◆第七話『大歓迎の初登壇』
聞き慣れない言葉だったからか。
あるいは頭が理解を拒んだか。
生徒たちがぽかんと口を開けて目を瞬かせていた。
だが、すぐに侮辱されたことに気づいたらしい。
嫌悪感たっぷりの目を向けてきた。
「なんて下品な言葉遣い……っ」
「や、やはりケダモノですわっ」
「こんな方と同じ空気を吸っているなんて信じられません……っ」
「なぜこのような人が由緒正しい学園に……」
「カイン先生っ!」
ついにはカインに助けを乞いはじめた。
当のカインはというと、見るからに狼狽えていた。
彼女はこの件について反対派だ。
しかし、律儀な性分からか。
結局は学園の教師として応じることにしたらしい。
「……学園長がお決めになられたことです」
「そんな、学園長はいったいなにをお考えになられて……」
「まさか脅されているのではなくて?」
「きっと付きまとわれて、泣く泣く──」
なにやらあらぬ勘違いをされていた。
というより〝ヴラディスをつけ狙う設定〟はまだ生きているらしい。べつにそれでも構わないが、いまは目的をはっきりさせる必要がある。
「決まってるだろ。お前たちを強くするためだ」
「──あなたのような人から教えを乞うつもりはありません」
その声は室内によく響いた。
発したのは最後列の右端に座る生徒。
先刻、前庭で《神聖魔装》を展開して戦っていたリシスだ。
「さすがリシス様……っ」
「ええ、このようなとき、なにより心強いですわ!」
「なにも心配することはないわ。だってリシス様は、あのオルクレール家のご息女ですもの。きっとなんとかしてくださるわ……!」
リシスの毅然とした態度に多くの生徒が感嘆していた。
やはり彼女は他生徒から一目置かれているらしい。
「オルクレールってあのオルクレールか。公爵家の」
「その通りですわ! リシス様はあなたなんかよりずっと偉いんですのよっ!
「リシス様のお声1つで、この学園からだって追い出せるはずですっ!」
関係のない生徒たちが攻撃的に答えてきた。
オルクレール家といえば、アスフィール王国の中でもとくに名が知れている。王族関係者でありながら、数多くの優秀な戦姫を輩出しているからだ。
つまり根っからの武門。
戦法が他生徒よりこなれているとは思っていたが……納得だ。
「家は関係ありません。わたくしは、この学園の生徒として話しています」
先ほど〝オルクレール家〟の名を借りて攻撃的な声をあげた生徒たちに、リシスが冷めた目を向けながら言った。
どうやら家の権力を振りかざすことは好まないらしい。
対峙したときも青臭い印象はあったが……。
想像以上に真っ直ぐのようだ。
「ま、腐っても婆さんの学園だ。俺が教えなくても、せいぜい舞踏会の見世物になれるぐらいには強くなるだろうよ」
そう煽ると、多くの生徒が眉根を寄せた。
リシスも似た反応を見せたが、あくまで冷静に努めるつもりらしい。威嚇しつつも、淡々とした声音で抗議してくる。
「戦場に赴き弱き者を助けることが戦姫としての使命です。そしてそれを実現するため、わたくしたちは日々努力をしています。そのようなことを言われる謂れはありません」
「努力を否定するつもりはない。だが、それだけで強くなれたら苦労しないよな」
「ですから、この学園で正しい学びを──」
「その結果が丸腰相手に大敗北だ」
卑怯な材料だが、使わせてもらった
思ったとおり、いまのリシスにはなにより効果があったようだ。
彼女は下唇を噛みながら押し黙った。
だが、その目はいまだこちらを睨んでいる。
なんとも気が強い人間だ。
「なら、いまから簡単な問題を出す。それに俺が満足する形で正解したらお前らの望みどおり出ていってやる」
突然の提案に生徒たちが困惑していた。
顔を見合わせて対応を相談しはじめる。
「問題ってどうしてそんなことを……」
「ですが、あの獣を追い出せるのなら……」
「わたし、謎解きでしたら少しだけ得意です」
「わたしもです。挑戦してみてもいいかも、ですね」
どうやら挑戦する気になったらしい。
全員がこちらを向いて聴く態勢になった。
「いいか、実際に起こっていることとして対処しろ。なにをしても俺が全責任を持つ。じゃあ、問題を出すぞ」
予想外の前提だったようだ。
生徒たちが揃ってざわめきだした。
だが、混乱が収まるまで待つ気はない。
「いま外の庭で子どもが魔獣に襲われている。さて、お前らはこれにどう対処する? 5つ数えるまでに実行しろ」