第4話 遠征。
第4話です。
早く書けたぞ!
まぁ、それはさておき。
楽しんでってください。
最初の冒険者のクエストを終え、一ヶ月がたった。彼、イテクは、この一ヶ月間、手頃なクエストで生活費を稼ぎ、そして修行をしていた。
彼は、開けた森に一人、普段着の姿で、座禅を組んでいた。
狼が、彼を見つめその目には、彼の目には、自分が映る。すると、背後から布で作られた球が、数十と乱射される。それらを翡翠の狼が彼に当たる前に弾き、その球は箱に入れられ充填される。次々と乱射された球は、間髪入れずに放たれ、イテクはその早さに集中を乱されそうになるが、気を整える。もう、少し。あと、もう少しだ。その狼が体を捻り、次の標的に向かうが、その間を、二、三の球が主に向かった。最低限の力と最小限の動きを要求され、それに答えると彼に向かった球は触れられない。
一体が限界かもな、ここまでの精度でやるのは。ただ、攻撃するだけなら、ギリギリ三体までならいけるが、戦闘時は、やはり二体までにした方が良いか。ていうより、一体でここまでできるなら、一体だけでも良いか。いや、戦闘になると情報量が増えるから〈ウルフ〉の使い方を考えた方が良いな。今までやったクエストは、魔法という魔法を使う機会がなかったから、どう使うか悩むな。身体系は使っていたが。
そろそろ、大きなクエストをやろうか。
彼は目標とする時間にようやく達せられそうになると、球を外へと弾き出す。あと数十秒まで、差し迫った時に、カササっと葉が鳴る音が聞こえ、狼が霧散した。彼の体が少し跳ね、まだ間に合う、と思い〈ウルフ〉を出そうするが、間に合わないと思うと座禅を解き、体を捻り、右足で球を蹴った。
その球は木々に移り跳ね、蹴り終わった体勢のまま手にポトっと球が落ちる。くっそう、気が散った。
彼は、球を脇に抱え持ち、タイマーが鳴る前に止めた。数字の2を表すものが目に入り、もう少しの達成感と、あと一秒ではなかった自分の力量のもどかしさ、あと二秒だった事のもどかしさに、微妙な感情が胸の真ん中で輪郭を作った。
朝ごはん、食べよ、と彼は大きな袋に持っていた球を入れ、翡翠の狼を二体出し、その狼たちが口で袋を広げだす。球を回収に向かうと同時に、自分とは違う方向に〈ウルフ〉を一体出すと、その狼は器用に球を持ち上げ、何回か弾ませた後、袋の方に尻尾を振り、二体の狼が球を見続け、見極め、少し跳んで球を入れた。
そして、入れた狼が次に向かおうした時、イテクは球を袋の方に投げ、近くあった球をその流れで蹴る。二体の狼が、ほいっほいっと袋で受け止める。
あと、あれだな、召喚のバリエーションも増やさないとな。俺の光属性の魔法、ショウカン(召喚、象換、称感)魔法と、名付けられた。どれも読み方は一緒で、魔法の特性を表している。
その名の通り、召喚は(厳密に言えば召喚ではないが)召喚されたかのように現れ、それを操れる。
次に、象換は、召喚とは違うニュアンスで、魔法がある形に、変幻自在に形を変えられる事に着目している。洞窟の時なんかがそうだ。
そして、称感、感覚が対応するという意味。嗅覚や耳が良くなったり、視覚を共有できたりするのが、これだ。
ただ、これらはあくまで特性を把握するための名称だから、実際には複合されたものになっている。
例えば、洞窟の中で対峙した時が、実質まともに使った時だろう。その時は、目を増やしたが、あの時の事を思い出すと、よくできたなと思う。今、やるとしたら、あの時みたいな感覚はそこまでない。
できるはできるが、単純に数がないし、情報を捌けていない感じがする。もしかしたら、あの時は、頭の中が戦うことでいっぱいだったからなのかもしれない。現に、高度に魔法を使う時は、頭の中で並列処理をする。さらに、そこに肉体の動きや次の行動も考えなくちゃいけないし、それも並列処理だ。だからだろうな。その事だけ、考えていたから。
彼は、袋に近づきながら最後の球を投げ、狼を一体だけ残して、袋を背負う。
「よし、じゃあ帰るか」と彼は、狼をどこか遠くを見るような目で撫でて、修行をどうするかと見直しながら家へと向かった。
彼はドアを開け、自室の隅に袋を置くと、それが反動で形が崩れた。彼はそれを気に入る形に整えて、隅に押し込む。そして台所に行き、うがいと手洗いをして、冷蔵庫からお茶を取り出し、ソフォに腰をかけた。
彼はお茶を飲んで、一時すると、あとで読もうと机に置いた新聞を手に取った。彼は新聞の匂いと手触りの良さを感じながら読んでいると、健康体操や今日のオススメの献立、何某かの者が上級冒険者になった等の情報が目に入る。
健康体操か、ここに書いてあることは、魔力がある者にとって重要なものだ。普通の健康体操とは違い、魔法を用いた運動になっている。
その理由は、魔力因子とは、ある意味で、体の重要な器官と言える。だから、それが使わなくなると、不調をきたす。まぁ不調をきたすと言えばきたすのが、目に見て分かるものではない。だが魔法を使わなくなると、魔力因子の反応が鈍るのは確かで、実際、魔法を使いながら仕事をするのが普通だ。楽だしね。それに加え、魔力は、もうひとつの体、魔力体とも言われる。要するに、体半分がダメになったら、ということだ。別に魔力の反応が衰えると肉体が動かないくなるなんて事はないが、もうひとつの体を労ることに越したことはない。それがあるから、しっかりと毎日、仕事以外で魔法を使うように促すための体操だ。
魔法を使うと、体が動きやすくなり、単に動くより良い。例えば、何か持った時に、魔法を使うと、体もそれに伴って体が魔法についていく。だから、肉体の健康とかも促進できる。そういう意味での健康体操でもある。
仕事とかで属性を使うのは、稀だ。よくてと言うか、無属性が主になる。火とか水とかの属性を使うのは、特殊な仕事、まさに冒険者とか研究者とかになるだろう。もちろん、それら以外でも使う職業はあるが、ほとんどは無属性でこと足りる。
ほとんど人は、多少だが普段でも、魔法を使っている。最初に来た時は、もちろんこと分からなかったが、魔法が使えるようになった今は分かる。ただ、使うと言っても、無意識というか自然にやっているものだから、一般的に言う魔法を使うとは違う。
食事とかも、重要なものだ。魔力が豊富なものを食べると、単純に言えば全ての状態が良くなる。もちろん、生来の属性も。だから体操より食事が大事だったりもする。そういえば、食材とか魔力がない物が売ってあったな。俺が初めて買いに行った時は、米が魔力有りと無しがあった。正確には、無いというより豊富じゃないだけど、ただ無いやつもあったな。最初に買い行った時は、単に有るか無いかの違いだと思って、普通の米を買ったが、ある方が良いと気づいたのは、ここ一週間くらい、最近だ。
新聞とか本には、そんなこと書いてなったからな、少なくとも俺が見てきたものには。当たり前すぎるのかもしれない。俺がいた世界で言うと、飯、食べよう、を高らかに言っているみたいなものだろうか。まずそれがあって、なにを食べる、かだからな。
あっ、と彼は思い出したのか、新聞を机に置き、台所に向かう。ご飯、忘れてた、と自分に笑いをむけ、冷蔵庫を開けた。冷凍したご飯、肉と魚、その他色々を出す。
彼はフライパンをふたつ出し、片方はオリーブオイルを、もう片方はバターを敷き、十分に温まったらそれらを滑らせ、均す。そこに肉と魚を置き、肉にスパイスを降らせ、溢れたスパイスがオリーブオイルに溶け、食欲を唆る良い匂いが出てきた。
