実感できないのに、増えない数字がもどかしい。

 思いつく手段はすべて尽くした。もう、これ以上は何も出てこない。

 いや、まだあった。

 思いついた手段を実行しようと、着の身着のままいくつもの言葉を綴ったそれだけを手にし、最期の配信を始めた。

 夜空に小さく光る星。

 眼下で華やぐ人工星。

 宵闇に佇む自身を映し、流れる言葉に満たされる。

 真偽を問う言葉、静止しようとする言葉、今までになく言葉が溢れる。

 口角が上がる。この先を実行したらどうなるのかと、胸が昂る。

 周囲を映し、自身を映し、夜風を味わい、言葉を堪能したら足を進めた。

 一歩、二歩、三歩目で足は地面を失い、身体が一気に軽くなった。

 手に収まるそれには無数の言葉が流れ、数多くの脳裏に自分が残るのが嬉しかった。

 口角が上がった。

 幸福に満たされ――……。


 どうも337(みみな)です。

 この度は『在りかを求めて』を読んで頂きありがとうございます。

 本小説は冬童話2023に向けて書いたものとなっております。

 去年のあとがきで冬童話に参加するのが11回目と書いていたので、今年は12回目になるそうです。干支を制覇しました。凄いですね。


 最後に、過去の冬童話祭で投稿した『無関心であり続けて』『さよなら透明人間』『Your time,My time./その表情が見たくて。』『黄色い百合の造花を貴女に』『スノードロップに託した想いは――』『うそつき』『僕が願った勇者の夢は――』『生きたがりの僕。』『死にたがりの僕が見つけた生きる理由。』『ハルジオン』『見えるから。』もよかったらご覧ください。


 では、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