短編集②
俺は山が嫌いだ。
大抵、多くの山嫌いは虫が多いからだと思う。だが、俺は少し違う。山そのものが嫌いなんだ。俺の家族は山によって消された。あいつらは意思を持ち、考え、生きている。怒らせばただの人間にかなうはずがない。運が悪かったでは済まされない報復によりすべてを失った。俺はあの日の出来事を決して忘れない。
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うだるような暑い夏のある日、じいちゃんの家に遊びにきていた俺は退屈していた。最初は都会では感じられない自然あふれた景色にわくわくして一日中遊びまわっていたし楽しかったんだけど、三日もすれば特にやることがなくなり、ぼーっと縁側で空を眺めていた。
「なぁ、暇なら手伝ってくれんかの?」
後ろから声をかけられて振り向けば、じいちゃんがせわしなく何かの記帳をしていた。特にやることのなかった俺は「いいよー、何すればいい?」と返事をかえした。どうやら話によれば、近頃この村で収穫祭が行われるらしく、その間山の催事に手が足りてないため手伝ってほしいとのこと。
「え~、催事って何するの?」
正直、買い物程度の手伝いだと思っていたため俺は少し面倒だなーと思い聞いた。
「催事といっても、ただ山に登ってその年採れた農作物を供えるだけじゃからすぐすむよ」
じいちゃんはそう言って奥からもってきた野菜を俺に渡してきた。
「今日がその催事の日じゃから、頼んだよ」
最初断ろうと思っていたのだが、じいちゃんのにこやかなその笑顔に今更嫌とも言えずしぶしぶ野菜を受け取り、催事場に向かった。
催事場では山の上にも関わらず、大きなやぐらがたっており大人たちが数名慌ただしく催事を取り仕切っていた。とりあえず俺は近くの大人にどこに野菜を供えるのか尋ねると「あー、そのあたりにでも置いといたらいいんじゃない?」とおざなりな対応をされて少しムカッとしながらも、催事場に野菜を供えて家に帰ってきた。その夜、なぜか胸騒ぎを感じ真夜中にも関わらずじいちゃんの寝室に行ってみたら、いなかった。最初トイレにでも行ってると思ったが、いくら待っても戻ってこないことに不審に思いトイレに行ってみたが、いなかった。あまりにも静かすぎる家の中に怖くなり、灯りをつけて呼んでみても返事がない。
(…こんな夜遅くに出かけたのか?)
そう思い玄関向かっても、じいちゃんの靴は昼間見た通り置いてあった。何か嫌な予感がする。全部の部屋を一通り見て回ったが、じいちゃんはどこにも見つからない。とにかく急いで警察に連絡したが、不安で仕方がなかった俺は実家にいる両親に電話をかけた。
「なぁ!!じいちゃんがいなくなったんだ!俺、どうすれば…」
なかばパニック状態で叫んでいたら両親は不思議そうな声で
「何言ってるの?おじいちゃんは去年亡くなったじゃない」
.........は?亡くなった?
「……何…言ってんの…?」
頭がふらふらしながら問い返してみると、去年の今頃、催事の帰りに土砂崩れに巻き込まれて亡くなったらしい。だが、そんなはずない。昨日までじいちゃんは確かに生きていた。わけが分からず放心していたら突然、部屋の窓を割って何かが飛んできた。それを見たとき、すべてが理解した。
「ごめん…じいちゃん…俺の…せいで…ごめん…」
俺は静かに泣きじゃくった。