そして、魚の上にバターを乗せて、熱でバターがトロリと崩れ、そこにブラックペッパーを振りかける。スパイスと肉の食欲を煽る匂い、ブラックペッパーの鼻を刺激するこの匂いとバターの甘い香りに期待が膨らむ。それらを焼いている間に、電子レンジの機能を備えた魔法機械具にご飯を一分温める。
あとは何をしようと焼き加減を見ながら、野菜を切ろう、と冷蔵庫から取り出した。
全ての調理が終わると、野菜を空色の磁器に風景を連想させる意匠が入ったボウルに入れ、さっぱりとしたドレッシングをかける。
茜色の木製に横線が入っている汁皿にジャガイモとワカメ、豆腐や大根が入った味噌汁を入れ、陶器でできた檳榔子黒色を基調とした白色が映える角皿に肉を六枚並べ、そこに肉汁と脂で飴色に焼いた薄切りの玉ねぎを、波打ちしているかのようにまぶす。
そして胡粉色を下地にした、右側に撥ねるように濡れ羽色の曲線と直線が施された角皿に魚を乗せ、その上に細切りの大根を盛り、それに醤油をかける。
ご飯は、暗く趣深い黒と赤が織り成された、内が波打っているかのように見える茶碗に入れた。
彼は、お盆を置き手を合わせた。
「いただきます」と箸で野菜を掴んだ。シャキシャキと鳴り、その野菜のみずみずしさが、体を目覚めさせる。その勢いで、肉と白米を頬張ると、米の甘さに肉汁の旨み、スパイスの複雑な味わい、玉ねぎの辛味と甘さ、そして玉ねぎの子気味いい音がする。美味い。
彼は、味噌汁に手を伸ばし、飲むと体に温かさが沁み、それは食欲をならして、落ち着きと安心感をくれる。魚を食べた。バターの香ばしさと脂の甘み、ブラックペッパーのアクセント、身が肉厚で柔らかく、大根のシャクっという音がして、醤油で全体が引き締められている。味噌汁で、身体がリセットされ、そのままの流れで食べてしまえば、これを味わえないと思わせるほど、うまい。
彼は、続きを読もうと取りに行った新聞を食べながら読んでいくと、気になる所で目が止まった。
姫、未だ行方知れず。姫? 誰だ? 聞いた事がないな。俺が浅いだけだろうか。早く見つかってほしいが。目的はなんだ? 姫を攫うなんて、相当だな、と彼は驚愕と呆れと共に読み進めていくと、詳しい情報が書かれていた。どうやら、この姫は国の王らしい。他国に訪れる道中で、襲われたそうだ。それにしても、襲われた事、被害が出た事もそうだが⋯⋯、何をする気だ? と何やら嫌な予感がした。
彼は黒のズボンと紐がない赤いシューズを履いて、玄関にある鏡で身だしなみを整えながらシャツを見てみた。そのシャツは、丸が左肩側にあり、アシンメトリーなバツが右腰あたりに、その方向に片足が長く伸びて、体の真ん中らへんに三角が斜めに施され、三角の空間にバツの足が真ん中を通っており、四角がネックレスの様にデザインされている。
面白いから買ってみたけど、すごいな⋯⋯やっぱこれ。店に色々なデザインがあったし、今度ゆっくり見てみるか。
彼はドアを開けると、日の温かさが彼を照らした。部屋の温度差で少し暑さを感じる。
降りようと階段に向かうと、隣のドアが不意に開き、バイトの先輩である獣人のリコォー・マコネヤが出てきた。
「おっと、イテクくん。やぁ」とドアの影から手を振る。イテクも、リコォーさん、と手をかざし、リコォーから、君も行くのかい? と言われた。
「いや、今日はないんですよ。ちょっと、ギルドで今後の事を考えようかと」
すると、リコォーが、そうだった、と特例国民の義務を思い出す。
イテクらは、二、三話すと、一緒に階段を降り、別の方向に歩いて、手を交わした。彼は歩きながら、そうか、今日は仕事か、と思い出していた。俺も、そろそろだな。
彼らは、特例国民制度の対象になっている。
それは、一応、普通の国民として扱うが、色々と制限が課せられるものとなっており、例えば、特別教育義務、外出制限、外国制限、商売制限等など。
特別教育義務というのは、国民としての水準を満たすための義務であり、言わば、少し違うが義務教育ようなものになっている。あとは、労働義務もある。これは、職業に就け、ではなく、仕事をしろ、という意味だ。要するに、ある期間分、この国では鉱山業をやるという事だ。それを七年やる。正確には、イテクは、あと六年と十ヶ月。リコォーは、あと二年と三ヶ月。
ちなみに、この年数は国民として認められる年数とは関係なく、自分の行い次第で変わるものであり、それは国民になってもその期間分は続ける事になる。
その国民として認められる、の期間は四年になっており、絶対にこの期間で国民として認められないと、もうこの制度は受ける事ができくなくなり、問答無用で国から追い出される。それが特例国民制度だ。
確か、国家資格なんかも取れないんだっけな。民間は確か良いはずだが、条件があった気がする。
ここで、冒険者はどうなのだ、というと冒険者は広義の意味では資格であり職業であるが、他のものとは性質がまったく異なる。誰でも、属性が登録され訓練を受ければなれるものだ。
ただ、これはあくまで国が管理するためにやっている事の横流しだから、別に冒険者になる為の特別な仕組みは存在しない。冒険者っていうのは、本来、生き様だ。ただ、魅入られたものに向かって行く。それを、冒険者と呼んでいるだけ。だから、どちらにも属さない。ただ、今は、冒険者は民間や国家に雇われる。それをまとめているのが、ギルドだ。今から、そのギルドに向かうわけだが、どうしようか。そろそろ、大きいクエストをやって功績を出さないとな。なんにしよう。そもそも、あるのだろうか。
木と鉄が擦れる音と共に、イテクは中へと入った。彼の目に、多種多様な武具を身に纏った多種多様な人々が映る。
席を囲み何やら紙を広げて怪訝な表情をしている者、朝っぱらからお酒を飲む者もいたり、ボードと睨めっこをしていたり、か弱そうな女の子が男に媚びへつらって、それをケッとイケている強面な男性が訝しんだり、さらに、ナンパに、イチャイチャに、へべれけに、ぐうたらに、と。実に愉快である。本当、すごいな、と思いながらボード前に行く。
良いのあるかなぁ、と次々と単語が目に入る。ワイバーン、納品依頼、保護、護衛、駆除、捕獲、リザードマン、スライム、ゴブリン、建設補助、舗装作業と。こちらも多種多様である。と彼の目に、遠征とメンバー、という意味の文字が入った。イテクは、右下、蝋が押された物に、押すように触れると、この募集の詳細が書かれたホログラムが表示された。
えーと、今から⋯⋯3時間後か、と時計を取り出した。現メンバーは4人、ひとりだけ追加で、条件は⋯⋯俺のランクでギリギリだな。詳しいは、会ってからか、とこの募集をした者の追記を見る。
イテクは、次にこの遠征の概要を読み進めた。
遠征目標
前回、他パーティが調査した魔物の巣を引き続き調査し、指定されたルートを開拓せよ。
なお、この目標は絶対達成が求められるが、できない場合、最低限はこの下記の目標を達成すること。
レア度の高い素材を手に入れる。
環境、動植物(食用かどんな生息をしているか)などを調査し、観察したものを記録する。
保護対象者がいれば、それを保護する。
本遠征による日数
行き3+5(馬車+安域)日。
その後、滞在期間、14日。帰り同行き。
計、44日。
今日、3月27日。
出発日時、3月29日、15時00分。
帰還日時、5月11日、9時00分。と書いてある。
これは、なかなかハードだな。安全領域の外か。領土にいる魔物とは違う。ある意味、本当の魔物と言ってもいいだろう。しかも、14日、2週間か。
よし。彼は、覚悟を胸に紙を持って行った。
受付嬢が、ステータスを、と言うと、イテクが胸にぶら下げたドッグタグに似た物を渡す。それは鎖から外れると、穴の部分が変形し、また元に戻る。そのドッグタグを、テーブルに置いてあるレジのような見た目をした機械に上から差すと、それは呑み込まれ、小さい音が中から聞こえてくる。
