第一章 小説家・アイドル・王様 8
今の自分の力では、スーパームテキファイターを想像する力はあったけれど.変身する力はなかった。
だけど,これで闘いをやめるわけにはいかない。
そう思うと、スーパームテキファイターのガジェットが変身ベルトから消失し、もう少し小さな緑色のガジェットが発現する。
僕は再び右手の掌を変身ベルトに当て、左手を大きく上に伸ばす。
「変身!」
左手をゆっくりと下におろし,変身ベルトに近づいた時,素早く変身ベルトのレバーを叩く。
カチャっとレバーが何かを叩くと、変身ベルトを中心にして僕の全身が大きく輝き出す。
複数の円盤状の光の輪が僕の周りをくるくると回り、その光が収まると、緑色を基調とした特撮スーパーヒーローに変身する。
〔常時スキル「初期フォーム ヒーローポッパー」を発動(消費:五十ラピス〕
スピードを重視した初期フォームで、武器を使わずに、パンチとキックで戦う最もベーシックなバトルスタイルだ。
「さあ、夢を叶えよう」
僕はアワーリティアを指さしながら決め台詞を言う。
「なにそれ、ダッサ――」
エリコが隣で呟いたが、僕は気にしない。
サイは両腕の銃を僕に向け、右腕からピンク色のエネルギー体が射出される。
常時スキル「平凡な見切り」の発動以上に、常時スキル「初期フォーム ヒーローホッパー」の発動の効果が大きい。
エネルギー体の軌道が本当にゆっくりと見えるようになっただけではなく、その将来の軌道まではっきりと見える。
僕がそのエネルギー体をかがんで躱すと、サイは左腕からもエネルギー体を射出する。
僕は前に飛んだ。
体を真横にして、体をひねると、その脇をエネルギー体がかすめていく。
でも、僕には当たらない。
僕はサイの正面に立つ。
膝を曲げ、大きく右腕を後ろに構える。
「Dreams come true――必殺! ヒーローホッパーパンチ!」
〔必殺技レベル1を発動(消費:十ラピス)〕
僕の拳がサイの胸に激突すると、大きな音とともに、サイの体が後方に吹き飛ぶ。
周囲に障害物のないマールスで、五十メートルほどサイは飛んでいく。
〔アワーリティアの損壊により、ムーンストーンを獲得(獲得:五ラピス)〕
サイはゆっくりと起き上がる。
僕はサイに向かって走る。
そして、大きく飛び上がり、右足をサイに向け、左足を折り曲げた。
「必殺! ヒーローホッパーキック!」
〔必殺技レベル2を発動(消費:二十ラピス)〕
僕は左足が武器となり、サイに突っ込んでいく。
僕の左足がサイの頭に激突する。
〔アワーリティアの損壊により、ムーンストーンを獲得(獲得:十五ラピス)〕
サイは上半身が消失していたが、一瞬で回復する。
「一気に行くよ」
エリコが叫んだ。
「必殺! キャラメルリボンフラッシュアロー!」
エリコが大きく引いた弓から矢が放たれると、サイの胸を直撃し、大きな爆発とともにサイが破壊される。
〔《夢を叶えるもの》による《欲望を育てるもの》の殲滅を確認しました。バトルを終了します〕
アワーリティアとの初戦を終えると、再び,夢見銀行に戻っていた。
夢見銀行は騒然としていたが、カウンターの上に立っていた銀行強盗達は茫然と周囲を見回している。
両腕をだらりと垂らし、遠目に見ても戦意を喪失していることが分かった。
「ハッピーバースデー! 真木英司! 新たな戦士の誕生だ!」
僕の目の前に再び車椅子の男がいた。
「みなで新たな戦士の誕生を祝おうではないか!」