呑み込まれた時、ホログラムが表示され、彼女が機械にあるキーボードを打っていく。何をやっているのか、こちら側からは、全く分からない。それが終わると、受付嬢が出てきたドッグタグを抜き、持ち主に返した。
「はい、これで手続きが完了しました。では、指定されたお時間までには、ここ当ギルドに居てください」と綺麗で華麗なお辞儀をした後、ギルドのサービスを勧められた。
さて、どうするか。時間はあるし⋯⋯。彼は何気なく目に入った木製の円形テーブルに向かい、それを囲うように置かれた木製の椅子、腰掛けと座板が円形になっている全体的に可愛らしいデザインをした椅子に座った。彼は、何をしようか、と背もたれによられて、腕を組んだ。
ただただ時間が過ぎ去り、頬杖を付いてほうけていると、そうだ、と思い出したかのように、魔力をルービックキューブの形に作り出した。
それを揃え、色を変え、図形を作り、その図形を変えながら動かし、マス目を減らした物も作りだして、それも同時に動かす。それらは、幾重にも複雑な挙動と色彩を現す。あっ、と消える。くそぉ、まだまだか。彼は、再び作り出すが、自分の力量の範囲に留めた。
この訓練、〈BTC(Be The Change)〉は、魔法の並列処理を鍛えるためにやっている。
まぁ、これができるからと言って、強くなるとは限らないが、少なくとも上級の冒険者は、かなりの事ができるのことは確かだ。ただ、これの曲芸をやっている人もいたりする。その曲芸師が強いかと言われれば、うーん、と締まりが悪くだろう。できるだけであって、使えるかどうかは分からない。
もちろん、意味はある。要するに、臨界点があるということだ。それを感じるまでは、やるつもりだ。
それにしても、並列処理というのは、人間の脳ではできないはず。正確にはできるが、向いてはない。
少なくとも、俺がやっている事は、できないはずだ。やはり、魔力の影響か。
『魔力は肉体に影響を与える。
影の形が変われば、その形が変わるように。』
これは、魔法学者の合言葉だ。この言葉は、魔力因子、もっと言えば魔力体に対するアンサーだ。だから、できるのかもしれない。彼は、それを止め、ただのルービックキューブになっているそれを眺めた。
なんか食べるか、とギルド内に設置してある物を見て回ると、飲み物に、間食に、頼めば料理も作ってくれるらしい。彼は、料理のメニュー表を手に取った。いろいろ、あるなぁ。いや、やめとくか、と表を戻し懐から時計を出す。まだ、いいな。あと、2時間ちょいか。彼は時計をしまい、二種類のスティック状のお菓子を手に元居た席に戻った。
えっと、チョコ味かな。この意味は。包まれた紙を剥いて食べる。程よい甘さと小麦の甘さ、そして、良い音が口内に鳴り、食感が美味しさを引き立てる。美味しい。彼は、それを一口、また一口と食べる。うまいなぁ。あんまり、お菓子とか食べないけど、偶にだからこその美味さだな。
彼は、食べ終わると、あっそうだと飲み物を取りに行った。ドリンクバーの機能を備えた魔法機械具に、コップを置き、どれがいいかと指が泳ぐと、もうひとつのお菓子に合った飲み物を押した。葉の心地良さを感じる琥珀色をした紅茶が、落ち着きを与えてくれる。コップが満たされ、持って行こうと席に目線を向けた時、小学生くらいの背丈をした子が、りんご味のお菓子を食べていた。
彼は、その子に近づき、平静を装って、美味しい? と声をかけた。その子は、キョトンとした顔でお菓子を咥えたままこちらを見ると、今まで美味しいそうにしていた表情が、一瞬にしてハッと青ざめる。
「もももも、もしかして、あなた様の物でしたか」と思いほか低い声で動揺を発した。女の子? と彼はその子の性別を測りかねたが「いや、食べて良いよ。それ。紅茶飲むか」と笑顔で渡し、また取ってくればいい、と同じ物を取りに行った。
「本当に、すみません。面目ないです」と両手で持ったお菓子が膝の上に立ち、頭が沈む。
「いや、いいよ。そんくらい。食べな」とお菓子を持った手で促した。
その子の表情が少し明るくなり、そっとお菓子を食べると、幸せそうな笑みを浮かべた。面が上がって、さらに明るく見える。イテクはその笑みを見て、生地に合うな、と砂糖が焼かれたしっとりとした柔らかい生地を見て、そう思った。
その子が、食べている途中で思い出したかのように「そういえば、お名前はっ!」と忙しない口調で言った。それとは対称的に落ち着いた口調で「イテクだよ」と彼が答えると、その子が急いで食べ終え「そうですか、イテクさんですか。本当に、ありがとうございました。イテクさん」と可愛らしい笑顔で言った後、勢い良く紅茶を飲み干した。
「では、これにてお暇させて頂きます」と立ち上がり、会釈をして、コップを手に持った。歩く途中、こちらにニコッと笑って手を振って、それにイテクは振り返し、コップを捨てているのを見ながら紅茶に口をつけた。
その紅茶は、どこか高貴な色に見えた。
彼は、そろそろかなと時計を懐から出そうとした時、イテクさんですか? とその声色に爽やかな青年を連想した。彼は視線を上げ、面々を見渡し、もしかして、募集の? と確認すると、そうです、と流れるように各々が自己紹介をしだした。
最初に声をかけた、連想通りの爽やかな風貌をした男性、名前を、ティチィ・キューコと言い、緑色が溶ける様に体の中心から霧散している長袖のシャツと薄黒い長ズボンを着ている。
よろしくお願いします、とスっと手を出し、イテクはその握手に応じた。
大丈夫なの? と少し目線を斜め上に、ティチィに向かって言った訝しげな顔で長く垂れた黒髪を手で煽り、こちらを見定める態度を取る女性、アコォ・ヨニジ・シウは、身長の高さがスラリとした体型を引き立たせ、自分の魅力を自覚している様に長いコートとストッキングのような物を身につけている。
そのコートから見える、筋肉が良い感じに付いたスラッとした足が彼女の魅力をより高めている。
そんな彼女の態度とは真逆のカイメ・メトオサと名乗るショートヘアの女性は、イテクを除くと三番目に背が高く、小柄な印象を受け、腹を出し、スポーツブラの様な物の一枚上に、袖が短い半袖のジャケットを着て、裾野が折られた短パンのズボンとパッと見ると長さを感じるブーツを履いている。
全体的に暖かい色合いをした服装だ。その服装の露出部分から、心地良さを感じるほどの焦げ茶色の肌と共に筋肉が見え、力がありそうだが、印象として華奢だと感じた。見た目通りに元気よく、よろしくね、と両手をパッと広げて腰を引いたポーズを取って、早々にイテクを受け入れる。
そして、よろしくお願いしますね、と胸に手を当てながら握手を向け、紳士的な口調で言う全身を細身の鎧で纏った人物、ユトァ・キンジコォー。ユトーではないですよぉ、と嬉々として名前の発音を訂正し、イテクは握手をした。
細身の鎧を着ていても、おそらくそのままの体型なのだろうと思わせるほど体格が良く、パーティと比べても人と比べても背が高い。イテクは、なんで鎧なんだ? と疑問を抱く暇もなく、その人物の性別が分からないと思った。鎧を着ている以前に、声が男性とも女性とも捉えられる。
自己紹介が終わると、ティチィが「行きますか」と外へと歩き出し、イテクは「聖堂ですかね」と言いながらついて行った。
そうです、そうです、とティチィの明るい振る舞いに緊張の緩和を感じ、先行きの不安がかすみ出す。
「本当に、大丈夫なの」とアコォが、腕を組みながら言った。
「まぁまぁ、アコォちゃん、そんな態度とってたら、せっかくのメンバーが逃げちゃうよ」とアコォに抱きつくように触れるカイメ。その発言に、それまでってことよ、とアコォが前にかかった髪を整える。
「アコォさんは、相変わらずですね。本当に」とユトァが、まったくといった感じで腕を組む。
イテクは、ティチィを通して左手に彼らを見て思った。
なかなか濃いな、このパーティ。
彼らは、聖堂の一室に入る。
その部屋は、机と椅子の間隔がほど良く広く、のびのびとできる印象を与え、圧迫感がちょうど良い実に心地良い空間が広がっていた。大理石でできた椅子は一体型になって、これも伸び伸びできるなと思わせる。
ティチィが左側に歩くと、イテクは右から奥へと向かい、アコォがティチィの方に行き、順番にユトァとカイメがイテクと同じ方向に行った。
イテクが座り触れると、入って来た時の冷たいかもと、この部屋の唯一の不満を塗り変えるように、本能的な温度が体を通った。居心地がいいなと手で大理石の感触を楽しむように撫でると、思わず癖で靴を脱いでしまい、右足を胡座の様に折り畳む。
それに、行儀悪いですね、と言って戻そうとするが、大丈夫ですよ、とティチィに楽にするように促され、イテクはその温情に甘え、すみません、と言って片胡座を組んだ。
「じゃあ、始めますか」とティチィが、立った状態で手を叩き、紙を鞄から出し広げた。
「まずは、目標ね」とカイメが、胡座をかきながら言った。
「そうだね。えーと、目標は安全領域から出て、前のパーティが行った所を調査すること。そして素材を手に入れて、それを持ち帰ること。ちなみに、魔物の指定は、ランク3が最低ね」と言った後、あっこれ、詳細と前の報告書です、とイテクにそれを渡した。ティチィは再び、それと、と言ってイテクはそれを読みながら聞いていく。
「それと、混合種がいたら、それの保護ね」
ティチィの言葉に、空間が少し狭まったのを感じた。
イテクは、読んでいた紙から視線を外す。
混合種か⋯⋯。
「安域までの道は、整備されたものを使う。
その途中にある町で物資を調達、そして安域の情報収集をするから⋯⋯」
「あっ、こっちで、ある程度の準備はしてますけど、なにか食べらないのものとか、必要な物とかあります?」とティチィがイテクに言った。
「ああ、大丈夫です。基本的にないので。⋯⋯必要な物、もないですね」
「そうですか。でも、なにかあったら遠慮なく言ってくださいね。準備の途中で、もう一人入れよう、と思ったので、全然対応できますから」と言って、ティチィの発言にカイメが、うんうん、と首を振り、ユトァが大丈夫と言わんばかりに両手の親指を立て、アコォが、ふんとした感じで足と腕を組んで余裕な態度を取る。イテクは、その気遣いに感謝を念を抱いた。
「えーと、あとは、安域を出た後だね。まず、安域を出た後、設置された拠点に行って⋯⋯」
彼らは作戦を話し終えると、ティチィが紙を丸めて仕舞う横で、先にカイメとユトァが部屋から出て行き、ティチィも出ようとした時、扉を押さえて、「食事にでも、どうですか?」と彼から誘いを受けた。
イテクは、それに、丁度いい時間でもあるからと「ぜひ」とティチィと一緒に出ようとした時、ティチィ越しに、チラりと気にかけたアコォが足を解いて立ち、腕を組んで歩き出した。イテクはそれを見て、自分を持ってるな、と思った。
イテクは、魚の揚げ物をザクりと食べ、魚の脂がジューシーに溢れ、衣の香ばしさが塩の味をより引き立てる。
左奥にいるカイメが、うーん、美味しい、と頬を手で触れ身が仰ぐ。そのクリーミーなスープは、色鮮やかに具材が入っており、匂いを自然に拾ってしまう。
イテクは、スープの味を魔力の影響による嗅覚で推測すると、牛を使ったものだと認識した。
カンカンと少し速いリズムを、スプーンと皿で刻むアコォ、彼女が米類にかけられた食欲をそそられるビーフシチューのような色味をしたものを、白米にかけ、その流れで器用に米を切り、食べた。それを見て、イテクは、表情が気持ち緩んでいる気がするな、と食べながら横目で思った。
左横から自分で焼き加減を調整できる鉄で、肉を焼いた本能が刺激される音が聞こえた。
ユトァが顔を覆っている口の部分だけを開け、色味的にあっさりとした和風ソースを連想させるものに搦めた肉を、食べる。それに落ち着く様に味わうと、すぐさま肉を切り、次は焼かないで、ガッツリとしたソースをつけて、食べる。すると、体が旨さに反応するように、元気な雰囲気が感じられた。
三種類あるソースを満遍なく食べているそれを見て、好きなんだな、とイテクは思った。
視線を外した先に、ティチィがサンドイッチを片手で食べた後、もう一方で持ったフォークでウインナーが入っているサラダを一緒くたんに刺して食べ、そしてコンソメスープを飲んだ。爽やかな風貌をしているが、食べる姿に男らしさを感じる。
イテクは味噌汁を啜った。相性が良い温度が、胃の周りに沁みる様に広がって、今後に落ち着きを与えてくれる。
ティチィが「確か、なりたてだよね」とイテクに言った。
「ん?冒険者のこと?そうだよ」と味噌汁を途中で止め、答えた後に少し飲んで「なんか不満?」と付け加える。
「あ、いやいや、そうじゃなくて。ただ、話題を出そうかなって」
「ふーん」とご飯を食べる。
「冒険者になりたてだから、お金とか大丈夫かなって、思って」
「お金かぁ⋯⋯。確かに、少し窮屈感はあるな」
やっぱり、そうだよねぇ、としみじみとした懐かしい感じで言って、じゃあ、スライムをかった方が良いよ、と提案された。
「狩る?」
「違う違う。飼う。スライムを。イテクくんのランクだと、もう少し先だけど、できるようになったら、まずは、それをやって収入を安定させた方が良い」
「スライムって、飼えるのか?」とその事実に、綺麗に持っていた箸がちぐはぐに崩れる。
「おやおや?話していた時は、かなり博識だと思ってたのに、知らないのぉ」とカイメがイタズラっぽく言った。
「そういう意味じゃない。なんで、飼うのかって聞いてるんだよ」と少しムッとした感じで言う。
「スライムは、鉱石の物質とか、水とか、その他色んな物質を生成するのは知ってるよね」とティチィが、続けスライムの生態を語ると「ああ、まだ謎が多いらしいが、細胞の塊って言われるな」とイテクが、漬物を食べながら付け加える。
「だから、条件を満たせば⋯⋯」とイテクは、単なるペットを飼うための説明だと思って、揚げ物を食べようとした時、ある事が頭を過ぎり、揚げ物が落ちた。
「まさか、それって、お金、とか⋯⋯でき、たり⋯⋯?」
「そういうこと」とティチィが笑う。
イテクは頭を抱える。
「で、どうすれば良い?」と決意は固い。
「おっ意外と強か?」とカイメが飲んで言い、
「そうか?」とイテクが言い、
「守銭奴」とアコォが不信な目で見る。
「違う」とイテクが、なんだその目はと思いながらアコォを見て言い、
「おかげで、お肉にありつけます」とユトァがにこやかに肉を食べた。
「俺もそっちへ行く」とイテクが肉を見る。
「はは。とにかく、それをやった方が良い。条件は、まずランクを上げることと、そしてちゃんとスライムを飼える環境があること、知識があること、意志があること。それらに値する信頼ある功績と人物になること。
まぁ、当たり前の事をやろうって話だね」とティチィがサンドイッチ食べて言った。
「そうだな。だが、それをやってしまったら、いや⋯⋯制限があるか?」
「もちろん、制限はあるよ。金銭とかは、最大で15万。ちなみに、それ以上は税金がかかるよ。素材とかは、物によるけど、だいたい1キロを自分のものにできる。あっこれも、それ以上だと、その分持ってかれるよ」
「なるほど⋯⋯」と顎に手を当てて考え込む。
「まぁ、詳しくは、なった時に僕に聞いても良いし、役所に行けば説明してくれるよ」
「そうか。ありがとう。バリめっちゃ有益だ」
「バリめっちゃ?」とティチィがキョトンと首を傾げる。
「バリってない?」とカイメがアコォに戸惑いながら小さく問いかける。
「何かしら?母語?」と同じく戸惑う。
「なんかイテクって、会議の時にも思ったけど、こういうとこあるよね」
「ええ」とアコォがカイメと共にイテクの空気に慣れず、戸惑いを感じながら見つめた。
当の本人は、そうかそうかと自分の世界に入っていた。
自分の世界に入っていると、ユトァから「イテクさんは、お金をどうするんですか?」と言われ、イテクは、ん? と聞き返す。
「ああ、いや、なにやらお金を相当欲している様に見えたで」
「守銭奴」
「それはなんだ」
「ああいや、別に、単に生活が楽になるのと、あと、こっちの事情で色々と助かるなって」
「なるほど、不躾でしたか」
「いや、全然」
「そのお金が余ったら、なんに使うの?」とカイメが、少しワクワクした感じで言った。
「え?うーん、そうだな⋯⋯、貯金?」
「⋯⋯」とアコォが食べる手前で、この男はとなにか癪に触った様な感じでイテクを見る。
「ええ⋯⋯そんなに」
「貯金かぁ、堅実だね」とカイメがそっかぁとした感じで言う。
「そもそも、あんまり使う事がないんだよ」
「そうだよねぇ。俺も、あんまりないから、分かるよ」とイテクと同じタイプだと言わんばかりに腕を組む。
「ふむ、それでしたら、食事に使うのはいかがでしょう」とユトァが言った。
「食事か」とイテクは興味がそそれ、顎に手を当てて腕を組んだ。
「はい。貯金は立派な事ですが、余ってしまっては、もったいないです。ただの物になってしまいますから。
なので、食事という絶対的な宿命にお金をかけるのは、いかがでしょう。美味しいものを食べる事は、得も得。それに、クエストで疲れ切った体に、美味しいものを与えるのは、幸福を感じます。どうでしょう?」
「確かに良いなぁ、それ。考えてみるよ」とイテクが笑い「はい」とユトァも笑った。
彼らは、食べながら会話をした。
イテクは、絵具が水に霧散する様なものを連想し、このパーティに溶け込んでいるのを感じていた。
イテクの足場が上下に揺れ、その発端を見ると、ティチィが箱を乗せていた。彼らは、十三時に集合し、馬車に荷物を置いたり、物資の確認をしたりと、出発前の準備を進めている。
イテクは、馬車の中でリストに入っている物を確認していくと、ふと腰を少し屈めた。
馬車の先頭で馬を撫でながら餌をあげているアコォがいた。馬が餌を食べ終えると、アコォに頭を擦り寄せ、馬の歩みを受け入れるようにアコォも顔を近付ける。馬がアコォの頬を頬擦りし、アコォはそれを片目を閉じて笑顔で受けとめている。
それを見たイテクは、じっと見るのは失礼だな、と思い早く終わらせるよう作業に戻った。
馬車の右外で、カイメが、なにやら紙を出てきた人物にサインをし、その人物が、これで完了です、と紙をしまった。そして続けて、カイメに、何か要求する事はないか、と投げかける。カイメは少し考えた後、じゃあ、と言って町にある店の品のカタログを送ってくれるように頼んだ。それを、その人物は承諾し、健闘を、と言ってこの場を立ち去り、カイメが、どうも、と手を振り、それを見送った。すると、ユトォが、終わりましたか? とカイメに言い、手伝うように要求する。それに、OK、とカイメはハンドサインをしてユトァの所に行った。
イテクは、地図を広げ、最初に訪れる場所を確認しながら、今日の安域外の様子を話し合っていた。
ティチィが馬車を操縦しながら、今日の危険度はⅢらしい、と言うと、イテクは、その危険度がどんなものなのか、それほど危険ではないものだと理解はしているが、経験した事がないゆえに想像ができず、多少の不安を抱く。それを、態度には出さず、皆を見た。アコォは、その長い足を伸ばして組んで、優雅にタイトルが分からない本を読み、カイメは、柑橘系のソースがかかった肉を、ハンバーガーように食べ、噛んだ口元からソースが溢れ出し、ほどよい手応えで噛みちぎれた断面が肉汁を流し、ソースが垂れた。う〜ん! と余程美味しいなのだろうと想像できる表情をしていた。顔に布を巻いているユトォを見ると、今にも鼻歌を歌いそうな様子で、装備の手入れをして、ちゃんと動くかどうかの確認をしており、装備がカッカッと動いた。黒子みたいだな。
皆の態度を見ていると、頼もしくもあるが、同時に自分の実力の現状を痛感する。まだ俺には、できないな。
イテクが、交代して馬車を操縦していると、目の前に、影が現れ始めているのに気づく。そろそろ朝かと何時になっているか時計を見ると、六時になろうとしていた。時計を直しながら前を見ると、最初の目的地である〈Food & Tool〉が遠くに見えた。
おお、あそこか。「おぉい、そろそろ着くぞ」と皆を起こす為に声をかける。
皆が、シュバシュバとしながら起きる気だるさに、項垂れてている。すると、ティチィが、のっもりと起き上がり、先頭に頭を乗り出し、日の温かさに目を覚まし始めるが、日の光の煩わしさで目を細めた。その細めた目で、目的地を頭の重さに耐えながら認識していると、目が開かれてきた。
「あそこだね。よぉし⋯⋯、はい、皆起きよう」と手を重ねて、馬車の中に戻り、皆に起きるひと押しをする。
皆が、目を覚まし出した頃には、馬車が徐々に速度を落としだし、止まると、イテクが手網を直す後ろで、ぞろぞろと皆が出て行く。
ティチィが、出て行く時に、イテクの方に視線をやると、少し手こずっているのが分かり、馬車の中から、これはここで、と助言をする。それにイテクは、ああ、となんで気づかなかっただと言わんばかりに、もどかしかった理解が鮮明になって、すぐにできた。
それが終わると、ティチィが後ろから出て、イテクも馬車から降り、一緒に町へと何気ない会話を交わしながら入って行った。
その町に入って、ちょっと歩いて行くと、まっすぐとした道に、ズラッと横に並んでいる多様な店が目に入っていく。その圧巻さに、イテクは一見ちゃんと歩いている様に見えるが、体の中央が萎縮するような緊張を感じ、パーティから離れずに付いて行く事を決めていた。アヒルの様に付いて行くイテクは、勝手が分からず何を買ったら良いのかも検討がつかない心情を悟らせまいと振る舞っていると、ティチィが、まず、あそこ行こうか、と言い、全員がその方向に向かいだした。その一言に、少し楽になり、もう全て任せたいと言わんばかりについて行くと、ティチィが速度を落としながらイテクの隣に並んだ。
「はは、大丈夫?なんかお化け屋敷に入ったみたいな感じになってるけど」
「そうか⋯⋯?まぁ、こんな本格的な事はやったことないからな」
「そうなの?どんな事してたの?」
「クエストは、一通り受けたよ。でも、こんな本格的なのは初めてだ」
「へぇ⋯⋯、それは珍しい。興味あるね」
イテクは、改めて実感していた。今までのクエストとは違うことを。まともに戦闘したのは、ゴブリンのクエストだけだった。今までのクエストも戦闘はしてきたが、メンバー指定がされてないものが多い。つまり、難易度もそれゆえのものだ。
「なぁ、ティチィ、俺は来てよかったのか?」
ティチィは、その一言に少し驚く。だが、どこか自信ありげに「大丈夫」と力強さを感じ声色で言った。
「本当に、資格がなかったら、即決なんてしないさ。君の魔法を有益だと思ったし、実力も満たしている。それに、こういうのに興味を持ったんだろ?
だったら、経験させるのも良いなと思った」
イテクはティチィの表情を見て、どこか優しさや先輩としての姿勢とは違う、いや、それもあるが。どこか、面白さを感じた。
「はは⋯⋯、そうか。そう言ってくれて、ありがとう」とイテクは言う、その心の奥で、この男の何かに触れたような気がした。
ティチィが示した店に入ると、中には武具やアイテムがあり、雑貨屋だと思うほど多種多様なものが置いている。店の前に剣や防具がザッと置かれていたが、想像以上だ。店に入る前、広いな、と思っていたが、中はそれの何倍も広い。おそらく、外の景観を損なわせないために、錯覚を利用しているだろう。そういう工夫が伺える。
イテクは見ていくと、壁には剣が置いていたり、マントがカーテンの様に連なっていたり、刀掛けが壁の様に立って、そこに多様な剣が置かれている。
台にはブレスレットが輪投げの様に積まれ、インゴットや宝石などが置いてある。地面には、デッカイ剣や造形が凝っている剣などが突き刺さって、武具を身につけたマネキンがポーズをつけて置かれていたりと、圧巻である。それらが収まるほど広い。店というより、美術館を連想させる。彼が最初に来た武器屋とは毛色が違う。
どうすれば良いのだろう、とあっちこっちに目移りして、どれを選べば、と観察しているとふと違和感を覚えた。それは、マネキン。石でできたマネキンに覚えた。他のとは違う⋯⋯。イテクは教わった事、魔力を操って見てみるが、うまくできないのか、断定ができなかった。よく分からないが、あれだけ浮いている感じがする。それをじっと見ていると「なに見てんの?」とティチィに声をかけられた。
「ああ、いや。あのマネキンに、ちょっと」とティチィがイテクの発言に「ああ、あれね。それにしても、やっぱり君は変わってるね」と言った。
イテクが、それに困惑に似た疑問を抱く。
「ああ、別に他意はないよ。ほんとに。ただ、あの事を知らないのかって思って。話題になったからね」
イテクが、それは、と言いかけ時「ティチィ、ちょっと。サインお願い」とアコォが呼んでいる。
「ああ、分かった。ごめん、行くね」
「ああ」
イテクは煮え切らない思いを残し、それを一目見て、まぁいいか、と店を見て回った。
イテクが剣を取って眺めていると、ティチィが「お困りかな」と後ろで言った。
「ああ、どう選べばいいのか⋯⋯。今までのクエストも、変に選ぶより良いかと思って、普通の物を使ってたから、どうも勝手が分からない」
「なるほどね。オーケー。じゃあ、教えてあげよう」とどこか愉快に言った。
「まず、剣選び、武器選びの基本は、自分との魔法の相性が大切だよ」
「相性か」
「そう。例えば、僕は風だから、風の斬撃を増幅するやつ、それか風のコントロールを良くするやつが、良いよね」
「なるほど⋯⋯。両方有してる場合は?」
「良い質問だね。それは、一長一短で、案外、ひとつに特化したエンチャント方が良いんだ。
安定するし、強力で良いんだよね。でも、上級者は、複数付与を使っているのが多し、難しいところだね」
「なるほど、つまり扱いきれなきゃ意味がないってことか。例えば、斬撃に精度、さらには範囲までとやってしまったら、強くなりすぎて自分も周りも被害が出る。それを抑えてやったとしても、せっかくのバフが、宝の持ち腐れになると」
「そういうこと。その分の魔力は、武器が担ってくれるから、尽きる心配はないけど、戦えなかったらダメだからね」
なるほど、とイテクは考える。自分の相性、言い換えればスタイルとも言える。そもそも、俺は何ができるのだろう? ショウカン魔法、ウルフで戦闘の幅は広がっているだろうが、俺自身は? 火も今のところ使う機会がない。森だしな、行くの。ただそうじゃなくても、火の使い方が分からない。火をどう使う? ただ遠距離で使う? 纏う? いや、そもそも俺はどう戦いたいんだ。それが見えない。
はぁ、自分の不鮮明さに悩まされる。
イテクは、そんな簡単には出ないと地道に行こうと肩の力を抜き、今は色々と見て回ろう、と思った。
彼は、見ていくと、ある物に目が止まった。
これは、とエメラルドの様な造形をした石鹸サイズの石を手に取る。なんだこれ? インゴットか? 周りを見渡しても、値札が見当たらない。いくらだ? それに、と彼は目をこらした。いや、インゴットじゃない。なにか⋯⋯こう、なんかある。彼は、周りにある物と比べて、そう思った。
うーんとイテクが不思議そうにしているのを、ティチィが気づく。
「それが、気になる?」
「あっああ、まぁな。これって素材なのか?」とティチィにそれを見せた。
「いや、それはバックだよ」
「へぇ、バックね」
⋯⋯⋯⋯。
「ええ!これが?」とティチィの方を向く。
「そうだよ。それは、フリントバッグ(Flint-Bag)って言って、火打ち石みたいに擦ると、バッグになるんだ」
イテクは、それを見つめると「やってみても良いか」と興味津々に言い、遠くにいる店主を見る。
「いんじゃない」とティチィも見ると、その店主が察したのか、どうぞと手で示した。それに、イテクとティチィは会釈をした。
「やるんだったら、これが良いかな。それだと少し小さいから」と手から少し溢れるくらいのサイズをイテクに渡す。
「じゃあ⋯⋯、いくぞ」とそれを打つと、その物体が火花ようにカッと光り、魔力が一瞬見えたかと思うと、バケットバッグの様な、ボストンバッグの様な物を両手にぶら下げていた。
「おお!」とイテクはバッグを見たり、触って、手触り、強度を確かめる。
どうだい、とティチィが言い、良いな、とイテクが返す。
「こんな事もできるんだな」とイテクは、魔力因子の凄さを実感した。ただ、疑問も思った。
「ただ、その⋯⋯なんていうんだ」
ティチィは何が言いたいのかが分かったのか「なんで、こうしたんだって事でしょ?まぁ、不便だもんね」と言った。
「ああ。これは知らなかったが、もっとコンパクトにできるはずだ。そういう技術を本で見た気がする。
それに、持ち運びには便利だが、携帯には大きいくらいだ」
「そうだね。確かに、さっきの形に収納できるけど、大きいよね。2個が限界だ。でも、それには、理由があるんだよ」とどこか声色に暗さが出てきた。
イテクはそれが気になり、再度質問する。
ティチィが、それは、と何か言いかけ、少し躊躇うが、イテクの耳元に近寄った。
「強盗に使われたんだ」
その言葉に、イテクは驚いたが思考を巡らすと「なるほど⋯⋯」とこれだろうという答えが出た。
「そう。イテクの思う通り、盲点だった。
持ち運びに便利だったんだ。前はカード型だったからね」
「なるほどな」とイテクは、納得したように袋を見る。
「カード型、あの技術か」と言った時、おーい、とカイメが呼んでいる。バックの魔力を反応させ、元の場所に置き、行くか、と言ってティチィと一緒に出て行った。
彼らは、次の調達の為、今度は剣の専門に入った。イテクが、剣を見渡していると、ある剣、剣の刃に炎の模様が施された剣を抜き取った。彼は、それを見つめながらティチィの言葉を思い出した。相性か。自分に合った、俺の相性。彼の頭の中に、ある言葉が思い浮かぶ。実践不足。彼は何かヒントはないかと、今までの事を思い出した。
それは、彼が魔法の説明を受けた時だった。
『ほいじゃあ、説明するぞ』とイテクの属性検査を担当した老人、ジーインが黒板を指して言った。
『属性の説明は良いな?次は魔力自体ついて話すぞ』
はい、とイテクはノートに書く準備を始める。
『えー、では、まず魔力とは、魔力因子そのものを指しておる。じゃが、正確には違うじょ』
『正確には、構成因子。魔力因子とは、それらの総称じゃ。今のところ、4つの構成因子がある。
それは、このような図形じゃ』と次々と、丸、三角、四角、そしてバツと描いていく。
『これには、意味、というか役割が分かっており、お互いがお互いを、補い、また代わりでもある。これらは、相互作用を引き起こしておる。
役割じゃが、挙げたらキリがない。が、特に強い役割を挙げておこう。
それは、丸が、循環。三角が、調和。四角が、空間。バツが、否定じゃ』
『そして、構成因子のどれが強く現れているのか、タイプがある。ちなみに、お主は、わしが見た限り、調和型じゃな』
『調和ですか』とノートに書くのを止めて、顔を見上げた。
『そうじゃ。ちなみに、これは属性には関係ないぞ。いや、まぁ、なくはないんじゃが、この役割が強いからと言って、それが属性に影響し、そして決定しているわけじゃない。
そもそも、属性というのは、これらの因子が構成してできたものじゃからな、タイプには関係ないものじゃ。
あくまで、魔力自体の話じゃ』
『例えば、お主のショウカン魔法に調和型の特徴が加わると、そうじゃなぁ、どうなるかは分からんが、安易な発想をすると、長時間維持できる、とかな』
『なるほど』と自分の魔法がどうなるのか、想像したものをノートに書き込んだ。
『それに、もうその恩恵を受けておるしな』
『え?』
『魔力が発現した者は、体が変化する。火だったら、火に強くなるとかな。これは、良いな。
体が変化するという事は、その身体になるということ』
『そうじゃな、炎の中にいたとしよう。それを火属性の者が耐えるわけじゃが、その耐えるとはないか。
それは魔力体が耐えておる。じゃが、ここで注意したい。さっき、耐えると言ったが、正確には耐えているのではなく。そのような反応をしているだけじゃ』
『例えるなら、息を止めるようなことをしていないという事じゃ。じゃから、魔力体を鍛える時は、そう捉えて訓練をするのは違うじょっ。
魔力体は、絶対値的なものと捉えるのが、よろしい』
『では、耐えている、耐えられるようになるとは、つまり魔力を伴った肉体強化するという事じゃ。
そうすれば、それ以上の火を耐えられるようになる』
『これが、魔力体と肉体と関係性じゃ。
つまり、お主は調和型による影響で、肉体が魔力に順応しやすいということじゃ。そういう調和が起きておる』
『ただ、それは確かに、魔力に適応しているとも言えるが、変化が起こりにくいと言える。
だから、魔法の上達がしにくい傾向にある。
じゃが気を落とすな。自分の中で何かを掴めたら、爆発的に成長する潜在性を秘めておる。
調和型は、なにも珍しい者じゃない。強くなる、それは、お主しだいじゃ』
なるほど、と顎に手を当てて考えていたら、次にぃ! と活の入った声を上げ、イテクはそれに、びっくりした、と顔を上げた。
『魔力が尽きるとは、どういう事か、説明するぞ。
魔力が尽きる、と言っておるが、尽きてはおらん。尽きてるのは、体じゃ。魔力は、理論上どこまでも強くなる。だが、使っていくとその強さに体が耐えられない。さっき、言った事と同じじゃ。体が対応しようとしておる。
強い者、魔法に長けた者は、これを乗り越えとるんじゃな』
講義が終わると、最後にジーインさんが言った。
『魔力は肉体に影響を与える。
影の形が変われば、その形も変わるように』
イテクは、ジーインの顔を見た。思わず、どうしたんですか? と聞いた。ジーインは、ああ、すまんのぉ、と言って『いずれ分かる』とだけ言った。
イテク達は店に並んでいた。馬車に戻る前に、冒険者に人気のある物を食べよう、と町の奥へと行き、円形になっている広場の端にある店にいた。
そこは、本当に人気な様で、まさに長蛇の列とはよく言っほど並んでいる。
イテクは何かヒントはないかと思い出していたが、結局そこまでの収穫はなく、やれることをやるしかないと思った。
何気なく、隣に立っているアコォを見る。アコォは、青く着色された革で装丁された本を読んでいた。その本を見ると、革がよく馴染んで趣深く、タイトルが何も書かれていない。なんの本だ、と本の内容を見てみると、どんなコードでどんな魔法が起こるのかが書かれた本だった。馬車の中でも読んでいたが、そういう本だったのか。
イテクは、どこで売っているかと想像するが、もしかしたら自分で書いたものなのかもしれない、とその可能性が頭を過ぎり、目を逸らした。
イテクがまだかなと列を見る。だいぶ先のようだ。その流れで、広場の中心を見ると、そびえ立っている物、その塔なのかなんなのか分からない物の周りに、点々と店が並んでいる。
その塔は、煙を立ち上げ、中で火が燃え盛っているのが分かり、いくつ穴が空いており、そこに店の人が食べ物や鉄などを入れている。イテクがそれらを見ている横で、アコォがなにやら本に書き込んだ。
列が少し進み、アコォ越しに、広場の円形に沿うように並んだ店をぼーっと眺めていると、鎧や剣を作っているのが直に見え、糸が引っ張られた擦れた音が聞こえてきたり、後ろで鉄を打つ音や肉が焼ける音、鉄板が擦れて何かを炒めている音など。何だろうと食欲が湧き、どんな武具なのだろうと想像を膨らませる。
俺のタイプは、調和型だが、一体どんなものなのかいまいちピンと来ない。とイテクは待ち時間が思ったよりも長かったので、また考えだした。
それと、魔法を扱う者としての基礎を教わったけど。イテクは、腕を組んだ。ジーインの事を思い出していた。
『いいかの、冒険者たるもの、まず相手を見るんじゃ』
『相手、ですか』
『それはとっくにやってるんじゃ、って顔じゃの。もちろん、それも大事じゃが、わしが言っておるのは、魔力を見ることじゃ』
『魔力を』
『どうかの?分かるかの?わしのやっている事が』
イテクは、困惑するが、最初に教わった事を実践する。
『なんか見られてる感じがします』とジーインの顔を見る。
『ほう、どこから?』
『ジーインさんの目から』
『うむ、正解。これが、まぁ基礎じゃにょ』
『どうすれば?』
『とにかく、見る事じゃ。何も、ぐぅっとやる事はない。部屋でぼーっとしてる時、ふとやれば良い。
気楽にやるんじゃ』
『なるほど。これは、どんな意味が』
『それは、相手の力量をはかるためじゃな』
その言葉にイテクは納得するが、ある事に疑問を思う。
『でも、さっきみたいに、分かりますね』とジーインに、とりあえず、やっとけ、と言われたものについて言及する。
『ふふ、確かに、それをやればいい。さっき教えた、遠くにある木に触れなくても、触れている。自分がそこにいなくとも、そこにいる。見えなくとも、見えるように、自然と一体になること。
それができれば、目のやつはやらなくても良い。お主の言う通りな。それに、大半の者は、それしかせんしな』
最初に教わった事、名称がないそれを、イテクは、目が見えない人の為のデバイスみたいな感じだろうか? と思った。前いた世界で見た記事に、そのような物があった。手にそのデバイスを装着し、物の形状を皮膚で伝える、そのような物。そういうイメージで良いだろうか、とイテクは連想した。
イテクが、必要性に言及すると、じゃが、と即座に被せる。
『あくまで、それは感じるだけじゃ。それは、確かに、こと戦闘において有用で、自分の魔力を悟られず、相手の魔力を悟る。
だが、見えん。
魔力を、見て、どう思うか、どう感じるか、が重要なんじゃ。
現に、上級者とかは、やれと言われたらできるしの』
確かに、俺は今なにも見えない。どんな色なのかも、どんな形なのかも、どう動いているのかも。それを知る事が大事、か。
『見ることは、さっき言ったように、気楽にやるんじゃ。その方が良い。その時は、興味が湧いてるからの。
だが、最初に教えた感じることはやっておけ。これは、意識的にやった方が良いからの』
そう、言われてやってはいるが、なかなかできない。感じることはなんとなく分かる。ここに来る前に瞑想まがないなものをやったことがあった。それは、眠る時やふと何もすることがない時、やった事だ。ベッドで横になり、目を閉じて、システムの呼吸をしながら、呼吸を感じる。そして、自分の体を感じる、それを広げていく、そうすると物が分かる。あそこに物があるなと。これは頭の中の映像をと言う意味ではなく、感覚としてそこ、正確にはそこら辺にある感覚がしてくる。例えるなら、壁越しに人を意識しだすとそこにいるような、あの感じ。それを自分自身で感じる。これが言わゆるアストラル体と言うものだろうかと思うし、アストラル投射と言うやつなのだろうと捉えている。ただ、これは自分が知る範囲に限る。でも、それはそのはずだった。アストラル体とは、感覚体、と定義されるらしいからだ。それを、受け取るのが受容器である肉体。つまり、感覚体で見ていないのだから、受容器も分からないという事だ。だから、自分が知る範囲しか感じない。でも、魔力があると話しが変わる。魔力体があるのだから、ある種物理的だ。それがあるから、自分のやっていた事が生きて、感じる、はある程度分かる。
ただ見える、見る、が分からない。これは、どういう感覚で、トリガーでできるようになるのか分からない。本当に物理的なものだからな⋯⋯。
さっきの時みたいに、なにかモヤッと蜃気楼のような、陽炎のような、空間が少し歪んだピンぼけのような、視力が悪くなった感じで見える事があるが⋯⋯、これなら、むしろ見ない方が良いのかもしれん。単純に、視覚的な意味で。
そんな事を考えていたら、気づくと、店の前に来ていた。イテクは店を見て、おおと期待が膨らむ。
そこには、長さがある肉塊があり、長く、肉らしさを残しながら、しかし軽く食べられる絶妙な太さで店主が刺身の様に切っていき、それを炭で焼き、軽く味付けをし、サクサクとしたバンズにサラダと共に挟んだ。
ティチィ達が、数十と買ったのを見て、イテクはそんなにか、と思った。
はい、とティチィにそれを渡され、その横でアコォも本を直し、左手でホルダーを閉めながら右手で受け取る。
それは顔くらいあり、長さも相まってさらに大きく感じる。食べると、しっかりと肉の歯ごたえを残し、サクッとした口当たりに、野菜のシャキシャキとした食感のヘルシーが、また一口また一口と食欲を駆り立てる。
この美味さと軽い口当たりに「これは、ダメだ」とイテクは恐ろしさを抱いた。
「空腹感を誘って、何度も食べてしまう」
「でしょ、本当に100個くらい食べれそうだよ」とティチィが食べて言った。
まさに、シンプルイズベスト、ニアイズベストだ。
「それに、色々と種類があるからね」とイテクと共に、店の上を見た。
食パンサイズのものから、お菓子みたいに小さいもの、バンズが、柔らかいものや味がついたもの、特殊な加工がされた野菜を使ったもの、挟むものは、肉の他にフルーツや餅のようなもの、サラダだけもの、肉だけのものなどがある。多種多様だ。
「もう一個、食べるか」とイテクは手に持ったそれを見ながら言った。
「だね。本当に、これを作った人は、悪魔だよ」とティチィが言って
「でも、肉の太さがそれなりにあるし、デカいからね。実際、2、3個が限界だよ」
「まぁ、それはな」とイテクとティチィが笑い合う。
「でも、流石に30は買いすぎじゃないか?食料はあるし」と箱と袋を見て言うと、カイメが「あっこれほとんどは私の分とユトァの分だよ」とさも当たり前かのように言った。
イテクは怪物を見るような目でふたりを見る。
「私は、20ほど食べないと満足しないんです」とユトァがもう三本目に手をつけようとした時に言い、「私も、10本くらい食べないと、どうもね。フっ⋯⋯」と何か手練のような雰囲気を出して言った。
どうやら、どこの世界にも例外はいるようで、イテクはそれを見て、なんか、一周まわって安心する、とそう思った。
イテクは、楽な体勢で片手にメモを開き、この世界の言語で、次に訪れる町の回数や情報の整理、どんなふうに立ち回るか、今の自分の現状、そして日記を書いていた。
言語の練習で書いてたけど、いつの間にか、こうなったな。彼は、あと何を書こうかと考えながらメモを胸に落とし、皆を見た。
アコォが、さっきとは違う普通の本を、馬車を操縦しながら読んでおり、カイメは、目の前で悪魔を食べ、ティチィとユトァが、右側で安域外の地図を広げながら、何かを喋っている。ユトァが悪魔を食べながら、ここはどうですか? と言った。
一通り見て終わると、何しようかな、とふと天井を見て、その視線メモ帳を持っていた。
イテクは、潜るようにメモ帳の下から、本当よく食うな、とふたりを見て思った。
本でも読むか、と隣に置いている鞄にメモ帳を入れようとした時「イテク、来てくれないか。君の意見も聞きたい」とティチィが声をかけてきた。
「ああ、分かった」とメモ帳を持って、這いつくばってティチィの元へと向かう。
「で、なんだ?」
「ここが、最初に行くキャンプ場で、こういうルートで行くんだけど。イテクの魔法で、このルートを最初に下見してほしいんだ。できる?」
「ああ〜。まぁできるが、遠くまでやるには、一体が限界だ。それでもいいか?」
「うん、十分だよ。よろしくね」
ああ、とイテクが返し、それとね、とティチィが続けた。
馬車が徐々に安域に近づいて行く。馬車がガタッと揺れた。おそらく、小石を踏んだのだろう。イテクは、それで力が入って、自分の感覚に意識が向いた。この気の張りは、単に振れたからなのか、それとも、不安や緊張、もしくは好奇心なのか。
彼は、心の中で笑った。
長い!!
途中で、削るか考えたけど、
どうしても書かないと、なんかしっくりこない。
こんな事を言うほど、達者ではないけど。
う〜ん、続けながら考えていくしかないか。
まぁ、それより
こんな長いものを
読んでいただき、ありがとうございました。